Scene 17. そんな事とは梅雨知らず
金曜日の朝。
清々しい日差しが街に降り注ぐ。
「まずい! 完全に寝過ごしちゃった!」
ベッドから跳ね起きて、呆然とする美紗。
「あ~、学校に行く時間まであと二分しかない! 魔法使ったらママに怒られちゃうし……」
『普段の日の朝は、絶対に魔法を使わない』これは佐夜子が美紗に課した約束だった。魔法ばかりに頼らず、きちんと普通の人間として生活する能力を鍛えるのがその目的だ。
「でも……でも……しょうがないよね。今日だけはゴメン!」
パジャマ姿で髪の毛もぼさぼさだった美紗がベッドの上でくるっと一回転する。すると服装は制服姿になり、髪の毛も綺麗に整い、顔に付いていた枕の跡も跡形もなく消える。
「お弁当!」
さっと右手を振ると、机の上に調理済み昼食の入った弁当箱が出現する。
弁当箱を鞄に入れ、持ち物を確認すると、自分の部屋を飛び出し、バタバタと階段を駆け下りる。
「行ってきまぁ~す!」
「今日は罰として、夕飯の支度あなた担当ね~」
台所から佐夜子の声。
「判ったよぉ~っ!」
玄関で慌ただしく靴を履き、ドアを開け外に飛び出す。急いで駅に行かなきゃ……。
「おはよ」
「え?」
玄関の前で、なんと早知世が仁王立ちになって待ち構えていたのだ。しかも学校の制服姿じゃない。明らかに休日用の服装だ。
「『おはよ』って……、何やってんの? 今日学校休むの?」
「今日は私、学校休む」
満面の笑顔で答える早知世。
「なにか用事があるの?」
「うん、夏物バーゲンに行くの」
「そっか……じゃ」
美紗は駅に向かって走ろうとした。
「え?」
…………。
「えええええっ!」
美紗は目を丸くして口をぽか~んと開けた。
「だって今日平日だよ! 学校やってんのよ!」
「うん」
にっこりうなずく早知世。
「『うん』って!」
「美紗も私と一緒に来るのよ」
「は?」
呆れて他に言葉が思い浮かばない。
「だって私とあなたは『絶対無敵のコンビ』でしょ。これから私は『女の戦場』に行くのよ。あなたはそれを黙って見放す気?」
「ちょ、ちょ、ちょっ……」
「もう私の母さんは朝六時に出て店に並びに行ったわ。私も負けてなんかいられない。向こうが早起きの先行逃げ切り型、こっちは後ろからスピードを生かして一気にまくっていく追い切り型。勝算は十分にあるわ」
「いや、そういう問題じゃないような……」
困った顔で頭をかく美紗。
そしてそんな美紗の制服の奥襟を力強くむんずとつかむ早知世。
「え?」
「さ、あなたも来るのよ」
早知世の強い力にぐいと引っ張られる美紗。
「うわ、ちょ、学校が……」
「もうあなたの休みの連絡、学校にしてあるわよ。あなたのママからの許可も取ってあるし」
「へ?」
素っ頓狂な声を上げる美紗。慌てて佐夜子にテレパシーで呼びかける。
(あら? 水穂さんから聞いてなかったの? 『いい社会勉強ね』と思ってOKしたのよ)
(マ、ママ~ッ……。あなたまでですかぁ~)
頭がクラクラしそうになる美紗。
「あたしそんな話、聞いてないし、そもそもあり得ないし!」
(行ってみたら? 楽しいわよ~)
ほくそ笑む佐夜子。
(な、何その他人事!)
美紗は早知世に制服の奥襟をひっつかまれて、なおも強い力で駅と反対方向に引っ張られていく。
「あたし制服でいくのぉ~? 恥ずかしすぎるよぉ~」
「美紗なら魔法であっという間に着替えできるわよね。もう家に戻る時間もないからこのまま行くのよ」
「うそぉ~! ありえない……。何が超先進よ! ありえなさ過ぎるぅ」
半べそをかきつつも、ほとんど投げやり気分で早知世に連行されていく美紗なのであった。でもこんなあり得ない日常が展開するであろう今後に、ほんの少しだけ喜びを感じる美紗でもあったのは彼女だけの絶対の秘密だ。
「内心喜んでるじゃん……」
早知世にテレパシーで読まれてた。
乙川家と組織との関係は、エリックのメンテナンス委託の件を除いて完全に解消されていた。
アメリカ国内の組織にあった早知世のメインサーバーのコピーは撤去され、早知世は機密情報に関する常識的範囲の守秘義務を課せられたものの、それ以外は組織から一切の束縛を受けずに済むようになった。
組織からの資金援助はなくなったものの、佐夜子が紹介したいくつかの企業と乙川家との間で技術提携及び資金援助に関する契約が結ばれ、早知世の維持費用に関する資金的目処も立っている。
魔女に関する情報については、ミラクル・サリーのめざましい活躍によってその痕跡も含めて完璧に抹消され、関わった組織内の人々の記憶だけでなく、一部の歴史も操作された。歴史操作までをも実現できたのは、ミラクル・サリーの強力な時間操作能力の賜物と言え、過去にタイムトラベルしての緻密な歴史操作を実施している。
また併せて、バイオロイドに関する情報や歴史についてもわずかに操作が加えられ、将来早知世に法的問題等で不利益な状況が発生しないよう対策が施されている。
ただ、ラスティに限っては、佐夜子の恩情により記憶操作の対象外となった。佐夜子が組織にいた事実までを抹消する事は困難だったし、相互間での信頼関係も確認されたので、それを踏まえての措置となったのだ。
エリックは現在日本を離れ アジア諸国を飛び回っている。ミラクル・サリーが植え付けた人間時代の記憶は大切に持ったままらしい。以前のような粗雑で攻撃的な性格は少しなりを潜め、安定が進んでいるようだ。また、ごくたまに早知世宛に連絡をよこす事もあるらしい。
梅雨はもうすぐ明けようとしていた。
暑い夏が、少女達の弾ける笑顔を待っている。
Episode 2 おわり
超先進……っぽくない! (「……っぽくない!」シリーズ Episode 2)
2010/08/22 Release
2010/09/05 Minimum retake
Copyright 2007 Seagull White / Dreamers' Soft&media Products.
著者(Author): Seagull White
制作(Production): Dreamers' Soft&media Products (D'SmP)
This text work is licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 License.
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