一緒にいて
気にいらない
年上のくせに弱くて、そのくせ生意気
でもちょっとだけ、面白い
いい玩具を見つけたと思った
まだ手垢のついていない田舎育ちで、マザコンだけど見た目も(ダサさを除けば)悪くない
全部、ヒロの好みに変えさせよう。それは考えるだけでとても楽しい
だけど下僕になっても生意気なのは相変わらずで、気長にやろうとは思っていたけれど、いざ歯向かわれるとムカついた
だから手っ取り早く思い知らせようとして、殴った
いや、そんな理由は後付けだ。ヒロは子供扱いされるのが大嫌いだけど、でもヒロが子供っぽいのは分かってる
ただ腹がたったから、それだけ
予想通り痛がりながらも反抗する姿に、ヒロは少し満足する。簡単に壊れないのは、玩具の最低条件だ
だけどすぐに、え? と思った
皐月様のどうみても目より大き過ぎる眼鏡の下にあるはずの、そばかすが、減っていた
皐月様は慌てて逃げた
訳が分からない。変装してた?
何のために?
とりあえず、下僕のくせに隠し事なんて生意気だ
聞きださないと
○
「弘美さん」
誰? そう思ったけどスカートのチェックの色から2年生だし回りにはヒロを素直で可愛いお嬢様と信じてるバカたちがいるから、素直に応じて廊下に出る
「あの…お姉様は…?」
「私は高田佐枝子です。それより弘美さん、紗理奈さんから聞きました」
「え…?」
「すぐに済むのでこちらへ」
言われるまま踊り場まで行く。予鈴が鳴ったのですでに人気はなくみんな教室に収まっている
「携帯電話、持ってますか?」
「え、はい」
「皐月さんのアドレスをメールで送るのでまず私と赤外線通信してください」
「え…ちょっ」
「いいですか? とにかく放課後になったら皐月さんを呼び出してください」
「ちょっと…なんであんたにそんなことを…あ」
つい素で答えちゃった
だけど佐枝子様は気にした風でもなく真剣な顔つきだ
「皐月さんは、弱い方です。あまりいじめないでください」
「…なによ。あんた皐月様のこと好きなわけ?」
「はい」
普通に返された。くだらない。そんなのこの学園内だけのつまらないまやかしだ
「…は? はぁ…やってられないわよ。どうせ―」
「例えここを卒業したってこの想いは変わりません。そもそも私は皐月さんと外で出会いました」
「な…」
「同性だろうと関係ありません。それより、時間がないから聞いてください」
「…なに?」
聞きたくはないが、そう言うしかない
佐枝子様は紗理奈様と同じクラスで、昼休みが終わりなのに紗理奈様がいて皐月様がいないから、紗理奈様を問いただしたらしい
「皐月さんに、ちゃんと謝ってください。皐月さんは優しい方ですから許すと思います。でもだからこそ今日の内に謝ってください。いいですか? 皐月さんを一人にするのは放課後までです」
皐月様は結局帰ってこなかったけど、授業をサボるなんて思わなかった
弱いのは知ってる。けど言われるとヒロは楽観視をしてたかもしれない。皐月様は変装をする理由があって、バレたのだからヒロたちから逃げようとするかもしれない
これくらいしなきゃ駄目だ
それに…確かにやり過ぎたかもしれないから、謝ってやって頭の具合を見るくらいはしてもいい
「……分かった」
アドレスを交換すると佐枝子様がヒロに皐月様のメルアドを送ってきた
「あと、出来れば私も同席したいのですが…無理でもせめて会話を聞きたいんです」
「……分かったわよ。紗理奈様と七海様にはばれないようにドアの前で聞いてて」
「はい。あと、そのアドレス、皐月様には後で私から言いますが他の方には、絶対に見せないでくださいね」
「分かってるわよ……ねぇ」
「はい?」
「どう、メールすればいいかな? いきなり送って来てくれるかな?」
「そうですね…あまり感情をいれない方がいいかもしれません。あくまで事務的に。皐月さんなら、普通にくると思いますよ」
「でも…。佐枝子様なら、人を呼び出す時になんて送る?」
「そんなに気負わなくても…。呼び出しなら…『ハハ キトク スグカエレ』が有名ですかね」
「は?」
意味が分からない。ヒロがじっと佐枝子様を見てると恥ずかしそうに咳払いをした
「んん、ま、まぁ…私が言いたかったのはそれくらいの巫山戯たノリでも、皐月さんは来ますよってことです。あ、でも『母』は冗談でもやめてくださいね」
「…あんたに言われなくたって…」
分かってる。あんなマザコンは、こんなバカみたいな文面も本気にするだろう。てか素でもバカっぽいし
「じゃあ『ヒロキトク スグカエレ』にしよ」
「え…ぁ…はい」
「?」
ヒロはメールを送って、授業開始の鐘がなったので慌てて佐枝子様と別れた
○
呼び出して、謝ろうとは思ってた。だけどあまりに偉そうでムカついた
