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忠告と覚悟とラジオ体操再び

 実りの多かった夕食を終え、ジン達は再びローテーションを組んで見張りと睡眠をとることになった。

 結界装置があるとは言え、一定以上の強さを持つ魔獣が現れる可能性もあるのだ。 3時間ずつの三交替で、ジンは一番最初の見張りに立つ事となった。 一緒に見張りをするのは、ダンとゲインにエイブだ。 残りの男性陣が2番目で、気を使ってか女性陣は全員最後に固めてある。

 そして最初の当番のジン達4人は焚き火を囲んで座り、火を絶やさないようにする。 しばらくは沈黙のまま座り続け、そして皆が寝静まった頃に小声で会話をし始めた。 せっかくの機会なのでジンはダンに魔法の習得方法や、ゲイン達の経験談やパーティを組んだいきさつ等を聞いた。 しかしそういう時もっぱら話すのはゲインで、エイブはあまり話をしなかった。


「Dランクまではレベルを上げて依頼をこなしていれば自然と上がる。 だがCランクに上がる為にはギルドの試験に合格しなければならないのは知っているよな? まだ先の話だろうが、ランクをCにあげるタイミングには注意しろよ」


 そうゲインがジン達に忠告する。


「一つの理由がCランクからは依頼の難易度が跳ね上がる事だ。 Dランクまでは2~3人のパーティでもやれない事は無いが、Cランクからは5~6人のパーティを組まなければ厳しい。 単純に敵が強いというのもあるが、たまに相手にする数そのものが多い事があるんだ。 もちろん本人達の実力次第ではあるが、此方が少ない数だと敵の数の勢いに負けてしまいかねないんだよ。 だからレベルが15になったからとすぐCランクに上がるのではなく、信頼できる仲間を見つけてもっとレベルを上げたりスキルを磨くなどして実力を付けてからの方が良い。 ちなみに俺達はレベル17でCランクに上がったが、それでも苦労したぞ。 幸い誰一人欠ける事無くここまで来れたが、それでも危ないと思ったことは何度かあったしな。 そう言えばエルザはDランクと言っていただろう? だがあいつもCランク昇格試験をあえて受けていないはずだ。 理由はさっき言った実力をつけるという部分と、もう一つは信頼出来る仲間を探しているんだろうな」


 成る程確かに数の多さは脅威だからなと、ジンはマッドアントの時を思い出す。 もしマッドアント一体を倒すのにかかる時間がもう少し増えていたら、自分も数の暴力に負けていただろうとジンは思った。


「やはり男女混合のパーティは難しいのでしょうか?」


 ジンとは違う所が気になったのか、そうダンがゲインに尋ねる。 自分達が同じ村出身とは言え、男女混合であることを気にしているのだろう。


「いや、そうとも限らん。 うちもパーティの残りは二人とも女だが、一応上手くいっていると思うぞ。 ただ一般的な話で言えば、同じパーティ内で恋愛関係になる事は少なくないからな。 エルザ達もそういうのを警戒しているのは多少あるのかもな」


 そしてここでようやくゲインも、ダンが男女混合の3人パーティを組んでいる事に気付く。


「そうかお前達もそうなんだったな。 まあ、あんま気にすんな。 誰とパーティを組むかは皆で決めるもんだからな。 ただダン、お前は男としてCランクの難しさであるもう一つの理由には気をつけておけ」


 ゲインはそうダンを慰め、そして重々しく語る。


「もう一つの理由。 それは人を相手にするという事だ」


「…人ですか」


 ジンは呟く。


「ああ、例えばCランク任務の隊商護衛は、魔獣からだけでなく盗賊からも守らなければならない。 実際に盗賊に襲われる事は少ないとは言え、もし襲われた際に冒険者に人の命を奪う覚悟が無ければ、奪われるのは自分達や守るべき商人達の命だ」


 そしてゲインはジンを見て言う。


「ジン、お前が持っている木剣を見て不安になったのはそこだ。 お前は人を殺す覚悟を持てるか? 仮にその木剣で相手を戦闘不能にしたとしても、生きていれば何かの切っ掛けで攻撃は再開されるだろう。 その時の標的はお前でなく、守るべき人かもしれない。 殺さないと言う事はそう言うことだ。 もしお前がCランクになってもその木剣を使い続けるのならば、それは覚悟がないものと見なされてしまうかもしれない。 それにダンだってそうだぞ、盗賊はお前だけでなく仲間達の全ても奪うんだからな。 これは俺の持論でもあるが、もし人を殺すならまず男である俺達が殺すべきだ。 女性にしてみれば身勝手な考えだろうがな」


 そう言ってゲインはため息をつく。 恐らくゲインにとっても人を殺すと言う事には葛藤があるのだろうとジンは思う。 


「っと話を戻すな。 新人のお前達に言うのは酷なのかも知れんが、こうした覚悟は早めに持っていたほうが良い。 実際Cランクになる前に盗賊に遭遇する可能性も0じゃないしな。 で、どうだ? まず一回ここで考えてみろ」


 ジンは目をつぶり、友人や弟妹、甥姪にその子供達、そしてその他にも大事な人たちの顔を思い浮かべる。 その中にはもちろんこの世界に来て知り合った人々の顔もある。 そして大切な彼ら彼女らが殺されそうになる事を想像すると、その瞬間考える前に答えが出た。


