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あい・らぶ・まみぃ!
作:シロクロ



涙のあとは笑顔を


何度かノックの音が聞こえたが無視をした。ドアにもたれる背中に圧力を感じたが無視をしてむしろ開かないように足に力をいれた
どれだけたったか、ポケットから携帯電話を出すと思ったよりずっと時間がたっていた
うわぁ…泣きすぎだ
立ち上がりクローゼットの横にある全身鏡で前髪をあげて見た顔は酷かった。眼鏡越しにも赤いのが分かる。眼鏡をベッドに投げ捨てる
そばかすは半端に消えて奇妙だったし目は可哀想なほどに赤く腫れていた
明日までに治るかなぁ? 氷があれば……明日、サボろうかな
「はぁ…お腹空いたなぁ」
食堂はとっくに終わっている。明日まで我慢するしかない。とりあえず入浴にしよう。時間帯も終わりに近いから生徒はたぶんいないに近いだろう。少なくとも、悪魔3人組や佐枝子と言った知人はいないだろう
俺はクローゼットからパジャマ代わりのスウェットと下着を引っ張りだす
ちなみに胸は無いに等しいのでブラジャーなるものはつけていない。男装時は念のためサラシを巻いていたが、どうもあの衣は落ち着かない
さらに言えばスカートも落ち着かない。『あたし』のころから活動的だったのでズボンしかはかなかったし。だが慣れは恐ろしい。家で2週間常にスカートだと慣れた。スパッツもはいているしもはや俺に恐れるものはない(男物のパンツは見られても恥ずかしくないが女物は何故か恥ずかしい)
ドアを開け
ガチャ……カチャン
閉めた
理由は何故かちびっこ悪魔がいたからだ
「ちょっ、皐月様!?」
「た、ただいま皐月は留守にしております。ご用のあ―」
「いいから開けてよぉ。開けてくれるまでここを離れないわよ」
カツラは大丈夫だがそばかすは半分なくて眼鏡はベッド
「……ちょっと待ってください。10秒でいいんで」
「分かったわよ。10、9…」
急いで鞄に突っ込んだポーチからそばかすをかくペンを取り出してテキトーに消えた部分を足して、ベッドに飛び込み眼鏡をかけて頭から布団を被った
「1、0。皐月様入りますよ」
音でちびっこの侵入を知る
何しにきたんだよ
「あの…ヒロは…って何で布団かぶってるのよ!」
「何の用ですか? 私を笑いにきたんですか?」
ぐぅ。俺のお腹がなった
「……どうぞ笑ってください」
「…別に、ヒロのせいじゃないからね! そりゃ海老フライは盗ったけど、でも皐月様がそんなことで泣いて引きこもるからそうなったんだからね!」
ぐぅう。今度は俺じゃない。鼻から上だけを布団から出してみる
弘美も晩飯食ってないのか? もしかして…ずっと、ずっとそこにいてくれたのか?
「…ヒロとは、顔も合わせたくないわけ?」
お腹などならなかったかのように涙声で言われた。こっちの視界もあまり明瞭ではないが、頬を光がつたうのが見える。素直じゃないな
「…違いますよ。ただ泣きすぎて目が赤いので恥ずかしいだけです。ごめんなさい」
起き上がると弘美は慌てて涙を拭い、強気な態度をみせる
「な、何がよ」
「夕食時は失礼しました。ささいな悪戯にあんな態度では弘美さんに対するにしては、大人気なかったですね」
「ってヒロに対するにはってどういう意味よ!」
「そのままですが?」
「ムキー!」
「あはは。まぁ私のことは気にしないでください。少しホームシックでして」
「は? 皐月様今日来たばっかでしょ?」
「恥ずかしながら母と離れたことがないので。あと海老フライは…特別思い出があるんです」
「…ふぅん」
「ですから弘美さんが罪悪感を感じる必要はありませんよ」
「か、感じてない! ただ…紗理奈様と七海様がどーしてもって言うから…だか―」
ぐぅ。また俺のお腹がなった
「…はぁ。お腹減りました」
「……」
弘美は無言で手近な机の上の本(全て母さんたちが用意した)を投げてきて、慌てて右手でキャッチする
「危っ! ちょっ、物を投げないでください。しかも人の物を」
「うるさーい!」
弘美はずんずん近づいてくるとベッドにあがりこみ、俺の顔に無造作に手を伸ばしてくるので掴む
「な、何ですか?」
「いいから眼鏡とって」
「はぁ…いいですけど」
弘美の手を離して眼鏡のフレームを慎重に持つ。と、弘美が俺の額に手を当てすっと上下させて前髪をあげた
「え」
海老フライの時といい、今日の俺は不覚だ!
