表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プラスチャイルド  作者: textscape
プラスチャイルド①
7/48

第一章 ハイスピードフェアリー③

超能力を持つ、少年少女たちの青春ストーリー

挿絵(By みてみん)



   + + +



「あ、だから剛山隊長(たけやまたいちょう)、なんか不機嫌だったんだ」


 そう言って、上坂香代(かみさか かよ)が唐揚げを口に入れた。


「もぐもぐ……あの後、ひなたちゃんは、すぐに帰っちゃったけど、出動報告とか情報分析とかで、『第1(ダイイチ)』と『分析班(ブンセキハン)』は残ってたんだよね。そこで剛山隊長、やたらぶっきらぼうだったの」

「きっと葉澄先輩(はずみせんぱい)に、さんざんイジられたんだろうね」


 ひなたが、アイスティーを口にする。


「きっと、そうなんだよ」


 香代はそう答えて、ウインナーにかじりついた。


 二人は今、女子寮の最上階テラスで、夕食を取っている。

 彼女たちの寮は、高レベル能力者用の施設で、60階建ての巨大なビルに、プールやテニスコート、室内遊戯場を完備し、食堂は洋食、和食、中華をそれぞれ専門のコックが調理しているという豪華な施設だ。


 高レベル能力者は、国家レベルで保護・支援するべき対象とされている。そのため、学生地区でも、かなり優遇されていた。


「そう言えば、剛山隊長がひなたちゃんのこと、ほめてたよ。あいつは優秀だって。それに葉澄先輩も、ひなたちゃんがいてよかった、って言ってたし」


 香代が、大盛りライスの残りを口に運ぶ。


「相手の能力と、相性がよかっただけだよ」


 ひなたが謙遜すると香代が、ふーん、とうなずく。そしてデザートの攻略に取りかかった。


「わたし、戦闘のことはよく知らないから。でも、ひなたちゃんって高速移動を使える能力者の中でも、特別なんでしょ? えーっと、精密移動だか瞬間洞察だか……」

「あー、そう言う能力じゃないか、って言う人もいるけど、単に目が良いだけ。スペルで制御しているのは、高速移動だけだし」


 ひなたが、高レベル能力者と認定されたのは、高速移動の扱いが同じ能力者と比べて、格段に秀でているからだ。


 移動速度を加速するのは、使用者にとって大きな危険を伴う。

 本人が制御できない速度で移動すれば、たちまち障害物に激突してしまうからだ。


 ひなたは、そんな高速移動を入り組んだ建設中のビルで行い、逃げまどう違反者を捕獲した。人間離れした反射神経と空間認識力、それに抜群の判断力と動体視力が、備わっていなければ不可能だ。

 高速移動と高い身体能力が合わさり、執行部のエースと呼ばれるような、強力な能力者になったのだ。


「つまり、ひなちゃんはすごいッ、ってことだよね」


 香代は、ペロリとプリンを平らげ、二つ目のデザートにとりかかる。


「……呆れた、まだ食べるの?」


 ひなたが話題を変える。あまり、この話は続けたくなかった。


「これでも押さえてます。シュークリームを見送ったんだから」


 香代がスプーンをゼリーに突き刺す。それから、彼女の食に対する熱い講義が始まった。

 ひなたは、その話に黙って相づちをうつ。だが、頭の片隅では、友人が言った、ひなたちゃんはすごい、という言葉が響いていた。


 最上階テラスから、外を眺めると、美しい結波市(ゆいなみし)の夜景が目に映る。

 キラキラと瞬く景色は、まるで、ひなたを讃えているようだった。


(みんな、すごい能力だって言うけど、あたしだって、初めから上手くできたわけじゃないんだけどな)


