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無言回帰

作者: 尾花となみ

『助けて……ユキちゃん……助けて……』

『――くん? どうしたの? 何を助けて欲しいの?』

『ここから……助けて……動けないんだ……』

『どうして動けないの?』

『どうして? 君たちが僕を殺したからさっ!』


「ユキ! いい加減に起きなさい!」お母さんの声で私は飛び起きた。

 テントの入り口にお母さんが立っている。


「もうやっと起きたわねー。早く顔洗ってきなさい。みんなもうとっくに起きてるわよ!」

「……今何時?」

「もう九時!」お母さんはそう言うとテントから出て行った。


 変な夢……。嫌な夢見ちゃった。夢の割には妙にリアルだったけど、変な夢。

 会話してた相手は誰だろう? わかんない……よく覚えてないけど……私たちが殺したって?

 ……本当に変な夢見ちゃった。


「まだ動いてないよ」

「ちゃんと起きてるか~?」

「お前一番に寝たくせによく眠れるな」

「ユキちゃん顔色悪いけど大丈夫?」

 四人がテントに入ってきた。


 幼馴染の四人。順番にあや、ゆうき、えいじ、ひろしくん。

 そうだった、今は夏休みで、みんなでキャンプに来てたんだ。

 変な夢を見たせいか、ちょっと頭がボーっとしてる。


「……うん、大丈夫」

「何がだ?」間髪入れずえいじが突っ込んだ。


「え? だから気分」

「そんなこと誰もきいてないよ~。まだ寝ぼけてる?」あやが笑いながらそう言った。


 ……あれ? 確かに今ひろしくんに聞かれたと思ったけど……。

 三人が変な顔で私を見てる。


 ……あれ? ひろしくんって誰?

 急に頭が痛くなってきた。


「ねぇ、どうしたの? 本当は調子悪いの? 大丈夫?」あやが心配そうに近寄ってきた。

「……大丈夫」笑ってそう答えた。


 でもやっぱりなんかおかしい気がする。

 キャンプに来ているのは私と、幼馴染の三人。それと私とゆうきの両親達。計八人。


 顔を洗って一緒に朝ごはんを食べてる人数は私を入れて八人。

 うん。やっぱり合ってる。何でもう一人いる気がしてたんだろう……?


「ユキ、調子悪いの?」お母さんが心配そうに私のおでこに手をあてる。

「ちょっと熱っぽいわね……」


「もう一泊する予定だったけど帰る?」ゆうきのお母さんも心配してくれてる。

「ううん! 大丈夫。本当だよ」私はそう言って笑った。


「辛いなら帰ってもいいんだぞ?」お父さんまでそんな事言う。

「本当に大丈夫だって! 別になんともないから」私はそう言いながら頭が痛かった。


 でも皆楽しみにしてたキャンプだもん! 私だって楽しみだったし、帰るなんて嫌。


「ご飯の後湖へ遊びに行こうって言ってたんだけど、ユキも行こうよ!」あやが話を切り替えて聞いてきた。

 ……湖かぁ。でもちょっと横になりたいなぁ。


「どうしようかなぁ」

「休んでれば?」ゆうきが言う。

「俺はパスだから」えいじも言う。


 ……ゆうきのやつ、あやと二人っきりになりたいな? そしてえいじを丸め込んだな?

 お前も遠慮しろ! ってゆうきの目がギラギラしてるよ……。


「あや、ごめん。私もパス」

「えー! そう? じゃぁやめてトランプでもしよっか?」あやがそう言うとゆうきが心底がっかりする。

 あやって本当ににぶいよなぁ。まぁそこが可愛いけど、ゆうきがちょっと可哀想かな?


「ゆうきと二人で行ってきなよ。私もう一回寝る」私がそう言うとゆうきの顔が目に見えて輝いた。

 あやは残念そうだったけど、ゆうきにひっぱられるように結局二人で湖へ行った。


「……お前、さ……」

「ん? 何?」二人がいなくなるとえいじが深刻そうな顔で話しかけて来た。


「……やっぱりなんでもない」けどすぐに目をそらすとそう言ってどこかへ逃げてった。

 なんだったんだ?


