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愛のない結婚をしましたが、超楽しいです

作者:悠理惠
 私は、先月結婚をしました。大して珍しくもない政略結婚というヤツです。当然のことながら、愛はお互いにないので、本当の夫婦にはなっておりません。仮面夫婦です。
 愛がないのは、さぞ不幸せな生活だろう。私もそう思っていましたが、実際は違います。
 超楽しいです。
 不便があるとすれば、行動範囲が狭くなってしまったことぐらいでしょうか。
「……今日は何をしようかしら」
この政略結婚の素晴らしいところは、旦那様が公爵だということです。地位が高い=お金がたんまりある、ということなので、今日も元気に浪費生活を楽しみます。毎月十冊本を買う……なんて贅沢なのでしょうか。それに、地位や愛がないことを抜きに考えても、旦那様は隣にいることが誇り高くなるような男性です。

 ふふふ、と笑いながら大きな本棚の前に立ちます。この本棚は、旦那様に買っていただきました。
 女は刺繍でもすればいい、と言われるかと思いましたが、意外にも旦那様は無言で頷き、私が専用の本棚が欲しいと言ってから一時間も経たないうちに、運び込まれました。
 驚きました。さすがは、公爵様といったところでしょうか。
 そして、その本棚の立派なことと言ったら、一体いくらするのでしょうか。
 きっと、私では卒倒するぐらいの金額でしょう。

 ……あれ。そういえば、なぜ旦那様は私と結婚なさったのでしょうか。

 私の家の方がずっと格下です。見合いをしろ、とお父様に言われたときは、まあこれでも貴族の娘の端くれですから、いつかはそういう日が来ると思っていました。お家の役に立ちたいという気持ちもありますし。ですが、私の家は伯爵家です。私が公爵である旦那様と結婚するメリットはありますが、旦那様が私と結婚するメリットはどこに?

 「……はっ!」
もしかして、あの噂は真実なのでしょうか。
 旦那様は、大変美しい顔をされているので、私と結婚する前は、女性たちから何度もお声をかけられていたとか。それなのに、その誘いがどんなに美しい女性からでも断り、一つも浮ついた噂がでないので旦那様が男色家ではないかという噂があったそうです。
 それなら、旦那様が一度も私に手を出されないわけも納得ですし、初夜ですら何もなかったですからね。
 男色家なら、女の私に興味なんてこれっぽっちもないでしょうし、女の私を形だけでも妻にしたことで、体裁を保つことができますし。
 別に、私の女としての魅力がないとか、そういうわけではないはずです。たぶん。
 だって、いくら美人でも傾かなかったのですから、私のせいではないはず。
 確かに胸は、そんなにないですが……、少なくともまな板よりはあると思います。

 ですが、仮に旦那様が男色家だとして、後継ぎはどうされるのでしょうか。別に、私に手を出すのがお嫌なら、外で勝手に愛人でも何でも作ってその方に生んで頂いて、最終的には、私は離婚して、その方と結婚して頂くのがベストだと思っていたのですが。そして、慰謝料でもふんだくって……ああでも本当の夫婦になっていないとたいしてとれないのでしたっけ。とにかく本と慰謝料を持って、ひっそりと平和に生きようという人生設計を立てておりました。
 今の私は愛がなくても超楽しいですが、愛があるに越したことはございませんし。
 ですが、旦那様が男性にしか興味がないのなら、愛人に生ませる、というわけにもいきませんね。
 というか、もし旦那様の愛人……というか彼氏が家に来たらどうしましょう。性別のせいで結婚できなかったけど、やっぱりレオン様(旦那様のお名前です)じゃないとだめだ。アンタはレオン様を愛していないのなら、離婚してくれないか、とか。

 別に私は同性愛に偏見をもっているわけではございません。それはそれでおいし……ゴホンゴホン。とにかく、一度旦那様と相談しなければなりませんね。このまま仮面夫婦を続けるにしても、別れるにしても。

