紅葉
肌寒い季節になってきた。
夕方になると強い風が頬を打つようになる。
舞い上がった砂埃に、私は思わず目をふさいだ。
瞼を閉じるのが、少し遅かったみたいだ。細かい埃が目の中に入っていた。
よく、鈍くさいと言われる。反射神経も人より鈍いらしい。自分ではよくわからないのだけれど。
ポケットからハンカチを取りだして、目元を拭った。涙と一緒に埃も取れた。
目をしばたたかせ、秋の街路樹を見上げると、ゆらゆらと紅葉した葉っぱが落ちてくるところだった。
何とはなしに目で追った。葉っぱは風に揺れながら、歩道の上に落ちた。
地面は赤色に染まっていた。
色鮮やかな赤。
隙間なく敷き詰められた赤。
たくさんの人が血を流していた。
「生き残りがいるぞ!」
銀色の服を着た人がこっちを見ていた。赤い斑点が服を汚していた。
なんだか怖くて、涙が出た。
ハンカチで目元を拭いた。
ぐしょりと湿っていた。
赤。
目から出ていたのは、血液だった。
ああ、鈍くさい。
鼻や口から血が噴き出した。
みんなと同じように。
「駄目だ。手遅れだ」
「畜生、細菌兵器なんか使いやがって!」
どこもかしこも、秋の空だった。