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第6話

※下ネタあります。ご注意ください。


 あー、綺麗さっぱり。


 仕事は済んだとばかりにサッサと消えるオリちゃんを見送る。当分ご機嫌は直らないようだ。半ば諦めの気持ちで頭を振ると、気持ちを切り替え辺りを見渡す。

 目が合った芋虫連中は誰もが青い顔で震えながら私の顔を見ていた。言いたいことがあれば聞くよ?の気持ちを込めて笑うと、今度は目を一斉にそらす。ヘタレ共め。

 イラっときたのでもう少し遊んでやろうと近づこうとしたら、腕を引かれ誰かの胸に抱きしめられた。


「マツリ!怪我はないか?!」

「フォル?」

「ハァ、無事だな?……馬鹿が。無茶をするな。お前が戦えるのは知っていても、ああいうのは心臓に悪い……」


 頭を撫でる温かい腕に、猛っていた気持ちが落ち着いてくる。心配してくれたの、かな? 

 鼻をくすぐるフォルクマールの汗の匂い。少し速い鼓動が気持ちいい。嬉しくなった私は場所も恥ずかしさも忘れウットリと目を閉じ、彼に身を任せた。


「馬鹿じゃないもん。怪我もないし平気!フォルは?」

「俺の事はいい。頼むから、ああいう時は大人しくしていてくれ。この首に――これほど美しい肌に傷が残ったらどうする」


 そう言って、フォルクマールがスルッと項を撫でた。嫌らしさは感じないのに背筋を這い上がってくる刺激に驚く。


「ひっ?!な、な、なぁー!」

「マツリ……悪かった。お前に嫌な思いをさせた」

「へ?いや、そ、そりゃ嫌だったけど、フォルのせいじゃないじゃん。私が油断してただけだから、気にしなくてもいいよ?」

「いや、守ると言っておきながら、この事態だ。お前に力を使わせてしまったのは俺の落ち度。本当にすまない」


 そう言って少しだけ力の入った腕に私は体の力を抜いた。

 な、何だ。ただのスキンシップか。こういうのが自然と出来るってのが王子キャラなんだろうか。あーびっくりした。心臓に悪いのはこっちだよ、もう!

 心臓が静まってくれば、自然と笑いが漏れる。私を労わってくれる言葉が本心なのがわかるから嬉しい。

「笑い事じゃない」と、落ち込んだ様子のフォルクマールは憮然としていたけど。


「私にも皆にも怪我がなかったならそれでいいじゃない。変態野郎は成敗したし!」

「あ、ああ。そう、だな。――全く、お前ときたら!大人しく守られていればいいものを。今回は無事でも次は無事とは限らないんだぞ?」


 恨めしそうな顔で私の後ろ髪をツンと引っ張るフォルクマールに、私の笑みは大きくなった。


「ごめん。だけど、やっぱり私、皆が戦ってるのを黙って見ているなんて出来なくて、さ。皆が私の事心配してくれて守ってくれるのはわかってるんだけど……」


 目を伏せた私にため息が降ってくる。


「あのね?頼りないかもしれないけど、私これでも成人済みの大人なの。だから、ちゃんと考えて動くし、過保護にはしなくていいというか、皆と一緒がいいというか……。えっと、要は皆と対等な存在になりたいの!私だって皆のこと心配したいし、守りたいんだよ?もちろん、派手に目立つ事はしないようにするし、フォル達の忠告はありがたく聞く。その上で自分でどうするか決めたい。例えそのせいで危険とか不利益があったとしてもいいんだ。腹括ればいいだけだし。その方がストレスないと思うんだよね。えっと、なので色々厄介な立場で迷惑かけると思うけど、あ!なるべく迷惑はかけないようにしますんで、そんな私も受け入れてくれると嬉しいな~とか思ってたり――。所詮、私はただの”マツリ”ってことで!」


 途中で遮られないようつっかえながらも一気に話すと、私はチラリとフォルクマールの腕の中から芋虫連中を見る。


「まぁ、今回のことは、あの人たちに黙ってもらえばいいかな~って思うし」


 面白いほどに体を跳ねさせた男達。よく見ればフォルクマールとセウ以外の皆も若干顔色が悪い。疲れたんだろうか?

 やがて、フォルクマールが私の体をそっと解放した。


「お前の言いたい事は良くわかった。――そうだな。こうあるべき、と俺達の基準にお前を押し込めようとするのは間違いなんだろう。お前はお前、ただの”マツリ”か。……自由に生きられない事がどれほど辛いか、知っていたはずなのに、な」

「フォル?」

「俺達の都合ばかりを押し付けすぎた。お前の気持ちを後回しにして、すまない。辛い思いをさせた。これから状況がどう転ぶかわからない以上、ずっとと約束は出来ないが……お前が俺たちと居るときはお前の好きなように動け。それがきっと、――神の御心にも沿うだろう」