 私が本棚の前で唸っていると、突然肩を叩かれました。
 「こんなところにいたのか」
「ひゃあ!!」
ビックリしました。後ろを振り返ると、旦那様がいらっしゃいました。危うく本を落とすところでした。
 なぜか私よりも、旦那様の方が驚いた顔をされていました。
「私が帰って来たことに気付かないほど、面白い本だったのか?」
「……え、ええと」
不覚でした。いくら考え事をしていたとはいえ、旦那様の帰宅に気付かないとは。これでも、花嫁修業をつんだ身です。
 どうしましょうか。ここは素直に考え事をしていたと答えるべきか。
「後で何の本か教えてくれ。私も興味がある」
「え、……あ、はい」
 旦那様にそんなことを言われたのは初めてなので、固まってしまいました。旦那様が私に興味を持たれるなんて、風邪でも引かれたのでしょうか。

 ーーと、思いましたが、そういえば、旦那様もかなりの読書家だったはず。本に興味があっただけですね。ですが、もしかしてこれは旦那様と打ち解けるチャンスなのでは? 私と旦那様の間にまだ心の距離があるからーー信頼されていないから、男色家だということを話して貰えないのではないでしょうか。

 じっ、と旦那様を見つめていると
 「急で悪いが、客の相手をしていてくれないか。私は少し着替えてくる」
目を逸らして、そうおっしゃいました。旦那様が私を探していらっしゃったのは、そのせいでしょう。つまり、お客様をもてなせ、ということですね。
 ……客。旦那様が今までにお客様を連れ帰ったことがあったでしょうか。
 いえ、ありません。今日が初めてです。

 ということは、そのお客様は旦那様の大切な相手、そして、今目を逸らされたのは後ろめたいことがあったからでは? つまり愛人かもしれません。

「丁重にもてなさせて頂きますわ」
「ああ、大切な客人だ。頼む」
 ついに本人の口から出ました! 大切な相手!!
 これは、愛人で決まりですね。
 良かった。私は信頼されていないわけではなかったようです。
 それにしても、どんな方なのでしょうか。

 客室に行くと、お相手の方がいらっしゃいました。
……ええと。これは、どういうことなのでしょうか。
 旦那様はセンスがかなりある、ということは家の調度品を見るとすぐにわかることです。お相手の方も例にもれず、大変美しい方です。
 ただし、結構な年上の方でございました。
 旦那様はかなりお若いですし、てっきりもっと同じくらいか、旦那様よりも年下だと思っていたのですが。
 ……まあ、愛に性別も年齢も関係ありませんものね。

 あ、何だか燃え……萌えてきました。いいですね、年の差恋愛。

 私は、お二人の恋を応援しますわ!

 「あなたが、レオン殿の……」
「はい。私がレオン様の妻のアレシアと申します」
老紳士様は、驚いた顔をして、ダースと名乗られました。ああ、やっぱり美人じゃなかったからでしょうか。
 「失礼ですが、貴方はレオン殿のことがお好きなのですか?」
わお、いきなり爆弾を投げられました。まあ、旦那様の愛人なら気になっても仕方のないことですよね。
 しかし、何と答えましょう。
 嫌いか、と聞かれれば、否と答えます。
 好きか、と聞かれれば好きの部類に入ります。
 私にとって、本を貸してくださる方は天使で、本を買ってくださる方は神様です。旦那様は本を貸してくださり、買ってもくださるので天使神様……何を言っているか、わかりませんね。
 ともかく、旦那様のことが好きですが、好きの種類が異なるのです。ダース様が聞かれているのは、惚れた腫れたのほうの好きでしょう。

