いつもどうりの二次創作、三幡を山の妖怪達が放った閃光が塗り潰す、そんな戦いの影で行われたもう一つの戦い。
第二十八幕 幕裏三(new)
綿津見三幡とシレネッタは幼馴染みの様な関係であった。
様な関係と濁すのは竜と人魚という種族差による寿命や成長スピードの差、多少の見た目の年齢は弄れる為に幼馴染みと人間の感覚で定義して良いのか人外の幼いをどう定義するのかという理由があるからだ。
そんな前提を抜きにしても当時の三幡とシレネッタを見れば誰もが二人を幼馴染みと思う事だろう。
シレネッタは人で言えば4歳頃に水竜宮にやって来た、これまた人で言えば4歳頃になる三幡の遊び相手として連れて来られたのだ。
長い寿命、高い知能、美しい歌声、そんな理由だった。
幼かった二人は毎日時間も忘れて遊び、教育係の乳母に二人で怒られたりもした、従者であるシレネッタばかりが叱られシレネッタは不公平だと思い、三幡は申し訳なさそうに伏し目がちに謝る、そんな二人の関係は幼い幼馴染みの様であり仲の良い姉妹にも見えた。
そして時が経ちワタツミの次期候補として教育された三幡とただの従者のシレネッタの関係ははっきりとした主人と従者に変わっていき姉妹の様な雰囲気はなくなった、でも三幡にとってシレネッタは数少ない気を許せる相手であり大切な友達だった、シレネッタにとっても、それは同じだった。
ワタツミを継ぎ竜王になる三幡の回りは常に賑やかだった、三幡を退屈させまいと様々な催しが開かれていた、四季を詰め込んだ三幡の水竜宮は楽園だったのだ。
でも……、三幡は今一人だった。
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シレネッタは白蛇の一撃により対岸に吹き飛ばされた三幡を見て不安を抱いた。
本来なら不安を抱く様な事はないはずなのだ……。
綿津見三幡は強い、海を操る力も強いが何より竜という種族が強い、絶大な力を持ち、速く、強靭で、風を操り雷雲を呼ぶ。
シレネッタはそれを十分に知っていたので神が二柱くらい束になったところで不安はない……はずだった。
はずなのだが嫌な予感がした、どうもただの神では無いというのも不安を煽る要因だったが、それ以上に何かある様な気がする、漠然とした感覚を否定する事が出来ない、それにこの取るに足らない妖怪達の放つ異様な熱気もまた不安を煽る。
三幡は巨大な白蛇の一撃を受け向こう岸まで吹き飛ばされていった、普通なら絶命必至の一撃も竜である三幡の丈夫さを知っているシレネッタに取ってさして不安は無い。
たが自分の大切な主を虐げられ愉快な気持ちになる様な心は持ち合わせていない。
シレネッタは何故こんな事になってしまったのだろうと思った、そして二人の過去を思い出す。
三幡とシレネッタの二人は偶然この幻想郷に来た、神にも及びのつかぬ神がいるとしたらソイツの仕業に間違いないと思える程の偶然。
そして三幡はそこで希望を見た、もう取り戻せないと諦めたものを取り戻せるかも知れない、鯛や鮃達が舞い踊る水竜宮、薄れ消えただの物言わぬ三幡を認識すら出来なくなっていった魚達、鯛鮃蛸烏賊鮪鯖秋刀魚鰯鯨鱒鮭鰻海老蝦蛄蛤鮟鱇蟹海月海豚鮫海星、数えるだけで切りがないくらい仲間を失った。
失うなんて思ってもいなかった、少しづつ魚達が減り喋らなくなりおかしいと違和感を感じ、気付いた時には手遅れでどうする事も出来ずに三幡はシレネッタと二人だけになっていた。
そしてその時シレネッタは誓った、自分は絶対に消えない、主に寄り添い悲しみを少しでも和らげよう自分が消える時は自分の主が消えたその後、天寿を全うされたその後だと……。
だが、三幡の考えは……三幡の気持ちは違った。
それは潮の暖かい日の事、とうとう三幡とシレネッタは二人だけになってしまった、シレネッタは悲痛な思いを隠す主の顔を見て自分への誓いを思い起こす。
その悲しみ寂しさ苦しさを和らげよう寄り添うだけでも出来る事ある、改めて自分に誓ったのだった。
シレネッタは悲しみにくれる三幡を見ていられずその手を取り慰めようとする、だが伸ばした手は届かなかった、三幡に払われたのだ。
訳が分からなかった混乱した、それは未だに理解出来ない事だった、困惑に染まった瞳で見詰めた先には氷の様に冷めきった水の様に色の無い三幡の瞳があった。
「妾は部屋へ行く、何かあったら報せるがよい」そう言い残し三幡は部屋へと去って行った、そして何も無い水竜宮に報せるべき知らせは無く食事を知らせる事ぐらいしか主の部屋に入る口実も無く、また三幡がシレネッタを呼ぶ事もほとんどなかった。
訳が分からず今までの様に極自然に当たり前に親しげに声をかけた、だがそれも「何か用があるのか」と拒絶された。
途方にくれたがそれでも三幡を信じた、自分の立てた誓いは忘れなかった。
そして今、希望を見付けた三幡は生き生きとしていた、笑った顔などあの日以来だっただろう。
シレネッタは静かに思い起こす、これが無事に終わればあの日の三幡様が帰ってくると。
「王女様を助けに行かないと」
シレネッタは加勢に加わるべくそのヒレで空気を蹴った。
「こんなに月が紅いから気分が高揚して踊り出したいのは分かるけど、いったいどこへ行くというの?」
シレネッタを呼び止める声は頭上から聞こえ上空を見上げるとそこにはレミリアがいた。
薄桃色のドレスは紅い月に照らされ闇夜に紅く滲む、紅い瞳は射貫く様にシレネッタを見詰めている。
(こんな時に……!)
