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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『死と生の廻転輪舞曲』シリーズ

女主人公は毎回死ぬのに苦労する

光輝く黄金色の髪に青い目、

透き通るような白い肌をしている

美しい娘フェル。

その容姿はどの世界に転生しても

変わることはなかった。


何度となく転生を繰り返していたが、

毎回必ず声を出すことが出来ない。


声が出せないため、

異世界の住人達と

上手くコミュニケーションを

取ることもままならなかった。


-


フェルが最初に転生したのは、

穏やかな村だった。


お父さん、お母さん、

お爺ちゃん、お婆ちゃん、

そして三人の弟達と、

毎日、ただひたすら、

田畑を耕し作物をつくる、

そんな平穏な農村だ。


声が出せず、

話すことが出来ないフェルを、

家族は心の底から大事にし、

愛してくれていた。

フェルも家族を愛し、

何よりも一番に考えていた。


年頃になる村の男達はみな、

美しいフェルに好意を抱いていたが、

力尽くで言い寄るような男はおらず、

みなフェルに優しく紳士的であった。


とても穏やかで、とても優しい世界。


そんな幸福な日常を

フェルは年頃になるまで送っていた。



しかし、突如として

隣国の軍勢が攻め入って来て、

村は敵軍に蹂躙された。

村の人々は敵兵に皆殺しにされ、

すべてが焼き払われた。


見ている目の前で、

家族が惨殺され、

フェルはその場で陵辱された。

血の涙を流しながら、

声にならない呻き声をあげるフェル。



全滅した村の中で、

唯一村の若い娘達だけが、

生き残ることを許された。

敵兵の慰み者となるために。


生き残った村の娘達は、

連日連夜、敵兵達に陵辱される。

自分の親、兄弟、家族を、

村人を皆殺しにした敵兵達に。


他の娘達は、

その無念と屈辱に耐えることが出来ず、

次々と自ら命を絶って行く。


だがフェルだけは

自ら命を絶つことが出来ない。

それが転生のルールだから。


フェルが死ぬことが出来るのは、

衰弱死や餓死などによる場合、

または誰かに殺された時だけ。


つまり死にたくても、

すぐには死ねない、

衰弱するか飢えて死に至るまで、

苦しみ続けなくてはならない。


声を出せないため、

誰かに殺して欲しいと

懇願することも出来ない。


フェルは試しに

短剣を胸に突き刺してみたが、

強烈な痛みがあるだけで、

心臓は止まることなく、

動き続けていた。

舌を噛んでも、首を吊っても、

死ぬことが出来なかった。


フェルは敵兵に出された

わずかな食事も取らず、

自らが衰弱して死ぬのを

ひたすら待った。


それでも、転生者であるフェルは

この世界の住人よりも生命力が強く、

なかなか死に至ることが出来ないでいた。



村が焼き払われてから数十日後、

ようやく村が属する自国の軍が、

領土奪還のために敵軍と相見える。


交戦は何日にも渡って繰り広げられ、

激闘の末にようやく自国軍が勝利する。



未だに死ぬことが

出来ないでいたフェルは、

これでようやく

助けてもらえると安堵する。


だが現実は、

陵辱しようとする相手が

敵兵から自国の兵士に

変わっただけであった。


口が聞けないフェルは、

この村の出身者であること、

自国民であることを

伝えることが出来ず、

それを知る者も今や

すべて死に絶えてしまっている。


兵からすれば、美しい女は

戦いの末に手に入れた戦利品であり、

それをどう扱おうが、

自分達の勝手ということであろう。


フェルは結局、そのまま自らが、

衰弱死、餓死するのを

ひたすら待つしかなかった。


-


二度目の転生は

さらに悲惨なものだった。


物心ついた時には、

既にフェルは奴隷だった。

人を人とも思わない

奴隷商人達に物のように扱われ、

人身売買の商品として捌かれて行く。


容姿の美しいフェルは、

