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プラスチャイルド  作者: textscape
プラスチャイルド①
1/48

序章 スターティングコール①

 超能力を持つ学生たちの青春ストーリー

挿絵(By みてみん)



   + + +



 2013年04月01日 日本時間 19:00


 スターティングコール


 「後に『スターティングコール』と呼ばれるそれは、あまりにも突然やってきた」

   ――エレヴィン・アダムス



   + + +



 西暦2028年 10月中旬


 風澤望(かぜさわ のぞむ)はアンダーポイントである。


 アンダーポイントとは、研究対象にもならない微弱な超能力者を指す言葉だ。

 つまりは、ここ超能力研究のために設立された高度政令都市では、役立たずだと言うことになる。


 その上、現在の望は、授業をさぼって中学校を抜け出していた。もはや落ちこぼれだ。


 望が住んでいる日本最南端の高度政令都市、結波市(ゆいなみし)は、3つのエリアにわかれている。能力の研究を行う研究地区、高レベル能力者が暮らす学生地区、そしてアンダーポイントが暮らすアンダーポイント地区だ。

 彼が授業をさぼって、ふらふらしているのは、アンダーポイント地区の一角だった。


 うーん、と望が思いっきり伸びをする。


「さて、学校を抜け出したものの、これからどうしようかな?」


 空は快晴。そして周囲に人の姿はない。

 結波市は超能力者の研究と教育のために、子供たちが集められた都市だ。彼らが学校で授業を受けている時間帯は、ゴーストタウンのように静まりかえる。


「あれ?」


 人気のない通りに、見慣れないセーラー制服の少女が立っていた。

 年頃は望と同じ15歳、中学三年生といったところだろうか。長い黒髪をサイドテールにまとめた少女は、目鼻立ちが整っていて、遠目からでもかなりの美少女とわかった。


 望は、少女もさぼりかと思ったが、とても自分と同じ人種には見えなかった。

 雰囲気がちがうのだ。背筋をぴんと伸ばし、真剣な表情であたりを見回す。時折、右耳に手をあて、軽くうつむく仕草が堂に入っている。まるで刑事のような雰囲気だ。


「こんな、かわいい子、このあたりにいたっけ?」


 望が美少女へと近づいていく。純粋な好奇心だった。

 彼女はインカムをつけているらしく、それでどこかに連絡を取っていた。


「まったく、アンダーポイント地区まで逃げ込むなんて……ええ、問題ありません。二人ぐらいあたし一人でなんとかできます」


 その後も「能力使用認証」や「運営規約23項」などの難しい単語が、美少女の口から飛び出した。

 望にはなんの話だか、さっぱりわからなかった。だが、可愛い女の子に興味のない男はいない。吸い寄せられるように、少女の側まで寄っていった。


(うわ、近くで見ると、細いなあ)


 華奢な体と端整な顔立ち。望でなくても見惚れていただろう。


(それに、すごい美少女。こんなかわいい子、はじめて見た)


 形のよい二重瞼に大きな瞳、目元に勝気な印象はあるが、スッと通った鼻筋と控えめな唇によって、絶妙なバランスを取っている。お世辞抜きで、超がつくほどの美少女だった。


 と望に気づいた少女が、インカムのマイクを手で覆い、顔を向けた。


「さっきからなに?」


 キッと眉間にしわを寄せ、威嚇するような視線を向ける。

 あんなに可愛かった顔が、一瞬にしてナイフのような鋭い表情へと変わった。


「あ、ごめん。じゃまだった……よね?」


 望は、くるりと少女に背を向け、逃げるようにその場からはなれた。

 情けない話だが、望は少女に睨みつけられて驚いた。いや、ビビった、と表現するべきかもしれない。

 微笑みを向けられる、とは言わないまでも、なにか用ですか? と訊かれるのかと思っていたら、さっきからなに? と睨まれたのだ。それもあんなに可愛かった顔が……あまりの衝撃で心臓が跳ね上がったほどだ。


