いつもどおりの二次創作、交差する守山の神、山の妖怪、紅魔館、そして人魚と竜神。
早苗は力尽き海は閉じた、そして戻らない射命丸、頓挫する作戦、幻想郷に打つ手はあるのか。
第二十七幕 幻想郷大戦
暗い水の谷を谷底目掛けて翔る、下降気流を翼にはらませ亜音速まで至る、底冷えを起こしそうな寒さは頬を刺すように刺激し空気を引き裂く黒い風切り羽からはビリビリと痺れる様な感覚が伝わってくる。
極寒、真冬でもここまで寒くはならない、そもそも真冬なら厚着はするし寒いのでそんなにスピードは出さない、条件はさておいても私は翼を弛め徐行運転とはいかない。
私の目の前に開かれた道幅は三メートル程度の水の谷間、あの三人が作り守る道。
私はこの両翼に賭けて作戦を完遂させなければならないのだ、早苗さんが開き、八坂さんが守り、洩矢さんが導き、私が黒幕を捕まえる。
この道の先にいる黒幕を守矢神社の神器『洩矢の鉄の輪』で捕縛し地上に連れ帰る、それが私射命丸文に与えられた役割だ。
『洩矢の鉄の輪』には洩矢さんのありったけの呪いとも呼べる祟りの力が込められどんな強力な存在でも短時間なら自由を奪う事が出来るとの事、かなりの優れもの……と言いたいところだが大きさは直径で1メートル半はあり、鉄製でとても重い、単純に飛ぶ邪魔になるし今は下りだからいいが、帰りは上りなので苦労する事だろう……。
でも私がやって出来ない事では無い、何より私がやらなければならないのだ。
早苗さんが湖を割り作った道は今回の黒幕の元まで続いている、左右からは水が落下する濁音が響く、感覚的には滝に挟まれてる感じだろうか……、既に真っ暗で目視で確認する事は出来ないが音の感じだとそんなところだろう、こんな真っ暗でも飛んでいられるのは洩矢さんが私に念話(?)を使って直接場所をナビゲーションしてくれるからに他ならない、左右の水の壁との間隔と黒幕までの距離が感覚としてダイレクトに頭に伝わり様々な過程を飛ばして理解する事が出来る、随分と不思議な感覚で最初は戸惑ったが慣れればどうという事は無い、何とも説明が難しい感覚だが長年住み慣れた家なら暗闇でもすいすい歩ける感じ、と言えば一番違いかもしれない……。
今は私が飛び出しておよそ二十数秒、往路の半分はとうに過ぎた、地上から湖底(海底?)までは驚く事に妖怪の山を縦に二つ並べた高さに近いらしい、更に位置関係のせいで真っ直ぐ下に降りるわけにもいかず斜めに降りるので距離で言えば10kmを越える、話を聞いた時は信じられなかったが体感した今となっては信じざるを得ない、海という物は途方もなく深いのだ。
到着まで後十数秒、私に与えられた時間はおよそ数分、時間制限があるというのは思いの外プレッシャーがある、間に合わなければ幻想郷の未来は無いし山の仲間達も死ぬ、そして私は海に沈み存在を根こそぎもっていかれ消滅する……、導火線に火の着いた爆弾を抱えて走る様な気持ちだ。
こんな気持ちで翔ぶのは初めてかもしれない、本当は逃げ出してしまいたい気持ちもある、逃げてしまえばどんなに楽だろうと思う、自分がやらなくても霊夢達がいつもの様に解決してくれるのではと思ってしまう、でもそんな考えが甘い事は分かっている、今回は万全を期してもしたりないのだ幻想郷の存続、何より仲間達の命がかかっている、だから私は一歩も引かない、足はすくまない、翼はぶれない。
ふと暗闇の先からボヤっと夜光虫の様な光が漏れ出す、どうやら目的地に着いたようだ。
大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す、不安な気持ちを吐き出すように……。
「さぁ……、いよいよ本番ですね」
―――――――――――――
大きな地鳴りの様な音が響きわたりそこにいた三者が三様に戸惑いをしめしていた。
玉ぐしを握り締め博麗霊夢は驚愕の表情、柱に縛り付けられた霧雨魔理沙は大口を上げ端から見れば少し間抜けな表情、綿津見三幡は唖然としていた。
