第18話
偽の神竜――か。
偉そうに神竜を名乗る気はないけれど、疑われるのはちょっぴり悔しい。
別に信じてもらえなくてもいいんだけどさ、ここで認めてもらえないとまた人間が押し寄せてきて絶対面倒な目にあう。彼ら討伐隊には、私に手を出すなという事を他の人間達に伝えてもらわなければならないのだ。
襲撃に対するタマの報復が繰り返されても不毛なだけじゃないか。私は罪悪感を感じることなく平和に暮らしたい。
うーむ、誰が見てもわかるようなハッキリした証拠でもあればいいんだけど、何を見せたら神竜だって納得してもらえるかな?
タマの姿はあの夜来た人なら見た筈だ。一瞬で広範囲に結界3つを展開するタマの力量はこれぞ神業!って感じだったんだけど、それは魔力のない人には判りづらい判断基準だし。
フォルクマールは神石を見て納得したらしいけど、これ指差して『証拠です』なんて言ったって……ねぇ?神石自体がおとぎ話みたいな存在らしいから、誰も見たことがないものを信じろって言ったって無理だろう。
となるとやはりタマに来てもらうのが一番話が早い。だけど出来ればタマを呼ぶっていうのは最終手段にしたいんだよね。ホイホイと喜んで来るかどうかも怪しいのに、疑われてるなんて知ったら間違いなく奴は暴れる。ローゼルとやらの身の安全は保障できない。
フォルクマールは私に『ここに居てくれ』と言ってわざわざ離れた天幕へ入っていった。そんな配慮なんていらなかったのに。これ位の距離なら話し聞こえてきちゃうからネ。
それにフォルクマール達が居なくなった途端、遠巻きだが何人かの兵たちが代わる代わる私を見に来るようになった。仕事はいいのか、君達。「あれが竜か。虹色の鱗だぞ!」やら「神の使いって話は本当か?」やらヒソヒソ声がうるさい。竜が珍しいのはわかるけどパンダみたいで正直居づらい。
ロボ君はそんな視線は歯牙にもかけず私の足元で昼寝体勢に入っていた。
私も極力気にしないように普段どおり振舞う。
『ねぇねぇロボ君。ロボ君は何見せたら私が神竜だって証拠になると思う?』
『ヒネリコロス』
『却下です』
クワァと欠伸してるロボ君は考える気などない様子。もともと人間嫌いだから面倒なんだろうな。
とりあえず私は彼らの話に聞き耳をたてることにした。
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天幕では激しい口調でフォルクマールに詰め寄る若い男の声がする。
「閣下はあの竜の言葉を鵜呑みにされるおつもりか!?」
「私は自分の目で見たものを信じている。神の言葉も直接いただいた。ローゼル、お前も見ただろう?ただの竜だというには美しく神々しいあの姿、そしてあの竜から放たれた力はあまりに大きい。降臨された神の姿もそのお力も類稀なるものだった。なのにまだ信じられないと言うのか?」
「外見になど騙されません。稀にみるあの大きな力は放置するには余りに危険。だからこそ我らは討伐すべきです!神ですと?あれは術による目くらましでございましょう。強い光をまとった得体の知れない何者かを地に下ろしたまで。滅多に現れぬという竜が2匹も同時期に人間に姿を見せるとお思いか!万が一あれが首謀者だとしたらいかがなさるおつもりか!」
「竜種は箱庭に生息しているという。偶然が重なることもあるだろう?何度も言うがあれは神竜で普通の竜ではない。私がこの目で神も竜の額に宿る神石の存在も確認したから間違いない。わずかな情報だけで虹色の竜が原因だと判断した我々が早計だったのだ。神竜が原因ではない。ましてあの竜は平穏を求めている。神の言葉も神竜の言葉も嘘はないと私が判断した。我々が討伐すべき相手は他に居るのだ。ローゼル、私の言葉を信じて欲しい」
