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貴族令嬢物、読み切り短編

悪役令嬢だけど、クラスに魔王がいるのでそれ所じゃありませんわ!

作者:中野莉央
 私は一度死んで、気づいた時には知ってる恋愛ゲームの悪役令嬢、アリス・キュヴィリエとして生まれ変わっていた。悪役令嬢と言っても確か、ゲームヒロインと趣味を通じて友達になれるルートもあるし、大丈夫だろうと楽観視していた。学園に入学すると、思った通りクラスにはゲームヒロインや攻略対象の男性キャラクター達がいた。

 やっぱり、この学園を舞台に私はヒロインのライバルとして活躍するんだなぁ……。と思っていたらイレギュラーが存在した。教室の中にゲームには存在しない人がいる。筋肉質で闇のオーラを纏った、眉目秀麗だが異様に眼光が鋭く、凶悪な印象の人物が居たのだ……。


 私やクラスメイトは皆、15歳~16歳であるにも関わらず、この眉間に皺を寄せた凶悪顔の男はどう若く見積もっても、20代後半に見える……。担任では無い。教卓ではなく、生徒側の席に座ってるし……。クラスメイト達が訝しそうにザワザワしている中、担任のメガネ男性教師の指示のもと各自、自己紹介が始まる。

 攻略対象が将来の夢は勇者、白騎士、神官、魔術師など次々と自己紹介を終え、いよいよ注目の凶悪顔マッチョの番となった。ガタンと椅子を引いて不機嫌そうに立ち上がる。


「我は魔王だ。先日、先代魔王が死去してこの姿となったが16歳である。我は平和主義者だが、歯向かう者がおれば容赦はせぬから、死にたい者はかかって来るがいい……」


 教室内にざわめきが走る。まさかの魔王! 担任のメガネ男性教師は大量の汗をハンカチで拭いながら、動揺する生徒たちに皆静かにするよう諭した後、告げた。

「もし、魔王君に戦いを挑んで命を落とす生徒が出ても、学園としては決闘扱いとして処理するので、くれぐれも魔王君に戦いを挑まないように……」

 決闘扱い……。つまり死んでも自己責任である。私は固まりながら思った。ぬるい恋愛ゲームの世界だと思っていたのに、どうしてこんな事になってしまったのかと…………。



 波乱の幕開けがあったが、学園入学から2ヶ月が過ぎた。魔王は意外と大人しく授業を受けていた。しかし、ある日の事、正義感の強い、騎士志望の男子生徒が抜刀した。

「もう我慢できない! 邪悪な魔王め! 討伐してやるっ!」

 そう叫んで魔王に切りかかる。だが次の瞬間、あっさりと返り討ちにあった。その惨状を目撃したヒロインは絶叫した。返り討ちにあった騎士志望の男子生徒はゲームの攻略キャラクターでヒロインとも仲が良かったからだ。

「絶対、許せないっ!」

 泣きながら両手に魔力を溜め、魔王に立ち向かうヒロインにゲームの攻略キャラクター達が加勢する。勇者、神官、魔術師になりたいと言っていて、素養も十分な男子生徒たちだ。

 各自が攻撃呪文や技を全力で魔王にぶつける。ヒロインや勇者までいるなら、もしかして魔王も倒せるんじゃ……。そう思ったが次の瞬間、ヒロインと攻略キャラクター達はやはり、返り討ちにあって戦闘不能……。全員まとめて病院送りとなった……。

 合計、5名の重傷者が出たが、そもそも先に手を出して来たのは攻略キャラクターやヒロイン達であり、入学当初に魔王に戦いを挑んで命を落としても、決闘扱いで自己責任と宣言されていた事で、魔王はお咎め無しとなった……。


 一部始終を目撃していた私やクラスメイト達は絶対、魔王に逆らわないようにしよう。関わらないようにしようと肝に命じた……。

 ヒロインや攻略キャラクターが居なくなって、自分の悪役令嬢としてのアイデンティティーってどうなるんだろうと考えないでも無かったが、それ以前に生きるか死ぬかがかかっているので、学園生活では間違っても悪役令嬢としての存在感を出さず、むしろモブキャラとして空気の如く行動しようと固く心に誓った。



 そんな、ある日の事、消しゴムを買おうと購買に向かったら購買の入口で誰かとぶつかってしまい、相手が持っていた本がバサバサと床に落ちる。よく見ると、ぶつかった相手は魔王だった……。

「ヒッ! ご、ごめんなさい!」

 謝罪し、慌てて落ちた本を拾おうと床に視線を落とすと、そこには目を疑うタイトルの本が散らばっていた。


『かんたん!美味しいお菓子レシピ』
『可愛い編みぐるみの作り方』
『花とビーズの刺繍』
『人気のスイーツ専門店100』


 予想外の事に戸惑っていると、魔王は目にも止まらぬ早さで本をかき集め、光の速さで私を屋上まで連れて行った。



 人気のない屋上で魔王と二人きり、私はガクガクと震えが止まらない。殺されるのだろうか……。しかし、どうせ抵抗しても適いっこないし、逃げられるとも思えないのでこの際、気になる事は聞いてしまおうと腹をくくった。