地鳴りと共に海がゆっくりと割れる、幅は大したものでは無い、海という大きな視点から見れば小さな隙間程度のものだ、だが小さいとは言え海を割るという事はとてつもないエネルギーが働いているという事、尋常の沙汰ではない、でも今注視しなければならないのはそこではない、海は水竜宮の真上で割れた、更に言うなら綿津見三幡のちょうど真上で割れた。
三幡は確信した、何者かが自分に照準を合わせ海を割ったのだと……。
何かが来る、三幡はそう確信し来るべき敵を待ち受ける為に海の割れ目を見詰めた。
突然、バンッと何かが破裂する様な音が海の割れ目から響く、それとほぼ同時に何か重いものが地面に落下した様なズンという音が響く、三幡はハッとし音の正体を確認しようと自分のすぐ下、足元に目を向けた。
そこにいたのは黒羽の少女、一本歯下駄を踏み締め立つ超音速の少女射命丸文、自然と二人の視線が交差する。
「おのれ……」
三幡は敵の術中にいる事を知る、そして抵抗が間に合わない事を射命丸の勝利の表情が物語っていた、射命丸の手には三幡の体をその輪に通す様に鉄の輪が握られている。
龍の眼をもってしても捉える事が出来ない速さが存在するなどとは考えもしなかった、だがそれも仕方の無い事だ、射命丸が水竜宮に強襲した際に叩き出したスピードはおよそ時速2000km、音を置き去りにする程の速さの前に何人の目視も許さない、それでも三幡は出し抜かれた屈辱に激昂する、竜神としてのプライド、超越種としての自負がそれを許さなかった、射命丸の頭を握り潰そうとその手を伸ばす。
「この下郎め……! ぐっ! がぁ!?」
鉄の輪から墨で染めた様な黒い瘴気が溢れ三幡にまとわりつきジュクジュクと締め上げる。
「地上への片道便、付き合ってもらいますよ」
射命丸が地面を蹴り飛び立つ、海の裂け目を目掛け重力に逆らいながら風を纏い加速を繰り返す、これからが射命丸文に与えられた役割の最後の詰め、三幡を地上に引きずり出す、射命丸は全てを賭け疾走した。
―――――――――――――
唖然とした、地響きと共に海が割れただけでもびっくりしたが更に射命丸が三幡をかっさらって行った事には更に驚いた、私も霊夢も唖然とするしかない、鳶に油揚げをさらわれた様な気分と言えば適切だろうか? さらっていったのは鳶ではなく鴉なのだが……。
時間にしてみれば数秒の出来事、いや1〜2秒だったかもしれない、それくらいの一瞬の内に事は終わった、柱に縛られた私と違って戦闘中だった霊夢は未だに唖然としている、口をポカーっと開けて、私もさっきまでそんな顔をしていたと思うと少し情けない気分になる……。
霊夢がやっと気持ちを切り替えたのか腹立たしげに海の割れ目を睨み付けていた――――私はそれを黙って見詰める。
霊夢が私の方に振り向き自然と目が会った、少し焦りや迷いや困惑をごちゃ混ぜにした様な顔が印象的だ。
「霊夢、地上に行く前に縄をほどいてくれると助かるんだが」
「わ……私は! 私は……っ私は!」
「……私はじゃ分かんないぜ」
「私は! 異変を解決する為だけに造られた人間なの! それだけの! それだけの人間なの」
だからどうした? そう言ってやりたいが聞かなくても何となく分かる……、霊夢が世界の意思によって生まれたってのは三幡との暇潰しの会話で聞いているし早急の霊夢の様子を見ればある程度察する事が出来る。
霊夢との付き合いは長いとは言わないが短くも無い、それでもあんな霊夢を見るのは初めてだ……、何だか怯えた仔犬の様で見ていられない気分になる、図太い女だと思ってたが……意外や意外、人間ってのは分かんないものだ、妖怪も分からんけど……、後魔法使いもだな。
霊夢は何か振り払う様に駆け出し海の裂け目へと飛び立った。
「やれやれだぜ」
私を柱に縛り付けていた縄がバサリと落ちる、少し痺れてしまった手をブラブラさせて誤魔化す。
