第二章:訓練場
翌朝…、
「ねぇ、ムルノス。どうして上の名前が、王国名と違うの?」
クロスザイード王国の皇女、7女、ミーシャは幼い首を傾げながら、王の側近のムルノスに聞いていた。
「おや、気付きましたか。…それは前王がライン城に預言者を招いた時、預言者が告げました…。国名を変えないと、この国は滅びるだろうと。普通ならば、真に受けない所なんですが、その預言者は有名な方でしたので、預言に従い国名を変えたのです。…旧国名はファンレインでした。今でも旧国名で名乗っているのは、長年続いた国名だったので残しておきたかったからです。…もしも、ミーシャ様が今の国名の方を名乗りたければそうしてもよろしいのですよ」
「う〜ん、ミーシャ・ファンレイン。ミーシャ・クロスザイード…。う〜ん…。やっぱり、ファンレインでいいや♪」
ムルノスは微笑した。
「そうですね。そちらの方がよろしいでしょう」
―ガラーン、ゴローン―
「鐘がなりましたね。今日のお勉強は、ここまでです」
「やった〜♪じゃあねムルノス!また明日!!」
ミーシャはパッと椅子から立ち上がると部屋から駆け出して行った。
ムルノスは、風の様にいなくなったミーシャに苦笑した。
「やれやれ、そろそろ本格的に礼儀作法を教えなければいけませんね」
―ガラーン、ゴローン―
鐘の音は訓練場にも、鳴り響いていた。
「今日の訓練はここまでだ。解散!」
その言葉を聞いた途端、ドシャッと騎士達は地面に崩れ落ちた。
その姿を見た黒騎士団、団長ガルドの眉間に皺が寄る。
「…だらしがない。それでも、クロスザイード王国の黒騎士団か!」
騎士達は誰も、その問いに答える事が出来なかった。呼吸をするのがやっとだった。
クレイズも、その中の1人だった。
「…もうじき、隣国との戦争が起きる」
騎士達は緊張した面持ちになり、ガルドを見た。
「戦場では自分が危機に陥った時、誰かが助けてくれるのを期待していたら、まず生き残れないだろう…。」
「…………………」
重苦しい現実が騎士達にのしかかる。
「…立て。このぐらいの訓練で醜態をさらすな」
騎士達は無言で立ち上がる。
「…だが、練習量が増えている訓練に、今日は全員ついてきたな…。危機に陥った時、今日の訓練を思い出せ。それが、お前達の命を救うだろう」
騎士達はその言葉を心に刻んだ。
「…立ち上がったのならば、さっさと働け。騎士の仕事は訓練だけではない」
騎士達はガルドにお辞儀をすると、各々の仕事の持ち場に散っていく。
クレイズも皇女、ティアラの護衛に行こうとしていた。訓練中は、臨時の騎士が皇女の護衛をしている。
「待て、クレイズ」
ガルドがクレイズを呼び止めた。
「はい」
クレイズは足を止め、ガルドに向き直る。
「最近、ティアラ様の様子がおかしい。クレイズ、お前何か知っているか?」
「いえ、何も知りません」
…言える訳がない…
「…………そうか」
ガルドは少し落胆の表情を見せた。
「わかった。呼び止めてすまなかった」
「いえ、それでは失礼します」
…ガルド団長に、皇女を城から連れ出す事がばれたら、僕はどうなるんだろう……
クレイズは寒気を感じながら、早足でティアラのいる部屋に向かった。
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