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プラスチャイルド  作者: textscape
プラスチャイルド①
11/48

第一章 ハイスピードフェアリー⑦

超能力を持つ、少年少女たちの青春ストーリー

挿絵(By みてみん)



   + + +



「風澤望ッ、待ちなさいッ!!」

「ごめん、それはちょっと」


 望が、廊下をかけぬける。

 その後を、ひなたが追う。


「廊下を走るのは、校則違反よッ!!」

「一条さんだって、走ってるじゃん」

「あなたが、逃げるからでしょッ!!」


 一時限目の授業が終わった直後。ひなたは、望を教室から引きずりだした。

 今朝、宣告した決闘のためだ。


 相手の襟首をつかみ、引きずるようにして廊下を歩いていると、望が顔を真っ赤にしながら、苦しい、息ができないと訴えてきた。

 さすがに悪いと思い、襟首を離した瞬間、望が隙をついて逃げ出した。


 それから逃げる彼を、全力で追っている。ひなたが、高速移動を発動させていないのは、結波中央学園に『校内における超能力の使用は、三名以上の教員から許可を得なければいけない』という校則があるからだ。

 生徒会執行部のひなたが、むやみに規則を破るわけにはいかない。


 だが、人気のない場所となれば、話は別だ。


「『ゲット・レディ?』」


 瞬時に、相手を追い越し、目の前に立ちはだかる。


「おわッ」


 望が慌てて立ち止まった。


「もしかして、人気のないところに、誘い込んだつもり?」


 彼女は、不適な笑みを浮かべた。


「それは、あたしにとっても、願ってもないことだわ」


 望を追っている最中に、いつの間にか、クラス棟ではなく、特別教室棟に迷い込んでいた。

 それも、高圧電流制御室や電波遮断室などのプレートが並ぶ、人気のない場所だ。


「それじゃあ、始めるわよ」


 ひなたが身構える。


「い、一条さん。そうじゃないんだってッ」


 慌てて、彼が訴えるが、無視して蹴りを放った。


「うわッ……ちょっと待って」


 望が蹴りを避けた。

 その蹴りが牽制だったから避けられたのだ。

 二人とも、まだ能力を発動させていない。


「こ、降参。降参する。だから、やめよう?」


 情けない声で、望が懇願してきた。

 それをひなたは、即座に却下した。


「ダメよ。あたしが降参する、ならともかく。あなたが降参しても、あたしが納得しなかったら勝負は続行。今朝、そう言ったじゃない」


 ゆっくりと、ひなたが望との距離を詰めていくと、彼も同じく、ゆっくりと後退していく。

 しかし、どこまでも後退はできない。すぐに、廊下の突き当たりで、壁を背にすることになった。


「あら、追い込まれちゃったみたいね」


 ひなたは小さく笑うと、拳を握り、胸の高さに持ってきた。戦闘態勢だ。

 昨日と違い、今日は警棒を持参していない。素手で、やりあうつもりだった。


「でも勝負は勝負、手加減はしないわ……『ゲット・レディ?』」


 ひなたが高速移動を発動させた。

 一瞬にして、間合いを詰める。


 望が口を開いた。


「『エクスク……』」


 だが、セーフティースペルを言い終えることはなかった。


 ひなたが腕を振り上げると、彼がなにかに反応する。

 瞳を大きく見開き、次に彼女が振り下ろした拳を確認して……目をつむった。


 今度は、ひなたが驚く番だ。


(どうして、目を閉じる? くッ)


 瞬間的に殴るのをやめようとしたが、遅すぎた。

 そこで、上体を逸らして、拳の軌道をずらす。なんとか、頬をかすめただけですんだ。


 ひなたが、ハッとして後ろに振り返る。

 すると、十数メートル先で、見慣れない女子生徒が、驚いた顔で二人を見つめていた。


(……まさか、彼女が見ていたから、能力を発動させなかった?)


「えっと、あの……どうして?」


 ひなたが視線をもどすと、彼は突きつけられた拳を凝視していた。

 望には、自分の顔に叩き込まれるはずだったそれが、そうならなかった理由がわからなかったのだろう。


(どうしてって、それはあたしの台詞よ)


 どうして能力を使わなかったのか?

 ひなたが怪訝な顔で、望を見つめる。


「「……」」


 二人の間に、沈黙が訪れた。

 それは短い間だったが、その沈黙が、急速にひなたの闘志を萎えさせた。


 そして、計ったかのように二時限目の予鈴が鳴った。


「授業が始まっちゃうよ、一条さん」

「……とりあえず、決着は持ち越しね」


 ひなたは拳を引っ込めて、彼に背を向けた。


「あなたも、早く教室に戻りなさいよ」


 去り際にそう口にすると、振り返らず、急いで教室に向かった。


(あいつ……自分の能力を隠しているの?)


 なにか、ふにおちない感じがした。


   + + +



終章まで、毎日更新の予定です。

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