愛してます。本気で
私を可愛いと言ってくれた
ただそれだけなのにずっと好きだった
私を綺麗と言ってくれた
それだけで死んでしまいそうなほど幸せだった
優しく優しく、キスをしてくれて、体中が熱くて全てがとろけそうだった
好きで好きでたまらなくて
それだけに、いきなり殴られたような、いいえもっと酷い、崖から落とされたようなショックを受けた
皐月さんが…女だった
裏切られたと思った
勝手な話だ。こっちが勝手に好きになったのに、勝手に落ち込んで…たぶん、いや誤魔化すのはやめよう。私は彼…違う、彼女を、傷つけた
夕食の時に、彼女を見つけた
淑女会の方々に囲まれていた
羨ましい
とっさにそう思った。だけど何を? と考えて、はっきり分かった。私は、皐月さんが好きで、簡単に諦められないんだ
だけど淑女会の方々がいるのに私がそこに行くなんてできなかった。私は駄目な人数だ
私は、昔からそうだ。自分の気持ちをはっきり言うのが苦手だ
嫌われるかも知れない
疎まれたらどうしよう
そんなことを考えると、身がすくんでしまうし、すぐに他の人の意見に合わせてしまう
私には、見ることしか出来なかった
元々こんな弱い私が気持ちを伝えたことが奇跡なのだ。ましてあの夜のことは夢だと思えばいい
確かに私は、皐月さんが女だと分かっても好きだ
キスがしたい。それ以上だって皐月さんが望むなら…! そう思ったあの時の感情は、まだ私の中でくすぶっている
私はきっとおかしいのだろう。女が女に恋をするだなんて
だけど強い瞳も、優しい声も、私が大好きなそのままで、どうやって嫌いになれというのだ
だけど…だけど、それでも、やはりこの思いは伝えられない
だって私は弱いから。だから、強いあの人には釣り合わない
眼鏡やカツラで変装をしたその姿は、始めはただの同姓同名かと思った
だけど私を見た時の反応で、もしかしたらと思った
あり得ないと思いながら、祈るように『彼』にメールを送った
『彼女』が、メールを受信した
私にどうしろと言うのだ。私は…私は『同性愛者』だと公言できない。父や母に、何と言えばいい?
私は恐いのだ
奇異な目で見られることが
侮蔑されることが、恐い…
女子だけで構成される特殊な空間である、この学園では確かに同性を慕うことは珍しくはない
この学園においてなら、全校生徒に発表したって普通に迎えられるだろう。ここはそういう場所だ
恋愛に憧れる世間知らずなお嬢様の集まり
けれど所詮はここだから言えることだ。世間に出れば風あたりは強いに決まっている
ああ…それでも好きなのだ
私はどうすればいいのでしょう
ふと、何か光が皐月さんから落ちた
私は我に返る。そういえば今は夕食時で、私はずっと皐月さんを凝視していたことをようやく自覚した
皐月さんは立ち上がると、すぐに食堂から立ち去った
何が起こったのかわからなかった。信じられなかった
けれど私には、皐月さんが泣いたようにしか見えなかった
1年の弘美さんが立ち上がり皐月さんを呼んだけれど皐月さんはそのまま行ってしまった
弘美さんはすぐに追い掛けたけど、お二人は残って急に退出した二人を気にするなと騒ぐ食堂に言い放った
「彼女の名誉に関わるので詳しくは申せませんが、この事は他言無用ですわよ。皆さん、そのまま食事を続けて」
強い強いその言葉に、私は追い掛けることさえできなかった
○
食事が終わり、皐月さんがいなくなったのも何か慌てる事情があったのだろうとあっさり事態は収まった
けれど私はそんな簡単なものでないと、確信していた
だからこっそりと様子を見に言った。お三方が皐月さんのドアの前にいた
「あの…」
「気にしないように、私言いましたわよね」
厳しい口調の会長はとても綺麗な方で、二人も負けず劣らず。私は自分がちっぽけな気がして余計に何も言えなかった
「っ…わ、私は…」
だけどひきさがりたくはなかった。皐月さんに関してだけは、誰にも負けたくなかった
どうすればいいかわからなかい。ただ、負けたくない。諦められない
「っ…ぁ……っ」
「え…?」
だけど私が何かを言う前に、ドアの向こうから小さく小さく、すすり泣く声が聞こえた
「あなた!」
「!」
「何処かへ行きなさい」
「……」
知らない。私はこんな彼女を知らない。強い強い彼女は彼だった時からずっと強くて、私を助けてくれて、いつも笑顔で…
ドアの向こうから聞こえるのは、真逆の弱く弱く小さな声
弱い私を包み込むように優しくて大きいあなた
小さく途切れながら聞こえたのは『母さん』と言う呼びかけ。彼女は中学の時にも胸をはってマザコンだと言っていた。バカにする人にはたった一人の家族を愛して何が悪い、と立ち向かう
強いあなた。母を守っていたようなのに本当は守られていたの?
性別を偽っていた理由に関係しているの?
あなたを、ただ知りたい
私は黙ってその場を立ち去った
○
一晩中、ずっと考えていた。生まれて始めて隈ができた
答えは出なかった
だけど、皐月さんに会いたいと思った
朝食時は早めにとって、私は教室で皐月さんを待った
いつも彼女は早かった。働いていたらしい。今はそんなことはないだろうが、彼女ならきっとその習慣は変わらないだろうと思った
「おはようございます、皐月さん」
知らずに笑顔で挨拶をしていた。私は、皐月さんに会えて嬉しいのだろう
「ささ佐枝子、さん…おようございます」
おまけのようにさんをつけた彼女が可愛かった
分かりやすいその反応は昔から変わっていない。私は、ずっと皐月さんを見ていた
「昨日はよく眠れましたか?」
「は、はい。お陰様で」
「ふふ…皐月さん、淑女会にお入りになられたそうですね」
「あ、はい」
「羨ましいですわ」
「あはは、じゃあ変わりますか?」
男とか女とか、関係なくて、私は『皐月さん』が好きだ
正しいか正しくないかとか、私には分からない
ただ、ただただ、私は皐月さんが好き
「いいえ、私淑女会にはあまり関心はありませんの」
「え? では何が羨ましいんですか?」
「勿論、皐月さんと堂々と一緒にいれるお三方ですよ」
何でもないように言いながらウインクをする
とてもドキドキする。心臓が早鐘のように音をたてる
今更だ。こんな我が侭はきっと誰にも言えない。世界で唯一、皐月さん以外には
皐月さんにすれば迷惑だろうけど、皐月さんなら何だって笑顔で許してくれる。そんな安心感がある。だからだ
だから私は、皐月さんになら自分の気持ちが言える
「え…」
「今日、お昼ご一緒しませんこと? それとももう誰かとお約束でも?」
「ま、まさか。それに佐枝子さんのお誘いなら、他の人に誘われたとしてもお断りしますよ」
「まあ、嬉しいですわ」
それが真実ならいい。だけど彼女は純粋に先着で優先をするだけだろう
一番になりたい。あなたの一番に。他の人に嫌われても構わないと思った
こんな感情は始めてだった
皐月さんが好きで、強くて優しくて、弱いあなたを、守りたい
あなたの全てを知りたい
もう、私は逃げない
○
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