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プラスチャイルド  作者: textscape
プラスチャイルド①
37/48

第三章 エンジェリックウィスパー⑤

挿絵(By みてみん)



   + + +



 望がイリーナを信じると、彼女と約束してから数日が過ぎた。

 二人の仲は、ますます親しくなった。少女はことあるごとに彼のもとにやってきている。

 望は、それを悪いことだとは思えなかった。ひなたは反対したが、イリーナや隆人たち、それに取り巻きのクラスメイト、みんな仲良くやっている。

 それなら問題はないはずだ──そう考えるようにしていた。


 放課後の1年C組では、イリーナとアンダーポイント五人組の他に、数人のクラスメイトが集まって、おしゃべりに興じていた。そのため、教室の一角は少し騒がしいくらいだった。


 しかし、その日の望は、みんなの会話に入っていく気持ちになれなかった。一人だけ、黙って彼らの様子を眺めている。


「望、楽しくないの?」


 イリーナが望の顔をのぞき込んだ。

 よほど暗い表情をしていたのだろう。少女は心配そうな顔をしていた。


「どうして? そんなことないよ」


 望が慌てて否定する。そして、取り繕うように笑みを浮かべた。


「ちょっと考えごとしてただけ」

「よかった。イリーナ、ちょっと心配した」


 イリーナも笑みを浮かべた。


「あはは、ごめんね」


 その後、イリーナは髪の短い女子生徒に声をかけられ、彼女の会話に加わった。望も隆人に話しかけられ、そこで二人の会話は終了した。


 親友の話を聞きながら、望が教室のドアに視線を移す。

 ちょうど、ひなたが教室を出ていくところだった。


(ひなた、今日もすぐ帰っちゃったな)


 最近、ひなたと会話する機会が減った。ちょうど放課後に話をしたあの日からだ。

 生徒会の仕事が忙しいのだろう。放課後になると、声をかける間もなく教室を出ていき、帰宅するのもずいぶんと遅い。家にいても、自室にこもってリビングに出てこなかった。

 朝も、すぐに朝食を食べ終え、さっさと登校してしまう。

 望が休み時間に声をかけようとしても、怖い顔で学生証を見つめている。話しかけられるような雰囲気ではなかった。


 それでも、望は何度か話しかけてみた。が、今は忙しいから、と取り合ってくれなかった。


(避けられている……ってのは、考えすぎだろうけど)


 だが、二人が少しづつすれ違っているのはたしかだった。


(やめやめ。こんな気持ちじゃあ、なにをしてても楽しくないや)


 望が気持ちを切り替えるようと、小さく首を振った。

 そして隆人たちが話しているマンガの話題に加わった。


「それじゃあ、あのツンツン頭はどうなの?」

「アイツねえ。確かに一つ前の巻で……」

「あれ、覚醒でしょ?」

「だとしたら、さっきの説明じゃ、ダメだ。つじつまが合わなくなる」


 それからマンガの話題は、いつの間にか音楽の話題に趣向を変えた。

 イリーナや他の数人も話題に加わり、好きな曲を教え合う流れになる。


「なんか直球な選曲だね。まあ、鳴島っぽいか……それでイリーナちゃんは、どんな歌が好きなの?」


 メガネの女子生徒がイリーナに訊くと、周囲の視線が一斉にイリーナに向けられた。みんな、そのことが気になっていたのだろう。


 やはり、この場の中心人物は、イリーナだった。


 少女は、きょとんとした顔で、有名なアニメソングの名を口にした。望も含め、クラスメイトたちが、意外そうな顔をする。


「アメリカでもやってるの。小さい頃から見ているから憶えちゃった。歌詞は英語だけどね」


 へえ、と何人かが声をもらす。

 それから、イリーナの歌を聞きたいという話が持ち上がり、いつかみんなでカラオケに行くことになった。イリーナもカラオケに行くのが楽しみだと、うれしそうな顔をしていた。


 そんな彼らを見て、望は改めて『イリーナの秘密』はひなたの思い過ごしだったんだ、と感じた。


(みんな、楽しんでいるんだし、これでよかったんだよ)


 その後、下校時間を過ぎたので、そろそろ解散しようと言うことになった。

 ほとんどのクラスメイトが、別れを惜しんでイリーナと共に教室を出ていく。

 望も鞄を抱えて、彼らの後を追う。隆人たちは、すでにイリーナと並んで廊下を歩いているところだった。


 その時、ポケットの学生証が鳴った。

 取り出して確認すると、織戸からのメールだった。



   望さんへ


 今日は、突然、学校を休んでしまったので、心配させてしまったようですね。すみません。

 体調を崩したわけではありませんので、心配しないでください。

 ですが、明日以降も欠席することが決まりました。

 理由は、私の保安上の措置らしいのですが、具体的な説明は一切伝えられていません。

 考えすぎかもしれませんが、望さんも気をつけてください。

 最近、研究所の人たちが、怖い顔で行ったり来たりしています。それに、見慣れない顔の人も多く出入りしているようです。

 レイも、当分は望さんをセントラルに来させない、と言っていました。

 なにか、よくないことが起きているのかもしれません。


   ──織戸神那子


 PS 私も望さんに会えなくてさみしいです。



 今日、織戸は学校を欠席した。


 その日、何度目かに送られてきた彼女のメールは、望に不吉な予感を抱かせるのに充分な内容だった。



   + + +



終章まで、ほぼ毎日更新していく予定です。

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