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クラヤミ
作:秋月あきら


 村の近くに、光の森と呼ばれる、大きな大きな森がありました。
 町はその向こう側にあって、森を通り抜ければすぐに町へ行くことができます。
 けれど、村の人は誰もその森に入りたがりません。
 入ってはいけないという決まりがあるのです。
 村の大人たちは子供にいって聞かせます。
「森の中には神様がいるんだよ、だから入ってはいけないんだ」
 森にいる神様は村の人々からクラヤミさまと呼ばれています。
 光の森は昼も夜も、名前のとおり、ずっと光かがやいています。
 それなのにそこにいる神様はクラヤミさまというのです。
 光の森はいつもかがやいているのに、村はいつもくらやみに包まれています。
 昼でもランプをつけて生活しています。
 でも、人々は村がくらやみに包まれているなんて、これっぽっちも思っていません。
「光の森があんまりかがやくものだから、村が暗く見えるだけなんだよ」
 みんなそう思っています。
 でも、この少女だけは信じていません。
 村で少女は「なぜなに少女」と呼ばれています。
 それはいつも不思議に思ったことを、なんでもかんでも「なぜ?」「なに?」とたずねて、みんなを困らせているからです。
 不思議なことがわからないと、少女はなにをするかわかりません。
 あるとき少女は光の森に入ってしまいました。
 村はいつもまっくらなのに、森はいつもかがやいています。
 不思議なことに森には、どうぶつのいっぴきもいません。
 森の奥深く、少女はそこで大きな穴を見つけました。
 穴は光を吸い込んでいました。
 すぐに少女は思いました。
「この穴があるせいで村はいつもまっくらなんだ」
 もしそうだったとしたら、この穴がなくなってしまえば、村に光が戻ってくるかもしれません。
 大きな大きな穴。
 少女ひとりではどうすることもできません。
 だから少女は村に戻って、そのことを大人たちに話しました。
 すると、大人たちはだれひとり信じようとしません。
 それどころか、少女はこっぴどく怒られてしまいました。
 少女はそれからも、ずーっと穴のことが気になって気になってしかたがありません。
 でも、それを大人たちに話すと怒られてしまうので、だれにも言えずにいました。
 それから何日かすぎたころ、村に旅人がやってきました。
 少女はその旅人に穴の話しをしました。
 そして、その旅人も別のひとに話しをして、そのひともまた別のひとに話しをしました。
 そうしているうちに、穴のうわさはどんどんと広がっていきました。
 大きな町から穴を調べにえらいひとたちがいっぱいくるようになりました。
 村のひとたちは、森に入ることを強く反対しましたが、町のひとたちが聞く耳を持ちません。
 いっぱいのひとが穴を調べても、それがなんだかわかりません。
 わかるのは穴がたくさんの光を吸い込んでいることだけ。
 そして、ある学者さんがこんなことを言い出しました。
「このままでは穴に光が全部吸い込まれて、この世界はまっくらやみになってしまう」
 だから穴を埋めてしまおう。
 本当にそうなのかはわかりません。
 でも、森の近くにある村はいつもまっくらです。
 学者さんはほかの村も町も、いつかこんなふうにまっくらになってしまうというのです。
 あわてた人々は穴を埋めてしまうことにしました。
 たくさんの土を持ってきて、穴の中に放り投げました。
 でも、いくら土を投げ入れても穴は埋まりませんでした。
 まるで底なしの穴のようです。
 そこで人々は穴にふたをしてしまうことにしました。
 大きなふたを作り、ついに穴にふたをしてしまいました。
 するとどうでしょう、森はかがやきを失い、ふつうの森になってしまいました。
 そして、近くにあった村にも光が戻りました。
 昼でもランプがなくては生活できなかったのに、今では昼は明るく輝いています。
 学者さんは自分のいったことが正しかったと胸を張りました。
 それからしばらく、何ごともなく時間がすぎました。
 でも、あるとき人々は気づきはじめました。
 夜が少しずつ短くなっていることに。
 それだけではありません。
 世界から色という色が失われようとしていたのです。
 まっしろにかがやく世界。
 昼も夜もなく、人々も光でぼやけて、だれがだれがわかりません。
 赤いリンゴも、青いリンゴも、どっちがどっちだか、わかりません。
 絵を描いてもキャンパスはまっしろ。
 人々は自分たちのあやまちに気づいて、大きな穴のふたを外そうと考えました。
 けれど、もう森がどこにあったのかわかりません。
 森を見つけられても、穴がどこにあったのか、みんなまっしろでわからなくなってしまいました。
 だから世界は今もまっしろです。


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