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三章
第三章~Chapter 3~二つの未知
 カトレアはエレベータから降り、どちらに行くか迷っていた。
 ちなみに一階だ。なぜ先日はカトレアの部屋がある階から降りて来れたかと言うと、カトレアの安全を確保できるように緊急時に限り止まる仕組みになっている。だが、カトレアは緊急時でもないのによく使っている。理由は単に面倒だからだ。
「はあ、どっち行ったのよ」
 渋い顔をする。後ろにはさっきスピーカで喋っていた男が居る。
 男はびくびくとしていた。こんな事態になったのは初めてである。カトレアですら数えられる程度しかない。
 男は感心していた。佐々神(ささがみ)(あずさ)は臆せずに飛び出していった。大の大人である、男ですら怖いのにだ。
「ねぇ、アンタは左行ってくれない? アタシは右行くから」
 カトレアは返事も聞かず駆け出していく。
 建物内を熟知したカトレアは自然に佐々神や梓が居そうなところを割り出し、探していた。
(なかなか見つからないわね。どこにいんのかしら?)
 カトレアは少し疲れたのか走るのを止め歩き始めた。
 左右に通路を発見するたび覗いて行く。それを繰り返しながら通路を進んでいく。
 しばらくカトレアの足音だけが狭い通路に響き、少しばかり不気味な雰囲気を(かも)し出していた。
 足音以外静寂の世界で、ようやく足音以外の音を発見することに成功した。
 バチバチと電気が走るような音だ。すぐさま全方位を確認し音の出所を探る。
(どうやら、待合室の方から聞こえるわね)
 カトレアは再び駆け出す。
 待合室の扉の前に立つと、中から激しい雷を放つ音が聞こえる。
 カトレアは勢いよく扉を開け、中を確認する。
 そして、一番最初に移りこんだのは見慣れた金髪のツンツン頭の少年が床を()っている姿だった。そこへ魔獣が飛びかかる。
 その光景を目の当たりにしたカトレアは、無意識のうちに両手を(かざ)し先日佐々神たちに見せた魔術とは比べ物にならないほどの上級の炎を放つ。
 轟音と共に部屋中が真赤に染まる。
「アタシの教え子になにしてんの?」
 カトレアは叫んだ。教え子なんて一度も言ったことないのに気が付いたら叫んでいたのだ。
「う、ぐ……ぁ」
 男の(うめ)き声が聞こえる。
(チッ、やっぱり生きてたか)
 カトレアは心の中で悪態をつく。佐々神を巻き込まないようにコントロールしたせいで敵を仕留めきれなかった。
 カトレアはとどめを刺そうと真赤に染まった部屋を見渡し男を探す。
 ここでカトレアは男の顔が分からないことに気付く。無意識のうちに魔術を使っていたカトレアは男の顔を見ていなかった。
(失敗したなぁ)
 そんなことを考えていると向かいの扉が誰かに蹴破られ、直後男の声が聞こえた。
「応援に来た」
「はあ、面倒なのが来たわねぇ」
 カトレアは視界が晴れる前にケリを着けようと駆け出す。無詠唱で右手に炎を(まと)わせる。体術で鍛え抜かれた体と、さらにそれを魔術によって一時的に強化された体は異常なほどのスピードを叩きだした。
 一瞬で新たに部屋に侵入した男の前に辿りつく。
 カトレアは男の(あご)目がけて、炎を纏わせた拳で打ち抜く。
 男は避けようとしたがカトレアの異常なスピードを前にその行為は無意味だ。爆発音と共に男は部屋から吹っ飛び、二〇メートルも先の通路の壁に叩きつけられる。
 すぐさま振り向きさっきの男を探す。目を凝らすと黒いシルエットが見える。
 冷気系の魔術で部屋の温度を下げ、鎮火させるとすぐに視界が晴れる。黒いシルエットに色が付き始める。
 ようやく深い青のジーパンに上は無地のダボッとした長袖のTシャツを着ている男が見える。
 カトレアは不気味に口角を上げ、強く地面を蹴る。ジーパンの男に何のアクションも起こす暇を与えずに拳を握り、さっきと同様ジーパンの男の顎目がけて高速でで打ち出す。
 爆発音が部屋に響く。
 カトレアは茫然(ぼうぜん)としていた。原因は目の前の男が消えていたからである。
「何なのよ……」
 カトレアは頭をフル回転させ、さっきのことを思い出す。
 ジーパンの男に隙を与えず、炎拳を打ち出したはず。あれは音速を遥かに超えたスピードで打ち出されているため、人間にはかわすなんて芸当はとてもできない……はず。
 まさか……。カトレアは一つの結論にたどり着く。
 カトレアの推測が正しかったら、最後は一方的にやられていたとは言え、佐々神はとんでもない相手と戦っていたことになる。
(佐々神君ってホント何者なのよ……)
 カトレアは床に転がっている石となった幻器(げんき)を見つける。
「お、アタシもやってみよ」
 密かに幻器(げんき)を使いたかったカトレアは石を手に取り、強く握りしめ、魔力を最大限込める。
 ……………
 何も起きない。
(あれ? おかしいなぁ。魔力を込めすぎたのかな?)
 カトレアは魔力量が原因と判断し、もう一度魔力を抑えて込める。
 ……………
 それから何度やっても幻器(げんき)を使うことが出来ない。魔力を鋭くしても柔らかくしても、早く込めてもゆっくり込めても変わらない。
(何なの? 佐々神君はいつもどうやってるの?……)
 カトレアはとりあえず佐々神の変化のしない石を置き、梓を探すため部屋を出た。
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