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戦闘開始

 あれから数時間後、ジン達は目標魔獣の近くまで来ていた。

 相手は自分達より格上の魔獣だ。以前の変異種との戦いと同様に、今回も敵の情報が勝利の鍵となる。

 見つからない様に慎重に進むジン達。『隠密』スキルを持つジンを先頭に、少し離れてアリア達が続く形だ。


 この魔獣を警戒して避けているのか、ジンの『地図』で確認した限りは近くに他の魔獣の反応はない。


 ジンは姿勢を低くしたままゆっくりと魔獣がいる場所へと進み、そして慎重に岩場から顔を出した。

 その視線の先にあったのは、ちょっとした小屋ぐらいの大きさはありそうな巨大な毬藻まりもだ。


「!?」


 思わず自分の目を疑ってしまうジンだったが、もう一度見直すとそれは当然のごとく毬藻などではなかった。

 植物系というのは変わらないが、よく見ると何かに太いつたがぐるぐると巻きついて球体のように見えていただけだ。その蔦にも魔獣の特徴とも言える赤黒い線がいくつも見られ、この蔦が丸まったものが魔獣である事に間違いは無いだろう。

 ジンは後ろを振り返り、アリア達に手招きをして呼び寄せた。

 ジンと同様に魔獣の姿を見て驚く三人だったが、確認後は一旦下がってミーティングを行う事にした。


「で、あれって何? 誰かわかる?」


 ジンの問い掛けに、一斉に首を振る三人。

 これまで遭遇した魔獣は、全て動物や昆虫をベースとしたものだった。今回のような、植物がベースと思われる魔獣は初めてなのだ。


「少なくともリエンツの街周辺にいる魔獣ではないですね。植物型の魔獣など、私も聞いた事がありません」


 申し訳なさそうにアリアが言うが、この中で一番経験豊富なアリアさえ知らない魔獣だ。慎重に対処しなければいけないだろう。


「こうなると実際に戦ってみないと分からないが、ある程度は想像で予測を立てておくべきだろうな。いくつかパターンを考えた上で、後は臨機応変に戦おう」


 それに囚われ過ぎてはいけないが、前もって対策を考えておくのは当然の事だろう。

 このジンの言葉をきっかけに、予想される敵のパターンとその対応を全員で話し合った。そしていくつかの対応策を決め、ジン達はいよいよ仮称『つた魔獣』との戦いへと臨む事にした。



 姿勢を低くしたまま、慎重に四人は蔦魔獣へと近づく。ジンとアリアが前衛につき、その後ろにエルザとレイチェルが続くフォーメーションだ。

 ゆっくりとある程度の距離まで近づくと、ジンとアリアはその体勢のまま詠唱を始める・・・・・・


「マナの炎よ、集いて我らが敵を撃て……」


 呪文を唱えるジンの眼前には、「火矢ファイアアロー」の魔法文字を記した〔メモ帳〕が存在している。それはジンの視線を遮らない透明のウィンドウで、そこに描かれている魔法文字だけが半透明で浮き上がっている状態だ。

 これは以前クラークから聞いた魔法発動の為の秘策を参考に、ジンが自分の能力を活用してアレンジしたものだ。勿論この方法に頼り切っている訳ではなく、ジンは魔法習得の為にこれまでもずっと魔法文字の勉強を続けていたのだ。


 ジンは眼前の魔法文字を眼でなぞり、脳裏に描きながら慎重に呪文を唱える。そして……


「……『ファイアアロー』!!」


 ジンの叫びと共に、構えた手の平から蔦魔獣目掛けて勢いよく炎の矢が飛んでいった。


 それは、ジンが初めてこの世界の魔法を習得した瞬間だった。

 ジンは湧き上がる喜びをかみ殺しつつ、そのまま再度「ファイアアロー」の詠唱に入った。


「……『ファイアボール』!!」


 続いて詠唱が長い分ジンから少し遅れ、アリアが唱えた「火球ファイアボール」が発動する。先にあたったジンに続いて、これも蔦魔獣に見事命中した。


「……?! ……!!」


 不意打ちで魔法を二発も喰らった蔦魔獣は、体に巻きつけていた蔦を勢いよく広げる。すっかり変わったその外見は、もう毬藻と見間違う事も無い。

 それはワンボックスカーくらいの大きさがある緑色の熊のような四足の獣の姿をしており、背中からはウネウネと動く六本の大きな蔦が生えている。その四本の足はまるで木の根っこの様に地面に根を張っており、まるでそこから地面の養分を吸い上げているかのようだ。


