本当の性格
「お前のお母さんって優しいから羨ましいよ」
学校の帰り道、友人にそう言われた。先日、我が家に遊びにやってきた友人は、母の応対にえらく感動したのだそうだ。友人は続ける。
「それに比べ、うちの母ちゃんは勉強しろってうるさいし…。ああ、お前ん家のお母さんと交換してもらいたいよ…」
「…別に変わらないと思うけどね」
僕は適当に返事をしておいた。
それから程なくして友人と別れ、帰宅した僕は自宅のドアを開ける。すると、僕の帰宅を察したのであろう母の怒声が部屋の奥から聞こえた。
「あんた、遅いわよ!! ちゃんと酒は買ってきたんだろうね!?」
「…買ってこないよ。子供の僕が、お酒を買えるわけないだろ」
「何だって!? この役立たずが!!」
罵声と共に、母は手元にあったテレビのリモコンを投げ、そのリモコンは勢いよく僕の額に直撃した。僕は、痛さにうずくまる。
友人の言っていた、「優しい母親像」とはあまりにもかけ離れた母親の姿がそこにはあった。だが、僕は母を恨んだりはしない。
いわゆる、イタコである母は、死者の霊を降霊させる霊媒師を生業としていた。しかし、イタコとしては、まだ未熟だった母は、自身に降霊させた酒乱の霊を身体から追い出せずにいたのだ。
いつか、酒乱の霊を母の身体から除霊し、優しい本当の母が戻ってくるその時まで、実年齢九十八歳の霊である僕は、この少年の身体を借りて、もう少し小学生の生活を楽しもうと思う。