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17歳にして自称・義理の息子四人。どいつもこいつも年上です

17歳にして自称・義理の息子四人。どいつもこいつも年上です

作者:六合呼
 小山田有海こやまだあみ、17歳。
 自称、義理の子供ができました。
 それも四人!
 しかも全員が年上!

 ……なんでこうなった……。


 状況を整理しよう。

 私、小山田有海は両親も親兄弟も居ない。両親は私が幼い頃に事故で死別。
 その後は母親の姉である伯母家庭に引き取られたものの、邪魔者扱いで虐待されました。
 ええ、よくある話ですね。
 しかし寄る辺ない身。おはようからおやすみまで家政婦のように伯母の家でこき使われ、従妹の姉妹には虐められ、世間体を気にして高校だけは進学させて貰えたけど、従妹と同じ学校だったいでここでも蔑まれ、地味な容姿なのに伯母の配偶者に風呂を覗かれるセクハラ。
 お前が誘ったのかと伯母には罵られたけど、今どき売女ばいたとか言われるとか……。

 なんかもう、疲れた。
 引き取ってもらった恩もあるし、できるだけ好かれるようにと家事も手伝いも頑張ってきたよ?
 頑張って頑張って頑張ったけど、頑張ることに疲れた。
 だってどこにも居場所がないもん。誰にも必要とされないもん。

 でも死んじゃいたいとは思わなかった。
 お父さんとお母さんは、私に生きていて欲しいと願っただろうし。

 高校一年の、冬の日曜日だった。
 私は溜息をつきながら商店街のはずれをうろうろしていた。別に目的があった訳じゃなかった。
 薄っぺらい古着のコートは冬の風を防いでくれないけど、日曜日は叔母の家に早く帰っちゃダメな日だったから。
 日曜日は家族団欒で過ごすから、そこに私は居ちゃいけないんだって。……うん、私は家族じゃないもんね。伯母の家では厄介者で異分子なお邪魔虫。
 日曜日は閉館まで図書館で勉強して、お金がないから徒歩で行ける場所をうろつく。丈夫さだけが取り柄のカバンの中には、勉強道具と水道水を入れたペットボトル。100均の2枚組タオルハンカチと荒れ止めのリップクリームと駅前で貰ったポケットティッシュ。
 お財布も一応あるけれど、中に入っている小銭はよほどのことがないと使わない。
 私のお小遣い、月1000円だから。
 そこから学校で必要な筆記用具や生理用品なんかを捻出しなきゃならない私には、自動販売機の缶コーヒーさえ悩まなくてはならない代物だった。
 学校だって楽しくない。
 中学の成績は良い方だったから、もっと上も狙えたけど、同い年の従妹より偏差値が高い高校は許して貰えなかった。
 中学時代は従妹のせいでいじめられたから、違う学校に行きたかったんだけどな。
 でも結局、同じ学校で同じクラス。中学時代と同じ。
 従妹の主導でクラスメイトにシャープペンシルの芯を床にばら撒かれ、本人曰はくウッカリ踏み潰された時はさすがに抗議した。
 だってそれ、100均の芯じゃなかったし。100均の芯は折れやすくて嫌だったから、せめて芯だけはちゃんとしたものを使いたかったのに。
 シャーペンの芯で必死になる女って笑われて、従妹の取り巻きや面白がる連中に「恵んであげる」と芯を一本一本机に置かれた時は本当に惨めだった。
 笑われて「恵んで貰った」芯は使わなかった。
 でもポキポキ折れる100均の芯を使いながら、私の心も折れそうだった。

