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Scene 9. Be my friends
 その瞬間、優輝と翔司の目の前に驚くべき光景が展開された。各自の食器しか置かれていなかったテーブルの上に、次々と大皿に盛られた料理が姿を現したのだ。ローストビーフ、白身魚のムニエルのホワイトソースがけ、鶏唐揚の中華風あんかけ、エビと野菜の炒め物、冷たいミルクスープ、生野菜のサラダの上には冷たいパスタが乗っている。色とりどりのカナッペにはキャビアらしきものも見えた。フルーツの盛り合わせもキウイ、パパイヤ、バナナ、パイナップル、すいかなどがずらりと並ぶ。
「わぉ!」
「……豪華だなぁ」
「今日はあなた達にとっても美紗にとっても『新たな始まり』の日。この料理はあたしからのお祝いの気持ちよ。今魔法でここに並べたけど、ついさっきまであたしが、魔法を使わずに腕によりをかけて作ったものよ。思う存分食べてちょうだい。おっと、忘れてたわ」
 そう言って佐夜子が再びパンと手を叩くと佐夜子の手に大きなボトルが現れる。
「今日はシャンパンで乾杯よ」
 佐夜子がそういうと、手にしたシャンパンのコルクの栓が「ポン!」と勢い良く飛んでいく。
「あの……俺達未成年なんでアルコールは……」
「あら、心配ないわよ。ちゃんと魔法でアルコールだけは抜いてあるわ。だけど味は本物の超高級シャンパンよ」
 無邪気に笑う佐夜子。そしてテーブルを見回す。
「そういえばグラスがなかったわね」
 すると四人の目の前に美しいシャンパングラスが姿を現した。
「ちょっとボトルが大きいから失礼するわね」
 佐夜子がそう言うと、シャンパンのボトルはふわりと浮き上がり、スーッと優輝と翔司のところへ近寄ってくる。そしてまるで透明人間ボトルを持っているかのように、皆のグラスに美しい琥珀色の液体を丁寧に注いでいく。佐夜子と美紗にもシャンパンが注がれると、ボトルはひとりでにテーブル上の邪魔にならない場所に着地した。その光景を優輝と翔司はそろって口をぽかんと開けて見ていた。その光景をチラッと見た美紗が思わずクスット笑う。
「さ、乾杯をしましょ」
 佐夜子がグラスを手にし、それを見て他の三人もシャンパングラスを持ち上げる。
「じゃあ美紗から二人に一言挨拶して」
「え。あたし?」
「そうよ、一応主役はあなたなんだから」
「挨拶って……なにを言えばいいの?」
「そんな事、あたしに聞くまでもないでしょ」
 美紗は困った様子で少し考えた後、優輝と翔司のほうを少し恥ずかしそうに見て
「柿森君、星倉君」
 二人が美紗に注目する。
「……あの、……あの」
 美紗の顔が次第に赤くなる。
「あたし、あたしと……お友達になって下さい!」
 一瞬の沈黙。次の瞬間、優輝と翔司、そして佐夜子が同時にふき出した。
「ぷははっ!」
「はははは、まいったな」
「嫌だわこの子、何を言うかと思ったら……」
 半ば腹を抱えて笑う三人を見て、きょとんとする美紗。
「え? あたしの言った事……変だった?」
 意外な反応に戸惑う美紗、。
「いや、変とゆーかさ……はは」
「間違ってはいないな、確かに。でもそう来るとは思ってなかったよ。普通は『今後ともよろしく』とかって言うだろ」
「そーそー、普通はそーだな」
 美紗はまだ顔を赤くしたまま、少しうつむき加減の表情を見せる
「なあ一村」
 翔司の声に美紗が顔を上げる。
「友達ってぇのは、宣言してなるもんじゃねぇ。自然になっていくもんだと俺は思うぜ」
「そうそう、本当の意味でのな」
「だからこれからだと思うんよ、俺達と一村が本当の友達になるのは」
「そうでなくても今は演劇部で一緒なわけだし、既に『大切な仲間』にはなってるわけだ。今日を機会にお互い友達になっていくんだと思う。多分」