「いいの?!ありがと、フォル!」


 嬉しくて思わずフォルクマールに抱きついた私の背中を彼は優しく叩いてくれる。


「ただし、前も言ったが俺達の国は甘くはない。お前の辛い顔は見たくない。だから俺たちは最善だと思う事を提案するし、お前の意に沿わない事を強制することもある。それを忘れないで欲しい」

「ん。ありがとう。フォル」

「我侭に動くのは程々にな?」

「善処します」


 クスクスと柔らかく微笑みあう私達の後ろから咳払いが聞こえてきた。


「お話中失礼いたしますが、細かい話は後にいたしましょう。それでこの者達の処遇なのですが」


 苦笑したセウの声に、表情を引き締めた。


「マツリ様、先程の者達は?」

「オリちゃんが地中で見張っててくれてるよ。今出すと面倒だから洞窟を抜けた先で外へ出すね」

「では、そのようにお願い致します。それにしても、よくここであのように大きな魔法を使えましたね?」

「んー、私もよくわからないけどオリちゃん何時も通りだったからお願いしちゃった」


 多分タマの神気がこの身にあるからだと思う。他の耳があるからこの場では言わないけどね。 

 歯切りの悪さに何か感じたのだろう。シークエンタとオーガスタが「なるほど」と頷いていた。


「ここに長居は無用です。これ以上人目に付かないうちに出発いたしましょう」 

「そうだな。こちらに居る者達はどういたしますか?」

「あ、お願いしとかなくちゃ!」


 私はフォルクマールと一緒に一箇所に集められた男達の前に立った。

 まだ身動きが取れない彼らだが、首から上の拘束は話せるように緩めたらしい。


「……テメェら何者だ。俺たちをどうするつもりだ?」

「コンラドゥス帝国へ護送する。罪の裁きをそこで受けてもらう」

「ハッ!裁きだと?コンラドゥスのお堅い軍人さん達って訳か!残念だったな、この傷じゃ歩けねぇ。覚悟は出来てるから殺せよ。それともそっちのお嬢ちゃんが頭達みたいに俺らを生き埋めにするか?どうせ死罪になるなら俺はどっちでもいいからよ」


 この期に及んでも虚勢を張る男は私の頬を舐めた男だ。

 無礼な!と兵士さんの1人が男を押さえつけると、くぐもった呻き声を上げた。さっき私が蹴り飛ばした時に骨の1本や2本はイってる筈。痛そうな声を聞くと、セクハラ行為への怒りと罪悪感との間で揺れてしまう。今まで悪い事してきた悪人だというのに私はほんとに甘い。


「簡単に死ぬ死ぬ言わないでよね。生きてるよ」

「あ”?」

「だから、あの偉そうなオッサン達全員生きてるよ?裁きをきちんと受けるまで死なせません」

「はぁ?何様のつもりだ、クソアマが!」

「それ以上しゃべったら、本気で潰すよ?」


 途端顔を強張らせ、男は無言になった。先程の恐怖はまだ有効らしい。

  

「名前は?」

「……」


 フォルクマールの問いに答えない男。足を振りかぶって見せると、慌てて「――クルド」と小さく零した。その声と名前で私は思い出す。


「あ。”早漏のクルド”か」



 張り詰めていた空気が凍った。



「瞬殺のクルド、だっ!!」


 間髪入れず真っ赤な顔で否定するクルド。


「結局それ名乗るんだ……。まぁいいけど。そんなに全力で否定するなんて図星だった?」

「ちげぇよ!!」

「顔だけ見たらしつこそうなのにね?あのさ。気にしない女の人も居る筈だからさ?あまり落ち込まない方がいいよ?精神的な不安も関係あるんだって」

「だから違うって言ってるだろ?!話を聞け!!」

「向こうなら手術とか治療薬って手もあったのに残念ね?あのさ~頑張ってるときにご飯の事考えたり仕事の事考えるのがコツだってどっかのバカが言ってたよ?」


 とはいえ、その方法を試していたと思われるあのバカには効かなかったようだから、私としては眉唾だと思っている。

 大体カツカレーとか考えながら人の上に乗んな。そんで「うあ」とかお前カツカレーでもよおしたのかと小一時間――…。


「あ!思い出した!眉唾といえばあのね?ジュニア君を冷水と温ムグゥ」

「……それ以上口を開くな……」


 疲れた顔のフォルクマールに口を押さえられてしまった。

 ムグー!と抗議の声を上げたが、周囲のドン引き具合と、米神に青筋を数個浮かべたシークエンタが目に入って私は黙った。


「マツリ様。歯に衣を被せぬお言葉も貴方様の魅力と言えましょうが……後でお話がございます」


 シークエンタの綺麗な笑顔を見ながら私はソッと視線をそらした。

 何だよ。医学的な見地から、お困りの彼にアドバイスを!と思っただけなのに。皆の反応から、こっちの女性はどんだけ箱入りお嬢様なのだろうと密かに思う。

 ま、半分吊り目を甚振っていたのは事実だけど。

 

「この女、どんな育ちしてやがるんだ?!馬鹿にしやがって!クソ売女!」


 でもって、セクハラ野郎は私の窮地にここぞとばかりに吼えてくる。

 奴のお仕置きはこれにて延長決定。


「一般家庭育ちです。黙れ、早漏。瞬殺で逝かせるぞ?」


 途端、後頭部に衝撃が来た。

 振り向けば、微笑んでいるが目が笑ってないフォルクマールと今にも発射しそうな魔力の球を杖先に光らせたシークエンタの姿。 

 私は何事もなかったように前を向いた。

 私がお仕置きされてどうする。ちょっと脅しただけなのに!変な意味に取るのは聞いてる方がエロいからなんだからねっ?!