種明かしになってしまうが私は最初から縛られてはいなかった、縄を胸の当たりに引っ掻けて後ろ手に持ってば端から見れば柱に縛られている様に見えるという寸法だ、ずっと同じ姿勢だと流石に手も痺れてくる、思ったよりきつかった。
最初は本当に縛られておくつもりだったけど三幡が「流れ弾に当たっても知らぬぞ」と言うし一度は負けた身分だし少しくらい言う事を聞いてやってもいいだろう、そんな感じでいつでも逃げられる様に縛られた振りをしていたが……、思った以上に霊夢は精神的にきているみたいだ……。
「私は幻想郷を助けに来たつもりだったんだがなー、後はうちの家計も……」
どうも幻想郷よりも先に霊夢を助けてやらないといけないらしい、三幡が霊夢に霊夢の秘密をばらした時の霊夢の様子は尋常じゃなかった。
自分の信じてた自分を否定された霊夢の気持ちは分かる――――――とは言えない。
でも、分からないとは言わない、霊夢は今、自分が分からなくなって自分を見失って、不安で不安で堪らなくて、そして自分の世界から与えられた役割とやらにすがりついいる、藁を掴む様に、それくらい霊夢は揺らいでいるんだ。
「馬鹿……相談しろよ、友達だろ」
悔しさと苛立ちにガリガリと頭を掻く。
「お前が何なのかなんてお前が一番知ってるだろ」
何が悔しいかなんて知ってる、何が苛立つのかも知ってる。
「霊夢は本当に人に頼るって事しねーんだよな」
そんな霊夢の何でも一人で抱え込んでしまうところが嫌いだ、今まで一度も悩みを打ち明けられた事なんてない、誰にも頼らず自分だけでどうにかしようとする、回りからは悩みが無い、頭が春だと言われるくらい、自分を誤魔化して悩みなんて無いふりして、年頃の女の子と変わり無いくらい悩みだってあるくせに、私だって気付いてる、あいつが一人でつく溜め息が軽いか重いか分からないほど私も鈍感じゃない、私はあいつの友達なのに……、それが堪らなく悔しい。
「まったく……、ふざけてるぜ」
そしてそんなあいつに何もしてやれなかった自分が一番苛つく。
拳を握る、指先の感覚が戻った事を確認し柱の影に隠しておいた箒を取り出す、長年使い込んだ箒はしっくりと手に馴染む、全身に編み上げられた魔力の回路を通して箒に魔力が伝わり箒と体が一つになった様な感じが伝わってくる。
私は魔法使いだ。
出来ない事を出来るようになる為に魔法使いになった、何だって出来るようになりたくて魔法使いになった、何でも出来るから魔法使いなんだ、だから今の私は魔法使いじゃないのかもしれない、誰が私を魔法使いと認めても自分は認められないかもしれない。
友達一人救えなくて何が魔法使いだ、それじゃあ地べたを這う団子虫の方がまだましだ、そんなものは魔法使いじゃない。
「じゃあ、なるしかないよな……」
柄を握り締め箒に股がる、意識を自分に向け集中する、回路を通して魔力が身体中を駆け巡り箒を介して推進力に換える。
「魔法使いに!!」
光の尾を残し魔理沙は駆けた。
―――――――――――――
帰りは行きに比べると段違いにキツい、予想はしていたが残念な事に予想を越えてかなりキツいものがある。
幻想郷最速を自負する私の飛行能力は種族としての特性に加え保持する能力に由来する、風を吹かせ追い風に乗り爆発的な推進力を得る、だが幻想郷最速であっても常に最高速とはいかない、私の持つ風を操る力をフルに使い追い風に乗って翼が軋む程羽ばたいても思う様に加速しない。
私は手にぶら下がるずっしりと重い地上への手土産の事を考えると苦々しく思う、今回の黒幕、諏訪子さんの念話による先導の元に辿り着き私の持てる最速をもって瞬きする間に捕縛した、順調と言える何の不手際も無く完璧な作戦の進行具合と言える。
地上への到着も予定どおりに行くだろう、あくまで計算どおりだ、黒幕を拘束する諏訪子さんの祟りの力の強さのせいか黒幕は身じろぎ一つしない、暴れられたらこの幅約3メートルの海の割れ目を走破する事は不可能に違いない。
深呼吸を一つ、上空を見上げる、遠く夜の光が淡く降り注ぎ地上との距離を教えてくれる。
…………あれ?
