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転生勇者と、あまえさせたい姫さまは『逃走スキル』で幸福(しあわせ)な逃亡生活を送ります −前向きに逃げる勇者の物語− 作者:千月さかき
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第6話「とりあえず比較的安全な方向に、逃げる!」

 そして、ぐっすり眠った、次の日。

「大変です、お客様!」

 ばんっ!

 ノックもなしに、メイドさんが俺たちの部屋のドアを開けた。

「い、今すぐお逃げください!」
「……え?」
「魔王の配下、魔将軍ロイデルが現れました。町を攻撃するつもりのようです! お嬢さまはお逃げください。冒険者の方は、できれば町の防衛に力を貸してください。お願いします!」







 魔将軍ロイデル。魔王の副官の1人。
 漆黒の鎧をまとった騎士で、アンデッドの軍団を配下にしてるそうだ。

 魔王から、辺境の攻略を任されているとかで、おそらく、その一環としてこの町に責めてきたんだろうと、アリアは言った。
 ということは、アリアを探してるってわけじゃない。独立部隊だ。

 町のひとたちは、すでに門を閉じて、防御を固めてる。
 この町にも衛兵はいるし、魔物と戦う『冒険者』もいるそうだ。
 でも、数は十数人。対する魔将軍とアンデッド軍団は──

「……うようよいるな」
「魔将軍ロイデルは1人で100体のアンデッドを操れると言われていますから」

 俺たちは町を囲む城壁の上から、地上を見ていた。
 黒い鎧をまとった騎士のまわりにいるのは、スケルトン、ゾンビの群れ。中身の入っていない鎧までいる。

「この世界のアンデッドって、強いのか?」
「強くはありません。けど、打たれ強いです」
「打たれ強いのか……」
「同じ強さなら、アンデッドは倒すのに3倍手間がかかると言われていますから」
「アリアは攻撃魔法使えるよな。焼き払えないか?」
「使えるのは低レベル魔法だけですから……それに、魔将軍には通じないと思います」

 俺たちはそろって肩を落とした。
 敵は辺境の方角にいる。
 俺が『逃走スキル』を使って、王都の方に逃げるのは簡単だ。

 でも、この町の宿にはサービスしてもらったから。見捨てるのは嫌だ。逃げるにも、あとくされがないようにしておきたい。お風呂を時間オーバーで使った負い目もあるし。いや、それはアリアが俺の頭を二度も洗ったせいだけど。お返しをした俺も悪かったからな。

「……『使い魔』使ってなんとかならないかな」

 俺はウィンドウを表示させて『逃走用使い魔』たちの能力を確認した。
 ……頭に説明文が浮かぶ。

『使い魔』で戦闘を仕掛けるのは無理らしい。
 地のフェンリルも、空のガルーダも、海のクラーケンも、あくまで危険から逃れるための使い魔だ。危険に向かっていくようにはできてない。
 ……それができれば、作戦がひとつ、成立しそうなんだけど。

「あのさ、アリア」
「はい。コーヤ」
「この町を救うことで、俺になにかメリットはある?」
「アリアがコーヤにごはんを作って、あーん、で食べさせて差し上げます」
「もうちょっと物欲的な方向で」

 俺が言うと、アリアは少し首をかしげて、

「アリアがコーヤに領地を差し上げるというのはどうでしょう?」
「そんなものあるのか?」
「ありますよー。アリアは、母の故郷を領地としています。所有権はアリアにあります。望むなら、コーヤにあげられますよ?」
「のんびりできる?」
「もちろん。アリアがずっと面倒を見て差し上げます」

 アリアは夢見るように手を重ねて、ちっちゃな身体をくねくねさせてる。

「朝日とともに目を覚ますコーヤに『いいのです。まだ寝ていてください』って寝かしつけて、お昼になってからご飯を一緒に食べます。それからコーヤの歯を磨いてあげて──お着替えをさせてあげて──」

 アリアは駄目人間を作り出したいらしい。
 というか、そんな領主が赴任してきたら、住民が反乱起こすよね。

「そういうことを聞くということは、コーヤ? この町の救う方法があるのですね?」
「うん。アリア、協力してくれるかな」
「当たり前です。民を守るのは、王家のつとめなのですから。それに物理的にはまだですが、雰囲気的にはなんとなくアリアはすでにコーヤの妻なのです。夫の願いを聞かない妻がいるでしょうか、いや、いません!」

 アリアは空にむかって、むん、と拳を突き上げた。
 なんとなく俺もその真似をしてみる。

 そして俺はアリアの耳に、作戦をささやいた。




──────────────────────────────




「聞け、人間よ。我は魔将軍ロイデルである」

 黒き鎧をまとった騎士は、町の城門に向かって叫んだ。

「ただちに門を開け、降伏せよ。魔王に仕える住民は残れ。それを拒むなら、今日のうちに去る住民は殺さぬ。我々はただ、ここを魔王の領地としたいだけである! 2度は言わぬ。アンデッド軍団の仲間に入りたくなければ、門を開けよ!!」

 住民からの答えはなかった。

 代わりに聞こえたのは、鳥のさえずりのような、かわいらしい声。

「町の方たちよ、聞いてください!」

 城壁の上に、小さな人影が見えた。
 銀色の髪。青の瞳。ちっちゃな身体に大きな胸。
 どこかで聞いたような姿の少女だった。

「わたしはナルンディア王国第2王位継承者、アリア=ナルンディアです!」

 魔将軍ロイデルを見下ろしながら、少女は宣言した。

「──アリア姫!?」
 まさか、と、魔将軍は思う。

 アリア姫は、魔王城にとらわれているはずだ。助け出されたという話は聞いていない。
 それが、いつの間にこんなところに!?
 いや、魔王城から姫が脱出できるはずがない。ニセモノだ!

