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お家拝見

 正式にパーティを組んだジン達は、10日あるなら半分の5日を三人での討伐依頼に、残り5日は各自が自由に決めて行動するようにしている。その使い方は休日であったり、治療院の手伝いや個人の鍛錬であったりとそれぞれ違う。

 ジンの場合はビーンによる調合指導や魔法文字の勉強等、ほぼ休みをとる事なく行動している。そして今日もビーンによる調合指導を終えたジンは、ガルディン商会のオルトの元を訪ねようとしていた。前回会って丁度一週間くらいだが、借家についての話があるとギルドに連絡を貰ったのだ。


「そろそろ宿屋暮らしを抜け出しても良い頃だよな」


 ジンは独り言をこぼしつつ、お気楽な笑顔で街を歩いている。今の宿屋は居心地も良いし、従業員とも仲良くなっているので愛着もある。寂しくないと言えば嘘になるが、それでもお金がかかる宿屋暮らしはジンにとって精神的に辛いのも事実だ。数日前に晴れてDランクになった事もあって、一人暮らしを始めるには良い機会だとジンは考えているのだ。

 そうしてジンは歩き続け、何事も無くガルディン商会に到着した。そしてすぐにオルトと面会する事が出来た。


「こんにちはジンさん。お呼び立てして申し訳ありません」


「いえいえ、こちらこそ貴重なお時間をいただいて申し訳ありません」


 オルトの挨拶に恐縮してしまうジン。この商会の責任者であるオルトが忙しくないわけもなく、今回の借家の件も完全に彼の厚意からのものだ。ありがたく思わなければバチが当たるというものだ。


「お話は現地でした方が良いでしょう。今から向かいますが宜しいですか?」


 もちろんジンに否は無い。オルト直々の案内に再び恐縮しつつ、連れ立ってその借家へと向かった。


 そこはガルディン商会から程近い住宅地で、何処も庭付きの立派な建物ばかりだ。そしてその並びにある一画が、今回ジンが案内された借家だ。

 そこは南側を道路に面した敷地で、奥の少し西寄りに二階建ての建物が建っている。若干古い建物だが、そこまで古ぼけているというわけではない。また、敷地は1.5m程の高さの柵に囲まれており、一応敷地の入り口には門扉も存在する。その門扉から玄関までは石畳のアプローチが続くが、基本的に背の高い樹木等はなく庭としてはシンプルなものだ。その分、空いたスペースはトレーニング等にも使えそうなくらい広い。

 住宅営業の経験を持つジンの感覚では、100坪前後の土地に60~70坪の家という印象だ。そしてそれは一言で言えば、『一人で住むには広すぎる敷地と家』だ。

 風呂の件が無ければ検討すらしなかっただろうが、やはり風呂付ともなればこの程度の大きさにはなるのだろうとジンは思う。


 門を開けて敷地に入り、その家を眺めながらオルトが言う。

 

「改築や増築等は自由にして良いという話だったのですが、時間が掛かって引越しの時期が遅れる事もあって私達は断念しました。ですがそういう条件ですので、ジンさんが使いやすいように改築しても問題ありません。所有者は将来手放すつもりのようですしね」


 オルトが言うように自由に改築できるのは魅力だが、掃除のことを考えると少し頭が痛いジンだ。

 ジンは建物の外観を眺めながら、アプローチを通って建物の中へと入る。バークの家もそうだったが、この世界の家は玄関を開けたらすぐ部屋で、基本土足だ。日本の家屋であるような、靴を脱ぐ為の玄関たたきは基本的には存在しない。……はずだった。

 しかし、この家には玄関ドアを開けてすぐにタイルが敷き詰められた『たたき』が存在した。さらに言えば玄関は直接部屋にではなく、所謂玄関ホールに繋がっている。たたきより一段高くなったそこは四畳ほどの空間が空いており、その先には階段がある。玄関部分の吹き抜けは開放感があり、二階から入る光もあって明るい雰囲気だ。

 簡単に言ってしまえば、ぱっと見は日本の一般的な広い家の玄関とそう大きくは変わらないという事だ。


「珍しいでしょう? 現在の所有者の数代前の方が建てられたそうなのですが……」


 そう言いながらオルトは玄関たたき横にあるスライド式のドアを開けると、そこには明り取りの窓が一つだけある六畳近い空間があった。床は玄関たたきと同じタイルが敷き詰められており、壁にはしっかりとした造りの棚もいくつか備え付けてある。また、入ってきたドアとは別に、隣の部屋やホールへと通り抜けできるドアも存在した。


「ここは冒険から帰ってきて荷物を置いたりする場所らしいです。建てた方が冒険者だった事もあって、随所にこういうこだわりがあるんですよ」


 オルトはそう言って玄関に戻り、そのまま土足でホールへと進んだ。変に日本的な造りになっているのでジンは土足で上がる事に若干躊躇してしまうが、結局は土足でオルトの後に続いた。


 この玄関ホールを家の中心として、東側全体がLDKで西側に部屋が二つ、北面は基本的に風呂などの水回りだ。一階にある部屋の内大きい方は作業部屋として使っていたのか、玄関から続くタイル敷きの土間の様になっており、作り付けの棚や収納が多い。もう一つの部屋の方は板張りの八畳ほどの空間で、所謂ゲストルームと言うやつだろう。

