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Scene 9. 最強コンビ
 朝方あれだけ降っていた雨も昼過ぎには既に止んでいた。しかしまだ上空一面は低く白い雲に覆われている。予報によれば明日には少し日差しも顔を見せるとの事。しかしうっとおしい時季がまだしばらく続く。
 部活を終え、今日は早知世と美紗二人きりで家に帰る。
 聞けば、早知世の家は美紗の家の近くらしい。電車の中、二人吊革につかまりながらテレパシーで内緒話だ。
(駅降りて。南口でてすぐ右曲がって道なりにまっすぐ。で、コンビニの角を左)
(そう。で、国道を渡って三本目の交差点の角にある三階建ての建物。そこが私の家よ)
(ちょ、ちょっと待って! そこって、あたしンちの隣じゃない! あたしンち、角から二軒目よ)
(あ、ほんとだ)
「やだ、もう……」
 思わず声を出してしまう美紗。慌てて口をふさぐ。
(でもそこの建物、以前は何かの会社だったはずよ。意外と大きい建物だし、人が生活できるような状態なの?)
(多少リフォームしたけど、基本的には大丈夫だったみたい。あれくらいの大きさの方が私のメンテナンス機材や、お父さんお母さんの研究機材を搬入するにはちょうどよかったの)
(確かに最近何やら出入りしてるなぁ……とは思っていたんだけど、まさかそこがサリーの家だったとはねぇ)
(私も美紗が隣の家だなんて、偶然にしてはすごいよね。……あ、美紗、話は全然変わるんだけどさ……)
(なに?)
(あたし、つけられてるっぽい)
(え? うそ。マジ?)
(この車内で私を観察している人がいる。それも二人。さっきからしきりに私の様子を無線で交信しているの)
(どれどれ?、聴かせてみて?)
(英語判る?)
(魔女には言葉の壁なんて無いのよ)
(さっすがぁ。ちなみに私は『プードル』って呼ばれてるみたい)
 早知世はテレパシーを介して、傍受した無線の交信内容を美紗に送った。会話内容はひそひそ声の英語だが、美紗は魔法で英語も簡単に理解することが出来た。余談だが美紗にとっては、魔法さえ使えばどんな言語でも読み書きや会話が自由自在なのだ。
(ねえ美紗、私ちょっと隣の車両に移動してみる。離れてもテレパシー通じるよね)
(問題ないよ、あたしも一緒に行こうか?)
(ううん、美紗はそのままでいて。この車内の様子を教えて)
(判った、気をつけてね)
 早知世はまばらな立ち客のいる走行中の車内を、隣の車両のかなり奥の方へと移動していく。
(美紗、聞こえる?)
(うん。サリー、あたしが見ている光景、サリーにも見えるよね)
(ええ)
 無線の会話の音が少し慌ただしくなった。『プードルが隣の町へ引っ越した』らしい。
(あ、男が一人隣の車両へ行った)
(美紗の映像こっちも見えた。日本人みたいね)
(またもう一人動くよ)
(今度は白人の男……おそらくどちらも『組織』の人間でしょうね。電波の発信源から考えて、今の二人に間違いない)
 無線の交信内容からは『プードルが遠くへ逃げないうちに早く捕まえないと行けない」なんて言葉も聞こえてくる。
(生身の人間がサリーを捕まえる事なんて出来るの?)
(バイオロイド用のスタンガンで不意打ち食らったら、たとえ私でもひとたまりもないわ。彼らはそれを持ってるし、おそらくそれを狙っているはず)
(サリー、次の駅で降りましょ。そして北口出てすぐ右曲がったら一緒に走って逃げましょ。私も魔法で人並みの倍速く走れるようになるから。たぶんそれくらいの早さなら誰にも怪しまれないわ)
(判った)
 電車が駅に着く。美紗と早知世はそれぞれ電車を降り、改札に向かう階段で合流した。
(あたしは準備OK)
(判った、奴らも降りてきてるわ。十メートル後ろにいる)
 早知世のレーダースキャン結果が美紗に送られる。
(びっくりさせてあげるんだから、見てらっしゃい)
 二人は改札を抜け北口から外に出た。
(今よ!)
 美紗の合図で二人は走り出した。常人の二倍くらいの運動能力になっているので、百メートル走なら世界記録保持者よりほんの少し早く走れる。
 予想通り組織の男達も追ってきた。
(二つめの角花屋のあるところを曲がって!)
