姉の手
孝太は常日頃、二階の子供部屋で一つ年上の姉と一緒に寝ていた。
就寝中、姉はよく孝太の手に触れてきた。
翌日姉にたずねても決まって覚えがないと答えたため、おそらくは無意識のうちにしたことだったのだろう。
姉と手をつないでいると不思議とよく眠れたため、孝太も特にそれを拒むことはなかった。
その日も孝太は、いつものように姉より先に布団に入り眠りについた。
夜中に突然トイレにいきたくなり、寝ぼけまなこをこすりながら階段を下りていく。
用をすませ、ふと座敷へ顔を向けて立ち止まった。
ぼんやりと人影のようなものが見えたからだ。
髪の長い女の人影は、真っ白い着物をまとい、正座をして仏間の方へ顔を向けていた。
一瞬、奥の部屋で寝ているはずの母親かとも思ったが、どうやら違うのだと気づいた。
異様な雰囲気の後ろ姿を目の当たりにし、孝太がぎょっと目を見開いて後ずさりする。
その気配が伝わったのか、人影がゆらりと立ち上がった。
そして孝太の方へ振り返ろうとしたのである。
恨めしそうな白い手をさしのべ、孝太をつかまえようとするように。
声も出せずに、孝太が一目散に二階へ駆け上がる。
それから慌しく開き戸を閉めると、布団を頭から被り縮こまった。
とん、とん、とん、と階段を踏む足音がかすかに聞こえてくる。
やがてそれは、すっと戸を開ける音へと変わった。
ガチガチと歯がぶつかり合う。
怖くて怖くてしかたがなかった。
確信のない念仏を唱え、ひたすら震えていると、隣で寝ている姉がいつものように手を伸ばしてきた。
わらにもすがる思いで、姉の手をぎゅっと握りしめる。
すると姉の方も、いつものようにその手を握り返してきた。
何故だかそれで気持ちが落ち着き、知らぬ間に孝太は眠りについたのだった。
目が覚めた時には、すでに姉の姿はなかった。
はっきりしない意識のまま孝太が階段を下りていくと、台所から母親の声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん、お熱まだ下がらないみたいだね。今日もママと一緒に寝ようか……」
じりひんです。夏だからということで強引にひりだしてみましたが、何かがたりない。オチが弱い。オチがない?
怖い話って難しい……