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プラスチャイルド  作者: textscape
プラスチャイルド①
15/48

第一章 ハイスピードフェアリー⑪

超能力を持つ、少年少女たちの青春ストーリー

挿絵(By みてみん)



   + + +



風澤望(かぜさわ のぞむ)だっけ、この人? 本当に、アンダーポイントなの?」


 香代がタマゴサンドを頬張りながら、タブレットコンピューターを眺める。

 画面には、1年C組のクラス名簿が映し出されていた。


「風澤、風澤……あ、いた。本当だ。それもUP2。データ上は、完全にアンダーポイントってことになってる」


 さんぴん茶でタマゴサンドを流し込むと、サッと画面をなぞる。するとクラス名簿は消え、カメラから取り込んだ映像が表示された。

 コマ送りで再生されたのは、望とひなたの激闘だ。

 香代が、うーん、とうなり声を上げる。


「こんな能力者が、アンダーポイントってのは、絶対にありえない。これだけは断言できる」


 語気を強めてそう言うと、香代はランチボックスからハムサンドを取り出し、乱暴にかぶりついた。


「そうだよね」


 ひなたも、彼女の隣でうなずいた。


「もぐもぐ……休み時間にやってきて、協力して欲しいって言われた時は、なんとなく幻視能力だと思ってたんだよね」

「幻視能力?」

「うん、テレパシー能力の一種で、相手に幻覚を見せる能力。かなり、少ないらしいから、ひなたちゃんがそれを知らなくてもおかしくないし、それなら攻撃もあたらないだろうな、って」

「その言い方だと、あいつの能力は、幻視能力ではないのね?」

「少なくとも幻視能力じゃない。こうして、映像に残っているからね。幻覚なら、そうはいかないもん」


 画面に映し出された望は、ひなたが加速状態で放った正拳突きを、それを上回る速度で、回避している。

 相手に、幻覚を見せる能力なら、その様子が映像として記録されたりはしない。


「あたしが初めて戦った時は、予知能力かと思ったんだけど、違うみたいなのよね。そうなると……」


 ひなたが言葉を濁す。

 理由を察したのか、香代がかわりに答えた。


「高速移動?」

「やっぱり、そう思う?」

「正直、ひなたちゃん以上の高速移動の使い手って、想像できないんだよなあ。現に、この映像。たしかに回避されちゃっているけど、とんでもないスピードだよ」

「でも、上には上がいるって言うし……」


 ひなたが弱音を口にする。

 らしくない発言だが、香代の前だからなのだろう。それだけ、気を許しているのだ。


「高速移動の他に、考えられるとしたら……瞬間移動かな」

「アイツが、テレポーターだって言うの?」


 ひなたが、驚きの声を上げる。


「あくまで、可能性の話。瞬間移動を使える能力者は、未だに確認されていないんだけど、超能力研究においては『存在しない能力はない』って考え方が一般的なの。だからテレポーターがいてもおかしない」

「ふーん、そういうものなんだ」


 望が未知の能力者である可能性──あの能力が、高速移動ではなく、別の能力だという可能性は魅力的だった。


 ひなたにとって、自分を上回る高速移動を扱える能力者の存在は、正直うれしくない。それがわがままで、身勝手な考えだとわかっていても、自分が、最も優れた高速移動の使い手でいたいと思ってしまう。


(あたしって性格悪いなあ)


 ちょっと自己嫌悪。


 気分を変えようと、スポーツドリンクを飲み干した。

 だが、落ち込んでいるのは、ひなただけではなかったようだ。


「高速移動なのか、瞬間移動なのか、また別のなにかなのか。それを見極めるためにあるのが、わたしのサイコメトリー……なんだけど、さあ」


 香代が、うなだれる。


「正直に言うと、わかんない。こんなの初めてなんだよお。今まで、色々な思念を読みとってきたけど、こんな気持ち悪い残留思念は、初めて」


 彼女が画面を操作する。


「例えば……ここ」


 香代が、ひなたにも見えるように、タブレットをかたむけた。


「この状態だと、ひなたちゃんと風澤くんの間に距離があるから、まだ変な感じはしないの。ちょっと怯えたような感情と、集中もしてるって感じかな」


 次に、彼女が操作すると、ひなたが飛び込みざまに、掌底を繰り出す。


「それで、この状態。ここで彼は、特有の感覚を持つ」

「特有の感覚?」

「あ、その特有の感覚が、変なわけじゃないよ。つまり能力を発動させる感覚のことで。そう言うのって、感じ方に個人差があるの。だから、それが特別ってわけじゃないよ……ごめんね、ちょっとわかりづらくて」


