暁が夜に恋をする。
あるところに、それはそれは麗しい王子様がおりました。
蜂蜜色の肌は、日の光を浴びると まるで上質の絹のように輝き、
短く切られた黄金色の髪は風にさらさらと揺れ、
瞳は晴れ渡る春空を思わせるかのような、澄んだ青でした。
王子様の名は、「あかつき」。
その通り、「暁」と書くのです。
彼は、光の国に住まう王子様でした。
「姫」
「姫」
「姫」
「どうして、僕らは出逢ったんだろう」
「すれ違うだけの存在なのに」
「お互い、対極に住まう者であるのに」
「どうして」
「どうして」
「目を閉じれば、あなたしか見えなくなる」
「姫」
「愛しい姫」
「なぜ、あなたは闇にいるのですか」
暁は、大勢の召使いらに囲まれて、広いお城に住んでおりました。
そのお城はとても美しく、暖かでした。
真っ白な壁は、太陽に照らされると華やかにきらめき、
ゆったりと広がる中庭は召使いらによって毎日のように整えられて、
日当たりの良い場所には可愛らしい花がいくつも咲いています。
でも、暁はときどき、どうしようもなく寂しくなりました。
暁は光の国の王子様ですから、
身のまわりを世話してくれる召使いも、頼りになる心優しい側近も、
皆、暁のことを大事に思い、いつでも傍にいてくれます。
暁も、そんな皆のことが大好きでした。
…ただ。
恋しい姫への想いだけが、どうしようもなく彼を切なくさせるのでした。
「姫」
「あなたは知らない」
「知るはずがない」
「僕が、こんなに情けない思いでいることを」
「僕が、こんなにも悲しい思いでいることを」
「姫」
「夜姫」
「僕の愛しい、たった一人の姫君」
「今の僕を見たら」
「きっと、あなたは僕を嫌うのでしょうね」
暁は、隣の国のお姫様に恋をしておりました。
姫の名は、「よるひめ」。
闇の国に住まう彼女は、そのとおり「夜姫」と書くのです。
つまり、「夜」を司るお姫様。
光の国に住まう暁とは、対極に存在するのです。
2人が逢えるのは、朝と夜が入れ替わる、ほんの一瞬。
過ぎ去る刹那に、お互いの姿をかいま見るだけなのです。
言葉すら、ほとんど交わしたことはありません。
「…姫」
どれほど恋しかろうとも、あの人に逢ってはいけない。
この想いを、絶対に伝えてはいけない。
暁は、自分の立場をちゃんと解っておりました。
諦めなければ、と思っておりました。
所詮は、叶わぬ恋なのですから。
「暁さま?」
「暁の王子様?」
「何を、悲しんでいらっしゃるのですか?」
「――――…なんでもない、よ」
夜は、朝の訪れを待ち望み、
朝は、夜を光で照らし出します。
でも。
「朝」と「夜」は、決して重なることはないのでした。
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