最終章:クレイズ・キルロック
その人物は、慌てて駆け出すと、王の弟のカイザム・ファンレインの部屋をノックした。
「…誰だ!こんな夜更けに」
カイザムの不機嫌な声にその人物はビクッと体を震わせた。
「あの…、皇女ティアラ様付きの侍女です。…ティアラ様が、今、護衛騎士クレイズと城を出て行かれました」
「なんだと!入室を許可する。早く入れ!!」
侍女は部屋に入るとカイザムは寝台から身を起こしている所だった。
「睡眠中の所を起こしてしまって申し訳ありません」
侍女は深々とお辞儀をした。
「よい。それより何故、ティアラが城を抜け出したのだ?」
「それは………」
侍女が口ごもる。
「何だ!早く申せ!!」
「…先に金貨を頂きたいのですが…」
カイザムは顔をしかめると無言で金貨を取り出し、侍女に放りなげた。
前に、カイザムが城にいる侍従、侍女に有益な情報や、面白い話を持ってきた者に金貨をくれてやる、と暇を持て余していた時に言ったのだった。
「渡したぞ。早く話せ」
「はい。実はティアラ様と隣国の皇子は愛し合っているのです」
カイザムの眼が見開いた。
…なんだとぉ…
「一年前に開かれた式典でお会いになって、今まで鳥を使って文通をしていたのです。…今回、隣国と戦争になるかもしれない時期ですので、隣国の王が皇子を結婚させようと、6日後に城で、花嫁を選ぶのです。そこにティアラ様が行って皇子に選んでもらう。隣国へは歩きで6日。城で開かれる花嫁選びに間に合うように今日、出て行かれたのです」
「という訳は、うまくいくと隣国との戦争は失くなるという事か…」
侍女は笑って答えた。
「うまく行くのは決定ですよ。2人は既に恋人同士。隣国の皇子がティアラ様を選ぶのはわかりきった事です」
カイザムはギリッと歯を噛み締めた。
……うまくいってもらっては困るのだ…。隣国の王とは秘密裏に、戦争に勝ったら私をクロスザイード王国の王にする確約を得ていた。そのかわり隣国の財政を支援する、と話を進めていたのだ。今更、戦争が失くなるなど……………、
いや…、ティアラがいなくなれば……………。
カイザムは薄気味悪く笑った。
その笑みを見た侍女が、恐怖を感じる程に。
―6日後―
城を抜け出した2人は、隣国の城へ向かっていた。
もうじき隣国に辿り着く所だった。
クレイズは道中で、ティアラが何故、隣国に行くのか知った。
ティアラが、ポツリ、ポツリ、話したのだ。
クレイズは途中から聞いてなかった。ショックで地面に座り込んでしまいたい気持ちを叱咤した。
ようやく、隣国の城が見えてきた時、辺りは暗くなってきていた。急がないと夜に行われる花嫁選びに間に合わなくなる。
2人が急ぎ足になった時、30数名の傭兵が道を塞いだ。
不穏な気配を察して、クレイズはティアラを自分の後ろに隠した。
「その道を通してくれますか?」
クレイズの問いに傭兵達は、無言で剣を抜いた。
クレイズは、震えているティアラに囁いた。
「私が道を開きます。私が合図をしたら、城まで振り返らずに全速力で走って下さい」
クレイズは言いながら剣を抜いた。
「貴方を置いては行けません」
ティアラは震えながらも、凜とした眼差しでクレイズを見た。
「駄目です。戦っている最中にティアラ様を人質に取られたら、私は手も足もでないでしょう」
ティアラはハッとしてクレイズを見る。
「いいですか。私が合図をしたら走って下さいよ」
ティアラはこくりと頷いた。
それを確認したクレイズは余裕に構えていた傭兵達に切り込んだ。
流れる動きで一瞬のうちに3〜4人が地面に伏した。
いきなりの攻撃に不意打ちされた傭兵達の、動きが乱れた。
「今です!ティアラ様!」
ティアラは弾かれたように走りだした。城に向かって一直線に。
「まちやがれ!」
「待つのはお前だ!」
クレイズはティアラを追い掛けようとした傭兵を切り捨てた。
傭兵達の動きが止まった。
自分達が相手をしている男がとても強い事に気付いたからだ。
「お前達、誰に頼まれた?」
「さあな。俺達は金さえ貰えればいいんだよ。特に女の首を持って行けば、たんまり金貨が…」
その傭兵は続きを話せなかった。
クレイズの剣が男を貫いていたからだ。
「この野郎!よくもルーイを!皆、一斉にかかれ!!!こいつを仕留めてから女を追うぞ!」
20数名がクレイズを取り囲んだ。
…あの月の夜、僕は思ったんだ…
僕は貴女を守りたい。
王国よりも、王よりも、
貴女を守りたい…。
だから…。
「皇女に仇なす不届き者達よ!皇女専属護衛騎士、クレイズ・キルロックが相手になってやる!!死にたい奴から、かかって来るがいい!!!」
…だから、
…安心して下さい。
…貴女の後を、誰にも追わせません。
「…どうした!来ないなら、こっちから行くぞ!うおおおおおお!!!」
…僕は貴女に恋をしていました…
それは、皇女である貴女が知るべき事ではない
…ティアラ様の幸せを、心から願っています…
皇女専属護衛騎士、クレイズ・キルロック。
隣国との和平に貢献した功績を残し、この世を去った…。
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