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異世界転生に感謝を 作者:古河正次
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決意

 ザック達と共にUターンして戻ってきたジン達は、到着後すぐに冒険者ギルドへと向かった。
 しかし、依頼に出たはずの『巨人の両腕』がボロボロの装備で戻ってきたとなれば、何か想定外の問題トラブルが起こった事は容易に想像がつく。
 ジン達も含めて全員すぐに会議室へと通され、つい先程までゲルドとの遭遇や討伐の状況説明をしていたところだった。

「お疲れ様でした。そしてありがとうございました」

 そう言って頭を下げたのは、ジン達がつい数時間前に別れを告げた冒険者ギルドの男性職員だ。彼の手にはジン達が提出したゲルドの冒険者カードがあり、カードを握り締めるその手は僅かに震えていた。

 この男性職員はトロン冒険者ギルドに長年勤めており、当然ゲルド達とも面識があった。というよりゲルドと同郷という事もあって、親しい関係だったと言っても良い。ゲルド達がトロンの街を離れる際には、残るザック達の面倒を頼まれた程だ。
 遠く離れて活躍していた彼らが遭遇した残酷な運命を嘆いていたが、最期は愛弟子とも言える後輩達に看取ってもらえたのならば、それは未だ救いがある結末だと彼には思えた。それにザック達が語ったゲルドの最期は、彼に考えられる限り最上の死に様だった。

 彼の言葉は盗賊ゲルド討伐に対してギルド職員としての「お疲れ様」であり、友人ゲルドを狂気から解放した上に遺体も持って帰ってきてくれた事に対して、個人としての「ありがとう」だった。

「彼の遺体については私にお任せください。大っぴらには出来ませんが、ちゃんと埋葬できるよう手配します」

 冒険者から盗賊に堕ちる事は、冒険者ギルドにとって最も忌避すべき事だ。それはレベル差によって一般人と隔絶しやすい冒険者だからこそ、絶対に許されるべき事ではない。
 しかしゲルドはまさにその盗賊に堕ち、その手で多くの命を奪った。普通なら埋葬する事も難しい程だが、遺体の存在は誰にも知られていないこともあって、長年勤めて各方面にコネを持つ男性職員ならば手配が可能だった。

「「「宜しくお願いします」」」

 『巨人の両腕』のメンバーと共にジンも頭を下げる。心強い男性職員の言葉に、一つ肩の荷が下りた気がするジンだった。

 その後は一足先にジン達はその場を立ち去った。以降の手続きは『巨人の両腕』で行い、ジン達の存在は記録上はあくまで『手伝い』という事になる。
 何故ならジン達はリエンツの街所属のDランク冒険者なので、元々トロンの街での依頼には関わる事が出来ないのだ。それに目立ちたくないというジン達の意向をみ、その記載はごく小さなものになる予定だ。
 勿論、報酬面まで小さくなってはザック達・・・・が納得しないので、後でギルド酒場に集合して報奨金の半分をジン達がもらう事になっている。また、金銭以外ではジン達がゲルドの大剣を、それ以外の装備や所持品は全てザック達が受け継ぐ事になった。
 遠慮するジンとそれでは筋が通らないと納得しないザック達との普通とは逆の攻防は、こうした形で決着したのだった。

 ギルドを出たジン達には神官のアシュリーも同行している。そのアシュリーの案内でまずジン達は馬車でゲルドの遺体を神殿へと運び、遺体を降ろした後にその場でアシュリーと別れた。その後は、昨日宿泊した宿で今日も部屋を取り、約束の時間までは各自休憩する事にした。

修復リペア

 ジンの修復魔法が発現し、手元にあったマッドアントクイーンの甲殻が減っていくと同時に、鎧に付いていた傷が消えていった。丹念に傷ついた箇所をなぞり、何度も修復魔法をかけるジン。
 魔物素材を使っていたおかげか、何度かゲルドの攻撃を受けたものの思っていたよりはマシな状態だ。逆にグレイブの損傷の方がひどく、これも修復魔法のおかげで見た目は欠けた所も無い状態に戻っているが、ハンマーで叩いたわけではないので切れ味は万全ではない状態だ。鎧同様、元通りの状態に戻すにはガンツのメンテナンスが必要になるが、当面はこれでいくしかない。
 しかし、重量はあるものの固くて丈夫な事には定評がある黒鉄製のグレイブが、ここまで刃こぼれするとはジンは思ってもいなかった。言い方を変えるならば、ガンツの作った黒鉄製のグレイブがあったからこそ、ゲルドの大剣の猛攻をしのげたのだろう。
 鎧の手甲ガントレットもそうだが、もし旅立つ前にこのグレイブをガンツが持ってきてくれなかったならば自分はもうこの世にいなかったかもしれないなと、ジンは身震いすると同時にガンツに深く感謝した。

