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~とある商店街にて~

作者: ごんたろう


 この小説は、宮座頭数騎さんの企画小説『勇者パーティー討伐物語』に便乗させてもらったものです。


 勝手ながら、この『~とある商店街にて~』は、宮座頭さんの短編小説『勇者パーティー討伐物語(仮』の続編のような感じに書かせてもらったんですよ。

 そんな訳で、読まれる方は先に、宮座頭さんの小説を読まれる事をオススメします。


 他にもこの企画で書かれた小説が御座います。

(他の作者様が書かれたものですよ)

 是非是非探してみてください。





「みてみて~、にいちゃ~ん!こんなのみつけた~」

 通りの向こうから聞こえてきたのは、まだ幼い弟の嬉しげな声。

 その声に、ウチの店先を掃除していた僕は顔を上げた。

 弟は、その手に一枚の紙を持ち、ブンブンと大きく腕を振って駆けて来る。途中コケつつやっとの事で店前に辿り着いた。

 興奮に顔を上気させ、息つく暇なく弟が差し出したのは、一枚のビラ。

 それには、こう書かれてあった。

『倒せ勇者!我ら魔王の天敵!勇者を倒した者には、多分、賞金百万G』

 まだまだ、拙いしゃべり方をする弟だが、存外賢く、文字はきちんと読めるはずだ。

「ほら!すごいよ!ひゃくまんゴールドだって!!」

 商店街で一軒の店を開いて切り盛りしているケチくさい両親のもと、健やかに育てられた僕たちは、銭勘定にも強かった。

「ひゃくまんゴールドあったら、さんじゅうまんゴールドあかじへんさいにあてても、ななじゅうまんゴールドあまるよね!」

 僕を見上げながら、キラキラと目を輝かせて語る弟は、その兄の微妙な顔付きなんかは気にしないらしい。

「ななじゅうまんゴールドあったら、ごじゅうまんゴールドをおとーさんと、おかーさんにあげて、おみせのけいえいしきんにするの!」

 弟は、尚も続ける。

「にいちゃんに、じゅうまんゴールドあげて、のこりのじゅうまんゴールドで、タナムのきのみをごせんこかうんだ!」

 我が弟ながら、家族思いの良い弟である。

「『ゆうしゃをたおしたもの』ってかいてあるから、ゆうしゃたおしたら、にんげんだって、しょうきんもらえるよね!」

 しかし、どうやら弟には、ちょっと教育的指導をしてやらなければならないようだ。

 僕は、少し屈んで弟のポポムに目線を合わせると、真剣な顔を作って言い聞かせた。


「いいか、ポポム。魔王っていうのは、人間の敵、魔物の親玉なんだ。それは、分かってるよね?」

「うん。でも、おかーさんいってたよ?『かねのためなら、まおうでさえもしょうばいあいて』って」

「うん。確かに言ってた。確かに言ってたけど、よ~く考えるんだ」

 ポポムは、良く解らないというように難しい顔をした。

「魔王は人間の敵なんだよ。勇者が魔王を退治すると、国王様が勇者にご褒美としていっぱいお金をくださるんだ」

「ひゃくまんゴールドよりいっぱい!?じゃあ、ゆうしゃになってまおうをたいじする!」

「う~ん。百万ゴールドよりいっぱいかどうかは分からないなぁ。それに、ポポムが魔王を退治出来るくらい強くなった頃には、たぶん、もう誰かが退治しちゃってるよ」

 む~、とポポムは不満げに口を尖らせた。

 僕はきょろきょろと周りを見回す。

 ここは商店街の大通りで、人通りもある。

 僕は、弟を店の中へと引き込んだ。


 ウチは卸売をしている金物屋だ。

 お客さんはたまに来る程度で、店の中は閑散としている。

 僕は隅の方に弟を連れていくと、先ほどの続きを話した。

「だからね、一番良いのは、偽物の勇者の死体を用意することなんだよ」

 ポポムはまだ良く解らないのか、きょとんとしている。

「勇者を倒したと言って、魔王に偽物の死体を見せる。魔王から百万ゴールドを貰ったら、勇者の所に行くんだ。魔王は勇者を倒したと思って油断してるでしょ?勇者に、『今なら、魔王が油断してますよ』って教えてあげるんだ」