「あれだけ血を流してもピンピンしているなんて人魚の再生力もなかなかね、やはり心臓でも潰さないといけないのかしら?」
シレネッタは一刻も早く三幡の元へ向かいたい、何とか撒こうとそのヒレを速めた。
「焼き直しみたいね、お前は私が倒すと決めているんだ勝手に行くな」
レミリアの紅い槍が投擲される、槍はシレネッタの目の前を掠め思わずヒレを止めてしまう。
「そこの人魚、人の話は聞け」
「私は鳥にも獣にも混じれぬ畜生に構う暇など無い」
レミリアは溜め息をつきゆっくりとシレネッタの目の高さに降りてくる。
「そうか……、意見のすれ違い価値観のずれだな。
仕方ない、なら仕方ないな。
厳正なる幻想郷のルールに則って白黒つけようじゃないか、スペルカードルールだ」
レミリアが払う様に横に手を振ると紅い槍が現れその手に収まる。
「勝手なヤツめ」
こんなところで足止めをくらう暇など無い、シレネッタも同じ様に三ツ又の槍をその手に出現させた。
「妖怪とは本来そういうものだろ? 自分の価値を曲げてはその存在すら危うくなる、それが妖怪だ」
レミリアは槍を両手で持ち半身になり低く構える、右手は柄本に左手は添え柄の中程を緩く支える、矛先は地を這うかの様に低くその構えは臥して獲物を狙う豹を思わせた。
シレネッタも半身になり腰だめに槍を構える、三ツ又の矛先は敵の喉に狙いを定め例え避けようとも横の刃が首を引き裂く、必殺の構え。
雷鳴をバックに二人は空中で対峙する、片方は余裕と愉悦の笑み、もう片方は焦りと焦燥のに染まっている、すぐにでも三幡の元に向かいたいシレネッタにとってこの時間は異様に長く空気は鉛の様に重く感じた。
「何をそんなに焦ってるの? そんなに汗かいて目に汗が入るわよ?」
「人魚は汗をかかない」
「あらバレた? でも焦ってるのは当たってるでしょ、楽しみなさいこんなに月も紅い楽しい夜なのに」
「煩い、口が多い」
「じゃあ、お前を完全に黙らせてお前の分も私が喋る事にするわ、さぁ狙いはお前の心臓よ」
レミリアの槍が更に低く引き絞る弓の様に体を絞り臨戦態勢に入った、シレネッタは背中に冷たいものを感じ体が強張る、それが悪手で有ったとしてもシレネッタは受けに回る事しか出来なかった。
それだけのプレッシャーをレミリアは放っていたのだ。
「いくわよ……その心臓、貰い受ける―――!」
―――――――――――――
レミリアとシレネッタの勝負は呆気ないものだった、レミリアが心臓目掛けて放った刺突に対しシレネッタは反応する事すら出来ずその一撃を心臓で受け止める事となった、シレネッタは胸に刺さった槍によって木に磔にされている。
「ん〜……、パチェに見せてもらった漫画みたいに勢いを付けて突いたら上半身だけ千切れて吹っ飛ぶと思ったけど、そんな事はなかったわね、槍と刀じゃ違うのかしら……。
それにしても……思ったよりしぶとい、心臓を突いても死なないなんて予想外よ、でも私の勝ちよね、貴方のゲームオーバー、フランじゃないけどコンテニューは出来ないから」
レミリアは小さな翼をパサパサと揺らしもう興味が無くなったのか一瞥も無く、振り向きもせず三幡のいる方角へ飛んで行った。
シレネッタはそれを阻止する事も出来ない、一言呼び止める事も指一本すら動かない。
胸に大穴があき、肺に溜まった血を吐き出す体力も残っていない。
それでもシレネッタは死なない、強靭な生命力と人魚の体内構造は人より魚によっている事もありレミリアが針を通す正確さで左胸を穿った為わずかに心臓をそれた事がギリギリのラインを守った。
もっと大雑把な一撃だったなら死んでいたかもしれない、それは不幸中の幸いだった、だが指一本動かぬ行動不能状態、悔しさと焦燥感が身を焦がす。
結局自分は何も出来ていない。
