俺と愛する母さんの日常
「母さん、また忘れてるよ」
突然だが俺の名前は滝口 皐月。そしてゆったり微笑んで俺から小さなお弁当箱を受け取る美人は、何を隠そう俺様の母親だ
「あら皐月ちゃん、いつもごめんね」
はっはっは、美人で羨ましかろう?
俺はにっこり、純粋無垢を具現化したような笑顔を浮かべる
「ううん。母さんの役に立てるなら、僕、何だってするよ」
さらに突然だが、俺はマザコンだ。ただのマザコンじゃない。現在高一の16歳だが、将来の夢は母さんと結婚することだ
勿論、法的にも戸籍的にも無理なのは分かっている。だが母さんが俺を我が子でなく一人の人間として愛してくれて結ばれれば何も問題はない
父親は俺が生まれる前に死んだらしい。母さんは28歳
何と父親23歳は母さん12歳をたぶらかして俺をつくり、勝手に死にやがった。犯罪者め…
まぁ犯罪者だが俺が母さんと出会えたのは一応父親のお陰なので感謝してやらないこともないが、やはり許せない
何故なら、未だに母さんの心に住みついてやがるからだ
「皐月ちゃんは年々、勇人さんに似てくるわねぇ」
父親の名前は崎山 勇人。母さんは滝口 優希だ。当たり前だが、俺が生まれた時母さんは小学生なのだから藉は綺麗なままだ
「そうなの?」
「ええ、勇人さんは成人してても中高生みたいに若々しい人だったから、尚更似てるわ」
若作りすぎなんだよ!
ちなみに母さんは12歳にして今と同じ身長158センチで大学生によく間違われてたらしい。出会いはナンパらしい
……犯罪者め! 見た目がどうだろうと成人が小学生に手をだすなよ! 例え並べば姉弟に見えたとしてもな
「じゃあ母さん、お仕事頑張ってね」
「ありがとう、皐月ちゃん。いってきます」
俺は母さんを見送ってから自転車にまたがり、学校へ向かった
○
「滝口君、おはよう」
「おはよー皐月君」
挨拶してきたクラスメートたちに片手をあげて挨拶をする
「よーすっ。今日もお前ら可愛いな」
女の子は基本的にみんな可愛い。男と違って柔らかくていい匂いだからだ
「あははは。もう、うまいんだからぁ!」
俺の(悔しいことに父親似の)中性的な整った顔立ちで、本気か遊びかは兎も角わりとモテる。頬を赤くする子が多いが、小学校からの付き合いで慣れたやつは笑って、相変わらずだと俺の背中を叩いた
席につきながら知人以上親友未満の(まぁ俺ってあんまり人と、特に男とあまり親しくしないタイプだし)坂崎 高明の肩を叩く
「今日って一時間目、何?」
「現国〜」
「げ、最悪」
「お前はいっつも寝てんだろ」
言いながら坂崎が俺にチョップをしようとするが、俺はその手を掴んで止める
俺は自分から触るなら兎も角、相手から触られるのは男からは嫌だし、女からも苦手だ
「っと、お前って本当に運動神経はすげーよな」
「まぁな」
小学3年の時にここに引越してきたが、近所にいる軍人だった爺さんに気に入られて実践的な訓練を受けてきたのだ
てゆーか色々あって強くなりたかったし。まぁそれは今もだが
「つか、『は』ってなんだよ」
「頭はからっきしだろ?」
「うるせーよ。進学しねーからいいんだよ」
つか出来ねぇし。今だって母さんが朝から晩まで働いてくれて、俺も朝は新聞配達して夕方からは別のバイトして何とか高校通えてるしな
「あ〜…そうか」
「まぁな」
公立高校なのにおおっぴらにバイトをしてる俺の事情は知れわたっている
「つか、よく入学できたな。もう一学期も終わりだけど、進級だってできんのか?」
「賄賂だ」
「…まじ?」
「嘘だよ。試験前はバイト休んで頭いいやつに教わることにしてるんだ」
今回高校入って初めての中間と期末試験は赤点だけはぎりぎりクリアしているから1はないだろう
「入学は?」
「中学ん時はまだ真面目だったんだよ」
義務教育で授業料がいらなくてバイトは新聞配達のみ何だから当たり前だ。まぁそれでもぎりぎりだろうけどな
