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聖初書~二章~
第二章~Chapter 2~信じるもの
 佐々神(ささがみ)はこれからの行動を考えた。
 正直言ってハイレベルの魔術師の戦いに、カトレアなんかからみたらただの高校生同然の佐々神が割り込んでいくのは得策とは思えない。だが、そういう問題ではなかった。いくら佐々神が弱かろうと、足手まといだろうと、EARTH(アース)が関わってくる以上佐々神は逃げることが許されていなかった。
 カトレアの言うとおり、風雅(ふうが)聖樹(まさき)はある意味で被害者だ。そんな彼を佐々神は心から救いたいと思っていた。
 だから。だから佐々神は決めた。風雅聖樹を説得しようと。
 もちろん佐々神は勝算があるとは思っていない。信者を説得するのがどれほど大変なのかを身をもって知っていながら、佐々神は決心したのだ。
 佐々神は地面を蹴り前進する。
 しかし、カトレアは聖樹に攻撃を加え続けている。今行けば邪魔になってしまうだろう。だが――
 佐々神は地面を蹴り、水平になっていたベクトルを四十五度に変える。
 そして、真上から大鎌(サイズ)を振り下ろした。
「っぐ!」
 聖樹は咄嗟にバックステップをするが、佐々神は空気断絶(エアラプター)だ。本質は物質ではなく風だ。
「カトレア。少し手を引いてくれないか? こいつと一対一でやりたい」
「あなたじゃ……」
 それを打ち消すように、
「分かってる! 俺が弱いことくらい。でも、やらせてくれないか?」
 カトレアは黙り込む。
 魔術師の戦いとなれば、やらせてくださいと言われて、はい、いいですよ、とは言えない。これは試合でも何でもなく文字通り戦いなのだ。互いの命を賭して自分の信念を相手にぶつける、そんな行為なのだ。
 明らかに敵より劣っている高校生をとんでもない魔術師のプロと戦わせるなど、冗談でもあり得ないだろう。漫画みたいに戦っている主人公が負けそうになると、勇者の力に目覚めて相手をやっつけるなんてドラマも起こらないし、カトレアが居るからと言って、危なくなったら即座に助けに行けるほど聖樹とカトレアの間に実力差はない。むしろ、相性を考えれば相手の方が強いかもしれない。
 しかしその前に、戦いとは互いの命を賭して自分の信念を相手にぶつける行為でもあるのだ。おそらく佐々神には人には譲れない何かがあるのだろう。
 なら、とカトレアは思った。
「……佐々神君を信じてみようかな?」
 そう小さくつぶやくと、
「思う存分ぶちのめしてきなさい! アレみたいな分からず屋は殴らないと分からないのよ」
 佐々神は少し微笑むと聖樹を振り返った。
 聖樹は見るからにイラついていた。
「お前みたいな雑魚が……「お前の信じているものはなんだ!」」
 聖樹は少し顔を強張らせ、
「突然何を言い出すんだ?」
「だから、お前は何を信じているんだ!」
「宗教のことを言っているのなら、EARTHだ」
「だったら、お前は(しょう)を信じているのか? あいつが神様なのか?」
 そう言うと聖樹は顔を真っ赤にさせ、体を震わせていた。
「違うよな? 俺は俺の考えを信じている。神様なんてよくわからねーし、聖書なんて見たことすらない。お前からみたら神を信じない俺はとんでもない愚か者に見えるだろうな。それでも、俺は俺を信じている。なら、お前はいったい何を信じているんだ?」
「俺は、俺は……」
「お前がどこの誰を信じていようが構わねぇ。ヤハウェだろうが、ミハエルだろうが、とんでもねー悪魔だろうが! でもな、信じるものを間違えるなよ! お前は地球(かみ)を信じているんじゃないのか? EARTHが命令したからって何でもやるのか? 違うだろ! お前が信じているのはEARTHじゃなくて地球だろ。だったら自分自身で考えて、地球のためになることをやるんじゃないのか? 何か反論があるなら言ってみろ!」
 聖樹は心底イラついていた。自分より年下のガキに説教され、しかもそのガキが魔術師でも何でもなくただの高校生で、おまけに何の神も信じていないとかほざく呆れるほどの愚か者で……そして何より、正論だった。
 しかも悔しすぎて涙も出ないほどの正論だった。
 聖樹は人生のほとんどをEARTHという組織で過ごしてきた。それが何も不満だった訳じゃない。仕事はあるし食事も出る。勉強も教えてくれれば魔術や体術も教えてくれる。そこに属しているだけで世の中を生きていけるだけの知識や力が身についていった。
 ただ、仕事の内容が分からなかった。EARTHのためだと聞かされてきたが、人をさらったり、他組織の魔術師を殺したり、魔術の存在自体知らない一般人を殺したこともあった。
 EARTHで教えてもらったはずの常識で考えれば、明らかに人道に反している。だが、EARTHはそれを必要だと言って聖樹に命令を出した。
 今まで聖樹はその矛盾を考えないようにしてきた。
 だが、もしかしたら。今がその矛盾について考えるべきじゃないのか、聖樹はそう考えた。
 そして、それを考えた上で、
「もう一度言おう。大人しくEARTHに来い」
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