 少し歩いてから、望がそっと振り返る。少女は元の真剣な表情に戻っていた。

 改めて見ても抜群に可愛い。


「……別に、怒んなくたっていいじゃん」


 望がつぶやいた、その瞬間。


 ――彼女が、こちらを向いた。


「もしかして……聞こえちゃった?」


 振り向いた少女は、さっきよりも、さらに険しい顔をしていた。

 両手に、なにか棒状のものを握っている。彼女が、サッとその手を横に伸ばすと、棒状のものが倍の長さになった。


 それは、伸縮構造を持つ警棒だった。


 少女が叫ぶ。


「『いくわよ?(ゲット・レディ?)』」


 それがセーフティースペル――超能力発動のきっかけとなる特殊な言葉だと、アンダーポイントの望でも気づいた。

 だが、次に起きた現象は、理解ができなかった。


「えっ……」


 望は絶句した。一瞬にして、彼女の姿が消えたからだ。

 そして、すぐそばを、なにかが超高速で横切った。


「ぐぎゃあッ」


 背後から男の悲鳴が聞こえた。

 振り向くと、見慣れない制服の少年が仰け反っていた。

 その傍らに立つのは、他でもない、消えたはずの美少女。

 彼女は警棒を降り上げると、躊躇なく少年の胸に叩きつけた。


「ごふッ」


 喉から絞り出すような、いやな声だった。

 少年が、その場にうずくまる。その後は、うめき声を上げるだけで身動きしなくなった。


「違反者を一名、確保しました」


 彼女は少年を一人、殴り倒したというのに、取り乱した様子もない。冷静な口調で、インカムの向こうと連絡を取っていた。


 その時、ようやく望は、美少女が何者なのかを理解した。

 15年前に発生した『スターティングコール』により、超能力をえた子供たちが集められ、研究が行われている結波高度政令都市。

 そこには、能力を悪用する生徒を取り締まる、生徒たちの自治組織、『生徒会』がある。

 彼女は、その執行部の一員なのだろう。


(こいつを追って、アンダーポイント地区まできたってことか。かわいいのに、すごいな……)


「はい、速やかにこちらへ車両を回してください……いえ、もう一人の方は……」


 地面に這いつくばる少年のかたわらで、少女が確保した生徒を移送するため、インカムで連絡をしていた。

 望が、物珍しそうに二人を見つめた。アンダーポイント地区に住んでいると、こういった執行部の捕り物を目にする機会はない。アンダーポイント地区で暮らしている生徒は、悪用するほどの能力を持っていないからだ。


 と、望は通りの向こうから、こちらをにらんでいる少年に気づく。


(……あいつ)


 少年の右手が、赤々と燃えていた。パイロキネシス、または発火能力と呼ばれる炎を操る能力だと、ひと目でわかった。

 燃える右手が、少女へ向けられる。

 だが発火能力者がいるのは、彼女の死角。さらにインカムでのやりとりに集中していたため、相手に気づいてないようだった。


(まずいッ!)


 望の視界で、発火能力者の右手が震えた。赤々と燃える炎が火球となって放たれる。

 このままでは、彼女が危ない。


 望がささやく。自分のセーフティースペルだった。


「……『エクスクルード』!」



 放たれた火球が、対象を包み込み、炎上させた。

 甲高い悲鳴が、あたりに響く。



「な、なに? あれは、発火能力……もう一人の違反者?」


 振り向いた少女が見たのは、自らの炎を浴びて悲鳴を上げる発火能力者の姿だった。


「暴発させたの? 自分の能力もろくにコントロールできないなんて、だから落ちこぼれ扱いされるのよ……『ゲット・レディ?』」


 彼女が、再びセーフティースペルを口にした。その場から少女の姿が消える。

 その時、望は、高速で発火能力者へと向かっていく彼女を見た。

 自身の移動速度を、数倍から数十倍に加速させる能力。高速移動。彼女の能力は、それだ。


 目にも止まらぬ早さで、相手に接近すると、減速せず、そのままのスピードで回し蹴りを叩き込む。そこまでは、確認できた。


(すんごい、速度。回し蹴りでスカートがめくれても、パンツが見えないッ)


 残念ながら、期待した光景は、その残像すらとらえることはできなかった。


「さて、僕は退散しようかな」


 違反者と彼女を残して、望がその場をはなれる。

 捕まえた少年たちを移送するため、これから大勢の人が来るはずだ。学校を抜け出した望が、その場にとどまっていたら、面倒な目にあうかもしれない。

 今のうちに立ち去るのが、賢明だと思ったのだ。


「かわいい女の子にも出会えたことだし、今日は、いいことがありそうな気がするなあ」


 望はズボンのポケットに両手を突っ込むと、小走りでその場を後にする。

 その時、街路樹のヤシの木が、秋風によって大きな葉をゆらした。



 風澤望はアンダーポイントである。

 今日も――そして、これからもずっと。



   + + +



 終章まで毎日更新の予定です。

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