マヨイ道
現在
今の、僕の状況を端的に表す言葉を見繕うとするならば、『迷子』という言葉が一番しっくりくるのだろうか。いや、大学二年生の男を『子』と表現するのはいささか無理がるようにも思える。では『迷い人』だろうか。いや、それも何か違う気がする。よく知っている道で前後不覚に陥り、立ち往生しているこの状況を表現するなら、やはり『迷い人』ではなく『迷子』という表現の方がより状況を捉えている気がする。
「はあ……」
自然とため息が漏れた。それは迷子となった大学二年生のため息だった。
ただ単に、空間認知能力が欠如していた、方向感覚が著しく悪い、そんな理由で迷子となるのなら、いたしかたないし、それなりに対処法も見えてくるだろうけれど、今のこの状況は、方向感覚とか、道を覚えられないという次元の問題ではなかった。
そもそも、僕は方向感覚に関しては優れている方であると自負している。もちろん地図も読めし、頭の中で地図を描くことだって出来る。今までの人生で、道に迷うという体験もゼロではないが、極めて稀な体験と言える程度には、僕の方向感覚には自信を持っていた。
「あっ……」
はっとして、僕は思い出した。この『迷子』と似た状況に陥りかけた事が合ったのだ。しかも、今から二カ月程度過去、というか最近の出来ごとだった。その時は、迷子未遂で終わったけれど、状況は似ている。なぜ、今までそんな最近の出来ごとを忘れていたのだろうか。自然と、僕はあの二か月前の不可解な体験を思い出していた。
あれはちょうど、定期試験が近くなり、レポート課題に煮詰まっていた、梅雨の終り、7月の事だった。
二か月前
入学の際、学校が推奨モデルとしていたノートパソコンを開いて、ワードを起動する。決められた書式にページを設定して、日付、学籍番号、氏名を入力。中央揃えにしてフォントサイズを適当に大きくして『西ヨーロッパ地域文化論 レポート課題』と打ち込む。ここまでは順調だった。むしろ、ここまでしか順調ではなかった。
講義の半分を代返してもらい、残りの半分は出席していても寝ているだけだった。そんな受講態度で、レポートが書けると思っていたのがそもそもおこがましい話しだった。
しかも、課題の内容が、「授業で扱ったテーマから2つ選び、講義の内容を簡単にまとめたうえで、自らの意見を論じよ」だった。まじめに受講した学生にしか単位をやらないという教授の意思が見え隠れする設問だ。それでも、ノートを借りたり、要点を聞いたりして、上手く立ち回れば、レポートは書けそうだが、残念ながら僕は上手く立ち回る努力すら怠っていた。そもそも、レポート課題がある事すら失念していたのだ。努力なんて行えるはずもなかった。
レポート提出前日にレポートの存在を思い出した事は幸か不幸か、たぶん、後者だと僕は思う。ただ、思い出した以上は最善を尽くさなくてはいけない。少なくとも単位は欲しいのだ。
講義を受けていた友人に電話して、テーマと大まかな解説を施してもらった。後は適当にそれらしい事を書けば、たぶん、可はもらえるはずだ。気づくと日付が変わって、深夜の1時半ごろになっていた。僕小腹が減ったのでアパートを出て、近くのコンビニへと向かう事にした。レポートはまだ3分の1が終わった程度だった。
大学進学と同時に、4階建の割と新し目の鉄筋コンクリート製のこのアパートに住み始めて、一年と3カ月ほどが経過していた。初めの頃はよくわからなかった周りの地理も今やだいぶ詳しくなっていた。
近所のコンビニまでは歩いて5分ほどで、アパート前の道をまっすぐ行くだけだった。何度となく利用している道で、目をつぶっていても辿りつける自信があった。しかし、アパートを出てすぐに異変に気がついた。
コンビニの姿が見えない。
普段ならば歩いて1〜2分もしない間にコンビニを視認出来るはずなのに、それが出来なかった。
それに、どこをどう見ても、辺りには見覚えのない景色が広がっていた。
おかしい。
それどころか、街灯、住宅の明かり、車、そんな普段見かけるものも見ることが出来ない。
完全な暗闇だった。
普段ならば少し離れた大通りから聞こえてくる車の音や漏れてくるネオンの光も確認する事が出来ない。
引っ越してくる前の田舎ならいざ知れず、都内でのこの状況は明らかに異質だった。
大停電でも起きたのかとも思ったが、そうでは無かった。そもそも、建物や車、そのものが無いのだ。
コンビニがあるはずの方向に歩きながら辺りを確認していたが、この異質な状況に一抹の不安を覚えて、僕はとりあえず、来た道を引き返すことにした。
振り返えると、それはいつも見る道だった。
見覚えのある建物、街灯、何事も無かったようにそこにあった。遠くから車のクラクションが聞こえてきた。
正直、何が起こっているのか理解できなかった。
恐る恐る、先ほどの進行方向に目を向ける。
100メートルほど手前、はっきりとコンビニの姿が見えていた。
現在2
結局、あの体験が何だったのかは謎のままだった。あの日、結局気味が悪くて、コンビニには行かなかった。そのあとも、どうにもレポートに取り組む気になれず、結局、西ヨーロッパ地域文化論は当然の棄却として不可という評価をいただいた。
そして今、僕はあれと同じような状況に陥っている。
続いて思い出すのは今から2〜3時間前の事。
現在より少し前
「おい!合コンするぞ。合コン!今夜10時に俺んちに集合な!」