「ユキちゃんどうしたの?」あ、ひろしくん。

 ……ってひろしくんって誰? 目の前にいる男の子を凝視する。私達より小さい。眼鏡をかけた小学生の男の子。


「思い出した?」

「…………」知らない。知らないよ。


「何で泣くの?」

「…………」わかんない。わかんないよ。

 でも涙が出るんだもん。


「忘れて、泣いて、許されるの?」

「…………」知らない。わかんない。いやだ、いやだよ。


「ユキ! どうしたんだ?」泣きじゃくる私の肩をえいじが掴んだ。

 目の前の男の子はもういなかった。


 えいじを見て急に力が抜けた。そうしたら余計に泣けてきた。

 えいじに抱きついていっぱいいっぱい泣いた。


「……ごめんね、えいじ」いっぱい泣いてちょっとすっきりした。

 木のベンチに二人で座り、私はえいじに謝った。えいじのTシャツびちゃびちゃ。私の涙と鼻水だよね……。


「別に……。何があったんだ?」

「…………」ちょっとだけ聞いてみようか。あの男の子の事……。


「ねぇ、ひろしくんって知ってる?」私が口に出すと、横で息を呑む音が聞こえた。

 そっちを見るとえいじがすごく怖い顔をしている。


「……思い出したのか?」単刀直入に言われ、私はただ首を横に振る。

 よくわからない。思い出すとか、忘れるとか……。


「なら聞くな。思い出すな。そのまま忘れてろ」

「そんなわけにはいかないよ! だって、だってあの子私に会いに来たもん!」私がそう叫ぶとえいじは急に立ち上がった。


 さっきよりももっともっと怖い顔で、怖いものでも見るように私を見てる。

「バカ言うな! あいつは死んだんだ!」叫んでからえいじは息を呑んだ。口を塞いですごい勢いで首を横に振る。


「なんでもない。なんでもない! 忘れろ。とにかく考えるな!」えいじはそう言って私のことを見ないように走り去ってしまった。


 朝の夢を思い出した。

『君たちが僕を殺したから』あれは、あの男の子、ひとしくんとの会話だったんだ。


 私たちが殺したの? ひろしくんを?

「そうだよ」

「……ひろしくん……」眼鏡をかけた、小学生の男の子。私達より小さい。


「……ここで?」小さいときから何度も来たことのある湖近くのキャンプ場。

 近くていいところなのに、最近はずっと来なかった。


「そうだよ」

「……えいじも?」中学生になってから参加しなくなっていたえいじ。

 でも今回は急になぜか参加した。


「そうだよ」

 なんとなく……わかってきた。


「どうして私の前に現れたの? 私達のこと恨んでる? 殺しに来たの?」

「ちがうよ」ひろしくんは首を振った。


「事故だったんだ。自分もいけなかったし、仕方ない。だけど……苦しんだ。動けなくて。だから助けて欲しい」


 優しい……優しかったひろしくん。みんなが嫌がるようなこともいつも自分からやってくれてた。

 どうして死んで幽霊になってからも優しいの?


