霊能作家・黒瀬圓の事件簿、維高大明神の巻(9/16)縦書き表示RDF


霊能作家・黒瀬圓の事件簿、維高大明神の巻
作:平惟茂



その9


 翌朝、黒瀬は今井と共に高知駅に行った。高知駅で武田の友人の山崎に車を返してから、
今井の甥を待つことにした。
「今井の叔父さん」
今井の甥が声を掛けた。甥は予定より少し早めに到着した。
「久雄。この度は急な願いで悪かったな」
「いやあ、何の、叔父さんの頼みですから」
「黒瀬様。これが太夫をしている甥の徳広久雄です」
「徳広です。宜しくお願いします」
「黒瀬です。こちらこそ宜しくお願いします」
黒瀬は太夫と聞いていたので、もっと年配者かと想像していたが、以外にも三十を少し
過ぎた好青年で驚いた。 
「黒瀬様。午前十一時の特急で行けば、岡山から新幹線を乗り継いで京都には午後の
三時前には着けます。私は切符を買って来ますのでそこの喫茶店で甥と待っていて下さい」
そう言って今井は切符を買いに行った。
黒瀬と徳広は喫茶店に入りテーブルに着いた。
「昨日、叔父から大体の事情は電話で聞きました。村では大変だったようですね。
私も以前から気にはなっていました。しかし、これであの村も落ち着くでしょう」
「正直、今回は大変重要な役割を背負い込んでしまったようです。予想外でした。
これも神仏から架せられた役割、修行の一つと思っております」
黒瀬が言った。
「叔父から聞きました。黒瀬様のお力は並大抵のものではないとのこと」
「いや、まだまだです」
「徳広さんは何時から“いざなぎ流”の太夫の道に進まれたのですか」
「私の母、即ち今井清隆の妹が物部の太夫の家に嫁いで、生まれたのがこの私です。
ですから、何時からと言う訳でなく子供の頃から見様見真似で今に至っています。
普段は百姓をしていますが」
と笑いながら徳弘が言った。
「そうでしたか。霊能者や修験道の行者などこの世界の者は血筋で引き継いで行きますか
らな。例え自分にその意志が無くても、先祖が蓄積した力をどうしても受け継がざるを得
ないのですよね」
「黒瀬様もそうでしたか」
「はい。私の四代前に行者がいたもので」
「やはり。この道は逃れる事は出来ないですね」
徳広が諦めた表情で言った。
暫くして、今井が切符を買って戻ってきた。
「切符は買いました。まだ少し時間がありますので、まだゆっくりしていて下さい」
「黒瀬様。昨日叔父から電話を貰って、祭壇でお伺いを立ててみたのですが、白い幟
が京都の周辺に集まり始めているようで・・・」
「やはり、そうでしたか。白い幟は私も見たような気がしていました。源氏の亡霊、
怨霊ですかな。我々を京都に入れ、お札を納めさせたくないのでしょう。これから、
一波乱も二波乱も有るかもしれませんな。多勢で来られると、怨霊除けのお札を持って
いても大丈夫とは限りませんから。何らかの策を早急に考えなければ」
黒瀬が言った。
「今回は、八坂神社、三十三間堂、鞍馬寺でしたね」
徳広が聞いた。
「そうです。今日は八坂神社に行き、明日は三十三間堂と鞍馬寺に行こうかと考えています。
事が順調に行けばですが」
「何故、鞍馬寺なのでしょうかね」
徳広が気になる事を言った。
「鞍馬寺には三十三間堂と同じく千手観世音菩薩様が祀られています。御先祖、
いや六代様が都を一望しながら大慈大悲の千手観世音菩薩様の庇護の下で平家一門
を供養する事が出来るからではと思っていますが」
「鞍馬寺には別に理由が有るのではないでしょうか。千手観世音菩薩様の庇護を得るの
でしたら三十三間堂だけでも良いのではと思いますが」
「徳広さん。それも一理ですな。道々考えてみましょう」
「それでは、そろそろ行きますか」
今井が出発を促したので、三人は改札に向かった。












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