 それはまるで植物を材料に動物を作ったようで、獣と植物が融合したような姿だ。


「……!! ……!!」


 蔦魔獣は地面に根を張っているためにその場から動けないのか、ずっとジン達の魔法を喰らいまくりだ。苦し紛れに蔦を振って暴れるも、魔法の有効範囲ギリギリに位置しているジン達に届くはずも無い。

 魔獣は声無き叫びを上げつつ、一方的に攻撃を喰らい続けていた。


「『ファイアアロー』!!」

「『ファイアボール』!!」


 ただジンとアリアの魔法が魔獣を痛めつけるだけという一見楽勝ムードの状況だが、ジン達の顔に油断の色は無い。Bクラス以上と想定される魔獣が、このまま簡単に終わるはずが無いのだ。

 有利な展開の今のうちに、可能な限り敵の体力を減らす事だけをジンは考えていた。


 そうしてジン達は呪文を唱えつつ、魔獣の攻撃範囲外ギリギリのところまで近づいていった。

 ちなみにこの時はエルザを先頭に、その少し後ろの左右にジンとアリア、最後尾にレイチェルといった菱形ひしがたの様な陣形だ。これは万一届きそうな攻撃があればエルザがカバーし、レイチェルは回復役に徹するという意図だ。


 こうしてしばらくジン達の一方的な攻撃が続き、そのままジンの目に映る敵のHPバーを1/3程度削る事が出来た。

 だがその次の瞬間、蔦魔獣は口元にあたる部分の蔦を引きちぎりながらその顎を大きく開け、初めて咆哮をあげた。


「GYAAAOOOOO!!!」


 蔦魔獣は、その咆哮と共に地面から足を引き抜こうともがく。その動きで何本かの根が切れたのか、ブチブチと千切れる音がした。

 その動きを見たジンは呪文詠唱を途中で止め、間髪いれず鋭く叫んで走り出す。


「行くぞ!」


「おう!」「はい!」


 ジンの指示に勢いよく返事をし、エルザとレイチェルの二人も走り出す。


 まず最初に検討されたのが、蔦魔獣が自由に動けるか否かだった。植物系ゆえに動けないのではという予測だったのだが、そうでない場合でも対応できるように二パターンの対策をとっていた。

 結果としては自由に動けないパターンだったわけだが、その場合でも事前に可能性を予測されていた事態があった。その一つが、この魔獣が地面から抜け出して自由に動くという可能性だ。

 だからその兆候を感じたら遠距離攻撃はアリアに任せ、魔獣が動き出す前にジン達三人で押さえる事にしていたのだ。


 六本の蔦に加えて四肢まで自由になれば、その攻撃を捌く事は難しいだろう。何としても地面から抜け出そうとする魔獣の動きを止めるべく、ジン達は全速力で魔獣へ向かった。


 先行したジンは『急加速』を使っていち早くトップスピードに乗り、もがく魔獣に肉薄する。

 そして『無限収納』から一瞬でグレイブを右手に出現させると、両手で持ってその勢いのまま切りつけた。


「『スラッシュ』!!」


 出発前にガンツが徹夜して仕上げた黒鉄製のグレイブは、ジンの「武技アーツ」によってその切断力を強化され、魔獣の背中から生えた大きな蔦の一本を切り落とした。


「GAAAAAA!!」


 怒り狂った魔獣はもがくのを一旦止め、残り五本の蔦でジンを叩き伏せようと振り回す。

 ジンは先程と同じく『無限収納』を使って瞬時に左腕に大盾を装備し、その攻撃を受け止めようとする。しかし残り五本のうちの三本までは防ぐ事が出来たが、タイミングをずらして襲ってきた一本がジンの体を捉えた。


「ぐっ!」


 ジンはかろうじてグレイブを蔦に叩きつける事でその勢いを減らすが、それでも大きなダメージを負った。そして、さらに残るもう一本が追撃しようとジンに迫る。


「せいっ!!」


 しかしその一本は追いついたエルザの大剣により切り飛ばされ、ジンは魔獣の追撃を免れた。


 以前の変異種と戦った時とは違い、エルザ達の武器も黒鉄製のものに替わっている。例えBクラスの魔獣であっても、もう攻撃力が足りないという事はないのだ。


「……を癒したまえ『ヒール』」


 すかさずレイチェルが回復魔法を発動し、ジンの体力が回復する。


「攻撃は俺が受ける。エルザは蔦を減らしてくれ! レイチェルは俺の後ろで回復を頼む!」


 おかげで助かったが、今はお礼を言っている暇は無い。ジンはすぐさま次の指示を飛ばした。


「おう!」「はい!」


 ジンの指示にエルザ達が答える。ここまでは何とか想定の範囲内で推移しているが、決して油断出来る状況ではない。


「入ります!」


 その声と共に飛び込んできたのは、後方で魔法を撃っていたアリアだ。混戦による魔法の誤射を防ぐ為、こうして上がってきたのだ。

 アリアの主な戦闘手段は魔法だが、メイン武器として槍も使いこなす。しかし今回はレイチェルと同じくジンの後ろを定位置として、槍ではなく魔法で攻撃している。それはダメージを与えるという目的は勿論だが、敵のターゲットを散らして牽制するという目的もあった。