 二人の言葉に、美紗の表情にもようやく笑顔が戻ってきた。
「二人とも、ありがとう」
 美紗は、自分の心の中に小さなキャンドルの火が灯ったような、そんな気がした。
「じゃあ俺からも一村に一言挨拶していいですか」
 翔司が佐夜子に尋ねる。
「ええ、よろしく」
 佐夜子は笑顔で答えた。
 翔司は真剣な表情で美紗のほうを向く。美紗もそれを見て、少し緊張の表情を浮かべる
「……ありがとな、今日は。俺達助けてくれて」
 美紗の表情にぱっと笑顔の花が咲いた。
「俺からも礼を言うよ、一村」
 優輝も美紗に頭を下げた。
「そんな……」
 美紗は照れくさそうに首を横に振った。
「さ、じゃあ乾杯をしましょ」
 佐夜子の呼びかけに三人がうなずく。
「じゃあ、これからの三人の新たなる始まりを祝して、乾杯!」
「かんば~い」
 シャンパングラスのクリスタルな音が数回、心地よく響いた。

 その後四人は和やかに夕食の時を過ごした。
 優輝と翔司にとっては新たに体験する何ともファンタスティックで心地よい時間でもあった。
 全ての器には魔法がかけられており、手元の取り器に触れて大皿にある料理を見つめるだけで、料理が大皿から取り皿にほしい分だけ瞬間移動した。だから遠いところの大皿の料理でも全く席を立つ必要がないのだ。ソースやドレッシングなども、やはり取り皿に触れてからそれらの入った瓶を見つめれば、勝手に瓶が宙を舞って寄ってくるし、かけるイメージの通りにソースやドレッシングがかかってしまう。さらに余計にかけ過ぎても時間が逆流するように消していく事もできた。使って空いた器はすぐに消え、そしてまた新品の皿が現れる。とにかく全くと言っていいほど食事以外の手間が要らないのだ。

 また料理の味も格別においしかった。佐夜子はフリーライターの仕事で料理関係の仕事をするときには、そこで出会った一流の料理人からレシピや素材の見極め方を教わるのだという。もちろんなかなか教えてくれない相手もいたが、時にはお色気作戦や反則技(=魔法)を使った事も数度だけあったらしい。
 一村家の普段の食事も毎日こんなに豪華かというとそうではなく、通常は一般家庭の食生活とほとんど変わりないとの事だった。美紗の父親は佐夜子や美紗が魔女であることを知らないから、毎日豪華ではさすがに変に思われるらしい。やはりこの別荘は二人にとって特別な世界なのだ。

 食事もそろそろ終わりとなった頃。
「一村、ひとつ教えてほしいんだけど……」
 何気なく優輝が美紗に尋ねる。
「なに?」
「どうして今日、俺達が倉庫に行こうとしたとき、俺達と一緒に行くって言ったんだ?」
「……それって変だった?」
「いや、普段の一村はどちらかと言うと積極的に動くほうじゃないじゃん。なのに今日は妙に積極的だったから、『あれ?』っと思ってね」
「そーそー、俺もびっくりした。あれなかったら、お前が魔女だってばれる事もなかったろーにさ」
「それもそうかもね」
 美紗は微かに笑って。
「でもね、あれにはちゃんと理由があったの」
「…………」
「あたし、あなたたち二人をあの倉庫に入れたくなかった。だから倉庫に入れないようにしてしまおうと考えたの」
「え?」
「何で?」
「二人が倉庫に行くって言い出したとき、二人の未来が一瞬見えてしまったから」
「未来が見えた?」
「そう」
「どんな?」
「倉庫で、落ちてくる大道具に二人が潰されて大怪我をするっていう光景……」
 優輝と翔司は言葉を失った。
「『未来が見える』っていうのは、あたし達魔女でも数年に一度あるかないかのとても珍しい事なのよ」
 佐夜子が補足する。
「だからあたし、二人を何とか怪我させないようにと思って、自分から行くって言い出したの。その時美晴さんに小道具棚の整理をしようって言われたとき、魔法を使って小道具棚を一瞬で整理したの」