 折れた芯のせいで汚れが目立つようになったノートをカバンに入れ、俯き加減で商店街を歩く。
 泣きたいけど、泣かない。

 泣くものか。


 そんなときに私は出会ったのだ。
 ジョナサンというおじいさんに。

 ジョナサンは商店街のはずれにある、外国人が多く住むアパートで暮らす独居老人。
 痩せぎすで白い髭のジョナサンは、薄着で歩く私に「日本の女の子はどうして寒い格好をするんだい?」と、アパートの前にある自動販売機で温かい缶コーヒーを奢ってくれたんだ。世間一般の女の子はファッションで薄着なんだよと教えてあげたら呆れていたっけ。
 知らない人。それも外国人。
 私は今まで溜まっていた鬱憤を。世間話のついでにジョナサンに吐き出した。ジョナサンは黙って聞いてくれて、私の頭を撫でて言ったんだ。

「君みたいにガッツのある女の子は好きだよ」

 両親が死んでから誰も私を好きだと言ってくれなかった。
 駆け落ち同然で結婚した両親は、親族からも疎まれて、母方の祖父母も伯母も従妹も、従妹の召使同然に見るクラスメイトも私を認めてくれなかったのに。

 両親が死んでから、初めて私は大声で泣いた気がする。

 それから時間を見つけてはジョナサンの住むアパートで話すようになった。
 学校では地域貢献とかでボランティア活動が推奨されていて、老人宅訪問と言えばすんなりと伯母は家から出してくれたし。
 もっとも学校でボランティア活動をしているのは従妹になっている。学校に提出するレポートも従妹の名前。
 でもいいんだ。
 ジョナサンに会えるならそれで。

 ジョナサンは日本語がうまくて、どうしてそんなに日本がうまいのかと聞けば、日本のアニメが好きなんだという。
 仕事をリタイアして日本に来たんだって。
 ここに居を構えたのは、好きなアニメの聖地があるからだそうな。
 クールジャパン、恐るべし。

 近くの安アパートで暮らしながら、のんびり余生を過ごしたいってジョナサンは言っていた。
 息子は四人居るけれど、みんな独立しているから心配していないって。
 息子さんの話をするジョナサンはとても嬉しそうだった。

 長男はベンジャミン。ジョナサンの仕事の後継者だって。
 次男はエドワード。オシャレで優しいとか。
 三男はブライアン。ちょっと喧嘩っ早い。
 末っ子はアンソニー。頭がすごく良くて大学を飛び級したそう。

 何回も息子さんの話をするから覚えちゃった。

 ジョナサンと仲良くなった私は、安アパートの小さな庭にあるベンチでいろんな事を話した。アパートはおんぼろだけど、壁はきちんとあって外から覗かれないし、ベンチは日当たりが良くて気持ちいい。そこでお茶を飲みながら話すのは楽しかった。
 まあ、主にジョナサンがレクチャーするアニメの話だけど。

 伯母の家で家事は一通りできたら、ジョナサンの部屋でご飯を作ったりもした。
 ジョナサンは紳士で、私がジョナサンの10畳一間の小さなキッチンで料理するときは、隣に住む美人でダイナマイトボディのエミリーさんに声を掛けて、二人っきりにならないようにしてくれる。

 偶然を装って風呂の扉を開ける伯父とは大違いだ!

 でも私は二人っきりでも平気だけど。
 だってジョナサンを信頼しているし、なにより彼が大好きだった。
 ジョナサンの優しい声を聴くだけで胸の中がほっこりしたんだ。
 叔母の家で家政婦みたいな私は恋なんてしたことなかった。
 もしかしたら初恋なのかもしれないし、大人なジョナサンへの憧れなのかもしれない。あるいは父親のように感じているのかも。

 ジョナサンが好き。大好き。

 従妹みたいにイケメンをゲットする肉食女子のギラギラした好きじゃない。
 お互いに触れるのは頭を撫でて貰うときだけ。
 でもこの好きを誰にも否定されたくない。

 私の料理を小食なジョナサンはちゃんと食べて、美味しい、ありがとうって言ってくれる。ちっぽけなことでも褒めて貰えて、私は泣いてしまうくらいに好きになる。
 無価値だと信じていた私にありがとうなんて言ってくれて、私に価値を与えてくれたジョナサンが好き。