 サイコメトリーで得た情報を、サイコメトリーを持たない人に説明するのはコツがいる。

 それはサイコメトリーだけではなく、ESP能力に分類される能力全般に言えるのだが、能力者がそうでない者に伝えようとすると、味や匂いを言葉で説明するのに似ていて、表現が難しいのた。


「問題は、次なの」


 香代がサッと画面をなぞる。

 ひなたの掌底が、望のアゴを捕らえようとした瞬間、彼が消え、彼女の背後に現れる、という映像が繰り返し表示された。


「この時の、風澤くんの思念が本当に変なの」


 彼女は立ち上がると、映像の場所まで歩いていく。ひなたも後について行った。


「『ピースアルテン』……うん、そうなんだよね。なんなんだろう、この思念。すごくゴチャゴチャしていて、なにがなんだかわからない。まるでノイズ」


 香代が床に手を当てたまま、顔を上げる。眉を下げ、首を傾げた彼女は、本気で悩んでいるようだった。


 と、香代が1メートルほど移動してから、また床に手をついた。


「彼に比べると、ひなたちゃんが高速移動を使っている時の思念は、最適化されているって感じ。『蹴り』『移動』『蹴り』『パンチ』……って感じかな? よけいなことを考えないようにしている。それに、すごい集中力ね」

「あ、あたしのは、いいじゃない」


 突然、自分の思念を読まれて、ひなたは顔を真っ赤にしてしまう。

 サイコメトリーは、心を読まれているような気がして、恥ずかしかった。


「あはは……まあ、そんなわけで、わたしは風澤くんの能力は、高速移動じゃないと思ってる。もし、そうなら、ひなたちゃんと同じような、最適化された思念じゃなきゃいけないからね」


 彼が、能力を発動させている間の精神状態は、サイコメトリーでは読みとれない。

 ますます、謎の能力だ。


「それじゃあ、香代ちゃんは、あいつの能力はなんだと考えているの?」


 ひなたの質問に、香代が頭をかきながらうなる。


「うーん……瞬間移動に似た能力。としか言えない」


 友人は肩を落とすと、申し訳なさそうに答えた。

 ひなたが落ち込む香代に、優しく話しかける。


「ううん、香代ちゃんのおかげで、色々わかったよ。ありがとう……それで、話は変わるんだけど、今調べたことや風澤望に関する情報は、あたしたちだけの秘密にしておいて」


 香代が、不思議そうな顔をした。


「どうして?」

「あいつ、自分の能力を隠しているみたいなの。昨日は、思わず使っちゃったんだろうけど、あたし以外の前では、能力を使いたがらないのよね」


 香代が、納得したようにうなずいた。


「だから、隠れて撮影するように、わたしに指示したわけか……でも、どうしてなんだろう?」

「さあ? でも、能力を隠してアンダーポイントとして暮らしているのはわけがあるはず。とりあえず、それがわかるまでは、公にしない方がいいと思うの」

「わかった。とうぶんは、二人だけの秘密にしておく」

「ありがとう……それじゃあ、これからどうしようか?」


 続けて、ひなたが問いかける。


「生徒会の通常業務までは、少し時間があるけど、やっぱり授業にもどる?」


 すると香代が、上目遣いでつぶやいた。


「最近見つけた、お店なんだけど少し早めに午後の営業をしてるんだよね」

「まさか、授業をサボって甘い物を食べに行く気なの?」

「むぅ」


 友人が、しかられた子供のようにうつむいた。

 それをみて、ひなたが小さく笑みを浮かべた。


「たまには、いいかもね」


 香代が、サッと顔を上げた。


「ひなたちゃんッ、大好きッ!」


 香代が、急いでカメラやランチボックスを片づけ始める。

 そんな彼女を見ながら、ひなたは笑みを浮かべた。


 ひなたは上機嫌だった。

 望の能力を暴くことはできなかったが、ある可能性を思いつくことができたからだ。


 それ自体は、バカバカしい考えだったが、ひなただからこそ気づいた、ある能力だった。



   + + +



終章まで、毎日更新します。

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