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戦いの後のあれこれ

 ひとしきり勝利を喜び合っていた三人だが、減ったHPを回復した後に早速マッドボアの変異種の剥ぎ取りを始めた。そしてジンは二人に一言断りを入れると、周囲を警戒しつつ先程のMP回復ポーションをチェックする。


【MP回復ポーション(小)…MPを20回復する (状態保持・破壊不可)】


 以前ジンが確認した時と変わらない。先程一本使用したので、残り二本が満タンの状態だ。


「状態保持って事なのかな?」


 ジンが注目したのは、この『状態保持』という部分だ。これが『この世界に持ち込んだ時の状態を保持する(戻す)』という意味だと推測したのだ。それしか使い切ったポーションが再び満タンになるという現象を説明できない。そして同じく使い切ったはずのHP回復ポーションの存在を思い出してチェックすると、思ったとおり同じく満タンの状態で五本ともそこにあった。


「あまり深く考えないようにしよう」


 これがどんな仕組みなのかも不明だし、どれくらいのサイクルで復活するかも分からない。だが、おかげでさっきの変異種の戦いでは助かった事は確かだ。ジンはこれも神様の贈り物の一つと考え、ただ感謝する事にした。

 そしてジンが確認している内に、彼女達による剥ぎ取りは終了した。


「お疲れ、ごめんねやらせちゃって」


 ジンは剥ぎ取りを終えた二人に謝罪する。


「いや、役割分担だから気にするな、ほら、中々の品だと思うぞ」


 エルザはそう言うが、ジンなら触っただけで一瞬で剥ぎ取りが可能だ。先程の戦いの前にジンが二人に話した秘密は、敵の位置が分かる〔MAP〕の存在と基本魔法の特異な使い方、そして無属性魔法についてだけだ。特に〔MAP〕についてはその機能の一部しか明かしていない。いつかちゃんと話そうとジンは思っているが、秘密が多すぎてまだ全てを話す決心がついていないのだ。


 そんなジンの内心の葛藤をよそに、エルザとレイチェルは笑顔で変異種のドロップ品を見せてくる。それは普通のマッドボアと同じ魔石と毛皮に加え、通常はドロップしないという牙が2本だ。変異種のドロップ品は高品質で性能が高い事が分かっている。特に変異種の毛皮は、なめして使えば高い防御力を持つ良い防具が作れるだろう。通常の2倍以上のサイズなので、二人分くらいは作れそうだ。


「その皮は売らずに二人の防具を作ると良いよ。俺はもうすぐ新しい鎧が出来るから要らないし」


 本来はもう少しゆっくりしたい気分だったが、不安の中で待機している村人の事を思うとそうもいかない。ジン達は村へと戻りながら会話を続ける。


「それは嬉しいが良いのか? 売れば結構な値になるぞ?」


「お金より二人の安全の方が優先だよ。今回みたいな事は滅多にあるもんじゃないだろうけど、さすがに肝が冷えたよ」


 傷つかない体を持つジンと違って、二人は普通の体だ。変異種の攻撃を一手に引き受けていたジンは、もしあの攻撃をエルザ達が受けたらと思うとゾッとしてしまう。


「ありがとうございますジンさん。お言葉に甘えさせていただきます。でもそれなら魔石や牙はジンさんが貰ってくださいね」


 そう言うレイチェルの言葉にエルザも同意する。


「だな、それぐらいじゃないと釣り合わん」


 だがジンは断る。


「いや、それは売って三等分しよう。鎧のオーダーメイドって結構いい値段するしね」


「待て、私だってそれなりに金は貯めているのでそれくらいは出せる」


「私も……」


 エルザに続いて自分も大丈夫だと言おうとしたレイチェルだったが、考えてみると駆け出しの自分は祖父のクレインにお金を借りるくらいしか方法が無い事に気付き、情けなくなって顔を伏せてしまう。


 ジンはクスクスと笑いながらレイチェルの頭を一撫でする。出会った当初は真面目な印象のレイチェルだったが、本当に柔らかくなったなとジンは思う。むしろ幼くなったくらいだ。

