第一章 ハイスピードフェアリー①
超能力を持つ、少年少女たちの青春ストーリー
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放課後。結波中央学園の校舎から、多くの生徒たちが出てくる。
彼らのほとんどが、友人同士で楽しそうにおしゃべりをしていた。この後の予定でも相談しているのだろう。生徒たちの表情には、放課後特有の開放感に満ちていた。
数人の生徒が、ロビーから出てきた少女に気づく。
彼らは、少女に道を譲るか、そそくさと帰り路を急ぐ。
皆、緊張した様子で、彼女から距離を置こうとした。
その少女の名前は、一条ひなた。
結波市でも、有名な人物だ。
長い黒髪をサイドテールにまとめ、均整のとれた顔に大きな瞳……目元に、ツンとした雰囲気はあるが、まぎれもない美少女だった。
だが、有名なのは容姿のせいではない。
「あれって執行部の……」
「バカ、行くぞ」
男子生徒たちが、逃げるように路地へと入っていった。
彼らに気づいても、ひなたは顔色一つかえない。
そんな扱いをされるのは、もう慣れた。むしろ、そんな扱いを受ける理由に誇りすら持っていた。
結波市には、『生徒会』と呼ばれる組織がある。
能力を悪用する学生・違反者を取り締まりなどを行っている自治組織だ。超能力者には超能力者で対抗する、という単純な理論と、一人の違反者に、軍隊を出動させるのは経済的に問題がある、という大人の事情によって存在していた。
その性質上、実動隊の『執行部』は高レベル能力者で構成され、エリート意識の高い集団でもあった。
ひなたもその類に漏れず、放課後にショッピングモールやアミューズメント施設へ、足を運ぶ生徒を、冷ややかな目で見ているようなところがあった。
この後は、寄り道などせず女子寮へと帰るつもりだ。
もちろん、生徒会の一員だからといって、遊んではいけないわけではない。
だが、執行部の人間は、いつ呼び出されるかわからない。特に検挙率トップの「執行部のエース」ならなお更だ。
非番でも自宅で待機をしているべき、とは少々言いすぎだが、決して大げさではない。
その証に――ひなたの鞄が、ビービーと電子音を発した。
メロディというよりも、警報音だ。
ひなたが立ち止まる。一瞬、彼女は眉をひそめたが、すぐに鞄から黒い塊を取り出した。
警報音を発していたのは、着信を知らせる学生証だった。
「はい、一条です」
『一条さん、悪いんだけど、今から来られるかしら?』
女性の声だった。
「今すぐ、ですか?」
『ええ、今すぐ。もちろん任務よ。都合が悪いかしら?』
「いえ」
断れるわけがない。これは緊急召集の連絡だ。
「……それで現場は?」
『ソケイ区にある建設現場。2号線に面しているから、すぐにわかるはずよ』
「了解」
『30秒以内に、認証を送るわ』
「認証後、直ちに、現場へ急行します」
『急いでね』
ひなたは通話を終えると、学生証の画面を見つめた。
「今日は、非番だったのに」
そう言って、口をすぼめる。
しばらくして、学生証が鳴った。画面に細々とした文字の列と二次元バーコード、そして『能力使用認証』という文字が大きく映し出された。
「本当に、30秒以内に認証がおりた。どうやっているんだろう?」
ひなたが、不思議そうにつぶやいた。
「そんなことより、現場に急がなきゃ。緊急召集ってことは、やばい状況なのかも」
学生証を鞄に押し込むと、彼女はただちに現場へと向かった。
街路樹のビロウが、ザザッ、と音をたてて揺れた。
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終章まで、毎日更新の予定です。