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第23.5話 <pesadelo>


冷気が肌を突き刺す。


手足の感覚は鈍くなって久しく、吐き出す白い息だけがお互いの生存を知らしめている。


頼りない魔力の明かりを頼りに幽鬼のようにフラフラ歩く集団。


薄い氷に覆われた壁面と天と地から鍾乳石のように生える氷柱がゆらりと光を乱反射した。


行けども変わらぬこの洞窟は息を飲むほど美しく、そして只管に無情だ。


気温の変化を頼りに昼と夜を知り、暖を取るのは眠るときだけ。


ここには食べるものも燃やすものもない。


一日一切れの干し肉。2口と決めた凍ったパン。微量の酒。一粒の飴。


平等に分配したわずかな食料はすでに底を付いた。


命を繋ぐための水だけは周りの氷から得ることが出来る。


しかし、少量の水を得るためには貴重な魔力で氷を溶かし最低限体温程度まで暖めるという作業が必要だった。


魔力だけが頼りの状況で魔力がゼロになれば先に待つのは全ての死だ。


もう何日行きつ戻りつ出口を探しただろう。


魔物さえ出てこない静寂の世界に希望はあるのだろうか。


かすかに身じろぐ昨夜暖を与えてくれた魔術師の体を背負いなおす。


誰もが疲れきり飢えに苦しみ死と隣り合わせだ。


今朝は5人。昨日の朝は3人。冷え込んだその前の朝は11人。


いくら身を寄せ合っても体を芯から凍えさせる冷気が親しい命を攫っていく。


地獄だ。ここは寂寞たる死の世界だ。


自分の選択を決して後悔はしない。


だがそのために巻き込まれた者達がここにいる。


神よ。神竜よ。


心弱くなった者達の嘆きの声が聞こえる。


違う。


お前たちが責めるべきは俺だ。


なのに返る声はない。


会話をかわす気力さえ尽きているのが現実だ。


現実はどこまでもしたたかに俺を打ちのめす。




そして。




俺達の前に絶望は具現した。


絶望が大きく顎門あぎとを開く。


声無き笑い声は甘い死の誘惑を伴っていた。


pesadelo:悪夢

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