 ここで何と答えればいいのか。私は旦那様のことをそういう好きではないから安心してください?それとも、体裁的には私は妻ですから、好きですというべきか。

 ああ、でもここで好きです、と言った方が盛り上がるかもしれませんね。


 「好きです」
ただし、惚れた腫れたではない意味で。付け足さねばならない言葉をあえて、外して言います。好きなこと自体は嘘ではないですし。
 私が言うと、ダース様は動揺を少しもせず微笑まれました。
「どのようなところですか?」
なるほど。これが、愛人の余裕というヤツですね。旦那様と随分ラブラブのようです。
 「優しいところです。私たちはお付き合いの期間もなく、まだ結婚して一か月経っていないので、レオン様について知らないことのほうが多いです。けれど、これだけは唯一信じられることだと思っておりますわ」
だって、本を買ってくださいますし。本を買ってくださる方に悪い人はいらっしゃいません。
 「随分と可愛らしいことを言ってくれる」
急に後ろから声がすると思ったら、着替え終わった旦那様がいらっしゃいました。いつからいらっしゃっていたのでしょうか。声はいつも通りの落ち着いた低い声なのですが、心なしか目じりが赤くなっているような……、きっとダース様の先ほどの微笑みにやられたのでしょう。

 「なあ、私の妻はなかなかいいだろう?」
え、ええ。ダース様の前でそんなことをおっしゃるのですか。そんなこと言われたことがないので照れかけてはっとしました。何勘違いしているのですか、私。これは、アレです。ダース様を嫉妬させようとしてわざと言っておられるのです。だから決して本心ではありません。
 それにしても、嫉妬を狙うとはなかなかやりますね、旦那様。
 ちらり、とダース様の方へ視線をやると、ダース様は穏やかな顔をされていました。
 わお、全く動じていらっしゃいません。大人の恋というのは、嫉妬しないものなのでしょうか。
「ええ、美人でその上、貴方のことを大変想っておられる。素敵な奥様ですね」
えっと、これは嫉妬せずあえて私を褒めることで、レオン様を煽る……という戦法でしょうか。
 勉強になりますね。

「ああ。それに無駄使いをよしとしない。宝石も、服も欲しがろうとしないのだ。唯一欲しがるとしたら、本だけ。私としては、もっと強請って欲しいのだが」
そう言って旦那様は私の髪を一房とるとその髪に口づけられました。
 「……っ」
ダース様を嫉妬させたいだけだとはわかっていますが、これはさすがにやりすぎではないでしょうか。恥ずかしさで頬に血が上るのを感じます。今、きっと酷い顔をしています。
 レオン様とダース様がこれからどうするのか興味がありますが、さすがにラブラブな二人に妻一人、というのはいたたまれなくなってきました。
 そろそろ、邪魔者は退散するといたしましょう。

 「つもる話もあるでしょうし、私はこれで失礼させて頂きますわ。あとは恋人同士で……あ」
慌てて口を押えましたが、がっつり聞かれてしまったようです。レオン様の目が急に細められました。
「今、君は何と言った?」
そんなに隠さなくともいいのに。それとも、まだ人前で言うにはダース様が恥ずかしがられるのでしょうか。
 目が座っている旦那様を初めて見ました。超怖いです。でも、言った言葉を取り消すわけにはいきませんし……。ええい、こうなったらはっきりと言うしかございませんね。

 「ですから、あとは恋人同士で仲よくなさって下さい。邪魔者は退散いたしますわ」
私がそう言うと、レオン様は頭を押さえ、ダース様はぽかん、とした顔をされました。
 え、私何かおかしなことを言ったでしょうか。

「……すまないが、ダース殿。今日はお帰り頂けないだろうか。私は妻と即急に話さなければならないことがある」
「……わかりました」
え、ええ。わかりましたって、物分かり良すぎませんか、ダース様。私のことは気にせず、あとは二人でイチャイチャしてもらって構いませんし。
 何より、レオン様に掴まれた腕が痛いっ!
「え、あの……?」
 ダース様を引き留めようとすると、ひょい、と持ち上げられました。
「きゃ!」
「君はこっちだ」
 そんなに体重が重い方ではありませんが、軽くもない私を片手一本で支えるレオン様の筋肉はどうなっているのでしょうか。