「やれやれ閣下はすっかり騙されておられる。私は信じませんぞ?高貴なる神が竜を愛でるなどありえない。あのような下等な、知性があるとも思えないトカゲ如きに……」
「ローゼル!それは神竜に対してあまりに無礼だ。訂正しろ!」
「本気でございますか?閣下は原因かもしれない野蛮な竜を本気で庇いなさるか!」
天幕内は非常にピリピリした雰囲気だ。
あーなんか悪意のてんこ盛りにお腹いっぱいになってきた。
こりゃひどい。このローゼルって人、端から私を見下してる。天幕で姿が見えなくて良かった。見えてたらそれこそ捻りつぶしてしまいそう。
ロボ君の耳が時々ピクリと動くから彼にもきっと聞こえてるんだと思う。
人間の言葉はあまりわからないロボ君だけど、悪意とか感情には聡いから嫌な思いしてるだろうなぁ。
「それにあの竜を討伐すれば神の報復があると?馬鹿馬鹿しい!それこそ命惜しさの戯言です!」
「戯言ではない。我が国で異常な天災が始まった時期と、あの竜がヴェラオの襲撃を受けだした時期が一致するのだ。神は神竜に対し不敬を続ける我らを不快に思っているとおっしゃった。雷も土砂崩れも我らへの罰だと。天を操られるその事実こそ神の御業と思わないか?」
「フッ。悪い事をしたら罰が当たる、ですか。……閣下は子供の寝物語をいまだ信じていらっしゃるようだ。天は確かに神の領分でございましょう。しかし本当にその者がやったという証拠はあるのですか?口先だけのそんな馬鹿な話は誰も信じますまい」
「口先だけではない!お前はあの存在と対峙していないからわかっていないのだ。神がその気になれば我が国は一夜のうちに滅びるだろう。神竜も神も人の手には余る尊い存在。むしろ我々は神や神竜と意思を交わせる機会を得た事を僥倖と思うべきではないのか?ローゼル、私を信じろ。先程からなぜそんなに頑ななのだ?私の目を疑うのか?」
「閣下の目を疑いたくはなかったのですが――閣下は神だ、神竜だとあくまで騒ぎなさる。ではなぜ竜一匹を害そうとしただけで神が動くのですか?我らのルース神は万物を愛する存在のはず。ならば竜如きを大事に思い愛されるという神は、我らか弱き人間も愛されているはずでございましょう?」
「それは……」
言いよどむフォルクマール。タマをどう説明するかで迷ったんだ。
タマは異界の神だ。だから唯一神を祀るこの世界でタマの存在は異端。説明してもなかなか理解は得られないだろう。
歯切れの悪いフォルクマールにローゼルは調子付く。
「私からすれば易々と丸め込まれた閣下の方が信じられません。今の閣下は竜に騙され正気を失っておられる。主君を諌めるのも臣下の務め。伝統ある勇猛果敢なコンラドゥス帝国の第2王子ともあろう方が情けない。アリシア様が生きておられたら何とおっしゃることでしょう」
「ローゼル様!フォルクマール様に対してそれはあまりにも不敬なお言葉でございましょう!」
「黙られよ、デスティーノ殿!閣下に召されなければ王宮にも上がれなかった平民風情が!」
割って入った声はさっきフォルクマールを呼びに来た人だろう。
なんという言い草だ。聞けば聞くほど腹が立つ。そして確かにフォルクマールの言葉をどうにも認めない態度に首を捻る。
一応フォルクマールは王子だよね?なのにローゼルの口調は王族に対するものではない感じがする。なんだろう?フォルクマールには何かあるんだろうか?