だけどまた手を出したら同じことになるので、我慢して罵るだけにした
口で言った。それだけ、なのに直接手をだすよりもずっと、皐月様傷ついたようだ
一瞬、泣くかな? とは思ったけど、泣かなかった
そんな簡単な問題じゃなくて…酷く傷ついたような虚な表情で
「……違う」
「あ?」
「違う! 違う違う違う! 価値がなくなんてない!」
それでもヒロは、そんなに傷ついてるなんて気付かなくて
「うるさい! 下僕じゃないあんたなんて誰も必要としないのよ!」
さらに怒鳴った
七海様と紗理奈様がヒロを叱責する。ヒロもちょっと言い過ぎたかなって思って、皐月様の様子をうかがう
「……違う」
「…え?」
皐月様は震えていた。全身を小刻みに震わせ、震えてなかば裏返したような悲鳴じみた声で皐月様は否定する
「違う違う違う違う違う!」
「ちょっ、落ち着きなさい」
「違う!! ……あ…あぁあ…違う…違うっ……」
狂ったように皐月様は『違う』と繰り返す
苦しそうに、寒さに対するように皐月様は自分で自分の体を抱く
がたがたと震える皐月様の動きに大きな眼鏡がずれ、見開かれた瞳を見た
暗い
暗い暗い暗い、闇
ぞっとした
○
「……あの、ご…ごめんなさい。みなさんに、は、恥ずかしいとこ、見せちゃいましたね」
泣きおえた皐月さんはぎゅーっと私の腕を掴んだまま、淑女会の3人から隠れるように私の背中にいる
「それよりあなた…普段『俺』と言っているの?」
「っ………。はい、そうですけど? 七海様に何かご迷惑をかけましたでしょうか?」
だけど台詞だけは強気だった。私を盾のようにしているのに声はもう震えてない
ちなみにさっきからくっついてくる皐月さん。勿論嬉しいけどドキドキしすぎて皐月さんに心音が聞こえないか不安だ
「そうではないけど…いいから座りなさい。佐枝子さん…だったかしら。あなたはとりあえず席を外してくれるかしら?」
私としては皐月さんと離れたくはないけど、ここは淑女会の部屋で私がいる方がおかしい
「……わかりま―」
「だ、駄目!」
「え」
「駄目。駄目だよ。…俺を、一人にしないで」
皐月さんは私の制服の裾を皺になるかとハラハラするくらいギュッと握り、うつ向きがちにうるんだ瞳で私を見つめてくる
どうしよう。凄く可愛い
元々は、男の皐月さんが好きで強くてカッコイイと思ってた。けど今は女の子で弱くて可愛いと思う。全く同じ見た目と声なのに私は違うことを感じる
そして正反対に感じているのに、私は以前よりずっと、皐月さんが好きになってしまう
ひょっとして元々私には女の人が好きな傾向があったのだろうか? しかしそもそも初恋は男で、しかし皐月さんだから実は女
…何だか段々ややこしくなってきた
「佐枝子…駄目?」
コトリと首を傾げながら言われた。なんというか可愛いとしか言えない語彙の少ない私を許してください
「わかりました」
もうどちらでもいい。私は皐月さんが好きで、それだけははっきり分かってるんだから
と言うか好きな人にこうも一心に頼られて悪い気がする訳もなく、嬉しい
「ちょっと佐枝子さん?」
「すみませんが同席させてください」
「あのね…ここは由緒正しい淑女会室で―」
「あの! …私、佐枝子さんがいないなら…帰ってもいいですか? その…出来れば帰りたいなぁ…」
私の服を掴んでなきゃ今にも逃げだしそうな皐月さんの様子に、七海様はため息をつく
「……わかりました。座りなさい」
「はい」
「帰らせて…」
皐月さんは動く気はないようで私を掴んだまま離れず、私も動けない
「皐月さん、ほら、席に…」
「……帰りたい」
「大丈夫ですよ。私は隣にいますから。ね?」
「…ぅん。分かりました。じゃあ佐枝子さんが、奥に座ってください」
「? はい」
よく分からないが先に座ると、皐月さんはやはり私を盾のようにして座るが、それは明らかに一番奥の弘美さんに向けたものだった
「…なにそれ? あんたヒロのことバカにしてんの?」
「……」
皐月さんは何も言わず、強く目を閉じて私の肩に額を押し付けた。さっきから皐月さんの顔はうっすら青い
「ちょっと!」
「……」
怒気を孕んだ声に皐月さんはびくりを震えて小さく何かを呟く
「―ぃ」
「は?」
「――さいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「な…」
尋常でない皐月さんの様子に私は慌てて肩を抱く
「皐月さん、皐月さん!」
「っ…ごめんなさい」
間違いなく、皐月さんは弘美さん個人に恐れている
○
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