打ち上げ万歳
「「乾杯~」」
ギルドに程近い酒場で、初心者講習の打ち上げは行われた。 テーブルの上には酒に合うように濃い目に味付けられた焼肉や、香辛料を効かせた魚のムニエルなど、たくさんの料理が並んでいた。
グレッグの乾杯の音頭で三口ほど喉を潤したジンは、早速野菜サラダを自分の取り皿に移す。
「なんだよジン、お前サラダってそりゃないだろ。 男ならガツンと肉だろ、肉」
そう文句をつけてくるのは、昨日の夜の見張り以来すっかり仲良くなったエイブだ。 そういうエイブの皿には肉が山盛りだ。
「あはは、昔っからの癖なんですよ。 でもこの方が健康には良いんですよ?」
食事の最初に野菜類を摂ると、食物繊維が急激な血糖値の上昇を抑えてくれるのだ。 数十年の習い性になっていた為、ジンは今回も無意識にそうしていた。
皿に盛り終わったジンは、早速サラダを口に運ぶ。 酸味のあるドレッシングが実に美味しい。
ジンはパクパクと食べ進め、そしてそれから肉も追加した。
「ちぇっ、酒も一気に飲み干さないし、男らしくないぞ」
まさかジョッキ一杯のビールで酔ったわけでもないだろうが、エイブはさらに絡んでくる。
「いや、確かに最初の一杯が格別に美味しいのはわかるんですが、すきっ腹の酒は効くんですし勘弁してください」
グレッグ達との飲み会で感じたことだが、ジンはこの世界では以前とは比べ物にならないくらい酒には強くなっているようだ。 しかしそれでも過去の習慣はそう変わるものでもない。 それにお酒は自分のペースで楽しく飲むものだとジンは思っているのだ。
「ちょっと待ってくださいね、もう少し食べたらエイブさんが勘弁してくれと言うまでちゃんとお酒も付き合いますから」
そう言って悪戯っぽく笑うジン。
「おお? 言うじゃねえか。 その言葉忘れんなよ?」
エイブが嬉しそうに返してくる。 強引にも取れるエイブの物言いだったが、そこにあるのは好意だし無理やり酒を勧めるわけでもないのでジンも嫌ではない。
しばし各自が飯を喰らい、酒を飲み、馬鹿話に花を咲かせる。 この世界は16歳で成人と見なされ、飲酒規定なども存在しない。 新人達も皆、料理やお酒を自分達のペースで楽しんでいた。
お酒にも慣れているのか、新人達の中ではアルバートとカインのペースが速い。 逆にそれ以外の年少組とレイチェルは、ちびちびと味わうように飲んでいる。
「なんだ、ダン。 お前全然飲んでないじゃないか」
「僕はあんまりお酒を飲んだ事ないからね」
「そうか、なら慣れろ。 ほら注いでやるから飲め」
そう言うのはアルバートだ。 本人に悪気はなく、恐らく早めに酒に慣れておいた方が良いという親切心からの言葉だろう。 相変わらずの言葉足らずというか不器用さだが、ジンにはアルバートがそういう不器用だが根は良いやつという事はわかってきていた。
「うん、ありがとう。 アルバート」
短い間だが一緒にパーティを組んだ仲だ、だからダンも理解できるのだろう。 ダンは笑ってコップの酒を飲み干した。
「おう。 飲め。 もしつぶれたら俺がちゃんと送ってやるから」
アルバートも嬉しそうに空いたコップに酒を注ぐ。 そしてその二人の様子を見つめるカインは、あからさまにホッとした表情を浮かべていた。
「カインも苦労してたみたいだね。 でも良かったな、わかってくれて」
ジンはカインを労い、少し減っていた彼のコップに酒を注ぐ。
「ありがとう。 正直皆には感謝してるよ。 今までは中々わかってもらえず、トラブルばかりだったからね」
カインは苦笑しつつも、楽しそうに話すダンとアルバートの姿を嬉しそうに見ている。
「ふふふ。 確かにわかりにくいけど、ジンの言ってた通り見てたら悪気がないことはわかるからね」
話に入ってきたのはシェリー達だ。 メグもコクコクと頷いている。
「え? ジンの言ってた通りって何?」
そう尋ねるのは当然カインだ。 ジンはもう隠す事でもないかと、カインに以前シェリー達にした『美点凝視』の話をした。
「まあ、アルバートにもそのうち機会を見つけて話してやってね。 アルバート自身も変わらなくちゃいけないと思うしね」