セウと、宥めるフォルクマールの声が聞こえ「ローゼル。では私にどのようにせよというのだ」と怒りを押し殺す声が聞こえた。
「――あの力が敵に回ったらどうなさる?我々は一国の期待を背負っておりますれば、このまま手ぶらで王都に帰る訳には参りません。常勝将軍と誉れの高い閣下の名も泣きましょう。そうですな。あの竜の心臓を持ち帰ればよろしい。所詮神の竜などと偽る愚かな生き物。討ったところで文句を言うものもございません。よしんば真に神の竜であるならば、尚よろしいではありませんか。その心臓は我が王に不老不死だけではなく類まれなる力を与えることが出来るはず。閣下もご安泰、討伐の任も果たせ一石二鳥ではございませんか」
「なっ?!」
「ローゼル様!それは神に仇なす行為でございます!神の怒りが我が国を滅ぼしますぞ?!」
「馬鹿な!神竜に剣を向けるということがどういうことかわからないのか!」
「閣下こそ目をお覚ましください。あれは竜です。我らが皇帝から賜った命は竜を倒すこと。例え神竜であったとしても竜は竜。倒してしまえばよいのです。竜一匹の命でヴェラオや民達の不安が消え、我々の名誉も保たれるなら安いものではありませんか。竜を討伐したことが知れ渡れば他国への牽制にも恩を売ることにもなりましょう。我が国は力を得た皇帝陛下のもと未来永劫の繁栄が約束されますぞ。閣下のお名前を認めさせるにも良い機会ではないですか?さすれば栄誉ある偉業を成し遂げた閣下に、このローゼル我がペイド家の名に懸けて忠誠をささげます。寛大なる我が神ならば我らの使命を理解されこの世界のために許してくれるに違いありません」
「聖なる竜でございますよ?!なんと恐ろしい事をおっしゃるのですか?!」
「貴殿こそ正気かっ!」
悲鳴のようなセウや誰かの声を聞きながら、私は悲しみが怒りに変わるのを感じていた。沸々と湧き上がる怒りに体が震える。私が神竜だという確たる証拠がなければ多分、この先こんな事は何度でもある。落ち着けと繰り返し唱えるが無理だ。
話を聞いていてわかったよ。
ローゼルはなんだかんだ言って褒美つきで王都へ戻りたいのだ。プライドの高そうな彼なら空手で帰りたくないだろうし、これを機に伸し上がってやるとでも思ってるのかもしれない。
だから丁度良いところに現れた私に罪の在り処を押し付けてしまいたいんだ。命令も果たせ、ついでにその心臓を献上すれば自分の株はうなぎ登り。覚え目出度く万々歳だ。
いろいろ国がどうとか偉そうに言ってたけど、結局は自分の手柄が欲しいだけじゃない。
それもフォルクマールを利用して。私と戦うリスクも、戦った後のリスクも全部彼に背負わせて。汚い事を全部彼に押し付けて。
この男は。
自分のことしか考えていない。
タマが神でも神じゃなくても関係ない。私が神竜でも神竜じゃなくてもどちらでもかまわないのだろう。
必要なのは自分にとって都合のいい”悪い竜”という事件の主犯。
信じる信じない以前の問題だ。きっと自分に神の罰が当たるなんて毛の一本ほども考えてない。自分以外に国に、民に、フォルクマールにどんなタマの怒りが降り注ぐかなんて考えてもいないし気にもしないのだろう。
目先の餌にだけ釣られどんな大事が待つかも考えないなんて。
ああ、なんて浅慮な男。利己的で醜く浅ましい男。一体どちらが醜悪な生き物だ。
もう我慢できない!