「ユキちゃんは特別。僕ずっと好きだったんだ。だからえいじくんには結構ひどい事しちゃった」

 えいじの前にも現れてたんだ? で、ひどいことしたの? だからえいじってばあんな怖い顔してたんだ。


「……あやとゆうきは?」

「会ってないよ。あの二人はまったく覚えてないんだ」そっか……。でもそれじゃぁダメだよね。


 もちろん殺意なんてあるわけなった。ちょっとしたゲーム。実験。

 でもそんな事したらどうなるかなんてわかってる年齢だったはず。


 自分達のしたことが怖くて怖くて。大人達に何を聞かれても答えられなくて。

 知らない、わからないって言い続けてた。


 そうして本当に知らないことにしちゃったんだ。ひろしくんのことさえ忘れちゃったんだ。

「ごめんね、ごめんね、ごめんね……」謝って許される事じゃない。でも謝ることしか出来ない。


「お願い。助けて。ゆうきくんとあやちゃんの事はいいんだ。ユキちゃんとえいじくんが思い出してくれたから。でも、でもね……苦しいんだ。だからお願い、助けて」


 うん、うん。助ける。助けるよ。今度はちゃんと助けるから。

 ごめんね。ごめんね。ごめんね。

 そこにひろしくはもういなかった。


 私は走り出した。湖に向かってひたすら走った。

 小さい頃から何度も来た所。五人で仲良く歩いた湖畔まで続くハイキングコース。

 今は一人でひたすら走った。


 途中でえいじとすれ違って、呼ばれたけど無視して走り続ける。

 転びそうになりながら、それでも走って走って走りまくった。


 えいじが叫びながら追いかけてくる。

 それも無視して走って、気が付いたら湖にたどり着いてた。


 湖畔に座っていたあやとゆうきがすごい勢いで走ってきた私を見てびっくりしてる。

 私はその二人の横を通って湖へと飛び込んだ。


 えいじの叫び声と、あやの悲鳴と、ゆうきの焦った声が聞こえた気がした。



 ……いた。いたねひろしくん。こんなに近くにいたのに、どうして誰も見つけられなかったの?

 眼鏡をかけた男の子。体中に藻が絡まり、足には石がくくりつけられている。


 もう五年も前なのに、ひろしくんのまま。眼鏡を掛けて小学生のまま。ただ眠っているみたいに漂っている。


 えいじが飛び込んできた。手にはハサミが握られている。

 足にくくりつけられていた紐や藻を切ると、えいじはそのままひろしくんを抱えてあがった。


 陸に上がるとあやがうずくまって泣いていた。ゆうきは真っ青な顔で呆然と立ちすくんでいた。

 私はあやと抱き合って泣いた。横から押し殺した嗚咽が聞こえてきた。

 

 えいじも泣いていた。ゆうきも泣いていた。

 ごめん。ごめん。ごめん。ごめんね、ごめんねひろしくん。


 この後どうなるかなんて関係なかった。

 ただこうやってひろしくんが帰ってきてくれただけで。

 ごめんね、ごめんね、ごめんね。


『ありがとう』

 そんな声が聞こえた気がしたけど、眼鏡をかけた小学生のままの綺麗な寝顔のようなひろしくんは、無言だった。


ホラーのはずだったのですが……おかしいな?全然怖くない。


これは私がみた夢を元に書いて見ました。自分が見た夢を覚えている間にメモに書き留めておいて、後で文章にしてみるのですが。なぜだか全然違う話に……。


この時は本当に怖かった覚えがあります。ひろしに追いかけられて泣きながら目を覚ましたと思います。なのにまったく追いかけられてないし……おかしいな?


本当は事故が起きて、そのまま四人は親の元へ逃げ、「ひろしは?」と聞かれ知らないと答えていると後ろからひろしが現れるのです。

死んでなかったんだ、良かったと思っていたのですが、五人だけになるとひろしが世にも恐ろしい姿になって四人を責める……というお話。


しかも一人、また一人とひろしに取り込まれて最後には自分一人になって逃げ続ける……って感じ。でもこれだと最後がまったく想像できず、書けなかったのです(見た夢は最後一人泣きながら逃げている所で目覚めているので)

なのでまぁ、覚えている設定だけ使ったらまったく怖くない微妙な話になってしまいました。


補足として一番最初に思い出したえいじはひろしと親友でした。微妙な三角関係でありながら、仲良し君。

で、思い出して欲しくて会いに行ったけど、えいじにメチャクチャ拒否されてしまったので、つい悔しくなって王道ホラーの様にうらめしや~と夜中にえいじをいじめてしまったのです。

で、えいじはユキにはそんな思いをさせたくないと思って思い出すなと言っていたわけです。

でも気になって仕方なかったので、今回キャンプに参加した、と。


なんだがいっぱい書きましたが……最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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