「ふう」

 一通り修理も終わり、何もする事のなくなったジンは気付くとため息をついていた。
 何かをしていれば気がまぎれるが、ふとした瞬間についゲルドとの戦いとその結末を考えてしまうのだ。

「いかん、いかん」

 ジンは軽く首を振って余計な考えを振り払う。悩む事や考える事は大事な事だが、それに囚われて後ろ向きになってしまっては意味が無い。

「おっと、そう言えばやるべき事はまだまだあったな」

 今更の話ではあるが、ジンはゲルドの大剣を『鑑定』するどころか未だじっくりと見てもいなかった。それにゲルドとの戦闘中に成長したり、新しく増えたスキルも確認していなかったなと、ジンは余裕が無い自分に苦笑してしまう。
 まだ約束の時間には充分余裕があるのでジンは本腰を入れて考えようとしたが、それはドアから聞こえてきたノックの音で中断する事となった。

「ジンさん、少しよろしいでしょうか?」

「あ、はい。今開けます。ちょっと待ってください」

 聞こえてきたアリアの声にジンは急いでドアを開けると、そこにはアリアだけでなく、エルザやレイチェルの姿もあった。

「皆してどうしたんです? まあ、どうぞ中へ」

 そう言って三人に中に入るように勧めるが、座れそうなのはベッドと備え付けの椅子が一脚しかない。ジンはドアを閉めると全員座れるように小さなテーブルと椅子を『無限収納』から取り出して並べた。

「すいません、余計な手間を取らせてしまって」

 恐縮してアリアが謝るが、ジンにとっては大した労力でもない。全員が席に着くと同時に、ジンは同じく『無限収納』から買い置きしておいた果汁100%ジュースを取り出して並べていた。

「いえいえ、それでどうしたんですか?」

 身振りでジュースを勧めつつジンは尋ねた。
 言いよどむ彼女達を横目に、ジンはジュースを一口飲んで彼女達が口を開くのを待った。

「あ~、その、大丈夫かなと思ってさ」

 エルザが言いにくそうに口を開くが、それだけでジンは成る程そういう事かと察しがついた。

「心配して来てくれたんだね?」

 ジンがそう尋ねると、三人は神妙な面持ちで頷いた。
 アリア達はジンの優しさを知っているだけに、人を殺してしまった事がジンには辛いだろうと思ったのだ。ましてや相手は盗賊とは言え、その境遇に同情するところが無いわけでもないのだ。
 彼女達が心配するのも、無理はない話だ。
 これまではザック達の目もあったので話をする事は出来なかったが、今なら大丈夫だろうとこうしてジンの部屋を訪ねて来たのだ。

「ありがとうね」

 彼女達の優しさがジンには身に染みる。確かに辛くないと言えば嘘になるが、これは自分で解決しなければならない問題だ。それに自分の恋人とかならいざ知らず、仲間である彼女達に甘えて一時の癒しを求めるわけにもいかない。
 ここは男の意地の張りどころだ。

「でも大丈夫。もう気持ちの整理はついているから」

 笑顔でジンは伝えるが、これも全てが彼女達を安心させる為の嘘というわけではない。
 ジンは動物を殺して肉や皮を得るように、魔獣を殺して素材や魔石を得ている。それは日々の食事や人々の生活を豊かにするために使われ、決して無駄になる事は無い。
 魔獣や獣の命を奪う冒険者を仕事にしている以上、その命を無駄にしない事が最低限の義務だとジンは考えている。
 そしてそれは今回も同じだ。
 ジンはゲルドを殺したが、その命を無駄にしないように、彼の生き方や行動を教訓として自分の糧にするつもりだ。
 ゲルドの過去を知り、見習うべきところは見習い、ゲルドを襲った悲劇を知り、同じてつを踏まないように心に刻む。魔獣とは違い人であるゲルドとの戦いは身体的なレベルアップに寄与する事はほとんどないが、スキルや経験で考えればジンに多大なレベルアップの機会を与えた。そしてそれもまた、ゲルドが遺したものの一つだ。
 これまでのゲルドの生を無駄にしないのが、その生を奪った自分の義務だとジンは考えているのだ。

 これが相手が心底の外道だったならば、ジンはそう悩む事も無かっただろう。そんな相手の人生を知る事もしなかっただろうし、気に病むのも少しの時間だけだったはずだ。しかし、今回のゲルドが一部共感も出来る相手だっただけにジンもここまで考え続けたし、アリア達も心配してしまうのだった。