「あ、あの、さっきの本は?」

「………………俺の趣味だ」


 趣味……。お菓子作りや裁縫が……。魔王の趣味……。本を見た瞬間、まさかと思ったが、やっぱりそうなのか…………。

 この世界だと男性が趣味でスイーツ作りするの少ないだろうし、まして裁縫の類をする男性はもっと少ないだろうから、魔王はかなり少数派だろう……。でも、前世だとスイーツが好きなプロレスラーとか、編み物の貴公子とか呼ばれてた男性がいたしな……。


「そ、そうなんですか……」

「お前は……笑わないのか?」

「趣味なんて人それぞれなので、笑ったりなんてしませんわ……。ちょっと意外でしたけど……」

 私がそう言うと、魔王はボタボタと滂沱の涙を流し始めた。

「ええっ! ちょ、どうしましたの?」

「実は…………」


 魔王いわく、小さい頃から可愛い物、甘いお菓子が大好きで、自分で作るのも趣味なんだが、魔王になった事で先代魔王の力を受け継ぎ、ムキムキマッチョの強面になってしまった為、そういう物がぜんぜん似合わなくなってしまった。

 王位を継承した以上、魔王らしく振る舞わないと同じ魔族から魔王の資格無しと命を狙われるし、人族達からも軽く見られて戦を起こされかねないから、けっこう頑張って魔王としての威厳を出していた。本当は平和主義者で戦いなんかしたくないし、ずっと趣味のスイーツ作りとかしてたいんだと号泣しながらカミングアウトした。


「平和主義者って……。そう言えば、入学当初もおっしゃってましたわね……。だったら、どうしてクラスメイトを……?」

「魔王としてのスキルに『カウンター』があるのだ……。殺意を持って全力で攻撃されると、こちらも本能的に全力で返してしまうのだ……」

「なるほど……」


 カウンタースキルについて学園側には事前に言ってたので、戦いを挑んだら決闘扱いで死んでも自己責任。と周知する事にしてたんだが、魔王のスキルなんて本来、国家機密みたいな物だから、スキルについて全校生徒に周知する事はしなかったそうな。確かに立場上、命を狙われる可能性が高いのに、わざわざ自分の手の内を内外に晒すのは悪手だもんなぁ……。


「まさか、学生が魔王に殺意を持って、全力で攻撃してくるとは思っていなかった……」

「そうですわね……。あれには私も驚きましたわ……」

「恐らく、最初に俺を殺そうと思った男子生徒は光属性の者だったのだろう……。闇の耐性が弱い者は俺の側にいるだけで、徐々に精神や肉体にダメージを負うそうだからな……」


 ああ、魔王の世紀末覇者の如きプレッシャーが騎士志望の男子生徒にダメージを与えていたのか。そう言えば一番最初に抜刀した男子は白騎士を目指してたな……。光属性特化で闇耐性が低かったに違いない……。

「魔王がそういう体質なのでしたら、こんなトラブルも予想出来たのでは? どうして、わざわざ学園に入学したんですの?」

「先代の魔王である父上が『学校くらい卒業しておかないと低学歴とバカにされるから』と遺言を残した為、学園に入学せざるをえなかったのだ……」


 うーん。学歴社会は人間界だけじゃ無かったのか…。確かに学の無い魔王よりは知識のある魔王の方が何かと良いだろうけど……。しかし、趣味がスイーツ作りや可愛い物って何か、ひっかかる……。デジャヴを感じると言うか……。いや、でも私は別にそんな趣味無いし……。


「………………あーっ!」

「どっ、どうしたのだ?」

 突然、声をあげた私に魔王が驚いている。

「い、いえ…………」


 などと取り繕うが、それ所ではない。思い出してしまったのだ。本来ならスイーツ作りや可愛い物が好きなのは悪役令嬢である私だと云う事を! 

 そうなのだ。悪役令嬢、アリス・キュヴィリエがヒロインと友達になるルートではクールビューティーで大人っぽいシックな装いを好むアリスが意外にもファンシー雑貨やスイーツ作り、編みぐるみ等、可愛い物好きでその趣味がきっかけでゲームヒロインと仲良くなるルートがあったのだ!

 しかも、そのルートは特殊条件をクリアして、購買前でヒロインと悪役令嬢がぶつかって、アリス・キュヴィリエが密かに購入した趣味の本がヒロインに見つかってしまい、悪役令嬢が慌ててヒロインを屋上に連れて行き……。って、まんま今の私の状況だわ、コレ!