周囲の反応に甘えて自らを省みようとしないままでは、アルバートの為にならないだろう。
「うん、わかったよ。 しかしジンは本当に僕達と1つしか変わらないのかい? ちょっと驚きだよ」
「あ、ほんとそうだよね。 物知りだし、結構強いし。 ふふふっ、それに時々お爺ちゃんみたい」
「お爺ちゃんは言いすぎですよ、シェリー。 でも確かにすごく年上に感じることはありますけどね」
「よく言ってもおじさんっぽいって事か? ひどっ」
そうして冗談めかして文句を言うジン。 内心シェリー達の鋭さにドキドキだ。
「「あははは」」
そうして笑うジン達だが、その中で一人ジンだけが少し乾いた笑いをしていた。
「おいおい楽しそうだな。 混ぜろよ」
そうして混ざってきたエイブや他の皆も交えて、ジンの年寄りくささを弄って笑いあった。 もちろんジンは自ら道化になって笑いをとった。 話題はどうあれ、こうした楽しい飲み会は大好きなのだ。
飲み会の話題はコロコロと変わる。 全員で話す事もあればいくつかの小グループに分かれることもある。 食事やお酒を堪能するときもあれば、話に夢中になりすぎていつまでも料理が少しだけ残った皿が片付かない事もある。 ゲイン達のパーティ結成秘話や他のメンバーについての話に、アルバートとカインの出会いや修行エピソード。 ダン達幼馴染の村での生活やジンのお風呂談義と、話は尽きない。 これまではどこか真面目で物静かだったレイチェルでさえも、楽しげに話をしていた。
そうして楽しい飲み会を皆が満喫していた中、エイブが爆弾を投下してきた。
「ところでジン。 お前アリアさんと付き合ってんの?」
「「え?!」」
幾人かは楽しげに、幾人かは感心したように、そして幾人かは無言で目を見開いたままジンを見つめていた。
「いやいやいや。 付き合ってませんよ。 本当に。 そんな。 だって。 ねえ?」
何故か意味もなく焦ってしまうジン。
「だってお前がギルドの受付でアリアさんに赤いローゼンの花を渡したって聞いたぜ?」
エイブのその発言を聞いたせいか、ジンには何人かの視線が強くなった気がした。 楽しげなのもあれば、何だかよくわからないものもあって微妙に怖い。
「ああ、俺も聞いたな」
エイブの発言に乗っかって、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべるグレッグ。 ジンはグレッグの顔を恨みがましく一睨みすると、大きくため息をついてから口を開いた。
「渡したのは事実ですけど、それは日頃のお礼の意味です。 お恥ずかしながら、私は花の意味を知らなかったんですよ」
「誤解だってぇのか? じゃあお前はアリアさんを何とも思ってないってか?」
やけにエイブが突っ込む。 ジンは少しだけ苛っとしてしまったが、努めて冷静な口調で話す。
「アリアさんは可愛いですし、好意はもっていますよ。 もちろん。 ただ恋愛となればまず私の準備が整ってません。 せめてCランク以上になるまでは恋愛なんて考えられませんよ。 それにアリアさんの気持ちもあるんですから、もう変な話をしないで下さいね」
ジンは最後の方だけ少し力を込めて言ってしまった。 無意識に〔威圧〕も少し出ていたのかもしれない。 少し動揺した様子でエイブは頷いた。
「変な話して悪かったな、っとそう言えばさ…」
少し変な空気になってしまったのを気にしてか、エイブは話題を変えて再度場を盛り上げた。 このあたりはさすがと言うべきコミュニケーション力の高さであろう。 そして充分場が盛り上がったところでエイブはその場をそっと離れ、少し離れた奥のテーブル席に移動した。
その場にはエイブと同年代の若い男達が集まって酒を飲んでいた。
「来たな、エイブ。 どうだったあのジンって男は?」
実はこの男達はアリアの所謂ファンだ。 申し分のない美女で、無表情ながらもしっかり仕事をこなすアリアには内外問わずファンが多い。 たまたまこの内の一人がジンのプロポーズもどきを見ていたのだ。 さっきのジンの発言を聞いて、ジンにそのつもりはなかった事はわかった。 だが悔しい事にジンがアリアの笑顔を引き出し、そして自分達が相手にされていないのも確かだ。 少なくともお互い憎からず想っている事は確かだろう。 だからジンの人となりを見極めて、問題があれば忠告しないといけないというのが彼らの主張だ。 はっきり言えば嫉妬だが、まだアリアの幸せを祈っているあたりはマシなほうだろう。