俺は勉強する時間がないのもあるが、あってもやりたくない。そもそも俺、頭悪いし
でも高校は出ないとな。だって母さんは俺のために中学すらろくに行ってないのに、だからこそ俺にはって頑張ってくれてるし
「あー、早く卒業してぇ」
○
「ん?」
いつもならバイトに急ぐ時間だが今日は定休日なので、久しぶりにのんびり自転車を押して帰っていると、交差点でぶぜんとした顔で立っている爺さんがいた
「……」
しばらく見てみるが動かない。仕方ない、声かけるか
「すみません、どうかしましたか?」
優等生の仮面をつけてそう言うと爺さんはじろりと胡散臭そうに俺を見ると、何かに気付いたように目を開いた
何かあるのかと俺も後ろを見るが特に何もない。視線を戻すと爺さんは普通に俺を見ていた
「…なにか用か?」
「いえ、先ほどから動かれていないようなので。何かお困りでしたら、私で良ければお手伝いいたしますよ?」
「…ふむ、ならうまい飯屋を教えてくれ」
「は…あ、でも私、あまり外食はしないんです。お役にたてずすみません。あ、私のお昼の残りならありますよ」
母さんは忙しいので朝食と弁当は俺が作っているのだが、今日は俺を好きだと目で語ってくる少女が弁当をくれたので有り難くいただいたのだ
味は…俺の料理がそれほど美味いわけじゃなく簡単なものしか無理だが、それでも俺のが美味いって感じだな
だけど女の子には優しくするものなのでにっこり笑ってお礼に頬にキスをくれてやった
まぁそんなことは置いておいて、とにかく丸々残っているので俺はそう提案した
「む…ワシに、残り物を食え、と?」
「いや、お箸は触れてません。諸事情があり食べなかったんです。そこに公園がありますけど、どうしますか?」
「……もらおう」
「はい」
ま、もったいないけど女と子供と年寄りには優しくするのが俺のルールだ。つっても、年齢が子供や年寄りでもガタイのいい男はごめんだけどな
俺の身長は男にしたら低い162センチ
アルバムにある数少ない(母さんと父親は1年未満の付き合いだ)写真を見れば憎らしいほど父親に似ている。勿論身長もだ
○
「お前、なかなかハスキーな声をしておるな」
ぎくりとした。見た目もだが声も高いので私服だとよく女に思われてしまう。だから普段から意識して低めに声をだしているのだが…低めと言っても、男としては高いほうだ
「そう、ですか?」
「ああ。……あいつより低い」
ぼそりと言われ、後半が聞き取れなかった。『いつ…り』は聞こえたんだが
「すみません、なんです?」
「嫌、何でもない。なかなか美味かったぞ」
爺さんはそう言って俺に弁当箱を返す。うむ、偉そうな爺さんだが素直でよろしい
俺だって褒められりゃ悪い気はしない
「ありがとうございぃ!?」
鞄に片付けながら携帯電話を見て固まった
「? どうかしたか?」
「すみません! 私これからバイトです! 本当にごめんなさい! さよなら!」
定休日のとはまた別のバイトがあるので慌てて俺は鞄を自転車に乗せてまたがる
「待て!」
「っ…何です!?」
このくそ忙しいのに道案内なんてしてらんねーぞ!?
「名前は?」
恩返しでもしてくれるってか?
「滝口 皐月です! さよならお爺さん!」
だが今はそれどころじゃねー! 悪いな爺さん。次はちゃんと交番まで案内してやるよ
○
「滝口…皐月…か」
ワシは先ほどまでここにいた子供の名を繰り返す。苗字に聞き覚えは存分にあったし、何よりあの容姿だ
「今更…」
今更だろうな。もうあいつがいなくなってから17年もたつ。だが、それでももうワシにはこれしかないんじゃ
ワシは懐から携帯電話を取り出してダイヤルする
『何でしょう』
「見つけたよ。さすがじゃな。料金は振り込んでおく」
ワシは知らず知らずのうちに緩む頬を自覚したが、どうしようもなかった
○
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