僕は最近、自然というものの美しさ、素晴らしさというものを少しずつではあるかもしれないが、理解することが出来てきたような気がする。
照りつける太陽、吹き抜ける風、そういったものを自分の心と身体に感じる時、幸せのようなものを感じるのだ。
僕は仕事で、空港の様々な施設を巡回している。警備員なのだ。空港は海辺に面していて、カモメがたくさん飛んでいる。時には100羽はいると思われるカモメの群れが僕の上空を通り過ぎていく。カラスにもよく遭遇する。彼等は必ず単独で行動している。立体駐車場のゴミ箱を漁ったり、トイレの入り口付近で、地面と天井の間を行ったり来たりしている時もある。
ある時は、僕が立って、立証警備というものをしている時に、エサを咥え、電燈のてっぺんに登り、そこから僕の方を観察するように見つめながら、そのエサを食べていたこともある。
多分、彼等は僕等が考えるよりも、ずっと賢く、僕等のことをよくわかっているのだろう。
スズメ達も、よく僕の近くに姿を現す。
そして、どこから現れたのか猫まで。
僕は、こういった者達に遭遇することに喜びを感じるようになり、段々と自然というものを愛するようになってきた。
そして、食事、睡眠などといったものにまで、以前ではなかった喜びを感じるようになってきた。
自然との調和が進んできたのかもしれない。僕は、もっと、自然と一体になりたいと考えている。
とにかく、自然というものに対する愛が深まってきたのである。
こうなってくると、僕は、もっと自然というものに接し、触れてみたくなってきた。
まだ、知らない自然を知ってみたいと思うようになってきた。
僕の家から10キロほど離れたところにマゼラン牧場という牧場がある。そこには、数十等の牛が牧場の中で放し飼いにされているのだ。
僕は、その牧場に行ってみたいと思った。
その日の夕方、僕は、思い切ってマゼラン牧場に電話してみた。
「もしもし、マゼラン牧場さんですか?……」
「はい、そうですけど……」
「あの……、少し、お願いがあるのですが。私、橘と申しますが、そちらの牧場を見学させてはもらえないでしょうか?」
「あー……、別に構いませんよ。いつごろ来られますかね?なんなら明日でも、こっちは大丈夫ですけどね」
「そうですか。ありがとうございます。では、明日、お願い致します。何時頃伺ったら大丈夫でしょうか?こちらはいつでも大丈夫なのですが……」
「そうだねぇ……。じゃあ、明日の朝10時で大丈夫かなぁ?」
「はい!大丈夫です。では、その時間にそちらにお伺いします。ありがとうございます」
牧場主は、快く僕の願いを聞き入れてくれた。明日が楽しみだ。
翌朝、僕は7時に起床し、朝食をすませ、8時半に自転車で家を出た。
自転車で走る僕に、太陽が照りつけ、風が僕の体を通り抜けていく。僕の胸は弾み、期待が膨らんでくる。
9時20分に僕は、マゼラン牧場の入り口に辿り着き、自転車を停め、そこで約束の時間まで待つことにした。
30分程、僕は風に吹かれていたが、一人の男性が僕のもとへ近づいて来ていた。多分、牧場主だろう。
「橘君かね?……」
そう言って、彼は、僕に話し掛けた。
「はい……」
「すまんが、ちょっと来てくれ」
なんだか様子がおかしいし、なにより表情が真っ青だ。
僕は、彼について、牧場の中へと入って行った。
僕は、驚くべき光景を目のあたりにした。
芝生の上には、数十等の牛達が、4本の足を横にして、すべて倒れていた。
「ちょっと見てくれ……」
そう言って彼は一頭の牛に近づいた。
僕もその牛に近づき、倒れた牛を見下ろした。
「血がすべて抜かれているんだよ……。ほかの牛達も皆、こんな感じさ」
「……」
「悪いが、今日のところは引き上げてくれんかね。本当に申し訳ないが……」
「わかりました」
僕は入り口まで彼と歩き、ありがとうございました、と言って、自転車に乗って、牧場をあとにした。
僕は、始めは、自転車をゆっくりとこいでいたが、知らず知らずのうちにじょじょにスピードを上げていた。
気付けば、僕は、自転車を立ちこぎして、猛スピードで、道を走り続けていた。
目からは涙が溢れ出ていた。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお、自然が見たかったのによおおおおおおお、牛に触りたかったのによおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、あわよくば、カウボーイみたいに牛に乗りたかったのによおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、宇宙人のやつ、キャトルミューティレイションなんかしやがってよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
おわり
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