転生令嬢は悪人顔
皆さま初めまして。わたくしシュナイダー公爵家令嬢クレアと申します。わたくしにはある秘密がございますの。わたくしには異世界のチキュウという星でダイガクセイであったという前世の記憶。とはいっても人格自体が在るわけではなく、どちらかというと文字通り記憶としてあるだけですが……。
その記憶によりますとどうやらわたくしの前世の方はコウツウジコというもので亡くなってしまったらしいのです。そしてその記憶があるせいか、わたくしは若干五歳にしてはやや大人びています。
前世の方の暮らしていらした世界はカガクというものがとても発達していらっしゃるとても便利な所だったみたいです。
わたくしが暮らしている世界には魔法というものがありますが、便利さでいえばあちらの方が上ですわね。
さて、ここでわたくしの生家、シュナイダー家についてお話させていただきます。
わたくしの生家であるシュナイダー家は魔法国家タージマハルの三大公爵家の一つであります。
このタージマハル国は王を中心とした王族の方々の大結界にて他国からの侵略奪略を阻んでおります。ここでお気づきの方もいらっしゃると思いますが我が国では魔力至上主義。王族貴族と生まれた以上は魔力持ちであることは当たり前。
万が一にも魔力無しで生まれたものなら良くて平民の家に養子、もしくは幽閉、修道院送り。最悪秘密裏に殺されてしまいます。もっとも今のご時世、魔力無しの方々のご活躍も多くなり滅多に殺されることはないのですが。
幸いわたくしは三大公爵家の令嬢に相応しい魔力を持って生まれてくることが出来ましたので心配は無いのですけれど。
わたくしの家は攻撃特化の一族。
有事の際には誰よりも先頭をきって国と民を護る使命を国王陛下より賜ってます。
わたくしの家族はわたくしも含めて五人いらっしゃいます。
一人めは一族の大黒柱であり現公爵、父マクロ。二人めは母であるレーニア。兄であるルーカス。わたくしクレアと一つ近いの弟マリオン。
順風満帆に見えるわたくし達ですが………問題が一つございますの。
それはシュナイダー家の男子は代々悪人顔であること。
父はぱっと見美形なのですが、笑う顔は極道顔負けの何か企んでいるのではと思わせる悪人顔。……優しいお父様なのですが、わたくしも時々その笑顔をうっかり見てしまった時は小さな悲鳴を上げてしまうので何とも言えませんわ。
十歳上のお兄様は女性を虜にするような甘い顔立ちの方。遊び慣れてて泣かされた女性は数知らず、と社交界でも有名だと侍女が言っていましたわ。………むしろ純朴で乙女より夢見がちか所がある方なのですが………。
お兄様。交際はまず文通からとはどこの深窓のご令嬢ですの? お兄様の落とされた走り書きのメモに女性と付き合う十の段階と書かれていたのを見たときには五歳児ながらお兄様の将来が心配になりましたわ。…………ちなみに女性と付き合う十の段階で文通は一番最初に書かれていました。
そのせいかは解りませんが、我が一族は時々冤罪をかけられることがあります。すぐに無実だと証明されるのですが、何せこの悪人顔。見た目はともかく中身は代々人格者を輩出しているのですがあまり信用していただけないんです。困ったことに。
女であるわたくしはお母様に似たおかげで上の中ほどの顔立ちです。良かったですわ。
………と、思っていたのですけれど。
「おまえなんかをきさきになんてするもんか! いずれおまえたちのあくじをあばいてやるからかくごしろ!!」
鼻息荒く顔を真っ赤にしてそう宣言なさったのはこの国の第三王子ことパルマ様。今日は王の命の下に整えられたお見合い。その席での第一声の言葉でしたわ。
呆気にとられて呆然とするわたくしにパルマ様は更に言い募ります。
「おまえのちちおやが、がいこうかんであるちいをりようして、えっと………た、たこくにとりいっているのをボクはしっているんだぞ! ちちおやだけではない!! ははおやとおまえのあにも、りょ、りょうみん? をしいたげているとしっているんだからな!! おまえじしんもわがままばかりいってしようにんをしいたげているんだろ!? そんなおんなをおうけにむかいいれるわけにはいかない!」
この方はお馬鹿なんですの?