そんな時、違和感に気付いた、おかしい、明らかにおかしい、絶対におかしい。
左右に目を凝らし違和感の正体を確認する、間違いない、狭くなっている、海の割れ目はこんなに狭かったか?
最初の頃は翼を左右の目一杯広げても余裕があった、だが今はその余裕すらない、海の割れ目の幅、凡そ3メートル、3メートルのはずだった、それなのに今はいいところ2メートル強、狭くなっている。
何故? 地上で何かあったのか? 早苗さんの限界が予想よりも早くきたのか?
まずい、まずい、まずい、まずい、このままでは黒幕を地上に引きずり出す事なんて出来ない。
最後の詰で計画が頓挫してしまうなんて冗談じゃない、それでは幻想郷が終わってしまう。
それに――――――このまま私が海に飲まれたら私は死んでしまう、紫さんは言っていた、妖怪だろうと例え神であろうとそれが幻想なら、この海に触れれば消えてなくなる、『幻想の意味の死』を迎える、絶対的に消滅する。
悪寒にも似た寒気が全身を襲う、血管に氷水でも流された様なそんな異様な寒気、未知の感覚に戸惑う、何だろう、何なのだろう、この感覚は、こんな感覚は今までに味わった事が無い、千年以上生きてきたがこんな感覚は初めてだ。
でも、この感覚、感情は予想出来るかもしれない、たぶんあれなのだ、私にとって程遠い感情だと思っていた私には縁の無い感情だと自分には関係の無い感情だと思ってたあれだ……。
死の恐怖
歯の根が噛み合わない様にガチガチと鳴り調子のはずれた音を出す、手は搾れば溢れ出す様に汗でぐっしょりと濡れていた。
生きるものなら等しく平等に享受される死、自分には関係の無いものだとずっと思っていたものが今目の前にある、べっとりとしたタールの様に死が体にまとわりついている様な気がした、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい、まずい。
翼が鉛の様に重い、いや、気のせいだ、スピードは落ちてないし翼にはしっかりとした手応えを感じる、大丈夫、大丈夫、大丈夫、不安にかられ自分の翼をその目で確かめる何も変化などある筈がない。
「……ひっ」
情けない声を上げ息を飲んだ、確かめた翼は無事だし力強い羽ばたきに何の異常も無い、だが見てしまった、その翼の向こう側に存在する水の壁を……。
さっきよりも明らかに狭くなっている、水の壁が近付いている、もう翼と接触してしまいそうな程に……。
もしかして間に合わない? 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、間に合う? 間に合わない? 分からない分からない分からない。
見上げれば赤い月の浮かぶ空をはっきりと確認出来る程の距離まで来ている、良くてギリギリ間に合うか、最悪の場合……、いや、最悪などと言わずとも間に合わないのじゃないか?