そんな電話があって、友人のアパートに行くと、そこには友人の他によく知る女とよく知らない女がいて、テーブルの上には缶ビール、酎ハイ、ジュースと安いつまみが置いてあった。
「色々、ツッコみたい事があるんですが」
僕が言うとこの部屋の家主の友人はドーゾと言った。
「合コンって相手、西野かい!」
「合コンって言った方が楽しさが増すだろ?」
「その後のガッカり感で台無しだよ!」
そういうと、奥でスラムダンクの17巻を読んでいた西野麻子はマンガから顔を上げて、ガッカリってなんだーせっかく来てやったのにーそれにちゃんとゲストもいるんだぞーと声を上げた。
西野は大学の同じ学部で、一年生の頃からつるんでいる、いわゆる女友達だ。さばさばとした性格のせいか、身なりや外見は完ぺきに女なのに何故かあまり女を感じさせない不思議なやつだ。男女、後輩先輩関係なく友達が多いらしく、西野と構内を歩いていると、よく色々な人とあいさつを交わしている光景を目にする事がある。交友関係が広いのに、なぜか俺達と一緒にいる事が多い。何故かはよくわからないけれど、わざわざ聞くことでも無いので、本人に聞いたことはなかった。西野とはよく一緒に飲んでいるので、たぶん、「合コン」と言ってきたのは、西野のいうゲストによる所が大きいのだろう。
西野の横でカイジの3巻を手に持って、僕が部屋に入ってからは、マンガから顔を上げてこちらを見ている女性、名前は知らない。同じ学部の学生である事は知っている。正直、いつも前の席でまじめに講義を聞いている人という事しか知らない。たぶん、話したことは無かったと思う、むしろ、西野とも知り合いだったことに驚いた。黒髪のストレートで、細身な体型、小顔で日本人形がそのまま成長したような人だ。美人ではあるが、どこか近寄りがたい印象があった。そんな人が友人いわくの「合コン」に来るなんてあまり信じられなかった。
僕は、「どーも」と切れの悪い挨拶をそのゲストにした。はじめましてだけれど、はじめましてというほど、はじめましてではない。正直気まずかった。
ゲストは、こんばんはと言って、ようやくカイジの方に視線を落とした。
僕は思い出したように友人に向き直って、思い出したようにツッコんだ。
「てっか宅飲みかい!」
やっぱり、どこか切れが悪い。
「金ねーもん。まぁいいじゃん。とにかく座れ」
そういって友人は着席を促して、マンガを読んでいた女子二人も、それにならってテーブルに着いた。
友人と僕はビールを、西野は缶チューハイのカシスオレンジを、そして、ゲストはコップに注いだ、オレンジジュースを手に取っていた。それを見て友人は始まりの挨拶を始めた。
「はいっという訳で、クニムネさんとは初めての飲み会になるわけですが、まぁなんていうか、お疲れーーー!」
テンションだけで突っ走った挨拶だった。そして、目の前の女の子はクニムネさんというらしいことがようやく分かった。たぶん、国宗さんだろう。と頭の中で漢字を当てはめた。僕も友人にならってお疲れーと言って、ビールを口にした。
1〜2時間が過ぎた。適度に酔いも回って、テストがどうとか、8月になにしたとか、もうすぐで学校が始まるとか、まあくだらない話をして、それなりに盛り上がっていた。国宗さんは基本的には自分からはしゃべらなかったけれど、話を振られれば答えていたし、西野とも楽しそうに話をしていた。特に彼女と何かを話した訳では無かったけれど、近寄りがたいという印象は和らいではいた。
ちょうどそのころ、つまみが切れて、西野が「男ども、つまみが足りんぞ!今すぐ買ってこーい!」と言い出した。
僕はどこのバカ殿だよと言いながら、友人を視線を合わせた。友人もその視線の意味を理解しているようで、音頭をとる必要はなさそうだった。
「「ジャンケン、ポン!」」
二人同時に掛け声を出し、結果、負けたのは僕だった。
この友人のアパートは以前から何度も遊びに来ているし、辺りの地形もだいたいは把握していた。近くのコンビニの場所も分かっていた。アパートの前の道をまっすぐ行くだけ、途中ちょっとした坂になっていて、そこを登れば、コンビニがある。サルでも辿りつけるほど、わかりやすい道順だった。
しばらく歩くと、それは何の前兆も無かった。気づいたら僕は全く知らない場所に立っていた。ふと、振り返ると、友人のアパートは消えていたし、辺りの見覚えのある建物もすべて消えていた。
辺りを見回してもやはり、完ぺきに見覚えの無い場所だった。これは、なんなんだ?僕は混乱した。僕はいつ『迷子』になったんだ?
最後まで読んで下さった方、本当にすみませんでした。
未完です。
どうしても時間がなく、未完のまま投稿することになりました。投稿をやめようかとも思ったのですが、登録した限りは、どんなに無様な形であれ、投稿するのが、筋
であると思ったので、投稿しました。
必ず、近いうちに続きを書きます。あぁ自分の力不足が嫌になる。
あと、この話オカルト板のほんのり怖い話スレを見て、印象に残っていた話を参考にさせていただきました。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。
ついったーで読了宣言!
― お薦めレビューを書く ―
※は必須項目です。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。