どの奴隷市場でも

すぐに高値で売れた。

喜んでフェルを買って帰る

大金持ちはみな、数日以内に、

屋敷に賊が押し入って来て、

命を落とすことになる。


もちろんフェルが賊の手引きを

していたわけではない。

奴隷市場でフェルを競り落とす際には、

目玉が飛び出るくらいの高値が着くため、

フェルを落札した大金持ちは、

賊に目をつけられて、

押し込み強盗のターゲットにされてしまう。


賊は金品強奪と一緒に

フェルを拉致すると、

ひとしきり嬲って、飽きた後、

また他の奴隷商人に売り飛ばす。


この世界ではフェルは

奴隷商人の間を渡り歩いていた。

フェルを買った大金持ちは

みな死んでいるため、

奴隷商人達の間では

「死をもたらす女神」として

名を馳せることになる。


この世界でもフェルは

なかなか死ぬことが出来なかった。


物のように扱われ、年月を重ね、

病気を患い、体を壊してはじめて、

やっと奴隷商人から相手にされなくなる。


最終的には売春宿に売り飛ばされ、

そこで結核を患って絶命することになるが、

それまでに随分と長い年月を要した。


-


三度目はまだ

まともな転生だった。


日本の江戸時代後期。

貧しい農家の娘に生まれ、

まだ幼い弟達のために、

間引き同然に親に強制され、

廻船問屋の大店に丁稚奉公に上がり、

その店の番頭さんに

純潔を無理矢理奪われたりもしたが、

結局は大店の若旦那と一緒になって、

所帯を持つことが出来た。


それでも今までと比べると

遥かにまともなほうである。


若旦那との間に子供が出来て、

フェルはこの幸せが

いつまでも続くように願った。


しかし

フェルの異人のような容姿は

この時代の日本では

あまりに目立ち過ぎた。

美しいフェルに目を付けた盗賊達が、

大店に押し入り、一家を惨殺した挙句、

金品とフェルを攫って逃げた。

目の前で我が子を殺されたフェルは、

死ぬときが来るまで、

正気には戻らなかった。


-


こうした転生を

フェルは何度となく、

延々と繰り返している。

死と生の狭間を幾度となく往来し、

ただひたすらに彷徨い続ける。



無限に広がる闇の中、

扉がただひとつだけあり、

他には何もない空間。


フェルは死ぬ度に

毎回ここにやって来る。

この扉を開いて、中の部屋にある

次に向かう転生の扉を開かなくてはならい。


何十回目かの転生のとき、

フェルが扉を開くと、部屋には

一人の天使が待ち構えていた。


「あんたもいい加減、強情だね」


フェルの天使仲間ミルだ。


「もうこんなことはやめて、

神々に許しを請うたらどう?」


「あんたが

神々に逆らって、

人間なんかを庇うから、

神々がお怒りになって、

こんな酷い罰を

お与えになったのでしょう?」


「あんたが

ラッパを吹き鳴らして、

とっとと人間達を滅亡させちゃえば、

神々だって許してくれるってのに、

一体いつまでこんなことを

続けるつもりなの?」


この部屋だけでは

唯一口を聞けるはずなのに、

フェルは天使の問いに

応えようとはしなかった。


ただその代わりに、

憂いに満ちた悲しい

笑顔を浮かべてみせた。


そしてそのまま次の転生の扉を開く。


-


終わることなく

無限にループを続ける転生。

フェルは今なお

死と生を何度も繰り返し、

転生の狭間を彷徨い続けている。

それは人類が滅亡する時まで

終わることはない。





読んでいただきありがとうございました。

次回連載のマーケティングも兼ねているので、

気軽にご評価いただけると大変ありがたいです。

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[良い点] ラッパを吹き鳴らして人間を滅亡させるまで続くというのは、なにか深い意味を感じました。哲学的な真理のような・・・ ブクマ、評価、いたしました。 [一言] 以前、私の作品をお読みいただいてい…
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