私はロボ君を置いてゆっくり音もなく歩き始めた。
『マツリヤルカ?』と心なしか嬉しそうなロボ君の声に『手出し無用』とだけ答え、天幕に近づく。
辺りを威圧する私の雰囲気に取り巻いていた周囲の兵たちが慌てて右往左往するなか、天幕に手をかけると一気に爪で布を切り裂いた。
驚いたのは中にいたフォルクマール達数名だろう。武器に手を伸ばしかけて、相手が私であることに気づいた者から手を離していく。
天幕の中にはフォルクマールとセウと呼ばれた中性的な人。それから数名の見覚えのある兵士とペーター。そしてフォルクマールの前に佇む茶色に近い金髪の20代半ばくらいの若い男。
こいつがローゼルだ。
白い立派な鎧に肩までのウェーブのかかった髪、ちょっと目が細いがそれなりに整った顔立ちの優男でパッと見ればイイ男に見えなくもない。だけどこの男、目がいけない。腐った目だ。他者を平気で踏みつける粘っこいその目。一目見ただけで嫌悪感がわく。
やつはすでに緑のオーラの剣を抜刀していた。なんだよ全然構えがなっちゃいないじゃないの。
「剣を下ろせ!」と抜刀を咎める声が響くが、ローゼルはそれを無視した。良い度胸だ。
『グラアガァァーー!(ペーターー!)』
『は、はいー!』
私の怒鳴り声にシャキーンと敏感に反応したペーターは直立不動だ。というかペーターで反応した彼に乾杯。
『グガガガルル!(通訳だ!)』
『はひー!』
涙目のペーター。声が裏返ってる。
『お前がローゼルか?私に疑いを持っているそうだな?』
竜に頭の上から話しかけられて蒼白なローゼルだが、プライドを掻き集めて必死にその場に留まり剣を構えていた。ペーターも必死な形相で通訳をしている。
「いかにも。私がコンラドゥス帝国ペイド侯爵家嫡男のローゼルだ。お前と会うのは2度目だな」
偉そうに踏ん反り返っているローゼルだがその声は震えている。馬鹿な男。侯爵だとか嫡男とかを強調して何が言いたい。
「わ~すごい~恐れ入りました~」なんて竜が言うとでも思っているのだろうか。目出度いな。
『お前など知らぬわ。私が神竜である証拠が見たいとか?』
「当然だ。私は竜などという野蛮な生き物の言葉など信じない。信じるに足る証拠もないのだ、所詮獣の浅知恵だな」
知らないと小物扱いした私にムッとしたのか、竜を前にして野蛮だの獣だの言いたい放題だ。この男、勇気があるのか大馬鹿なのかわからないな。多分後者なんだろうが。
どちらが浅知恵なんだか。その言葉そっくり返してやる。
私は額の石を指差した。
『これは神石という物らしい。神が私に与えた祝福の証らしいがお前はこんなものでは納得しないのだろうな』
「当たり前だ。そんな小汚い石が何だというのだ。口ばかりよく回るとみえるな」
『小汚い……か。ああ、そうだろうとも。ならば私は別の証明をしなければならない訳だな』
この男は私がタマからもらった石を小汚いと言った。
これはタマが私に神気を注いだ結果出来た石。不思議なことに何度も神気をもらううちこの石は鶏の卵大まで成長した。フォルクマールは神気の結晶とか言ってたけど、触ってみても何の力も感じられないし強くなった感じもしない。そんな私にとってはただ嵌ってるだけの不思議石だが、短くないタマとの付き合いの証とも言える石なのだ。
それを小汚いだと?タマと私の関係が、絆が、小汚いと言われたのと同義だっ。
奴は「フォルクマール様、何をしていらっしゃるのです?!」やら「今こそ竜を倒しましょうぞ?!」やら蒼白な顔で喚いてる。
フォルクマールも彼の後ろに控えた者達も微動だにしない。
静かな、だけど内心激怒しているのだろうか?見事に無表情な彼が静かに口を開いた。
「ローゼル、剣を下ろせと私は言った。言葉が通じないならお前にもわかるよう言い直してやる。コンラドゥスの王子として命ずる。神竜に指一本触れるな。剣を向けるというならお前の相手は私だ。セウ、奴の捕縛を」