 優しい、優しい、好きのかたち。

 そのうち、アパートに住む他の人もちょくちょくご飯を食べに来て、それなりに仲良くなった。エミリーはもちろん、目つきは悪いけどジンっていう赤毛のイケメンは、細い癖に大食漢でやたらとご飯を強請る。ロボットアニメTシャツのテディは、これを作って教えて欲しいと料理漫画の頁を開く。これもイケメンなのに残念な人。

 私はこのアパートが大好きになった。

 ……顔面偏差値が高いからではない。
 私はジョナサンの方が好きだし。

 ジョナサンの住むアパートは外国人が多いらしく、日本人を見かけたことはあまりなかった。
 異国に来て共同体みたいなものを作っているんだなって思っていた。
 エミリーやジン、テディのような安アパートに似合わないゴージャス感が漂う人も居たけど、ぼさぼさ髪で寝起きが悪い美人とか、近所の犬猫を頭に乗っける目つきが悪いイケメンとか、美形なのに着ている服がロボットアニメTシャツだったから、ジョナサンの同属扱いで「あ、残念な人」としか感じなかったけど。

 ジョナサンは私の安らぎだったよ。
 齢のせいか痩せた手で私の頭を撫でて、「アミは良い子だね。とっても優しい」と笑ってくれた。
 母方の祖父母は駆け落ちした母を認めなくて私を毛嫌いしているし、父方の祖父母は死んじゃっていない。
 だから私にとってジョナサンは父であり、おじいちゃんであり、憧れの存在で。
 うん、心の中だけは恋人だったかもしれない。

 そんなジョナサンが私に片膝ついて言ったんだ。

「アミを幸せにするよ。ボクはもう年だから息子たちにアミを任せちゃうけど……アミは進学でも就職でも好きにしたらいいよ。僕はアミの未来を守りたい」

 私が高校を出たら伯母に命じられて働かなきゃいけないって愚痴っちゃったから心配してくれたんだね。その気持ちだけで嬉しい。
 ジョナサンは私にシンプルなペンダントをくれたんだ。指輪の形がペンダントトップになっている、とてもシンプルな物だったけど。

 それがプロポーズもどきだって知ったのは、ジョナサンが、死んでからだった。

 ……ジョナサンは病気だった。
 もう手の施しようがなくて、最後は好きにさせようと日本で在宅ケアしていたんだって。
 隣に住んでいたエミリーさんは医者だった。

 私は泣いた。
 泣いて泣いて泣いて、呼吸もできないくらいに泣いた。

 この涙が肉親を亡くしたものなのか、恋人を喪ったものなのかは分からない。
 私とジョナサンは互いに男女の関係は求めていなかったけど、心の繋がりを求めていたように思う。
 その繋がりが無くなって私は悲しさでいっぱいだった。

 そんな私に従妹は言ったんだ。

『じじいが死んだくらいでなに悲劇ぶっていんの? さっさと私のレポート書いてよね』

 従妹に平手打ちしたのは後悔しない。
 激怒した伯母から家を追い出されても謝らない。

 腫れてもいないのに、わざとらしく大きなガーゼを頬に貼った従妹がニヤニヤ笑う中、たった一つの古びたボストンバッグに私物を詰め込んでいたら、弁護士を伴った彼が伯母宅に来たのだ。

 彼、ジョナサンの長男であるベンジャミンさんが。

 イケメンのベンジャミンさんに従妹が見惚れる中、彼が連れてきた弁護士が言った。
 ジョナサンが遺した大事な物。それを私に譲りたいって。

 伯母は遺産と聞いて色めき立ったけど、仕事上の財産や個人資産のほとんどは、すでに四人の息子たちに譲られていたと知って機嫌が悪くなる。
 私への遺産はあの安アパートにあった物と、ジョナサンが大事にしていた物。

 ……アニメDVDかな。でもそれでもいい。ジョナサンが大切なものは私にも大切だ。
 部屋の様子を聞いた伯母や従妹は私を小馬鹿にしたけど、ベンジャミンさんは優しく笑ってくれたのが意外だった。