 香代に気づかれないよう、小さくため息をついた。



 10年前。小学校の入学を期に、ひなたは高度政令都市で暮らし始める。

 高速移動は、その頃から上手く扱えた。


 以前の彼女を知らない者たちは、ひなたを純粋に才能のある能力者として接した。


 だが、幼稚園に通っていた頃のひなたは、力を上手く制御できずに、頻繁に怪我をしては泣いていた。

 そして、勝手に能力を暴走させては、擦り傷を作ったり物を壊す彼女を、周囲は問題児のように扱った。


 ひなた自身も、自分の能力が大嫌いだった。


 そんな時、不思議な少年と出会う。

 右肩を打ちつけ、公園の真ん中で泣いていた彼女に、その少年は声をかけた。


「どこか痛むの?」


 顔を上げると、見覚えのない男の子が彼女を見つめていた。

 心配そうな表情で、両目に涙を浮かべている。


「泣かないでよ、僕まで泣いちゃうから」


 ひなたは、この子まで泣かせてはいけないと思い、頬を伝う涙をぬぐった。


「わかった、泣かない」


 すると、少年は笑顔になり、右手を差し出す。


「これあげる」


 男の子が差し出した手には、二つのアメ。ブドウ味とレモン味だった。

 ひなたは、ひとつだけ受け取った。


「全部、あげる」


 彼女が、首をふる。


「一緒に、食べよ」

「うん、わかった」


 二人でベンチに座り、仲良くアメを食べた。


「ねえ、どうして泣いていたの?」


 しばらくして、少年が聞いてきた。

 ひなたは、つたない言葉で、自分は高速移動を上手く使えなくて怪我をする、と説明した。


 すると彼が、勢いよく立ち上がった。


「それじゃあ、特訓しよう」

「トックン?」

「うん、僕、手伝うよ」


 その日から、この少年との不思議な特訓が始まった。


 特訓と言っても内容はごく単純で、障害物に当たらないように、高速移動で公園を一周するだけだ。

 ただ不思議だったのは、あやまって遊具や植木にぶつかりそうになっても、なぜか公園の中央で見守っている少年の前に戻り、それじゃあ初めから、と言われるのだ。


 どうしてぶつからないのか、子供心に不思議だったが、それを聞いても、少年は答えなかった。それも数日続くと、不思議に感じなくなった。


 そんなことよりも自分たちは、友だちなのかの方が気になるようになった。


「もちろん、友だちだよ」


 恐る恐る訊くと、少年はあっさりそう答えた。

 それが、とてもうれしかったのを、ひなたは鮮明に憶えている。


 二人だけの特訓は、一ヶ月ほど続いた。たぶん、夏休みだったのだろう。

 夏休みも終わり近づいた頃には、ひなたは完全に高速移動を制御できるようになっていた。


 そして最後の日。


「今日で、特訓は終わり」


 少年の言葉を聞いた時、悲しくて泣きそうになった。

 もしかしたら、泣いてしまったのかもしれない。


「今度は、一緒に遊ぼうね」

「うん。遊ぼう」


 そう言って笑った男の子の顔を、ひなたはちゃんと思い出せない。

 10年前の記憶だ。さらに思い出が美化されすぎていて、無理に思い出そうとすると、絶世の美少年になってしまう。


(あの子が、あたしの初恋なんだよね)


 この記憶を思い出すと、いつもそう思う。

 そして、どうして名前すら聞いていなかったのか、と悔やむのだ。


 特訓のおかげで、高速移動を扱えるようになったひなたは、すぐに高レベル能力者として注目された。そして、専門の施設に通うため、住んでいた街から引っ越してしまう。


 少年との約束は果たせず、あれから二度と会ってない。

 同い年のはずだから、相手も能力者だったことになる。


(もしかしたら、ここにいるかもしれない、なぁーんて、何度も考えたなあ)


 結波市の夜景を眺めて、ちょっと苦笑い。


「……」


 香代が、そんなひなたをジト目で見つめる。


「ひなたちゃん。わたしの話、聞いてた?」

「ふえッ?」


 驚いたひなたは、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「もう、親友の話も聞かずに考えごと?」

「き、聞いていたよ。ちゃんと」

「それにしては、思い人のことでも考えているみたいな、乙女な顔だったんですけど……ハッ、もしかして、一条ひなたが、恋? ちょっと、だれなの? もしかして、クラスメイト?」


 突然、友人の口から飛び出した恋という言葉に、ひなたは取り乱してしまう。

 香代の想像している恋ではないが、初恋の思い出にひたっていたのを、見透かされたような気がしたからだ。思わず、顔を真っ赤にしてしまう。


「ほらー、教えて。ねえ、いいでしょう?」


 それから1時間にわたり、香代の追求は続いた。



   + + +



終章まで、毎日更新の予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