「はっ!」
向かってくるセウから逃れるように驚愕したローゼルが剣を振り回し始めた。
「いずれ侯爵を継ぐ私に何の真似だ!閣下がそれほどまでに愚かだとは!来るな!私に触るな!」
なんて滑稽な。
必死で抵抗しているローゼルも取り押さえようとしているセウやら他の面々も。
まるで小学生の劇を見ているようだ。
『ふ、ふふふ……』
小さな笑いが漏れる。一度出てしまうと次第に私は笑いを抑えられなくなった。
フォルクマールとペーターがそんな私の様子に怪訝な視線を向けたが、その視線に答えず私は無意識に小さく羽を振る。
途端揉めていた彼らが軽く吹き飛ばされた。
「神竜様?!」
クスクス笑いながらヨロリと立ち上がったローゼルに向かう。彼は私が近づいてくるのを見て息を呑んだ。「お待ちください!」とフォルクマールらしい声がするが無視。
私はソッとローゼルの剣に手を伸ばした。
焦った奴が滅茶苦茶に剣を振り回し緑のオーラが私の指をチリリと焦がすが構ってられない。
『証拠が見たいのであろう?動くな。誤って腕を落とすぞ?それとも私が怖いのか?』
何となく私には出来る気がしたんだ。
奴は更に至近距離に迫った私の威圧感に固まって動けなくなった。動くなと言わなくても良かったな。
私は体内の魔力を集め指先に送る。鋭い爪を伸ばし剣の先端に触れさせると剣の緑のオーラを包むように上から虹色のオーラを纏わせた。
イケル。
虹色が剣全てを覆ったとき私はギュッと刀身を掴んだ。握った拳からわずかに赤が滴り、誰かがヒッと息を呑む音が聞こえる。そのまま拳をずらし、根元の方で力を込めると刀身がポキリと折れた。
「何?!」
『ただの竜ならこんなことは出来ないと思うんだが、どうだ?ああ、いけない。私の血が流れた。お前の身に神罰が当たれば私は神竜だと認められるだろうか?その前に私を殺してみるか?』
奴は悲鳴を上げると、私と折れた剣をせわしなく何度も見る。みるみるうちに色を失う顔面ですら私には不快だ。
醜い愚か者。醜悪な者。自分が世界の中心だと思い込んでる哀れな蛙よ。
何かに引き摺られる感覚にゾクリとしながらも身を任せると、体の奥から神気とは違うモノが出てきた。
鞭のようにしなる黒い魔力。闇よりも深い黒の中の黒。のたうち捩れズルリと這いずる。
私が視線を合わせると奴はようやくヨロリと一歩下がった。
手を伸ばせばまた一歩、招くように指を曲げればまた一歩。
もどかしくなり溢れる魔力を差し向けようとした所で、「神竜様!」というフォルクマールの声と『マツリ!』というロボ君の声が聞こえた。
何度か呼ばれるうち、ようやく意識と自分の体のコントロールが戻ってくる。
パチパチと瞬きした。あれ、私いったい何を?
視界の隅に尻餅をついたまま首を振ってズルズル後退するローゼルの姿が目に入る。そしてそれを追う黒い触手。
なんだろう、アレ。よくわからないがアレは良くないものだ。
止めなければと思うが黒い魔力は意思を持っているかのようにゆっくりローゼルへ向かっていった。
『駄目!止めて!』と叫んだ私に、いつの間にか抜刀していたフォルクマールが『無礼をお許しを!』と真っ白い冷気の余韻を残しながら触手をザクザク断っていく。フォルクマールを援護するように周りの兵たちも触手を武器で断ち切ったり、魔法で押さえようとし始めた。
なのに切断した触手は増殖するように質感を増しローゼルへ向かっていく。
『神竜!落ち着いてくれ!』
私は焦った。
よくわからないけど、あれは私が出したものだ。マズイこのままではみんな呑み込まれてしまう。……タマっ!
呼んだ瞬間辺りに光が満ちる。
『は~い、そっこまで~!』
気の抜ける聞きなれた声が天幕に響くと黒い触手は跡形もなく霧散したのであった。