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午後の紅茶
作:井中かわす


「問題、これは何て読むでしょう?」
2日前から恭一(きょういち)が付き合いだした彼女、沙知(さち)。最近、漢字検定にこっていて彼によく参考書で覚えた問題を出す。
恭一の一人暮らしの部屋で、こたつに向かい合ってぬくぬくしながらのひと時。
広告の裏に書かれた文字を差し出される恭一。
『海女』
「うみおんな、じゃないよ」
すぐに彼女が忠告。
「先に先手打たれた」
ぐああ、と悔しそうに頭を抱える。しかし、
「後で先手は打てないよ」
「ん、そうか。そりゃそーだ」
そしてあれでもないこれでもない、ぶつぶつ言いながら考える。
「なんか答え聞いたらわかりそうなんだけどな」
「答え聞いたら誰だってわかるよ」
「ん、うん」
俺ってあほだなー、と頭をかく彼に沙知は苦笑う。その表情もかわいい、などと思いつつまた考える恭一。
「わかった。じゅごんとかでしょ」
「ぶー」
「ええ?じゃあなんだ?」
「ギブ?」
「ぬう」
「正解は…」
「かっぱだろ」
「ぶー」
そのあとも、ワカメやらポセイドンやら言ってはずす恭一。
「あ、お湯沸いたんじゃない?」
沙知が奥のキッチンでことこと蓋を鳴らしているやかんを指差す。
「やべっ」
恭一は慌ててこたつを出て火を止めに走る。紅茶を飲もうと思って火にかけたのをすっかり忘れていたのだ。
「何飲む?」
コンロの下の棚をあさりながら。
「アップルティーある?」
「あるよ」
恭一はブルーベリーティーにした。
ティーバッグを入れたカップにお湯をゆっくりと注ぐ。湯気とともに紅茶のよい香り。
「砂糖は?」
こたつから手を上げて、いるーとわざらしい幼い声。そこでもまた幸せを感じる彼。
ちゃんと皿にのせてスプーンもつける。紅茶が到着すると、
「あ、やっぱいいにおいするね。紅茶って」
うれしそうににおいだけをかぐ沙知。
「だろ?」
それを見てにんまりする彼。
それから、紅茶を飲みながらたわいもない話。
夕方になると実家暮らしの彼女は門限のために帰らなくてはならない。ここから電車で2時間もかかる。
「じゃあ、また今度ね」
「うん、気をつけて」
マンションの下まで彼女を見送り。ばいばい、と手を振る彼女。
恭一はその笑顔を見て、少し胸がうずく。半年前に彼女を好きになってからずっと抱えていた痛み。切なくて、会いたくて眠れなかった夜。もうだめだとあきらめかけていた日々。
ため息まじりに部屋に戻る恭一。ふと思い出すことがあった。さっきの問題の答え。結局のところ何と読むのか。
「ま、いっか」
と、彼女が少し残した紅茶に目を落とす。

また今度聞けばいい。
もういつでも会えるのだから。


最後まで読んでくださってありがとうございます。
ちなみに「海女」は「あま」と読みますw













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