「『ファイアアロー』!」


 アリアが放つその魔法は、先程までとは違って呪文の詠唱をせずにキーワードのみで発動していた。

 詠唱を省略している為に若干威力は下がってしまうが、それでも戦闘においてそれがどれ程のアドバンテージを持つかは、今更言うまでも無いことであろう。

 これはアリアがジンと同じ『詠唱短縮』のスキルを習得しているという事を意味するが、このスキルは習得している者が極めて少ないレアスキルだ。そしてこれこそがアリアがソロでもCクラス冒険者としてやっていけ、またリエンツの冒険者ギルドでNo.3とされた理由なのだ。


 呪文は中級、上級と等級が上がるにつれ、詠唱の時間も延びるのは仕方の無いことだ。だが、ファイアアローのような初級呪文であれば、こうしてキーワードのみの発動も可能だ。

 こうしてアリアはメイン武器の槍で蔦を払い、牽制しつつ主に魔法でダメージを与えていた。


 ジンが防ぎ、エルザが斬りつける。アリアは魔法を放ち、受けたダメージはレイチェルが回復する。

 これまでの旅で共に過ごした時間は無駄ではなく、四人の息はピッタリとあっていた。


「最後だ!」


 エルザの叫びと共に、最後の蔦が斬られて宙を舞う。

 思わずエルザの気持ちが緩んでしまったのも、無理は無いだろう。

 だが、最後の足掻きで魔獣が地面から引っこ抜いた左手が、その一瞬の隙を突いてエルザを襲った。


「ぐうっ!」


 かろうじて大剣でガードしたものの、衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされるエルザ。すぐにレイチェルがエルザの回復に走る。


 結果この場で相対するのは、ジンとアリアの二人のみだ。ジンは大盾を一瞬で『無限収納』に収めると、グレイブを両手で持って魔獣へと突っ込んだ。


「『ピアース』!」


 ジンは今度は貫通力を上げる槍の武技アーツを使う。

 突っ込んできたジンを迎撃しようと左手を振りかぶった魔獣の喉元に、ジンのグレイブが突き刺さる。ジンが繰り出したその突きは、魔獣の喉元から背中にかけて貫通した。

 だが、それでも魔獣は止まらない。ジンはグレイブから手を離して襲い掛かる魔獣の左手を避けると、そのまま魔獣の側面に回りこむ。そのまま今度は木剣を右手に呼び出すと、左手を添えて両手で真っ直ぐ上に振りかぶる。


「『インパクト』!」


 武技アーツにより打撃力を上げたその一撃は、同時に繰り出されたアリアの『火矢ファイアアロー』と共に蔦魔獣のとどめとなった。


 倒れ伏した魔獣のHPバーの色が、灰色になって消える。


 そうして魔獣の死亡を確認したジンは、ようやく吹き飛ばされたエルザの方を振り向く事が出来た。


「大丈夫か?」


 ジンが声を掛けた時も未だレイチェルが回復魔法をかけていたが、エルザは既に自分の足で立っていた。


「大丈夫だ。やったな」


 自分の体に異常が無い事を伝え、エルザが笑顔で勝利を喜ぶ。それにつられ、全員が顔を綻ばせて勝利を喜んだ。


「皆お疲れ様。強敵だったけど、おかげで無事勝てたよ」


 最後にエルザが攻撃を受けた時は怒りで血が上ってしまったが、皆無事で勝利する事が出来た。

 ジンの表情が明るくないわけがない。


「体力が回復次第、上に登ろう。後もう少しだ」


 続けてそうジンが皆に声を掛けた瞬間、その場の空気が変わった。


「《そうはいかん》」


 耳ではなく頭に直接響く声と共に、ジンの背後に凄まじいプレッシャーを持つ何かが出現した。

いつもありがとうございます。


今回も引きで終わっているので、次回は出来れば29日、遅くとも30日には投稿したいと考えております。

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― 新着の感想 ―
[一言] 割と簡単に倒せる感じだからまだ何かあると思って読んでたら最後にやっぱり:(;゛゜'ω゜'):
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