 恐らく、普通に悪役令嬢として誕生していれば、ゲームの設定そのままになっていたんだろうけど、あいにく私には前世の記憶がある。前世ではファンシー雑貨やスイーツ作り、編みぐるみ等にほぼ無関心だった為、今世でもその方面はスルーしていたのだ。

 もしかして、私がゲームと違う性格の為、本来アリス・キュヴィリエが持つ趣味が魔王に行ってしまったんじゃ……。ゴクリと生唾を飲み込んで魔王を見ると呆然としながら、こちらを見つめている……。罪悪感、ハンパ無いわ…………。

「お前は不思議な奴だな……。魔王である俺と普通に話が出来る奴など、中々おらぬぞ……」

「最初は緊張しましたけど、慣れてきましたわ……」

 そう言えば、私は悪役令嬢ゆえに闇属性特化してるからか、魔王が側にいてもダメージを受ける事が無いのも大きいかも知れない……。とにかく、これはどうやら友達ルートらしいから、友達になっておくのがベストだろう……。私のせいで魔王の趣味が大きく変わって、本人が苦しんでいるっぽいのも何か、申し訳ないし……。

「あの……。これも御縁でしょうし……。もし、貴方さえ良ければ友達になりません?」

「………………ともだち?」

「例えばスイーツの店とか、興味があっても一人では行きにくいでしょう……? 私の付き添いとしてなら堂々と入店できますし……」

「!?」

 贖罪の意味を込めての提案だったのだが、魔王はまたボタボタと滂沱の涙を流し出した。どうやら感激のあまり涙が止まらないようだ……。こんな魔王で大丈夫なのだろうか…………。



 ともあれ、魔王と友達になった私は人気のスイーツ専門店へ一緒に行ってみたり、魔王お手製のスイーツを食べに魔王城へお邪魔したりするようになった。魔王手作りのイチゴタルト、レアチーズケーキ、フルーツタルトは絶品だった。抜群に美味しいから、パティシエになれると言ったら大喜びしていた。


 魔王城にある彼の趣味の部屋には今まで魔王が作った、編みぐるみや可愛い系の小物、クッション、パッチワークキルトの大作から手作りコースターまで、ファンシーな手作り雑貨がたっぷりあった。

 強面の魔王が作ったのかと思うとやはりギャップを感じたが、本来なら悪役令嬢である私の趣味だったのだ。自分の代わりに魔王に業を背負わせたようで良心が痛んだ……。大量の可愛い手作り雑貨に私が引いたと思った魔王がしょんぼりと

「やはり、このような趣味はおかしいと思うか?」

 消沈しながら聞いて来たので、率直に答える。

「確かに一般的な魔王のイメージとはギャップを感じますけど……。でも、戦争や殺人が趣味の魔王より、このような趣味の方が平和的でずっと良いと思いますわ」

 思ったままを言っただけなのだが、魔王はまた泣いていた……。自分の趣味が全面的に受け入れられて嬉しいようだ……。しかし、泣き過ぎだろう魔王…………。



 そんなこんなで毎日のように魔王手作りのお菓子を貰って、感想を言ったりして親交を深めていった。ちなみに魔王お手製のお菓子は高価な食材を惜しげも無く使用しており、作り手である魔王の腕もかなり高いので、べらぼうに美味しく、私はとても幸せだった。

 そんな風に充実した学園生活を送っていたが卒業間近のある日、魔王から求婚されてしまった……。自分と一緒に居ても普通に話せる希少な人間なのに加えて、魔王の特殊な趣味を全面的に認めてくれる女性はもう現れないだろうし、何より生涯を共にして欲しいと……。


 『魔王と友達ルート』だと思っていたのに、どうやら『魔王と恋愛ルート』を突き進んで、知らない内に好感度をMAXまで上げてしまっていたようだ……。そう言えば異性だったもんな……。しかし、そもそも私が魔王と友達になったのは私が請け負うはずだった趣味嗜好を魔王に背負わせてしまった罪悪感からなので、恋愛感情は無かったのだ……。どう返事をした物かと悩んでいると魔王は

「やっぱり、こんな趣味を持った魔王では受け入れて貰えぬか……」

 そう呟いてハラハラと涙を流し始めた。だから泣き過ぎでしょう。魔王……。私はこめかみを抑えながら考えた。このまま断るのが無難だろう。でも……。

「結婚したら……私の為に毎日、スイーツを作ってくれますか?」

「勿論だ!」

 こうして私は魔王の求婚を承諾した。彼に対しては謎の罪悪感から始まり、意外と涙もろ過ぎて、ほっておけなかったり……。何より魔王による連日のスイーツ攻撃により、私の胃袋はガッツリと掴まれていたのだ。これが当初からの魔王の策略なら大したモノだけど、どうなんだろう?

 とにかく、そんな訳で魔王は毎日、私の為に美味しいスイーツを作り続けてくれている。ちなみに結婚してからはスイーツだけでなく、普通の料理にも腕を振るうようになり、スイーツ同様の高い料理技術で私の胃袋を完全に掌握したのだった。二人きりの時は異様に涙もろいのは相変わらずだけど、意外と平和主義者で料理上手な魔王と一緒で幸せだから結果オーライだよね?
魔王視点の小説もあります。ご覧頂ければ幸いです。 http://ncode.syosetu.com/n0141cw/

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