 

「そんな訳で話を進めましょう」


 気を取り直したのはセウが早かった。フォルクマールが大きく頷いたのを見てから、セウは話し始める。


「我々からの要求が二つあります。一つは二度と犯罪行為に関わらない事。もう一つはここで戦った事について他言をしない事です」

「ハッ!くだらねぇ。その要求をのんで俺らに何の得がある?」

「その二つを守ってくれるなら、減刑を願い出るとともに、貴方達を我らの配下に迎えましょう」


 ニコニコしてるセウの顔が胡散臭く見えるのは私だけだろうか?ジッと見ているのに気づいたらしい。


「マツリ様、我らは現在人手不足なのです。猫の手も借りたい程に。この者達は性根は腐っていようとヴェラオです。鍛え方しだいで戦力になるというもの。何、性根など曲がったものなら叩いて伸ばせばよろしい。監視もしやすいですし一石二鳥でございます」


 叩いて伸ばす?どうやって!?


「……そんな胡散臭い話に乗るとでも思ってんのか?」

「おや?こんな良い話はないはずですよ?これを断れば貴方達は全員死を待つばかりの身です。例え死罪を免れてもギルドの制裁は免れないでしょうね?どうせなら死んだつもりで我々について来た方がよろしいのではないですか?」

「……」


 ザワザワと連中が騒ぎ出す。クルドは一つため息をついた。


「……俺の一存では決められねぇ。オヤジに聞いてみねぇと」

「そうですね。そうして下さい。良いお返事を待ってますよ」


 一際笑んだセウの顔が、怖っ!!

 フォルクマール達を見れば平然としているから、反対する人はいないんだろう。なら、私も返事しやすいよう一声かけようか。


「逃げようとしても無駄よ?私と違ってオリちゃん、あ、あの土精霊だけど厳しいからね?最近機嫌悪いし、変な真似したらプチッと空間潰しちゃうかも……。そうだな、セウの話、断っても私は全然構わないんだけどさ。その時は一つ餞別貰ってね?」

「マツリ?何をする気だ?」

「いや、万が一野放しになってベラベラ話されるのも、被害者が増えるのも嫌だから。呪いの一つでも意識下に仕込もうと思って」

「呪い、とは?そんな事が出来るのか?」

「うん。名付けて”黒ヒゲ危機一発”の呪い。昔々に、黒ヒゲ巡査ってAVが話題になったの思い出したのと一発をかけてみましたぁ、えへ。ってわからないか。平たく言うと、性的興奮時に黒ヒゲの毛深いぽっちゃり熊男が嬉々として頭の中で踊りまくりまーす。黒ヒゲの人数は選択可です!」

「……」

「そっちの気がなきゃ、確実に性犯罪は防げるかな?と思って」


 性犯罪だけはどうしても許せないんだよね、と言う私に誰もが口をつぐむ中、ナーダだけが「男としての人生の終わりか……」と呟いていた。

 クルド達全員が揃ってうな垂れた。



「話を戻そう。我々からの話は以上だ。お前達はこれから地中で身柄を監視させてもらうが、仲間と今後の事をゆっくり相談してくれ。2日後に返答を聞こう」

「地中といっても、過ごしやすいようにオリちゃんに頼んでおくから安心して。じゃ、とりあえずこの人たち送っていいかな?」

「ああ、だがその前に。シークエンタ、拘束を引き継げ。後の者は治療を」


 オーガスタを中心にすぐに治療が始まる。自分たちが怪我させた人を自分たちで治すっていうのも変な感じだけど。


 

 **********



 異変を感じたのは最後の怪我人の治療があらかた済んだ時だった。

 肩に傷を負った男に手を当てていた私は、突然現れた大きな魔力の気配に驚いて顔を上げる。

 見上げた先には空ろな目をした男が1人。

 拘束で動けない筈のその男は、フラリと揺れながら立っていた。

 魔力を察知したシークエンタとオーガスタが叫び声をあげるより早く、男は両手の平を私に向ける。

 スローモーションのようだった。

 セウとナーダに地面に引き倒される男。

 迫ってくる眩い光。

 咄嗟に結界を張った。

 しかし光は結界を突き破る。


『マツリィ!!!』   

 

 オリちゃんが守りの盾を構成するより早く。

 光は私の胸に飛び込もうとする。



 


 



 私の胸を貫く前に。

 弾いてくれたのは白銀の剣だった。  

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