 段々、その意味するところを理解してきたのか、ポポムが目を輝かせてきた。

「僕たちは、勇者に有力な情報を提供した協力者だ。当然、勇者は僕たちに気を許しているはず。本物の勇者が魔王を倒したら、勇者を労って美味しいジュースか料理を振舞ってあげるんだよ。睡眠薬入りのね。寝ている間に勇者の息の根を止めて、僕たちが勇者になり代わって国王様からご褒美を頂く」

 ポポムは尊敬の眼差しで、兄である僕を見上げている。

「いいかい、ポポム。商人だったらこれくらい、考えられないとダメなんだからね!」

 僕たちは早速、この儲け話を父の元へと持ってった。


 父は店の奥に居た。

 ビラを見せられ一通りの話を聞いた父は、はあ~~と深い溜め息をついた。

「お前らなぁ~。俺はお前らをそんな風に育てた覚えは無いぞ!まったく、情けない!」

 店の赤字解消にも良い話だと思ったのに、父は何故か僕らを叱り始めた。

「いいか?ここを良く見ろ!」

 父はビラの文面を指差した。

『倒せ勇者!我ら魔王の天敵!勇者を倒した者には、多分、賞金百万G』

 ビラにはそう書かれている。

「『多分』って書いてあるだろうが!多分ってことは、賞金百万ゴールドかもしれないし、そうじゃないかもしれないってことだ」

――なんてことだ!

 父の言葉に僕は顔を青ざめさせた。

「いいか?ククル、ポポム。賢い商売人は、こうやって顧客を騙してより多くの金をせしめるんだ。商人の子なら、これくらい気付けないと駄目だぞ!」

 この店に閑古鳥が鳴いているのは、そういった商売ばかりをしているせいで、顧客の信用をなくしたからであるが、そんなことは露とも知らない金物屋の主人は、父親の威厳というものを発揮しつつ、二人の息子に教え込む。

 二人の息子は、衝撃と悔恨に身を打たれながらもそれを信じた。

 僕と弟はがっくりと項垂れると、階段を上り、それぞれの部屋へと入っていった。


 部屋へと入った僕は、ビラを持ってきてしまった事に気が付いた。

 ポポムが見つけてきたのだから、ポポムに返してやるべきだろうか?