水の壁は確実に、着実に、目に見えて迫っている、間に合わない、きっと間に合わない……。
ふと……、手が白くなる程握り締めていたそれに視線をやる、この作戦の要にして目的、拘束した黒幕の姿を……。
ここでこれを手放せば私は助かる。
荷物さえ手放してしまえば私は全速力で飛べる、そうすれば地上までは楽勝で行ける。
確かに作戦は失敗する、最悪の場合幻想郷は水の底に沈むだろう、でも幻想郷が沈むだけじゃないか……、幻想郷が沈むだけなら別に誰かが死ぬ訳じゃない、幻想郷が駄目ならどこか別の場所に行けばいい、何も幻想郷にこだわる必要は無いはずだ、上手くやれば、ちゃんとやれば誰もしなない、誰も犠牲にならない……、そうだ、なら私が犠牲になる必要なんて無いはずだ、誰も私を責めたりしない。
静かに左右を確認する、水の壁はさっきより更に近付いている、間近にと表現して差し支えない……、一つ深呼吸をしてその両手にぶら下がる鉄の輪に拘束された黒幕の姿を確認する、右手の指がするりと鉄の輪からほどける。
ゴッ、と岩と岩とがぶつかった様な音がした、口元から線を引くように血がつたう、右手は諦めたのではなく、諦めようとした自分を殴ったのだ。
はっは……、ふざけてる、まったくもってふざけてる。
誰も私を責めたりしない、だって? 馬鹿な、ふざけるな、ふざけるな
「ふざけるなッ!!」
例え誰が許そうと、例え誰もが責めなくても必ず一人それを許さない人がいる、最後の最後まで責め続ける人がいる、例え誰が許しても――――――絶対に私が私を許さない。
離した右手でもう一度鉄の輪を握り直す、痛いほどに握り締めた手は血が出ているのかも知れない。
一瞬でも諦めようとした自分を恥じた、仲間を救おうという誓いを破ろうとした八坂さん達の信頼を裏切ろうとした、それは絶対に許さない。
「自らの汚名は自らの手で返上するしかないですね……、新聞は信頼が大切ですから、信頼の無い新聞なんて只の紙屑です」
もう迷わない、もう自分に騙されない、「私は前に進む」そう言った自分に偽らない、決意を新たに地上を見上げた。
地上まではもう少し、時間にして10秒強、水の壁は確実に狭まっている、ギリギリになるだろうが間に合うはずだ、いや間に合わせてみせる。
その時だった、そう決意したその時だった、ぐにゃり……と水の壁がたわむ、糸が切れたかの様にその形を維持出来なくなり水の壁が崩れだした。
「……ッ!」
決壊が始まった、早苗さんが道を維持できなくなった、そういう事なのだろう。
海の裂け目に本来の形を取り戻す様に水が裂け目に雪崩れ込む、あっと言う暇もなく私は左右から押し寄せる水に飲まれた。
全ての計画がパーだ、文字通り計画は水の泡になる、このままでは間違いなく……、だが咄嗟に体は動いた、円盤投げの様に半周を描き黒幕を正面に投げる、投げた黒幕は1メートルと進まず止まる、強力な水の抵抗の前に天狗の腕力を駆使しても地上まではまだ遠い、足りないのだ、まだ足りない。
足りないなら、まだ足りないのなら、足すまで!
回転の勢いを殺さず体を捻り一回転、腰に刺した葉団扇を抜き正面に向かい横凪ぎに振るう、呼ぶは烈風、走るは疾風。
『風符』 天狗道の開風
直後に水を撹拌する様に竜巻が現れ黒幕を地上へ向かって吹き飛ばした、水を螺旋に引き裂きながら『鉄の輪』に拘束された黒幕は地上へと吹き飛ばした。
良かった……、全部無駄になんてならなかった……。
視界がぼやりと霞みだし意識が遠くなる。
何だろう……、これは……。
そして、私は紫さんの言葉を思い出した……。
あぁ……。
これが死か……。
―――――――――――――
早苗は力尽きた、湖に落ちる早苗は辛うじて諏訪子がキャッチし無事だが早苗の術は失効された、既に海は閉じた、射命丸は上がって来ない、射命丸は間に合わなかった、作戦は失敗した。
「ッ! 神奈子! あそこ!」
諏訪子は何かを感知したのか静かになった水面を指差す、私が指先を追ったその時だった。
水面が裂け竜巻が発生した、螺旋を描き水を巻き上げ天を突くように様に竜巻は上へ上へと伸びる。