「……」

 大丈夫だと言うジンの言葉を聞いても、アリア達の態度は変わらない。
 無言のままジンを見つめる三人の顔は、無理はしないでと言わんばかりの心配そうな顔だ。
 ジンは本当に自分は仲間に恵まれているなと嬉しく思う。だから少しだけ弱音と本音をこぼす事にした。

「気持ちの整理が付いているのは本当だよ。でも確かに人を殺してしまったのはショックだ。たぶんこれからもふとした拍子に思い出して悩むんだろうね」

 苦笑いという形でジンはそう話すが、ここでジンは表情を真剣なものに変えて言葉を重ねる。

「でもさ、後悔はしていないし、これからも殺すという選択は俺の中から無くなりはしない。相手が命を奪う気で来るなら、こちらも同じ気持ちで戦うのは当たり前だからね。ただ……」

 そこで一旦言葉を切ったジンは、右手を胸の前に出して拳を強く握り締めながら見つめる。

「強くなりたい。どんな強敵も簡単にあしらう事が出来るほど強く。殺さないという選択が、殺すのと同じくらい容易に出来るレベルまで強く!」

 今回はゲルドの方が圧倒的に強く、殺さなければ殺されていたのはジンだっただろう。だが、もしジンがゲルドより遥かに強かったならば。その場合は殺さないという選択もあったのかもしれない。
 勿論それはあくまで現実ではない「もしも」の話ではある。しかし、一つだけジンが後悔する事があるとしたら、それはあの時に殺すという選択しか選べなかった弱い自分に対するものだった。
 ジンが言っている事は現実的ではなく、厳しくて先が見えない道のりだ。だが、いつかそこまでたどり着きたいとジンは強く思ったのだ。

「私もだ」

 そのエルザの言葉と共に、ジンの拳をエルザの両手の平が包む。

「私は悔しかった。戦うのをジン独りに任せ、ポーションでの治療や弓での牽制しか出来なかった自分が情けなかった」

 悔しさのあまり目に涙が浮かぶが、それを流すまいと歯を食いしばって耐えるエルザ。

「私も強くなりたい。ジンと肩を並べて戦えるほど強く。ジンが危ない時には助けられるほど、私は強くなりたい」

 エルザは涙をこらえたまま誓うように言った。その目はジンの拳を包んだ自分の手を、キッと睨むように見つめている。
 そして続くように別の手が重ねられる。

「私も強くなりたいです。自分独りでも心配要らないほど強く。回復魔法だけではなく、ジンさん達のフォローも出来るほど強く」

 レイチェルも悔しかった。近接戦闘でも人並み以上に戦えると思っていたが、そんなものは大きな勘違いだと身に染みて分かった。自分を守る為に護衛が必要な様では、前衛の行動が制限されてしまって足を引っ張ってしまう。
 レイチェルは回復魔法を有効に使うためにも、まず自分の戦闘能力を上げる必要性を強く感じていた。

「私も同じ気持ちです。もっと魔法の腕を磨き、同時に近接戦闘も鍛えなければ、今回の様に高ランク相手の戦闘は危険だと身に染みました。私も強くならなければいけません」

 最後に重ねられたアリアの手が、優しく全員の手を包み込む。
 ずっとソロでやってきたアリアにとっては、ゲルドとジンの戦いはその理想形とも思えるものだった。それを可能としたのは、ジンの近接戦闘能力の高さだ。しかしパーティとして考えた時には、何より魔法攻撃力の向上が重要になる。あの時もっと自分の魔法に決定力があれば、ジンの戦いはもっと楽になるはずだったとアリアは分析していた。

 今回は三人とも最初は『巨人の両腕』のメンバーの回復が役割で、ギリギリまでジン独りに任せっきりだった。
 それはジンの強さや特性を信じての決断で、それが全員の命を助ける為には一番の方法だったのは間違いないだろう。しかし、その立場に甘んじていられるようなアリア達ではなかったのだ。

 ジンは空いていた左手を、折り重なった皆の手の上に乗せる。
 自分にはかけがえのない仲間がいる。ジンはその喜びを噛み締めていた。

「皆で強くなろう。レベルも上げるし、スキルも磨こう。俺が知っている技術や知識は皆にも教えるし、皆も教えていいものは全員に教えてくれ。独りで強くなるのは難しいかもしれないが、皆で協力すれば全員で強くなれると俺は思う」

 そこでジンは正面のエルザ、右にいたアリア、左のレイチェルの目をそれぞれ見つめる。

「全員で強くなるぞ!!」

 そのジンの掛け声に。

「「「はい」」」

 三人の声が重なって応えた。
表現が難しいorz
次は8日前後で更新予定です。
次回ちょこっとザック達との一幕があった後、ようやく帰還の予定です。

予定です^^;

ありがとうございました。
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