「さっき俺達を倉庫に入れないようにしようとしたって言ったけど、じゃあひょっとして……」
「倉庫の南京銃の鍵穴に砂を詰めて壊したのもあたし。止め金具のねじを魔法で錆びさせたのもあたし。とにかく二人を中に入れたくなかったの。でもそれもことごとく失敗、最後に入るしかなくなったときも、星倉君が金具を壊した直後に魔法で時間を止めて、一人で倉庫の中に入って道具の置き場所を探して、痛んだものは魔法で修理しておいたの。ついでに崩れそうな場所もチェックしてみたんだけど、結局見つからなかったわ。一応棚の危なそうなところも魔法で補強もしたりしたわ。あれやこれやで一時間ちょっとは時間を止めて作業してたかな……。であなた達が入ってきてもすぐに出られるように準備をしたの」
「……そうだったんだ」
「……俺達を守ろうとしたんだな」
 翔司は席を立つと、美紗のほうに右手を差し出した。
「ありがとう、感謝するよ」
「でも、結局星倉君には怪我をさせてしまったんだもの、完璧に守る事はできなかったんだもの、感謝される筋合いはないわ」
 美紗が顔を背ける。
「とんでもない! 完璧だったさ」
 翔司のその言葉に美紗が少し驚いた表情を見せた。
「あの後一村は閉じ込められた俺達を外に出してくれて、骨折した俺の足も直してくれた。倉庫の中や鍵も完全に治した。俺達が昔の事を思い出したりしなけりゃ、全てが完璧だった。違うか?」
「星倉君……」
 美紗の目から一筋の星が流れた。
「ばか、何で泣くんだよっ」
 翔司は少し困った表情を浮かべる。
「今日から俺は一村のことを全面的に信用する。だから一村や一村のお母さんが魔女だって言うことも絶対に秘密にすると約束する。そして、俺と一村は、今日から友達だ」
 美紗の目から流れる涙の量がさらに倍になった。
「俺もだ、友達として、よろしく」
 優輝も立ち上がり、美紗のほうに右手を差し出した。
 そして、美紗も立ち上がる。いっぱいの涙と、いっぱいの笑顔で。
 三人はそれぞれ固く握手を交わした。
 その姿を見つめる佐夜子の頬にも感動の涙が一筋流れていた。
 『新たな始まり』がここに本当の幕を開けた瞬間であった。

 それから四人は別荘を後にした。
 帰りは空を飛ばず、車ごと瞬間移動で、美紗の家の車庫の中に戻ってきた。そして再び佐夜子の運転で、優輝と翔司は自宅へと送られた。既に夜九時を回っていて、佐夜子はそれぞれの家の玄関先まで付き添い、それぞれの両親に挨拶をした。
 優輝と翔司を送り届け、自宅に戻る車中の中、佐夜子がふと口を開いた。 
「美紗」
「何? ママ」
「……良かったわね」
「うん!」
 美紗の笑顔には、、今までにない輝きが満ちていた。
魔女……っぽくない! (「……っぽくない!」シリーズ Episode 1)
 2007/09/25 Released on "Sweet quartet" Scenario.1 'そんなの……アリ?'
 2010/08/01 Series refine, story retake and liceense update
 2010/09/05 Minimum retake
Copyright 2007 Seagull White / Dreamers' Soft&media Products.
著者(Author) : Seagull White
制作(Production) : Dreamers' Soft&media Products(D'SmP)
This text work is licensed under a Creative Commons 表示 2.1 日本 License.
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