三幡の元に駆け付ける事も、その敵を排除する事も。
何も出来ない、何も成せない、自分の誓いを守る事も出来ない。
血ではない熱い液体が頬を伝う、己の無力を呪った。
ふと重力がなくなったのかと思うと地面に叩き付けられる、レミリアの作り出した槍がその形状を維持できず消滅したのだ。
地面に叩き付けられてもシレネッタはもはや痛みも感じ無い、身体の様々な機能が異常をきたしている、そもそも槍で突かれる以前に神奈子の御柱による攻撃で既に身体は限界、それ程のダメージが蓄積されたのだ。
シレネッタはそのまま眠ってしまいたい感覚にとらわれる、膨大な出血のせいで意識は朦朧としている、今も止めどなく流れる血は見るものに死を連想させるだろう。
意識が無い方が当然、意識があるだけで奇跡的、そう思ってもなんの不思議もない、現にシレネッタもそう思っていた。
意識が徐々に薄まっていく、でもシレネッタは諦めたくなかった、まだ何かあるのではと思わずに言われなかった。
状況は絶望、成す術は無い、そう思った――――――が。
シレネッタは震える指を動かし胸に空いた穴に手を差し入れ赤黒い何かを取り出す、それは赤く弱々しくビクビクと動く物体、キモ、脈打つシレネッタの心臓。
そしてシレネッタは自分の心臓にかぶり付いた、林檎にでもかじりつく様に、グチュグチュと音をたて咀嚼する。
端から見れば狂気の沙汰、気が触れたと思うのが当然だろう、だがシレネッタは気が触れたのではなかった、賭けに出たのだ。
人魚の生きキモには不老不死を与える力、強い再生能力を与える力がある。
シレネッタは自分のキモを食べる事で回復をはかったのだ、それは勿論危険な賭け、回復する確証は無い、何せ自分のキモを食べる等という暴挙にでた人魚なんて存在しないからだ、だがそれしかなかったそれ以上の手段などなかった。
心臓を失えば死ぬという現実、キモを食えば不老不死を得る幻想、シレネッタはその幻想に賭けたのだ。
シレネッタは自身のキモの最後の一欠片まで咀嚼する、ほとんど飲み込んだ様なものだったが全て欠片も残さず食べた。
これから自分がどうなるのかシレネッタには分からない、後は天に任せるしかない。
シレネッタはこびりついた血を拭うこともなく、そのまま静かに意識を失った。
読んでくださった皆さん、ありがとうございます。
どうも亥紙です。
今回はオリキャラメイン回でした。
世の中どんな形であれ力がないと、力が足りないと何も出来ないものです。
そんなお話。
今回のパロディ
「いくわよ……その心臓、貰い受ける―――!」
その心臓、貰い受ける―――!が本当ですが『fate/stay night』よりランサー クーフーリンのゲイボルクの真名解放時の台詞。
レミリアにもこの時のランサーの構えを取ってもらってます。
「ん~……、パチェに見せてもらった漫画みたいに勢いを付けて突いたら上半身だけ千切れて吹っ飛ぶと思ったけど、そんな事はなかったわね、 槍と刀じゃ違うのかしら……。
それにしても……思ったよりしぶとい、心臓を突いても死なないなんて予想外よ、でも私の勝ちよね、貴方のゲームオーバー、フランじゃないけどコンテニューは出来ないから」
分かりにくいですが『るろうに剣心』斎藤一VS魚沼宇水戦のシーン、斎藤一の牙突零式を受け上半身が千切れ壁に磔にされるシーンの事です。
ちょっと古い漫画ですしきっと幻想郷にもあるかも……非想天則の美鈴ルートで漫画があるのは描写が有りましたね。
後はEXTRAボスフランドールの「あなたがコンテニュー出来ないのさ」パロディというか真似というかネタ。
ちなみに
霊夢を倒したシレネッタを倒してレミリアは超ご機嫌です。
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