夕暮れの河原に、二つの人影があった。
「ひさしぶりだね、ヒデちゃん」
片方の女性が言った。
ヒデと呼ばれた男性は、だるそうに
「あぁ、八年ぶりだよな」
と言った。
「なんか雰囲気変わったよね」
「そぉかぁ?」
口調には棘がある。
空気は重い。
「いつ、こっちに帰ってきたの?」
「親父の葬式で昨日な…」
「えっ、お父さん亡くなったんだ!?全然知らなかった」
「言ってないからな」
冷めた表情は変わらない。
「君、ホントに変わったよね。昔はよくイジメられて泣いてたよね」
「八年だぞ。変わるだろ普通」
「違うよ、あなたが変わったのは時間が経ったからじゃない」
ヒデの表情は堅い。
「何がいいたいの?お前?」
女は遠くを見るような目をしている。
「昔、川辺でよく遊んだよね。そんで、コンクリートの割れ目に玩具隠したり。秘密基地とかいって……
「そうだったかぁ?覚えてねぇよ」
遮るように声を荒げる。
「それに、お前そんなにオシャベリだったか佳代子?俺ら仲良かったっけ?」
佳代子はじっとヒデの顔を見た。
「覚えてないんじゃなくて、知らないんでしょ?」
「…」
「だってあなたは、ヒデちゃんじゃないんだから…」
沈黙の中で二人はお互いの目を睨んだ。
「あの日。早退した次の日からあなたは性格が変わったみたいに強気になった。
いじめられる側からいじめる側に回った。
みんなと話す時も別人みたいだった」
ヒデが目をそらして含み笑う。
「そんなに俺は変わったか?」
「それだけじゃない…私のことを覚えてなかったのよ。ヒデちゃんは私のことをカヨちゃんって呼んでた。でも、あなたは佳代子さんって言ったのよ。」
「…」
「はじめは、ふざけてるのかと思ったけど。でも、私がさりげなく二人しか知らない事を話しても、あなたは答えなかった。」
風が強くなって草木が揺れる。
「俺は、ヒデだ。朝野秀人だよ。昔の事を覚えてないくらいで偽物扱いするのか?」
「…ソイツ…あなたはソイツなんでしょ?」
「なんだよ、お前にも話してやがったのか…てっきり友達なんか一人もいないと思ってたよ。」
ヒデは笑った。
「両親にも、友達にも嫌われて臆病で何も出来ないアイツを俺が救ってやったんだよ。おかげで楽しく愉快に暮らしてるんだぜ、俺が代わりにな。」
「本物のヒデちゃんはどうしたの?あなたが殺したの?」
「さぁなぁ、知らないなぁ。どこかで野垂れ死んでるかもなぁ。」
「あたしね、あれから三日後に秘密基地に行ったんだ。そしたら跳び箱の中に犬がいたの。何も食べてなくて、水もなくて衰弱しきっていたわ…ヒデちゃんが餌をやっているはずなのに……。」
佳代子は泣いた。そして、ヒデの顔をしたソイツを睨んだ。
「だったらどうする?俺が犬だって誰かに言ってみるか?」
草木がいっそう激しく揺れて二人の影の真ん中にもう一つの影ができた。
「そんなことしない…だってヒデはヒデだったもの…。それに、やっぱりあなたはいつまでも、どんな姿でも野良犬の嫌な臭いしかしないもの…」
佳代子はそれだけ言うと、一匹の賢そうな犬と一緒に河原を後にした。
とても毛並ののいいおとなしそうな犬だった。
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