 どうせ家を追い出される身。ベンジャミンさんが言うには、あのアパートを使って欲しいと。それに関してひと悶着は合ったけど、最終的に私は受け入れた。
 ジョナサンが愛した場所で私は彼を偲びながらひっそりと生きていこう。

 その、はずだったのだ――。

 あれから私はジョナサンが住んでいた部屋で暮らしている。
 築二年。最新鋭のセキュリティを誇り、隣にはダイナマイトボディの女医も居るし、警備には赤毛の腕自慢もいる。アパート周辺は買い上げて私有地なんだとか。
 知らなかったんだ……ジョナサンが超が付く大金持ちだったなんて。
 見た目を好きなアニメ風のおんぼろアパーの外見にしていただけだなんて。
 住人の全員がジョナサン関係の人だったとか、私が知っているはずもない!

 ジョナサンが私に託した大事なもの。
 このアパートと、指輪と、息子たち。

 求めあうような激しい恋情ではなく、親子にも似た心が通じ合う柔らかな情愛だったせいか、私とジョナサンは戸籍上では他人だ。
 指輪をペンダントトップにしたのは、この先誰か愛する人ができたら、叶うなら息子たちの誰かと結婚してくれたら、愛する人に指輪を嵌めて貰うんだよとジョナサンが捧げてくれた宝物。

 無理です。
 無理に決まっているよ、ジョナサン!
 だって好きなのはジョナサンだし!
 というか、あなたの息子たちはみんなハイスペック過ぎて恋愛対象になるのは怖いです!!

 「ママ、朝ご飯は何? ナット―は苦手」

 ママと言うな、20代前半三男のブライアンこと――ジン。
 なんでもジンは愛称だそうだ。赤い髪のあだ名、ジンジャーから来たらしい。ジンジャーは赤毛を指してあまりよくない言われ方らしいが、それを愛称にする辺りに強気な性格が垣間見える。あと、上着を着ろ。割れた腹筋を晒さなくてよろしい。

「ママ、制服にアイロンをかけておいたからね。わぁ、ミソスープはトーフだね」

 だからママと言うなって、外に出る時は一部の隙も無いスタイリッシュな二十代後半次男エドワード。しかし今は残念無念アニメTシャツ!
 ……そういや、エドワードの愛称にテディってあったよね……。

「ママ、本国からトニーがママと同じ学校に通うために来るそうだ。ママの学校生活が心配らしい。そうそう、ママの伯母たちが使い込んでいた御両親の遺産と保険金。もうじき取り戻してやるからな。裁判という優しい手は使わずに」

 タブレット片手に黒髪クールビューティーな長男ベンジャミン。三十路になったばかり。……お前までママと言うな! 一番年上の癖に!
 あと怖い! 最後が怖い!!

「は? なんでアイツくんの? アイツ、日本の高校レベルのIQじゃないだろ。ママと同じ学校とかおかしくねえ?」
「ジン。部屋は空いているからそんな事は言わないの。トニーだってママに逢いたいに決まっているよ。それにトニーが同じ学校なら、ママに悪い虫はつかないしね」
「あー……じゃあ、しょうがない」

 その上、トニーも来るって? あの子も天使のような美形だ。恐ろしいほどの顔面偏差値兄弟!
 ハイスペックが集うアパートっておかしいだろう!
 しかも私は“ママ”だ!
 ベンジャミン――ベンに教えて貰ったけど、ジョナサンは生涯独身だったそう。病気で子供は望めなかったんだって。
 息子たち全員は養子だけど、でも心は繋がっているってベンたちは笑った。

 心が繋がったら家族なのだと。

 それは凄く素敵な事だと思う。他人同士が夫婦になって家族になるように、ジョナサンと息子たちは本当の家族だった。

 でもな?
 結婚はしなくてもジョナサンが愛した女性だから、ママって呼ぶのはやめろ!
 こんな年上ばかりのハイスペック息子を持つ女子高生っておかしいでしょ!

 年上四兄弟の義理のママになった私は17才。

 もう、なんでこうなった……。

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