そしてエイブ自身もそうしたアリアのファンの一人だ。 昨日の夜までエイブがらしくなく真面目に沈黙を保っていたのも、ジンがどういう人間かを知るためだったのだ。
「ジンは性格も良いし腕も立つ、面倒見も良いし懐も深い。 残念ながらあいつは合格と言わざるを得ないな」
残念と口では言いながらも、エイブの表情は何故か笑顔だ。
「あいつは初心者だよな? お前が認めるほど腕が立つのか?」
そう訊く冒険者の気持ちもわからないではない。 こう見えてエイブはCランクの実力者パーティの一人だ。 果たして初心者がそのエイブに認められるほどの力の持ち主だとは考えにくいのだろう。
「仮に俺とあいつが戦ったとしたら、多分あいつが勝つと思うぞ」
変異種の話をすれば一発なのだろうが、エイブも含め講習参加者はジン以外全員グレッグに口止めされており、変異種の戦いについて言う事は出来ない。 それにこの短い講習の中でエイブも個人的にジンの事を気に入っていたので、元よりジンの不利になることは言わないつもりだった。 なのでジンの実力を示すのに自分を引き合いに出した。 もちろん実際に戦うとなればエイブにも経験と意地があるから、ジンに簡単に負けるつもりは無い。 しかしそれでももし自分があの変異種と戦えば、まず確実に1対1では敵わないであろう事も事実だ。
あの変異種は、個人ではなくエイブ達Cランクパーティ単位で戦うレベルの敵だった。
「お前にそうまで言わせるとはな。 人格的にも問題ないならしょうがないのか…」
「まあ、さっきジンも言ってたように、まだあいつにその気はないみたいだからな。 経過観察って事で良いんじゃねえか?」
少し悔しそうに言う男達に、エイブが慰めともつかない言葉をかける。
「そうだな。 しばらく様子を見るしかあるまい」
そう結論を出して男達がふとジンの方に顔を向けると、そこには女性に抱きつかれているジンの姿があった。
…少し時を遡ろう。
エイブが男達と話す為にジンの側を離れた後、入れ替わるようにエルザがジンの元にやってきた。
「お疲れ、ジン。 まあ飲め」
そう言って酒を注ごうとする。 ジンは少しだけ残っていた酒を飲み干して、エルザにコップを差し出す。
「いただくよ。 エルザ、色々とありがとう。 気を使ってもらっちゃったね」
知り合いだからこそ講習中に距離をとってくれたのは、ジンにとってありがたい配慮だった。
「まあ、話すとぼろが出そうだったんでね。 でも最初に驚くかと思ったのに、全然反応がなかったのはつまらなかったぞ」
「あはは。 驚きより納得の方が大きかったからね。 だってその前に会った時のエルザは、見るからに何か企んでたからね」
少し不満そうなエルザに、ジンはからかいを含めた対応で返す。 返杯でエルザにも酒を注ぐその親しげな様子は、新人達にとって意外なもののようだった。
「ジンさんはエルザさんと仲良しなんですか?」
そう聞くのはメグだ。 酔いもあってか物怖じしておらず、興味津々の様子だ。
「ああ、以前運動場で知りあってね」
「ラジオ体操は私が最初に教えてもらったんだぞ」
ジンの発言にかぶせるように、エルザは自慢げに言った。
「え~、そうなんですか~」
ジンには何が嬉しいのかわからなかったが、メグはニコニコと話を聞いている。
「アリアさんの事といい、ジンってもしかして手が早い?」
そうからかってくるのはシェリーだ。
「おいおい、人聞きの悪い事を言わないでくれよ。 俺がそんなモテるわけないのはわかるだろう?」
ジンは自分で言ってて悲しくなってきた。 アリアさんとは仲良くさせてもらっていて好意も感じるが、好意は色んな種類があるのだ。 良い人と言われる事はあっても、それだけで恋愛関係にすすむ事はないのはジンは身にしみて感じていた。