触られることに不快感はないがただ相手から触られると、俺の全てが丸裸にされて視姦されてるような気がして、強烈に羞恥心が刺激されて俺は顔が上気するのを感じた
「え…な、何でそんなに真っ赤なのよ!」
「は、離してください!」
「……ははぁん…」
ぐわ。悪魔の笑みキタァ!
「あんた偉そうな態度なわりにぃ…純情なんだ?」
ぐ…こんなガキに舐められてたまるか!
俺は眼鏡を枕の横に置いてから弘美の両手を握り、一回転して弘美をベッドに仰向けに伏させた
「…え?」
「おちびさん、大人をからかうにはまだ人生経験が足りないんじゃないですか?」
口角をつりあげてにぃっと笑いながら鼻がくっつくほどに接近すると、さすがに弘美も少しばかり頬を染める
「な…あんた…なんで急にそんな強気なのよ…」
「ふふ…可愛いあなたを食べられるかと思うとワクワクします」
「食べ…っ!? あんたそれでも由緒正しき白雪に通う乙女なわけ!?」
「残念ながら乙女の証はとっくにありません」
「なーっ!」
「ふふ。まぁ冗談ですよ、半分はね。とりあえず…何か食べるものありませんか?」
俺がにっこり笑いながら起き上がりベッドから足を下ろすと、弘美も起き上がり深いため息をつく
「あんたって…わけわかんない。ダッサい格好で現れたら生意気だし無知だし、そのくせ泣き出すし、赤面したり、大胆だったり……ちょっと、顔は良かったり」
うつ向きながら言われ全体的に聞き取り難いが、悪口なのは分かるぞ
「え? すみません、最後がよく聞き取れなかったんですけど、ちょっと何ですか?」
ちょっと面白いとか?
「何でもない!」
んだよ。そういう言い方されると逆に気になるだろ
「食べものでしょ。分かったわよ。ちょっともってくるから待ってなさい」
「私も行―」
「皐月様、いくら人が少ない時間だからってその目で恥ずかしくないの?」
改めて言われると恥ずかしかった。また熱くなってきた顔をうつ向き気味に隠す
「…お願いします」
「ん、あと時間ヤバいからヒロお風呂よってから来るよ。皐月様は? 一緒に入る?」
「あー、まぁ室内にもあるんで今日はそっちで」
つか共同浴場なんて入ったことないし。他人ならともかく、ほんの少しでも知ってる人がいると分かってて行きたくない
デカイらしいからちょっと行きたかったんだけどな…トホホ



「皐月様…食事の時も思ったけど下品」
弘美が持ってきたのはお菓子だった。ベッドであぐらをかいて某スティック型菓子を3本まとめて口に突っ込んでいると呆れて言われた
「お…私だってやろうと思えば上品に出来ます」
危ねー。俺って言いそうになった。つか食事や基本的な立ち振る舞いなら社交会に出る前に特訓したからできるぜ
膝から下をベッドから下ろして背筋をピンと伸ばし一本をゆっくり食べる
「っん…どうですか?」
飲み込んでから聞く
弘美がいない間に個室の風呂に入ったがそれでも目は赤かった。しかし弘美が菓子と俺のために氷も持ってきてくれて、さっき冷やしたのでだいぶんマシになった。明日には残らないだろう
弘美が帰る前にそばかすをかいてカツラを被ったが、眼鏡は面倒だし外しておいた。しかし前髪邪魔だな…
「最悪ぅー」
「え!? 何処が駄目なんですか?」
「とりあえず全て」
テキトーなことを…
「まぁさっきよりはマシだけどさぁ。でも丁寧ってだけで淑女になれると思ったらおー間違いよ」
「いや、なりたくないですし」
「いいけど、困るのは皐月様だよ? 猫被りもできるみたいだけど…なぁんか皐月様って女らしくないのよね」
ギクッ!
