霊能作家・黒瀬圓の事件簿、維高大明神の巻(15/16)縦書き表示RDF


霊能作家・黒瀬圓の事件簿、維高大明神の巻
作:平惟茂



その15


 翌朝、黒瀬と徳広は本堂で、山本の朝の勤行に付き合い、ご本尊である不動明王に
今日のご守護を願った。
今井はすっかり回復して、食欲も旺盛になっていた。
「昨日は、どうなるかと思いました。皆様のお陰で命拾いしました」
今井が皆に礼を言った。
「もう、大丈夫ですな」
山本が今井に言った。
「新しい護符をお渡ししておきますので、失くさない様に腹巻の中にでも入れて
おいてください」
黒瀬が言った。
「面目有りません」
今井が申し訳なさそうに言った。
「今日で事は成就します。しかし、妨げようとしている者がまだいます。油断無きよう
にお願いします」
黒瀬が今井と徳広に更なる注意を促すように言った。
「それでは、お送りしましょうか」
山本が車庫に車を出しに行った。
黒瀬は九字を切り、自らと今井に護身法を行い、徳広も自ら護身法を行った。
三人は山本の車に乗り再び京都に向かった。
「鞍馬までお送りします」
山本が言った。
「いや、そこまでして頂かなくとも、私どもは何処か近くの駅迄乗せて行って頂ければ」
黒瀬が言った。
「いや。途中、何が起こるかも知れません。鞍馬寺の山門の前までお送りします。
既に、車の周りには怨霊が寄って来ています」
「有難うございます。それではお言葉に甘え、そうさせて頂きます」
車を走らせ寺の敷地から出た瞬間、周りには白い幟を靡かせた血みどろの姿をした
武者の亡霊が入れ替わり立ち代り車の中を覗き込んできた。妖気を漂わせ、殺気立って
いた。隙有らば、今にも刀で斬りかかって来そうな凄まじい形相であった。しかし、
運転している山本は平気な素振りでいた。車の後ろの席に座っている、徳弘は事の成就
を願い、既に南無九郎判官義経を念じ、鞍馬山尊天秘密真言を唱えていた。
「黒瀬さんはご存知でしょうが、鞍馬寺の山門を入って暫く行ったところに由岐神社が
あります。鞍馬の火祭りで有名な神社です」
山本が言った。
「はい。私も鞍馬寺は何度か参拝に来たことがあります。由岐神社もその都度、
お参りはさせて頂いております」
「拝殿を過ぎた直ぐ左に末社の冠者社があります。そこの御祭神は素戔鳴命です。
ご挨拶して行かれたら良いでしょう」
「そうでしたか。迂闊でした。末社までは気が回りませんでした。今回は是非お参り
させて頂きます」
「由岐神社の近くに義経供養塔も有ります」
「それは私も存じています。今回の事は、義経様のお導きだとも思っております」
「そうでしたか」
車は京都市中を抜け、山間に入り、間もなくして鞍馬寺に到着するところまで来た。
車の周りにはまだ武者の怨霊が飛び交っていた。沢山の白い幟が靡いていた。黒瀬と
徳広は、鞍馬寺に着いてから、車から出て山門まで無事に辿り着けるのか、と思った。
山本が、口の中でもぞもぞと何らかの真言を小声で唱え始めた。黒瀬と徳広には余りに
も小声の為に真言を聞き取る事が出来なかった。
車が山門の前に到着した時であった。何処からともなく、烏天狗の一群が飛んできて、
武者の怨霊を蹴散らし、車から山門の入口まで道の両側に立ち警護した。上空にも数羽
の烏天狗が飛んでいて周りを警戒していた。この光景に黒瀬と徳広は目を見張った。
山本は唯ニコニコしているだけであった。
「それでは、お気を付けて行ってきてください。ご加護をお祈りしています」
山本が言った。
三人は山本に丁重に礼を述べ車から降り、黒瀬は山本にまたの再会を約した。三人は
烏天狗に守られた道を歩き山門まで向かった。
山本は三人が山門をくぐり、無事に境内に入るまで見届けていた。三人が無事に山門
に入るなり、烏天狗の一群は一斉に飛び去った。黒瀬には山本がどのような術を使った
かは分からなかったが、心の中で再び感謝した。












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