(OK!)
 美紗の指示で二人は角を曲がった。次の瞬間、二人の少女はその場から忽然と消失する。
(え、ええっ)
 早知世が突然の光景の変化に驚く。無理もない。早知世と美紗は角を曲がった場所の上空およそ二百メートルの空中に瞬間移動していたのだ。
「もうこれで大丈夫よ、サリー」
「浮いてる、浮いてるって!」
「魔法を三つ同時に使ったの、一つは瞬間移動。もう一つはレヴィテーションっていう空中浮遊魔法。残り一つは、あたし達があらゆる物から見えたり検知したり出来なくなるようにする結界魔法」
「落ちない? 下落ちない?」
 やけに不安がる早知世。
「心配ないわ」
「でもこのふわふわした感じ、すごく落ち着かないよぉ」
「……まあ、こればっかりは慣れてもらうしかないわね。何に支えられているというわけでもなく、とにかく身体が浮いているんだから。ほとんど無重力な状態なんで、水の中で身体が浮いている感覚に少し近いはずなんだけど……」
「全然近くないって!」
 半べそ状態の早知世。
「こんなだったら、アメリカにいたとき宇宙訓練受けとくべきだったわ……」
「そんな事より奴らが下でまごまごしてるよ。面白いよ」
「うん、会話と無線と携帯通話は聞こえてる。あ、あいつらあたしらの映像動画で撮ってたんだ。美紗の映像も映ってる! メールで送るですって! 絶対にそんな事させない!」
「時間停止!」
 美紗がすかさず二人以外の時間を止めた。
「よかった、まだ間に合いそう。ネクタイピンにビデオカメラ仕込んでたのね。中身めちゃくちゃにしてやる!」
 早知世は組織の男達二人のネクタイピンに仕込まれていたビデオカメラに侵入すると、その映像データから美紗に関する映像データだけを全て架空の別人のデータに書き換えた。さらに記録データを外部に取り出そうとするとデータが自動的に破壊されてしまう仕掛けも施した。
 また携帯電話のメール送受信機能に細工を施し、写真や動画を送信しようとしても、見かけ上正常に動作しながら実際送られたデータは破壊されて使い物にならなくなるようにするという仕掛けを加えた。携帯電話のカメラ機能についても、隠しカメラと同じような細工を施した。
「ざまぁみなさいっての、ついでに……」
 二人の男が隠し持っていたバイオロイド専用スタンガンについても、動作しないように電子回路をショートさせ無力化する。
「これでよし。美紗、もういいよ」
「時間よ動け!」
 男達は何も知らずに隠しビデオカメラの映像を携帯電話で送信する。しばらくして、捜索をあきらめたらしく、その場を立ち去っていった。
「奴らのボスは米軍基地の中にいるようね、しかも厄介なヤツが一人いる」
「え?」
 美紗のイメージに早知世のテレパシーが流れ込んできたのだが、その映像に映し出されたのは、以前早知世が戦って倒された少年バイオロイドの姿だった
「あいつがいるの?」
「間違いないわ、交信の信号の一部に、バイオロイドでなければ出せない特殊なパターンの信号が一つだけ混じってた。おそらくあいつ……エリックっていうんだけど、日本に来てるわ」
「どうしよう……」
「どうしようって言ったって、いつまでも逃げてはいられないし、立ち向かうしかかないでしょ」
 唇を噛む早知世。
「……あたし、サリーに協力するよ。だって、大事な友達が困っている姿、黙って見ていられないもの」
「でも……美紗に迷惑掛けちゃうわけには……」
 憂鬱な表情を浮かべる早知世
「サリー、あたし達が力を合わせれば、たぶん何とかなるよ。だって、バイオロイドと魔女のコンビだよ。こんなに最強のコンビって他にある?」
「美紗……」
 早知世の目に小さな星が光る。
「ありがと。私、美紗と出会えて幸せ」
 早知世がすーっと美紗の方に近づき抱きつく。
「あたしもだよ、サリー」
 二人は空中で抱き合った。
超先進……っぽくない! (「……っぽくない!」シリーズ Episode 2)
 2010/08/22 Release
 2010/09/05 Minimum retake
Copyright 2007 Seagull White / Dreamers' Soft&media Products.
著者(Author): Seagull White
制作(Production): Dreamers' Soft&media Products (D'SmP)
This text work is licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 License.


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