 けれど、ポポムもきっと要らないだろう。

 僕は手持無沙汰にビラを弄ぶと、机に押し付けて折り目を付けた。

 ビラを縦に二分するその折り目に合わせて、四隅の内のふたつを三角形に折る。

 僕は沈んだ心を忘れるように、夢中になって折り続けた。

 やがて机の上に完成したのは、紙飛行機だった。

 部屋の窓をカタンと開く。

 二階にあるこの部屋からは、見上げなくても綺麗な青空が見えた。

 外の清々しい空気が入り込み、心のモヤモヤがスッと晴れる。

 右手に、作ったばかりの紙飛行機を構えた。

「遠くの空まで……、飛んでけー」

 そう言って、2、3年前まで父は僕をぶん投げた。

 僕はその時の痛みを思い出しながら、幾分、父への恨みを込めて、思いっきり紙飛行機を飛ばす。

 窓から飛んだ紙飛行機は、勢いよく商店街の向こう側、裏通りへと飛んでった。


――――スコンッ

 小気味よい音を立て、紙飛行機が突き刺さる。

「ゆ、勇者……、なんてことだ」

 どこからか飛んでやってきた紙飛行機は、勇者の眉間に見事に刺さっていた。

「……し、死んでいる!」

「勇者ー!」

 白目をむいた勇者を、魔法使いの男が抱き起こし叫んだ。

 今こそ我が出番とばかりに、僧侶が出張る。

「勇者、今あなたを蘇生します!」

 次の瞬間、僧侶が魔法を唱え、勇者はあっさり生き返った。

「勇者百倍!超元気!」

 サイドチェストで復活をアピールする勇者に、仲間は喜びの拍手を送った。



 商店街の裏通り。

 裏といえどもそこそこの広さを持って、そこそこの人通りがあるこの道で、普段は見ることの出来ぬだろう、ある珍しい光景が見られた。

 そんな珍しい光景があれば、商店区であるこの街にとって願ってもない幸運である。客寄せに使えるからだ。

 しかし、その時の光景を幸運といってありがたがる者は、商店区に住む者の中には一人として、存在しなかった。

 その光景に出くわした者は、後になって自らの凶運を嘆いた。

 それを見かけた者は、今日は厄日であるとして、その日、一日家にこもった。


 商店街の裏通り。

 裏といえどもそこそこの広さを持って、そこそこの人通りがあるこの道で……。

 百人に増殖した勇者達が、みっちり集まり、むっちりとした筋肉を一丸となって強調していたのである。

 復活時のサイドチェストポーズそのままで、商店街を練り歩く百人の勇者、と+α。

 次々と店を冷やかし回る彼らに、文句を言う者はおろか眉をひそめる者さえ居なかったという。


 一度店に入ったならば、強引で傲慢な客引きをする事で有名な金物屋の店主ですら、その一団に声をかける事はなかった。





~ 登場人物紹介 ~


ククル(兄)――――

 茶色の髪に茶色の目。商店街にある金物屋の息子。

 「地獄の沙汰も金次第」を体現するしっかり者のお兄ちゃん。10才。


ポポム(弟)――――

 茶色の髪に茶色の目。商店街にある金物屋の息子。

 「地獄の沙汰も金次第」を体現する賢い弟くん。5才。


父(名前考えてない)――――

 茶色の髪に茶色の目。商店街にある金物屋の主人。

 地獄のような沙汰に怯え、「かかあ天下」を体現する家庭に身を置くお父さん。35才。


 此処で、頂き物のイラスト紹介!


夙多史さんがククルとポポムを描いてくれました!


挿絵(By みてみん)


期待に目を輝かせるポポムに対し、ククルは冷静にビラを読み込んでいます。

きっと、あの計略を巡らせているのでしょう。

兄弟らしく似ているけれど、しっかり者のククルと無邪気で可愛いポポムをしっかり表現してくださいました!

夙多史さん、素敵なイラスト、ありがとうございます!


こちらは猫乃鈴さんに描いていただいたイラスト↓


挿絵(By みてみん)


すごい私好みのイラストを描かれる方で、お願いして描いてもらったのです。

年季の入ったカウンターや薄汚れた壁などイラストの端々にこの物語の世界観が凝縮されていて、ククルもポポムもお父さんもイラストの中で生活している様がしっくりと描かれています。

何気に看板に、「Gontarou」と私のペンネームが描かれているんですよ!

猫乃鈴さーん!素敵なイラストありがとうございます!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ウwwwケwwwタwww。 百人の勇者が練り歩く姿を想像して、思わず爆笑です。 [一言] どうも、お世話になってます。キトPです。 作品を読ませていただきました。 ポポムの計算だと、九…
2012/04/03 16:26 退会済み
管理
[良い点] 面白かったです。あの程よい短さが最高でした。 あとポポムが可愛がったです。そのせいか、無性に情景が伝わってきました。ファンタジーなんだけどコメディのような、なんとも言えない雰囲気に感動しま…
[良い点] ・とても読みやすい文章でした。ほとんど引っかかることなくスラスラ読めました。 ・弟がすごくかわいらしくて、読んでいて頬がゆるみました。特に「さんぜんゴールドあかじへんさいにあてても、ななせ…
2011/02/13 21:39 退会済み
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