そう考えるジンは伊達にずっと独身ではない。 先日のアリアの態度も最後は自分に向ける好意を感じてはいたのだが、それが恋愛方面だとは考えない。 これまでの経験が逆に災いしてか、恋愛方面では特に自分に自信がなく鈍いのだ。
「エルザも何とか言ってくれよ。 俺は真面目で硬派なやつだってさ」
「そう! そうなんだよ。 その硬派なジンにお誘いだ」
そう冗談めかしてエルザに話を振るが、答えるエルザは我が意を得たりとばかりに反応してくる。 なんだろうと続きを促すと、エルザはこう言った。
「私とパーティ組んでみないか?」
「(ブルータス、お前もか!)」
打ち上げ前のレイチェルを思い出し、げんなりとするジン。 一体なんで俺なんかとパーティを組みたがるのかと、ジンは不思議がる。
「正式には相棒にも訊かないと駄目だが、お前は真面目だし信用できるからな。 腕も立つし、私はお前と組んでみたいんだ」
酒の席の話とは言え、エルザが真剣に言ってくれている事はジンにはわかる。
「気持ちは嬉しいん「駄目です!」…」
途中で遮ったのはレイチェルだ。
「ジンさんは私とパーティを組むんです! 約束してくれました」
そう言って逃がすまいという気持ちなのか、それとも所有権を主張しているのか、立ち上がってジンの頭を抱え込むように抱きついてきた。
丁度このあたりが、エイブ達が見た光景だ。
「ちょ! っぷ、離して」
口の辺りにレイチェルの腕がきて苦しいし、後頭部には柔らかい物が当たっている。 決して純情ではないはずのジンだが、数十年ぶりに感じる感触は若い精神年齢的に非常にまずい状況だ。 そうしてもがいているとエルザが助けようとジンに手を伸ばす。
「こら、ジンが苦しがっているって。 ほら離しなって」
レイチェルも力が強いが、さすがにエルザのほうが勝っている。 エルザに引き寄せられてなんとか救出してもらったジンだったが、勢いがついて今度はそのままエルザの胸に飛び込む。 顔に当たる感触は柔らかく、不可抗力とは言え決して嫌ではない状況にジンの感情も翻弄されっぱなしだ。
「あ~、ジンさんをとらないで下さい~」
またも奪い返そうとするレイチェル。 どうやら少し酔いが回っているようだ。 守ろうと、もしくは奪われまいとジンの頭を抱え込むエルザだったが、それはジンの顔を胸に押し付けているのと変わらない。 そうしているうちに段々とエルザも当初の目的を忘れてしまったようで、ただただジンの頭の取り合いが繰り返される。 そうして二人の胸を行き来するジンも、さすがに困って少し大きな声を出す。
「ストップ! 落ち着け!」
タイミングも見計らって、エルザとレイチェルの顔の前に両手を突き出して制止するジン。 一瞬二人は止まったが、次の瞬間それぞれがジンの腕を一本ずつ抱え込んだ。
そうしてそのままにらみ合う二人を見て、思わずジンは助けを求める。
「シェリー、メグ、頼むから助けて」
言われた二人は、顔を見合わせて申し訳なさそうに言った。
「ごめん、恨まれたくないから無理」
困ったジンがアルバートやカイン達を見ると、無理無理と言わんばかりに勢い良く首を振る。 ゲインやメリンダ達の方を見ても、返ってくるのは苦笑とニヤニヤ笑いだ。 グレッグにいたっては握りこぶしに親指立てて、満面の笑みでエールを送る始末だ。 ジンは諦めて大きくため息をつくと、少し真面目な口調で二人に呼びかけた。
「レイチェル、エルザ、逃げないから離して」
二人はジンの顔を見るがまだ離さない。
「は・な・し・て」
少し語気を強めてジンが言うと、やっと二人は手を離してくれた。 可愛い女性にくっつかれて嫌なわけでは無いのだが、どうせならもう少し落ち着いたところで、そしてもっと色気のある理由でくっついてほしいものだとジンは内心ぼやく。
「まず最初にエルザ、俺を信用してくれてありがとう。 だけどごめん。 パーティは、今はまだ考えていないんだ」
今回の臨時パーティの時もそうだったが、ジンは誰かと一緒に行動するとなると〔無属性魔法〕や〔道具袋〕など隠さなければいけない事が多い。 正式なパーティともなれば情報の共有は重要だから、そうなればジンもそれらの能力を隠す気はない。 しかしその前に自分の実力もきちんと磨いて、そういう力を持つに値する実力を身に付けておかなければならないというのがジンの考えだ。