「証拠は、この王家の紋章が入ったペンダントです。さぁ、よく見なさい!」
「本物だ!」

「アリアは、偉大なるお方の力でここまで逃げ延びました。これからその方がお力を見せてくださいます! 魔物なんか一掃できるとは思いますが、万が一のときのために逃げ支度もしておいて欲しい、とのことです! 無理をしてはいけません! 恐くなったら即、待避! これも重要なことです!」
「この状況で撤退を勧める!?」

「その方はおっしゃいました。逃げるのは大事だと。あの方の魅力を語らせたら、この世界ではアリアの右に出る者はいません! 背中のホクロの位置はアリアだけの情報なので語れませんが。それと、頭のどこをかいて差し上げると喜ぶかも内緒ですが。とにかく、アリアにはすばらしい方がついているのです!」
「この状況でのろけをはじめる!?」

「アリアとその方の、愛が、この町を救う──かもしれません!! さぁ、皆さま、よくご覧ください。失敗したときのことも考えて、撤退の準備をしながら!!」

 戦術が読めない。
 矛盾したことを叫ぶアリア姫に気を取られ、魔将軍ロイデルは、城門が小さく開いたことに気づかなかった。

 そこから出てきた、男性の姿にも。




「……なんだよアリアー。どうして正体をばらしちゃうんだよー」




 その人物は言った。

「……あー逃げたい。正体がばれたら、勇者とか言われるんだろうな。めんどくさい。そういう状況は危険だよな。さしせまってるよなー。辺境の魔王より、目の前の魔物より、逃げられない仕事の方が危険だよな」

 ぶつぶつとつぶやいてる。
 意味がわからない。なんなのだ。比較的危険とは?
 さしせまった危険の問題、とは!?

「『早くおうちに帰りたい(I want to return home as soon as possible)……』」

 魔力がうずを巻いた。まずい。
 魔将軍の本能がささやいている。こいつは危険だ。なにをするかわからない。

「『あらゆる障害をふりきって、走れ!(Run and Destroy all object)!
  最速で(Fastest)!!」

「迎撃準備! 今すぐ! 全軍迎撃準備をおおおおおおっ!!」

「『来い! 地のフェンリル(Summon! FENRIR)!!』」

 地面に魔方陣が出現する。
 大地が、ごご、と揺れる。

 黒騎士と、心を持たぬはずのアンデッドたちが震え出す。
 巨大ななにかが、魔方陣から現れようとしている──?

「今だけは、魔王やアンデッド軍団と比べて、アリアの正体がばれたことの方が危険だ。俺がまた、逃げられなくなる可能性がある。だから、今すぐ逃げるぞ! 『逃走用使い魔』地のフェンリル!」

『グオオオアアアァァァァァァァァ!!』

 地面から出現したのは──巨大なオオカミだった。

 黒騎士よりも、魔物たちよりも、さらに大きい。真っ青な身体に、巨大な口を開いている。背中に乗っているのは、人間の男性だ。さらに「とぅ」と気合いを入れて、アリア姫らしき少女が門から、オオカミの背中に飛び降りる。

『グオオオオオオオオオッ!!』
「めんどくさいことからは逃げるぞ。アリア、フェンリル!!」
「はい。コーヤっ!」

 そして魔王軍めがけて、巨大なオオカミが突進をはじめた。

 巨大な足で、アンデッドたちを踏み砕きながら!

「ぎゃあああああああああああああっ!!」
 次に犠牲になったのは魔将軍ロイデルだった。
 黒い鎧はオオカミの重量に耐えられず、ぐしゃり、とつぶれた。さらに蹴られてアンデッドの群れの中にぽーいっ。その身体が地面に落ちないうちに、突進してきたオオカミに吹き飛ばされる。

 踏みつぶされなかったアンデッドは、オオカミの口の中へと消えていく。まずそうにがりがりと牙を鳴らしたオオカミが、かつて魔物だったものをはき出しながら走る。信じられない速度で、魔王城のある辺境に向かって。

 やがて、地響きとともに、足音が遠ざかっていく。

 奴らは……立ち去ったのだ。

「…………おお。生きてるってすばらしい……」

 魔将軍ロイデルは街道に倒れながら、ほっと息を吐き出した。

 敵はどこかに行ってくれた。よくわからないけど、いなくなった。
 神は信じないから魔王さまに感謝する。ありがとうございます。ありがとう──




「あ、やっぱり魔王城の方向に行くのは危ないな。安全な人間のエリアに逃げよう、フェンリル」


 ぐしゃっ


「ギャ────っ!」



 ふたたび魔将軍ロイデルの上を、巨大なオオカミが通過した。




 長い時間に思われたが、その間はせいぜい、5分。

 巨大なオオカミに踏まれ、蹴られ、噛み砕かれて、アンデッドたちは粉々になった。
 魔将軍ロイデルの軍勢は、文字通り全滅したのだった。


「……か、勝った?」

「……というか、アリア姫って。姫さま、魔王城から逃げてきたのか?」

「……姫様を助けた勇者が、町を救ってくれたのか!?」

「「「「「うおおおおおおおおおおおっ」」」」」

 町を歓声が包み込んだ。
 当の勇者は「あーあ」って感じで、座り込んでいて──
 その彼をアリア姫が「がんばりましたね、コーヤ」って、後ろから抱きしめていたのだけれど。

逃走勇者は、魔物にひどいことをする点では定評があるようです。
なお包容姫様は、勇者を褒めて伸ばす点では定評があります。

そんなわけで次回、第7話は、明日の午後6時に更新予定です。
(明日から1日1回の更新になります)
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