「あはは、田舎者ですみません。私、今まで跡継ぎとだけ育てられてたんで」
「! なに? あんたの実家って、あんた程度で継げるの?」
あなたとは今日会ったばかりですが? 俺程度って…俺の何を知ってるんだお前は
まあ…泣いたし仕方ないか。一応設定は細かく決めてある
「た…『滝口流総合日常格闘技』デス…」
俺に教えた爺さんが『日常格闘技』みたいなことを言ってたと爺ちゃんに言うとこういう設定にされた。オッケーしたものの、ちょっと恥ずかしい
「総合日常格闘技? へぇ、皐月様って強いんだ?」
「ま、まぁ一応免許開伝です。あ、でも誰にも言わないでくださいね」
「? 何でよ?」
真実の方がややこしいし誤魔化すための設定とは言え、目立ちたくないのに免許開伝はやりすぎだろ。いや真実ですけど
「その…変に目立つのは嫌いなんです。弘美さんには勢いで言っちゃいましたけど…秘密にしてもらえます?」
「自意識過剰すぎ。お嬢様らしくないしダサさで目立つし無駄だけど…分かった、黙っておいてあげる」
「ありがとうございます」
「その代わりぃ」
悪魔の笑みを浮かべる弘美に、氷や菓子ですっかり緩んだ俺の警戒心が再び反応する
「…なんでしょう」
「皐月様はヒロの下僕ね!」
「……か」
「?」
「帰りたい…」
忘れちゃってたけど、こいつ悪魔だったもんな
「え〜? またホームシック? さっきまで普通だったのに」
「さっきは弘美さんがいたから忘れてたんです」
一人で騒がしいし振り回されて、しんみりしてる暇はなかった。だが風呂に入って腹が膨れると、どうも母さんが恋しくなってきた
「…しょ、しょうがないなぁ」
「え?」
顔をあげると照れたように頬をかく弘美がいた。何がだ?
「今日は特別にヒロが一緒に寝てあげる。奴隷の面倒みるのはご主人様の役目だもんね」
下僕からランクアップしてるし。つか俺はイエスなんて言ってねぇぞ
「じゃ、お腹も膨れたし寝よっか」
機嫌良さげにそう言う弘美だが、俺は了承してねぇ! ……と、言いたいがまぁ良いだろう
昔の偉い人は言いました。一人より、二人
「はい、ありが……」
「? どうかした?」
「ああああ! 11時ぃ!?」
「うるさい」
「すみません。じゃなくてもう12時じゃないですか!」
「そだけど…寝る時間でしょ」
か…母さんに電話出来なかった…(とても綺麗なあの人は美容のため12時には寝て5時までは絶対に起きない)
「う〜…母さんに電話しようと思ってたのに…弘美さんが邪魔するから…」
「知らないわよ。なに? さっきも思ったけどマザコン?」
「そうですよ。私は母さんを世界一愛してます」
「…開き直りやがったよ」
「うわ、口悪っ」
「あんたに言われたくない。ほら、寝るよ」
「…弘美さん、これから、よろしくお願いしますね」
俺は、悪魔のようで優しいところもある少女に、にっこりと嘘じゃない笑顔を向けた
「……ま、せいぜい頑張って尽くしてね皐月様」
にっと笑った弘美は、可愛いけれどやはり悪魔な笑顔だと思った
とりあえず、母さんにはメールだけ送った。まだ、母さんの声がなくても、あと少しだけ、頑張れる気がした
ちなみに相手から触られないように先に弘美を抱き枕がわりに抱きしめて寝た
母さんとも普段そうして寝てるので(爺ちゃんの家で各自部屋が貰えてからも寝る時は母さんの部屋に行ってた)母さんほどではないけど、俺は心地よい女特有の人肌に安堵して、ホームシックが嘘のように落ち着いて寝た















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