 そしてジンは顔を上げたレイチェルと、此方を見つめるエルザに笑顔のまま言葉を発した。


「俺がそうしたいんだから此処は俺の我侭を聞いて。まあ、リーダー命令って事で」


 最後に悪戯っぽく笑って片目をつぶる。


「……ふっ、わかった。しかしリーダー命令には絶対服従か?」


 少し顔を赤くしたエルザが、反撃とばかりにからかう様に言った。


「んー、何なら今度は俺が絶対服従しようか?」


 ウインクなんて何やってるんだ俺と、自分の行動に内心動揺しながらも負けじとエルザに反撃するジン。そして見詰め合った二人は同時に吹き出した。


「ジンさんが絶対服従…… いいかも」


 笑い声にかき消され、レイチェルの呟きが聞こえなかったのは誰にとっての幸いだっただろうか。

 厳しい戦いの反動か、ジン達は少し変なテンションのままキタン村へと戻った。


 村に到着してすぐ、変異種を警戒して待機していた兵士達の歓迎を受けたジン達は、彼らに変異種が退治された事を村中に伝えるようお願いした。そしてジン達は報告の為にそのまま村長宅を訪問した。


「ありがとう。本当にありがとう」


 ドロップ品の毛皮と牙を見せて無事変異種を退治した事を伝えると、村長はジン達に深々と感謝の言葉を述べた。実際ジン達の活躍が無ければ、キタン村は壊滅的な被害を受けていた可能性が高い。それだけ変異種は脅威の存在なのだ。

 村長は早速表に出て、集まっていた村人に危険が去った事を伝えた。村長に続いて表に出たジン達も、村長に変異種を倒してくれた冒険者として紹介を受け、村民達に感謝の言葉を投げかけられる。これが一番冒険者をやっていて良かったと思う瞬間だ。ジン達も笑顔で対応する。

 そして先に出た変異種襲来の知らせの早馬に続き、変異種が退治された事を伝える早馬の手配も済んだ。これでこの村でやるべき事を全て終えたジン達は、村民達の見送りをうけつつキタン村を出発した。


 帰りも街道を使わない直進コースだ。途中チリル草やメル草の他にも、数種類の薬草を採取しつつ移動する。密集地でもないので普通の人には単なる通り道だが、ジンにとっては宝の山だ。採取した薬草全部ではないが、〔調合〕を覚えたジンはこれらの薬草を使ってビーンに色々と習うつもりだ。


「普通こんなに簡単に見つからないもんだけどな」


 次々に薬草を採取するジンを見て、周囲を警戒中のエルザがそうぼやく。新人時代に苦労した記憶があるのだろう。


「ははは、まあ採取スキルも持ってるし、他にもちょっとね。っとレイチェル、もっと右のほうにメル草が二つあるから良く探してみて」


 レイチェルもジンの指示で薬草を採取中だ。ジンの予定としては、レイチェル用に依頼二回分は最低でも採取するつもりだ。

 そうして道中機会があれば採取をし、たまに襲ってくる魔獣を撃退しながらジン達は進む。連携や意思疎通もとれてきて、話をする余裕もある。警戒はしながらも、ジン達の会話は弾んだ。


「街に戻ったら、ギルドで報告した後に変異種の事も相談しよう。こう短期間に二度も遭遇すると、何かの前兆みたいで心配だからね」


 先に着く早馬により変異種討伐の報告はなされるであろうが、一度グレッグ教官達に相談したいと思うジン。


「言われて見ればそうだな。私も冒険者になって2年近く経つが、変異種と遭遇したのはこないだの初心者講習の時が初めてだったくらいだからな」


 ジンの発言にエルザも同意する。


「あと、これは私の勘違いなのかもしれないのですが、今日は魔獣と遭遇する数が多くないですか?」


 今日は行きに二回、帰りも既に二回戦闘をしている。相手はマッドウルフ等の弱い魔獣ばかりだが、確かにレイチェルが言うのももっともだ。


「どう、エルザ?」


 ジンは自分より経験のあるエルザに問う。


「リエンツの街から村の間に遭遇する数としては、確かに多い方だな。ただ今までに無かったかと言えば、そんな事はない」


 エルザの発言を聞いてやっぱり間違っていたのかと顔を伏せるレイチェルに、エルザがフォローを入れる。


「落ち込むなレイチェル。私の言い方が悪かった。今までにも有ったとは言え、多いのは事実だ。お前の感じたことは間違いじゃない」


「そうだな、そうして意見してくれるからこそ、こうして皆で検証できるんだ。これからも頼むよ、レイチェル」


「はい。ありがとうございます」


 エルザに続いてジンもフォローをいれ、回復したレイチェルも明るく返事をする。そしてその後も会話を続けつつ、その後は魔獣に遭遇する事無くリエンツの街に到着した。



「……そうか、よく無事で戻ったな。それとよくぞキタン村を守ってくれた。俺からも礼を言う、ありがとう」


 ギルドの二階にある部屋で、そう言ってグレッグがジン達に頭を下げる。

 ギルドに到着したジン達はすぐにグレッグが待つ部屋に案内され、今すべての説明を終えたところだった。


「いえ、私達は冒険者として当然の事をしたまでです」


 ジンの言葉に同意して頷くエルザとレイチェル。顔を上げたグレッグもそれを見て満足そうに笑う。


「ああ、変異種と遭遇した後のお前らの対応はどれも正しい。一旦撤退して村の防備を固めたり、ギルドに助けを求めた事もな。最後の三人だけで変異種に立ち向かったのは少しどうかとも思うがな。だがそれも村の被害を考えてと、どうせジンが何か言えない事をやらかしたんだろ?」