後ろにいらっしゃる王様の顔がお父様の笑顔のように恐ろしくなっていますわ。お父様もあの恐ろしい笑顔が怒りが加わってさらに恐ろしくなっていますわよ!!
確かにお父様は攻撃特化のシュナイダー家でありながらも外交官をなさってますがその理由はあの悪人顔と攻撃特化の家系であることをちらつかせて外交をし易くしようという国の思惑の上でついているのですのよ!? 国の思惑を知りながら外交官に任ぜられた時のお父様の傷心振りはひどかったとお母様がおっしゃっていらっしゃったのよ! その時の古傷を抉るだなんて………!!
「おまえのようなあくにんがおのおんななんて……っ、い! いたい!!」
パルマ様の一方的な言い分は王様の拳がパルマ様の頭に落とされたことによって終わられました………。
「お前は何ということを!! パルマ! お前は自分が何を言ったのか分かっているのか!? この、馬鹿者が!!」
「しかし、おとうさま!」
「黙れ!! お前はもう部屋に戻っていなさい! 私に呼ばれるまで謹慎しておれ!! お前たち! パルマをつれていけ!!!」
「「は!!」」
護衛の為、影で控えていた近衛がパルマ様を引きずって行かれる……パルマ様は抵抗しているが所詮、大人と子ども。適うわけがなく引きずられていったわ……。でも、わたくしはそれを気にする程の余裕はありませんでした……。
「悪人顔……」
わたくし、が?
……………………………………………………………………………………………………………………いっっっやあああああ!!!! わたくし悪人顔なんですの!? 悪人顔なのですのね!! まさかわたくしが悪人顔だなんて! お友達が出来ない! 周りから在りもしない濡れ衣を着せられて一方的に嫌われる!! 通行人に嫌な顔をされてあからさまに避けられる! 大袈裟とは言わないでくださいませ!! これは本当に大変なことなのですわよ!! お父様やお兄様は男性だからまだよいのです! しかし女であるわたくしはそうはいかないのですわ! 社交界は元よりお茶会や商人との駆け引きなどといったことはこれからわたくしが嫁ぐであろう他家でもやらなくてはならないのですよ!? いくらわたくしが無実でも口さがない方はいらっしゃいますわ! 勝手に浮気をでっち上げられたり、生まれた子を不義の子と言われてしまう可能性とてありますのよ!! 悪人顔で女性であるということはそういうことなのです!! 実際、過去に悪人顔で生まれた女性がいわれのない濡れ衣でノイローゼになってしまったことがありますのよ!
「クレア嬢、大丈夫か? 私の息子がすまなかった」
「ほっほっほっ。……パルマ殿下はこの婚約にどうやら不満があるようですね、見送ってくださっても構いませんよ陛下。可愛い娘には互いに思いやる夫婦になって欲しいので相手に歩み寄る意志がないのならば此方としては一向に構いませんし」
「お前が良くても国が困るのだ! 確かに非はこちらにあるがそれとこれとは別の話なのだ!! お前もわかっているだろう!」
わたくしはゆらりとお父様と陛下に向き合った。
「……陛下、申し訳ございませんがわたくしではパルマ様のお相手には相応しくございません。お父様、わたくしは悟りました。わたくしはシュナイダー家の娘、悪人顔としてこの世に生を受けたからにはこれからは結婚を諦め攻撃魔法を極めようと思います!!」
「な、何を言っているのだクレア!」
「そうだぞクレア嬢。一体どうしたのだ!?」
わたくしはキッとお父様達を睨みつけました。
どうしたですって? どうしたもこうしたもありめせんわ!!