 ジンは部屋に続いてリビングとダイニング、それにキッチンやトイレなどの水回りを順に確認する。そしてその中でも一番のポイントであるお風呂は、浴槽も洗い場も広くて好印象だ。家は定期的に掃除でもしているのか、何処も汚れているという印象はない。

 二階には四部屋存在したが、そのうち一部屋だけが他より広い。ここが所謂主寝室だろう。また、二階にバルコニーやトイレは無く、階段を中心に東西に二部屋ずつの計四部屋と納戸があるだけだ。

 また、主寝室にあるクイーンサイズのベッドなど、いくつかの家具はそのまま残されている。さすがにベッドマット等は無いが、どの家具も造りがしっかりしているので充分使えそうだ。

 全体的な間取りとしては、ジンが住宅営業時代に慣れ親しんだ日本の住宅に似ている。違うのは和室の代わりに作業部屋がある事くらいで、その他は展示場のような感じだなとジンは思う。

 正確に言えば細かいところはもっと違うのだが、ジンは印象としてそう感じたのだ。


「良いですね」


 この家のおおよその所を確認したジンは、オルトに自分の素直な感想を伝える。広すぎるという贅沢な悩みはあるが、それでも魅力がある家だ。

 一続きになっているLDKは広く、そこだけで数人が暮らせそうな程だ。また一階の作業場は調合等の作業を行う時に活用できるし、玄関横の倉庫スペースも便利だ。お風呂は勿論の事キッチンも広く、魔道具のコンロやオーブンも完備されている。燃料用に加工された魔石さえあれば、すぐにでも使えるようだ。水は井戸から汲むことになるが、生活魔法で水を出せば簡単だし問題ないだろう。元冒険者の家だからか各部屋にも立派な鍵が複数ついていて、少なくとも宿屋よりは防犯対策も良い。それに各部屋の壁にある武器等を飾る為の丈夫な金具や豊富な収納など、細かい工夫も地味に嬉しい。それに玄関たたきとホールの存在も、これまでの人生で慣れ親しんできたものなのでジンにとって何か安心するものなのだ。


 ジンはさらに考えを進める。

 多すぎる部屋は、何だったらエルザやレイチェルが私物を置ける部屋として使ってもらっても良いな。広いリビングは打ち合わせなどにも使えるだろうし、必然的にここに集まる事も多くなるだろうからな。それに今後パーティメンバーが増える事があれば、男なら此処に住んでもらうというのも手だな。まあ一人の間は掃除なんかは大変だろうけど、ゴミ屋敷みたいにならなければ良いだろう。そう考えると後の問題は家賃だが、以前聞いた小金貨三枚ならギリギリ許容範囲だが……

 などと色々と考えていたジンは、既にこの家を借りる気になっていた。


「この家を借りたいと思うのですが、家賃の正式な金額は如何程でしたでしょうか?」


 もし小金貨三枚以上だったらどうしようと、少し不安に思いながらもジンはオルトに尋ねる。


「小金貨二枚でいいそうです」


「ええ?!」


 小金貨一枚も安くなるとは驚きだ。ジンのその反応に微笑を浮かべながら、オルトは続けて言った。


「この家を建てた方が冒険者だった事もあり、冒険者に貸すのならと安くしてくださったんですよ」


 オルトはにこやかにそう言うが、この金額にするのには恐らく彼も交渉してくれたのだろうとジンは思う。


「オルトさんには本当に色々とお世話になりました。ありがとうございます」


 だからそういった諸々の事も含めて、ジンは感謝して深く頭を下げた。


「いえいえ、こちらこそお役に立てて嬉しいです。私達もこの近くに住んでいますので、ジンさんが此処にお住まいになられるのならご近所になりますね。今後ともお付き合いを宜しくお願いします」

 

「はい、勿論です。此方こそ宜しくお願いします」


 そうして二人は笑顔を交わし、しばし今後の手続きについて話した後にその家を出た。そしてその足でオルトの店に戻り、そのまま賃貸契約を交わした。あの家は一般の不動産には出されておらず、王都にいる所有者に話を通してオルトが窓口となってくれたのだ。まったく、オルトには感謝してもし切れないとジンは思う。

 家賃は三ヵ月分単位で払って行く事になり、敷金や礼金のようなものは無い。オルトの勧めでクリーニングと点検修理を手配してもらったので、実際に入居できるのは三日後の予定だ。だが、どうせ家具等の手配もあるので三日後でも全く問題はない。


「落ち着いたら親しい知り合いを集めてパーティ的なものを開くと思います。改めてお誘いしますので、よろしければご家族でいらしてください。そうすればアイリスとの約束も守れますしね」


 ジンは最後に笑顔でそうオルトに伝えて店を去った。オルトが笑顔で承諾したのは言うまでも無い。


 また、ジンが今回やっと念願の味噌と醤油を購入した事も、同様にあえて言うまでも無い事だろう。

今回も読んでいただき、また感想やお気に入り登録そして評価を頂きありがとうございます。


こうして二話書いて思いますが、自分は何処で伏線を回収して、そして何処で伏線を張るつもりだったのだろう。さすがに閑話で伏線はないでしょうし、何だかんだでこの書き方で助かったようです^^;


今回は男だけの話でしたが、次回はヒロイン候補達が全員出る予定です。

次回は20日更新予定。次も二日間隔で行きます。

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