実際にどこまでいけば相応しい実力と言えるかはわからないが、少なくともCランク相応の実力を持つ事は最低条件だとジンは思っている。 実のところ既にジンはHPやMPを除けば一般的なCランク冒険者よりもはるかに高いステータスなのだが、当然のごとく気付いていない。 それどころかジンは先日のマッドアント戦後にレベルが上がって強くなったと思っていたのに、先の変異種との戦いでは1対1で手一杯になってしまった。 それをジンは、こんな事ではまだまだ実力が足りないと感じていたのだ。 変異種の強さは実感していても、その強さが世間一般でどのレベルかを把握していないのはジンの抜けた所であろう。
また、その他にも〔魔法〕や〔調合〕も学びたいし、スキルも磨きたい。 色々と個人で動きたい事が多いのも、ジンが今はパーティを組まない理由の一つだった。
「レイチェルにはCランクになる迄に他に良いメンバーが見つからなかったら、その時はパーティを組もうという話をしていたんだ」
ジンは打ち上げ前のレイチェルの相談を思い出す。 あの時は少し混乱したが、結局同じようにすぐにはパーティを組む事は出来ないという結論に至ったのだ。 とは言えほっとけない気持ちにさせられていたジンは、レイチェルに未来の可能性とたまに臨時でパーティを組む事を約束したのだった。
「エルザも申し訳ないけど、良かったらもう少し待ってもらえないかな? もちろん俺がCランク昇格を受けようと思う前に他に良いメンバーが見つかった場合は、勿論そっちを優先してもらっていいからさ」
こうして信用してもらえるのは凄く嬉しいのだが、まだ自分には早いとジンは思う。
「もし良かったら、臨時パーティならたまに誘ってもらえると嬉しいけど…」
エルザの厚意を無にしているようで気が引けるジンは、黙り込むエルザを窺うように言葉をつなぐ。
「うん、わかった。 私も急ぎすぎていたな。 そのうち臨時でいいからパーティを組もう」
レイチェルの乱入でおかしくなったが、もともとエルザは普通にパーティの誘いをかけていた。
一度リセットして冷静になったのか、笑顔で応えてくれてジンもホッとする。
しかしそうしてエルザと笑いあっていると、また渡さないとばかりにレイチェルがジンの腕を抱え込んできた。
「もしかしてレイチェル、お前かなり酔っているだろう?」
酔ってませんとばかりに首を振るが、それで少しまた酔いが回ったようだ。 近くにいたカインに話を聞いてみると、コップで3杯か4杯くらいでそんなに飲んでいないと言う事だ。
「もしかしてレイチェルは初めてお酒飲んだ?」
ジンの問いにコクリと頷くレイチェル。 とりあえずジンは冷たいお茶を貰い、レイチェルにこの後はこれを飲むように言い聞かせた。 そして言っても離れようとしないレイチェルに苦笑すると、気の済むようにさせようとそのままでエルザや他の皆と会話を続けた。
ジンの片手につかまって嬉しそうに微笑むレイチェルの姿は、すぐ側で見るものからすれば微笑ましい光景だが、離れて見るものからすればジンがレイチェルを侍らせている様にも見える。
そしてその離れたところから見ているテーブル席では、男達が嫉妬に身を焦がしていた。
「前言撤回。 機会があればしめるぞ」
「「おう!」」
エイブでさえ、見ていてちょっと羨むほどの展開だった。 とは言え誤解である事は容易に想像がつく。 エイブはジンの安全の為、そして何よりこの男達の安全の為にも情報収集をしようと、男達にその旨を伝えてからジン達の下へと戻って行く。
「しっかし退屈しねえな、ほんと」
独り言をこぼすエイブの顔は、どこまでも楽しそうな笑顔だった
何とか8日の内に投稿出来ました。 ただ次回は10日か11日あたり。 11日になる可能性が濃厚です。 ただ、いつもの通り早めに出来たら投稿します。
それでは、よろしければ次回もお付き合いを宜しくお願いします。
ありがとうございました。
追記:一応念の為に言っておきますが、まだハーレムではありません。