割とガッツリいく遊様
結果から言いますと、遅刻しました。
はい。
やっぱり、何があっても足を止めてはいけなかったんですね。さっさと酢豚野郎蹴り飛ばして進めば良かったんですよ。
ですが皆様朗報です。
辞書はまぬがれました。
金髪を救った後、近年稀に見る必死さで教室に飛び込んだ俺は、それはもう息が切れていた。
全力疾走しつつも鼻歌を歌うという、無謀な行為を行ったからだ。
だが、それが功をそうした。
「…大丈夫か?今回だけはその必死さに免じて、見逃してやるから早く席につけ」
「…ありっ、ありがと、ごさいま、すっ」
教卓に片手をついて、息を整えていると、先生が大サービスをしてくれたのだ。
鼻歌が原因ですけどね。
その上、お礼を言った後、それはもう盛大に咳き込んでいたら背中をさすってくれた。
涙で視界がぼやけた。
咳による生理的な涙ですけどね。
こうして俺の頭部は守られた。めでたしめでたし。
…と、思っていたんですけどねぇ。
まさかの、アゲイン酢豚。今、まさにそこ。
…どうしましょうね?
数十分前。
三限目が終わっても、咳が止まらなかった俺を見かねた雅宗がいちごオレを奢ってくれた。
余計に喉が渇くんだけど…。
だがその優しさは嬉しかったので、黙って飲む。すると遊様が俺の席まで近づいてきた。
「なんか、ロースカツっぽいのがお前を呼んでこいってほざいてんだけど」
「ロースカツ?」
全く意味が分からない。
どういうことだ?と疑問符を飛ばすと遊様がアレ、と目線で答えた。
そこには見覚えのある奴がいる。
「いや、アレは酢豚だよ」
「そんな事は知らない。俺はロースカツが食べたい気分なんだよ」
「俺は酢豚なんだもん。…昼は学食行く?」
「ん」
そして、遊様は昼ご飯の主張をし、俺のいちごオレを奪って自分の席へ戻った。
俺は面倒な事になったなぁ、と思いつつ酢豚野郎の所まで行く。
…全然反省してませんよ、コレ。めっちゃこっち睨んでますもん。
「何か用かな…ですか?」
視界に入った上履きが赤色だったので、一応敬語で話しかける。緑色が三年生。赤色が2年生だ。
「と、言うかなんで俺のクラス知ってるんですか?」
ストーカー?ストーカーなの?やだ怖い。と、表情筋を使って伝える。
酢豚「違う‼︎お前の見た目を言って、一年の奴らに聞きまくったんだよっ‼︎」
「成る程」
俺って目立つから。
酢豚はうなづく俺を見て少し冷静になったのか顔をキリッと引き締める。
ヤメろ。格好つけるな。俺の腹筋が死ぬから。
酢豚「…着いて来い」
そう偉そうに言うと、どこかに向かった酢豚。
いや、知らねぇよ。誰が着いて行くか。
ズンズン進んで行って後ろ向いたら誰もいない!ってなってちょっと恥かけ。
俺は扉にもたれて、酢豚を見守る。
酢豚は、そのまま角を曲がり、ちょっとしてから小走りになって戻って来た。
酢豚「なんで着いて来ないんだよっ‼︎」
「恥ずかしいかなって。むしろ恥かけばいいかなって」
酢豚「お前性格悪いな‼︎いいからおとなしく来いって‼︎」
酢豚はそう言うと、こちらを気にしながらも歩き始めた。
チラチラ見るな。ちゃんとついて行ってやるから。なんちゃって不良が行くところなんてどうせ屋上だろ?雑魚め。
と、最初は馬鹿にしていた俺ですが、これはちょっと予想外です。
酢豚が向かった先、それは…
木の下でした。
「酢…先輩、流石に俺、先輩の気持ちは受け取れないです。ごめんなさい」
酢豚「告白じゃねぇから。なんでお前にまでフラれなきゃなんねんだよ」
「顔と体型と性格がちょっと…」
酢豚「もはや全否定だろソレ」
俺、割とメンクイなんです。
「いやっ、でも大丈夫ですよ!先輩の良いところは…ちょっと、俺とユミちゃんには分かってあげられないですけどきっと‼︎きっと分かってくれる人がいますよ!」
「ユミちゃんは関係ねぇっ‼︎」
あれ?ユミちゃんの事で呼ばれたんじゃないのか?
てっきり、酢豚のユミちゃんメモリアルを聞かされ、その上で自分が被害者だから復讐の邪魔をするな的な事を言われると思ったんですけど。
…なんか嫌な予感しかしない。
酢豚「…実はな、お前に頼みたい事があって…」
…うわ、コレは本当にマズイかも。
顔が引きつった俺には気づかずに、酢豚はバッと頭を下げる。
「俺とユミちゃんをくっつける、恋のキューピッドになってくれ‼︎」
オーマイジーザス。やっぱ最悪だ。
と言うか、皆を代表して、一つだけ言わせてくれ。
「その顔面で恋のキューピッドとか、エルボー叩き込むぞ」