その途中、竜巻が爆た。
内側から強引な力によって竜巻は破壊された、その中心にその女はいた。
「……鴉風情め」
女は手に持っている『鉄の輪』を握り潰す、見た目は二十歳あるかないか、幾重にも重ねられた着物には龍が裾を一周するように描かれている、大きな金の髪飾りに二つに結わえた黒く癖の無い足首まで有りそうな髪、顔立ちは美しく黄金比で造られた彫刻の様だ、だがその目は血のように赤く、肌は幽鬼の様に不気味な程に白い。
間違いない、あれが黒幕だ、射命丸はやり遂げたのだ。
「諏訪子……」
私の問い掛けに無言で頷く、諏訪子もあれが黒幕と核心している。
回りを見回す、山の妖怪達もただならぬ雰囲気を感じてか皆同じ様に黒幕を凝視していた。
「私は風神八坂神奈子、幻想郷に戦争を仕掛けようとはいい度胸ね、名前はなんと言うのかしら?」
黒幕は眉を潜めると自分を取り囲む妖怪達を一瞥し薄く笑った。
「総力戦……と言ったところかの……、ふむ、妾は竜神綿津見三幡、随分と丁重にもてなしてくれたものじゃの」
「ゲストをもてなすのはホストの務めだから、丁重に丁寧にね……。
いちよ聞いてみるわ、貴女の目的は?」
「目的? 幻想郷を海で塗り潰す事よ」
「そう……」
静かにそう言った、前触れも無く虚空から現れた四本の御柱が背後で二つのV字を作る、手加減無しの本気、そんな事は諏訪大戦以来かもしれない、竜神とはそういう相手なのだ……、でも最悪の部類だが予想の範囲かも知れない、予想出来ない程の巨大な敵ではない、そして竜神、綿津見。
文字通りに竜族の海神、海神の綿津見三神に縁のある者だろう、神では超の付く有名どころだ、だからこそ自ずと力も予想出来るというものだ。
私が天で諏訪子が地、そして敵は海、この勝負なら有利は有っても不利はは無い。
絶対に勝つ。
もう一度諏訪子と視線を合わせる、そして周りを見回す。
「皆の者! よく聞け! あれが今回の真の黒幕、倒すべき我らの敵だ! 幻想郷の存続の為、我々の未来の為に倒すべき敵だ! 幻想郷の危機は幻想郷の住人たる我々の手で払わねばならない! これより我々は災厄の主、綿津見三幡を掃討する! 大天狗!! 山の妖怪達の指揮は任せる、我らは先陣を切る! それに続け!」
大天狗の指揮官は最初は戸惑いもあったが自分の本来の役割を思い出すと部下に適切な指示を飛ばす、ほんの数秒、天狗達の編隊が一斉に三幡を包囲した。
地上では救護を担当する者達が一斉に退避と応急処置を済ませている。
様々な事があり混乱してるだろうと思っていたが山の妖怪達は機敏に行動をする、これならいける……。
三幡を睨み付け宣言する。
「さぁ、戦争をしましょう」
空と空間を割る様に無数の柱が真っ赤な夜の空を埋め尽くす、諏訪子の周りに鉄塊や鉱石の塊が浮かび上がる。
三幡は薄く薄く笑う、圧倒的な数の有利など無いとでも言う様に、でもそんな誤った認識など優しく改めてやるつもりなどない、その体に直接教えてやるまでだ、この勝負勝つ。
一匹の竜を落とす為に妖怪達の戦いが始まる。
幻想郷大戦が始まる。
読んで頂いた皆さん、ありがとうございます。
待ってくれてた人には有り難いと思いつつ申し訳ないです。
前話から凡そ三ヶ月の間を空けてしまいました……。
最初は一週間に一度更新してましたが、なかなかそう続かないものです。
大変申し訳ない……。
さて……、射命丸沈んじゃいました、人は辛い時や追い詰められた時に、楽な道や逃げ道を見せられると自分に色んな言い訳をして逃げてしまうものです。それは妥協だったりします。
そもそも逃げる事自体は悪い事ではないのですけどね……。
そんなお話でした。
パロディ
「やれやれだぜ」
ジョジョの奇妙な冒険 第三部以降 空条承太郎の口癖
「戦争をしましょう」
化物語ひたぎクラブより戦場ヶ原ひたぎを助けようと追い掛けてきた阿良々木暦に対して放った台詞
次回はいよいよ守山山の妖怪勢と三幡がぶつかります。
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