 どさっと降ろされたのは、ベッドの上でした。なぜかはわかりませんが、旦那様は怒っていらっしゃいますし、床の上でなくてマシだったというべきですね。
 ベッドのスプリングが軋む音が耳に響きます。

「君は大きな勘違いをしている」
「勘違いなんてしていませんわ。安心して下さい。私、お二人の恋を応援します。なんなら、屋敷に囲って頂いても結構です」
そしてそれを少しのぞかせて頂けたら、本望です。
 あ、でもそれだと、後継ぎの件が困りますね。やはり、養子とかになるのでしょうか。
「それが大きな勘違いだと言っている。私とダースが恋人……?冗談じゃない」
恋人じゃないということは、本当は嫁にしたいのに私がいるせいでできない、ということでしょうか。でも、この国の法律上そもそも同性同士は結婚できませんし。

 「まさか自分の妻から、浮気を進められるとは思わなかった。しかも……男を」
頭を手で押さえて深く溜息をつかれました。
 ……?ダース様は男性だと思っていたのですが。
 もしや、女性だったのでしょうか。でしたら、大変失礼なことをしてしまいました。
「……もういい。待つのはやめる」
待つって何を。そう尋ねようとした口は、言葉諸共塞がれました。
 噛みつくようなキスをされて、息ができません。
 結婚式の誓いのキス以外で初めてキスをされました。

 なぜ、キスなんかするのですか。

 混乱と、息ができずに自然と視界が滲みました。

 窒息死するかと思うほど、長いキスの後ようやく唇を離されました。
 私の目じりに浮かんだ涙を舌の先でなめると今度は、請うような深いキスをされます。

 私は、男性経験なんてありません。
 どうしていいのかわからず困惑している間に、旦那様は片手で私のリボンをほどきました。

 ――手馴れていらっしゃる!

 あまりにも自然な手つきでそうされてくらりとしました。
 そんな私を見て、旦那様はふ、と微笑まれました。
 あああああ。誰ですか、女性の誘いは全部断っている、とかいう噂を流したの。
 そんな噂がなければ私も旦那様を怒らせる、なんて血迷ったことはしなかったのに。

 ■  □  ■

 ……喉が掠れてうまく話せません。喉がすごく痛いです。
 いえ、喉だけでなく体の節々が痛いです。
 途中意識なかったですし。

 私はただ、お二人の恋を応援しようとしただけなのに。

 「これで、わかっただろう」
旦那様がにっこりと微笑まれました。その姿も大変綺麗です。
「……はい」
旦那様を怒らせてはならないことが、身に染みてわかりました。

「本当は待つつもりだった。君が私の公爵家という肩書きを重く思っていたのは知っていたし、私が求めれば、嫌でも君が断れないことは目に見えていたから」

 ……アレ。じゃあ、旦那様が私に手を出さなかったのは、私に魅力がないわけでも男色家というわけでもなく、私を愛していらっしゃらないわけではなく。
 私が旦那様を好きになるまで待っていて下さった、ということでしょうか。

 そういえば、意識が飛ぶ前にトンデモナイことをたくさん言われた気が。

 「もしかして……、旦那様は私のことーー」
自意識過剰でなければ、それは、
「やっと好きだといってくれたと思ったら、男と浮気していると勘違いされている。イラつくのも仕方ないと思うが」
 少々きつめの言葉とは裏腹に、旦那様の目尻は、朱に染まっていました。


 元々悪い印象どころか、好ましく思っていた私にそれは衝撃を与えました。
 胸にこみ上げてくるこの想いは――……。
「私は元々気が長くない。その私が一か月も待ったのだ。もう待ったりなどしない」
耳元で囁かれた言葉にくらりときた私は、馬鹿なのでしょうか。

 愛のない結婚をしたと思っていたのは私だけで、実は本当にお見合いをする予定だったのは別の方で旦那様が私のお父様に頼み込み、その相手の代わりに私とお見合いをしたのだと知るまで、あと少し。 

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