「お父様も陛下もご存知のはずです! 我がシュナイダー家で女性の悪人顔の者が生まれれば要らぬ悲劇を巻き起こすことを! 大伯母様しかりお父様のハトコの方など!! 皆さま嫁ぎ先で不義密通を疑われたり売国奴と疑われたり! それもこれもすべて悪人顔で生まれてしまったがために!! ならば悪人顔として生まれたわたくしも同じ末路を辿るのは目に見えていますわ!! それならばいっそのこと、老婦人として一生を攻撃魔法に注ぐ方がよほど一族や国に迷惑はかけないはずですわ!」
わたくしの宣言に唖然とするお父様と陛下。
しかし、わたくしの覚悟は堅いのです。
その日、わたくしとパルマ様とのお見合いはお開きとなり、婚約の話もひとまずは保留となることになりました。屋敷に帰り、お母様とお兄様がこの度の一件を聞き大層お怒りになられました。二人の深い愛情をとても嬉しく感じましたわ。
そしてわたくしの決意を聞いたお母様とお兄様は必死にお止めになりました。しかし、お父様と陛下にもお伝えしたようにわたくしは覚悟を決めたのです。
そしてその日からわたくしは外出の際にはベールを被るようになりました。すこしでもこの悪人顔を隠して被害を無くす、もしくは減らすための苦し紛れの対策ですわ。
お父様もお母様もお兄様もそこまでパルマ様のお言葉を気にすることはないとおっしゃってくださいましたが、これはシュナイダー家の悪人顔に対するわたくしのせめてもの抵抗です。止めるわけにはいきませんわ。
それから早十年が経ち。十五歳になったわたくしは王族貴族の子弟が通うタージマハル国屈指の学園に入学いたしました。
そして、冬の気配が近づいてきた中。
「シュナイダー公爵令嬢クレア! お前との婚約を破棄する!! そして僕は子爵令嬢ナージと改めて婚約することをここに宣言する!」
学園の中庭で令嬢達と午後のティータイムを楽しんでいた最中の出来事でごさいました。突然現れたパルマ様が取り巻きと一人の令嬢を連れてわたくしの前にいらっしゃったのは。
伯爵子息の方、侯爵子息の方、近衛騎士団団長のご子息の方、子爵家の庶子でありながら強大な魔力を持つことでパルマ様の近くに侍ることとなった方。そして……。何故そこに貴方が居るのかしら? マリオン。得意げな顔をしていますが、貴方は自分が何をしているか分かっていますの?
パルマ様は腕に寄りかかり震えている子爵令嬢ナージ様を甘い眼差しで見つめていらっしゃいますが………あの、パルマ様? わたくしとパルマ様との婚約の件は十年前のあの日から保留扱いとなり、わたくしはあくまでも婚約者候補の一人でしかありめせんわよ? その事はそこにいる愚弟や陛下からお聞きになっていませんの?
この十年。この悪人顔をベールでひたすら隠してきましたが、まさかこのような騒動を起こしてしまうとは……。一族のためにも修道院に入ることも視野に入れた方が良いかしら? マリオン。貴方もわたくしと同様にシュナイダー家の顔に泥を塗った罪を共に償わせますから覚悟していなさい。
後日、タージマハル国屈指の学園にて王族貴族の子弟達が一斉に処罰される事件が起こった。事件の中心人物である子爵令嬢ナージは戒律の厳しいことで有名な修道院に入ることが決まり。それを皮切りにパルマ殿下は王籍を剥奪、臣下に降下することが決まる。そして王子の取り巻きであった子息達も位の低い家に婿入りしたり平民に落とされたりと処罰がくだっていった。
そして被害者であるクレアは三大公爵家の治癒特化の跡継ぎ子息と婚約、学園を卒業後すぐに結婚し子どもに恵まれ国中から羨ましがられる鴛鴦夫婦として後世語り継がれる。