 グレッグはそう言って意味ありげに笑う。ジンも笑って誤魔化すしかない。そしてグレッグは少し真面目な顔になり続けた。


「だが本来、ギルドに連絡した時点でお前らは責任を果たしたはずだ。しかしお前らはその後も自らの意思で強敵に立ち向かい、そして勝利した。それは同じ冒険者として誇らしい、だからお前達に礼を言ったんだ」


 そう言ってグレッグは最後に二カッと大きく笑った。

 グレッグにこうして真正面から褒められるのは初めてで落ち着かない。しかしジン達はそれでも誇りを胸に、その言葉を受け止めた。

 

「変異種の件と魔獣の数については調べてみよう。確かに何かの前兆とも考えられるからな」


 グレッグのその言葉を最後に、ジン達は部屋を出て依頼処理のために受付へと向かった。



「……はい、確かに『マッドボアの討伐依頼』完了です。それと変異種討伐も別件で依頼処理しました。ギルドから報奨金も出ます。それとレイチェルさん個人で提出されたチリル草とメル草の常時依頼も計四件の依頼完了として扱わせていただきますので、これでレイチェルさんがEランクに、ジンさんがDランクに昇格しました。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 アリアから昇格を告げられ、ジンは達成感を感じていた。当初の目的だったCランクまであと一つだ。

 また、レイチェルに薬草の常時依頼を提出させたのは、ひとりだけ離れているランクの差を縮める為だ。三人で話し合ったパーティ全体の目標の一つとして、全員でCランクになるというのがある。

 これでジン達のパーティはDランクが二人、Eランクが一人となった。この後も地道に依頼を重ねる事でランクとレベルを上げていく予定だ。


「それでは何時も通り、この書類を出納係へお持ちください」


 アリアが差し出す書類には、マッドボア変異種の毛皮の代金は入っていない。事前に外して査定するようにお願いしている。


「ありがとうございます。それとアリアさん、正式な手続きは後日お願いする事にしますが、私達三人は正式にパーティを組む事にしました」


 夕方の忙しい時間に差し掛かってきた為パーティ登録は後日にする事にしたが、エルザの事を気にしていたアリアには先に報告だけでもしておこうとジンが言う。

 アリアは一瞬固まった後にエルザとレイチェルを見つめ、そして二人に対して優しい微笑を浮かべた。


「おめでとうございます。エルザさん、レイチェルさん、ジンさんを宜しくお願いします」


 そう言うアリアの微笑みは心からのものだ。ジンをよろしくと頼まれた二人は、特にエルザは自分にも笑顔を見せてくれるとは思っていなかったので動揺してしまう。


「も、もちろんだ。ちゃんとやります」


「はい、頑張ります」


 二人の脳裏にジンが言った「アリアは面倒見が良い」という台詞が甦る。そして落ち着いたエルザとレイチェルも、アリアに笑顔を返した。


 そうしてアリアと別れたジン達は出納係に向かい、得たお金を三等分した。そしてその足でパーティ結成の打ち上げを行い、互いの親睦を深めた。

 今回は節度を持って酒を嗜んだ事は言うまでも無いだろう。これからジン達のパーティとしての約束事が増えていくことになるが、初めて決まったのがこれだ。


『酒は飲んでも飲まれるな』


 ジン提案のこれは、全員の賛成で可決された。ジンも含め、全員が思うところがあったのである。

読んでいただき、また感想やお気に入り登録に評価などをいただき、ありがとうございます。


次回は1ヶ月ほど時間を進めてスタートするか、その中でも細々した出来事をピックアップした後に進めるかを迷っております。

ご意見等があればお聞かせください。

活動報告の方にもちょっと書いてます。


次回は少しお時間を頂いて16日以降となると思います。もし時間が出来たら書きますので、その時は早めて投稿します。


以上、よろしければ次回もお付き合いください。ありがとうございました。

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[一言] 酒は飲んでも飲まれるな 2人は酔い潰れてるからねー(^^)
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