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第十二話 いつか来た道
「まだあったんだ……」

 人間、時々どうしようもなくノスタルジックになるときがある。 
 懐かしさで、どうしようもないときが。
 現在、私はそれである。
 当時の自分の思い出のまま存在する『それ』に、下校途中の女子高生は感動していた。

 季節は春―――。色々思い出す季節。

 私が今日、下校ルートを変えたのはまったくの偶然に他ならない。天気も良いのでたまには遠回りして帰ろうかと昔の通学路を歩いてみたのだ。
 小学校の頃に良く歩いたなあ、と記憶をたどりながらのんびり歩いていると小学校のはす向かい、私の記憶通りに古ぼけたちっちゃいお店があった。

『はちや商店』
 通称『はちや』
 かつて、小学生の時に行きつけだった駄菓子屋。
 私の親もここで買い物をしていたらしいから、そうとう古い駄菓子屋なのだろう。
 娘の私も小学校が終わると、みんなで遊んで『はちや』でお菓子を買って帰るのが最早日課だった。

 しかしそれだけ入り浸っていた『はちや』も中学校に入り、部活動や思春期特有の背伸びしたいお年頃として「子供っぽい行為」となり行かなくなっていた。
 だから小学生以来ここには来ていない。

 久しぶりに見た『はちや』は昔と変わっていなかった。土間の床に、ひびの入ったタイルの壁。少しはリフォームすればいいのに。
 駄菓子のラインナップも変わってない……。
 駄菓子って歴史が止まっている気がしてならない。『キャベツ一郎』とか『なっちゃんイカ』とか。
 これだけ近代化が進んでいる現代において高度成長時代の面影が今も生きているっていうのは興味深い。

 隅っこには、古ぼけたアーケードゲームの台が二台並んでいた。
 これもまだあるんだ。できるのかな。
 男子たちが熱中してお金を入れていたことを思い出す。
 残念なことに、ゲームは壊れているのかお客さんが来ないからなのか電源が入っていなかった。 

 表にはガチャガチャ。これまた変わらない。
「古いなあ」
 思わず笑ってしまう。昔流行ったゲームのニセモノが当たるらしい。
 こんなんじゃ今の小学生は買ってくれないだろう、きっと。

 ひとつひとつ見るたび小学校時代を思い出し、一人で思い出に浸っていると、唐突に背後から声がした。

「いらっしゃい」
 振り返ると障子の向こうにある住居スペースから女の人がこちらをのぞいていた。
 女子高生は客層としてはかなりの珍種なのだろう、ちょっと困った顔をしながら。

「懐かしいでしょ?」
 少しからかうような口調で、ニコニコしながら店主と思しき女の人は話しかけてくれた。
 昔はおばちゃんだったんだけどな。店主さん。代替わりで若いお姉さんが今は接客してるんだ。
 ていうか若すぎるだろ。この人、ひょっとして20代?
 ……ああっ!

「ひょっとしてきょーちゃん?」
 あ、驚いてる。ビンゴ。
 そういえば、前の店主さんの娘だっていう、年上のお姉ちゃんと奥の部屋でみんなでゲームしたっけ。
 そうだよ八谷恭子。当時女子高生で通称きょーちゃん。よく見ると昔の面影が残ってる。
 
「えっと……失礼ですがどちらさまでしょうか?」
「昔、一緒にマリオカートやってたむっちゃんです」
「あー!ひょっとしてキノピオのむっちゃん?」
「ええ……まあ……」
 どうやら彼女の中で私はキノピオ使いとしてインプットされていたらしい。
 覚えてくれていて嬉しいような悲しいような。そんな印象に残る走りっぷりだったかなあ。
「今もまだ現役だよ、マリカー」
「え、スーファミの?」
「もちろん。21世紀を生きる現代っ子に、20世紀の傑作であるファミコンたちの偉大さを教えないと」
「じゃあまだ小学生が来てるの?」
「まあね。ときどきレトロなゲームソフトでボッコボコにしてる」
「うわっ大人気ない」

 成人すぎた女の人が小学生相手にむきになって勝ちにいくのか普通。

「だってぽっけもんとか勝てないんだもん。種類多くなってて」
「確かに」
「まあ悔しくてリピーターになるし、そのたびにお菓子買っていってくれるし?いいビジネスだよ」

 なるほど、私はそれにまんまと引っかかってたわけだ。
 恭子さんは私の思わず出した苦笑いに反応したのか、あわてて
「あーウソウソ、駄菓子ひとつなんてワンコインだからビジネスなんてもんじゃないけどね」
 と、冗談めかして言っていた。そんな慌てなくてもわかってますよ。

「そっかあ、むっちゃんも女子高生か。いやー懐かしいな、あがりなよ」
「せっかくだし、おじゃましまーす」
「もうじき小学生のガキんちょも来るから一緒に相手してあげて」
「ええっ、何すればいいの?」
「スーファミとかオセロで良いんだよ。それでむっちゃんも満足してたでしょ?」
「ああ、そっか」
「で? むっちゃんどこの高校行ってるの?」
「とある土木科におりまして……」
「土木科?なんでまた」
「まあ色々とあって……でさ、聞いてよ恭子さん。裏の席にいる男子がまたバカでさ。飯島っていうんだけど……」
 
 私の話をさえぎって恭子さんが言ってくれた。
「きょーちゃんで良いよ。むっちゃん」
 駄菓子屋の元女子高生のスマイルに土木科の女子高生はため息をつきつつ、こう呟いた。
 きょーちゃん……モテるでしょ。
 
 ―――その日、『はちや商店』で一緒にゲームをやった二人のお姉さんが初恋の人になった小学生がいたとかいないとか。

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