「大切な誰かを守るためなら、私は人を殺せると思います」


 これはジンが力を得た今だから言える話ではない。 例え年をとった元の世界の体でも、素手で駄目なら石を、鉄パイプを、ナイフを、あるものなら何でも使って大事な人を守るために動くだろう。 そして例えその結果相手を殺してしまったとしても、それで大事な人達を守れるのならば後悔はしない。 もちろん積極的に人を殺そうと言うのではない。 ただ守るために必要になるのであれば、ジンはありとあらゆる手段を使ってただ全力でそうするだけの話なのだ。

 元の世界で軍人になる事を選択する人の様に、この世界で冒険者という仕事を選んだ自分も同じなのだとジンは思う。


「まあ、悩んだりうなされたりする事もあるかもしれませんがね。 ただ後悔はしないと思います。」


 そうジンはゲインの目を見て言った。 そして大きく息を吐いた。


「ふう。 ゲインさん、ありがとうございます。 私に積極的に人を殺せるとは思えませんが、ただ必要であれば人を殺す覚悟は出来ました。 これでいざという時に倫理観に引っ張られて動きが鈍る事はないでしょう。 言いにくい事をちゃんと言ってくださって、本当にありがとうございました」


 そう言ってジンは立ち上がり、ゲインに深く頭を下げた。

 ジンは実際に盗賊に遭遇した時に殺せるとはまだ断言出来なかったが、それでも殺す事を選択肢としてしっかりと自分に刻み込んだ。


「ジンは凄いな。 僕はまだそんな覚悟はできないよ」


 だが一方で暗い顔のままのダンが、ポソッと言葉を漏らす。


「いやダン、悩むのが普通だと思うよ。 俺はたまたま早かっただけだし、まだ頭で考えただけの話だ。 それにどんなに考えてもその覚悟を持てない人もいると思うし、実際それは当たり前の事なんだ。 それはそれでその人の選択で、俺はそういう殺せない人もいなければ駄目だと思う。 どちらかが間違っているわけではなく、どちらも正解なんだと俺は思うよ。 ダンがどういう結論を出すにしろ、それは絶対に間違いじゃないんだ。 あせる必要は無いよ」


 殺す覚悟など出来なくて当たり前だ。 しかも長い人生を生きてきたジンだからこそ、このような早い決断が出来たのだ。 ジンはダンを励まし、そしてゲインもそれに続く。


「そうだな。 だからあえてDランクで止めている冒険者も少なくない。 ただ俺達が冒険者を続ける以上、いつか選択を迫られる可能性がある。 だからダン、お前もいざという時に体がすくんでしまわないように、考える事だけは止めるなよ」


「はい、ゲインさん。 ジンもありがとう」


 そう言ってダンは、弱々しくはあったがちゃんと笑みを浮かべた。 それを見てジンもゲインも、そして寡黙なエイブさえも微笑を浮かべ、ダンに向けて大きく頷いたのだった。


 その後は重くなってしまった雰囲気を吹き飛ばそうと、失敗談や笑い話に終始した。 そこで活躍してくれたのが何とエイブである。 今までの寡黙な雰囲気は何だったのかと思うほど饒舌に話し、雰囲気を明るくしてくれた。 そしてそんなエイブを苦笑して見ながら、やっといつものエイブになったなとゲインが笑って言った。 何故今になってエイブがゲインの言ういつもの明るい男に戻ったのかはわからないが、こうして此方の気持ちを気遣って明るく振舞ってくれるエイブにジンは感謝した。

 そしてそうこうしているうちに3時間が過ぎ、残りの男性陣と見張りを交替したジンは外套に包まって横になった。 そしてあっという間に眠りにつくと、起床時間の15分前までしっかりと体を休めた。


「(リリリリリ!)」


 ジンの脳内で〔目覚まし〕のアラームが鳴る。 やはり慣れない環境で疲れているのか、ジンは初めてアラームで起された。 ジンは手短に朝の諸事を済ませると、見張りの女性陣に軽く挨拶をして少し離れたところに移動し、日課の朝の準備運動を始めた。


「ん?」


 気配を感じて後ろを振り返ると、女性全員がジンの真似をしてラジオ体操をやっている。 ふとエルザと目が合うと、ニコッと微笑を浮かべた。

 なるほどエルザの差し金かと思いつつも、別に困るわけでもない。 いつもどおりにラジオ体操を終わらせて女性達へ向き直る。


「ジン君、これいいね。 何かすっきりする」


 そうメリンダがジンに話しかける。 他の女性達にも好評のようだ。

 ジンはエルザの時と同じ様に簡単に効果を説明し、続いてストレッチへと移った。 そして全てのメニューが終わる頃には、起きてきた男性陣も不思議そうにこちらを見ていた。


「おいジン、何やってるんだ、それ?」


 もっともな疑問だが、これももう何回目の説明になるだろうか。 苦笑しながらジンはグレッグ達に再度説明をする。 そして当然のごとく全員でラジオ体操からやり直す事になった。


「なるほど体が目覚めるか。 確かに体は動くようになるし、使えるな」


 そうグレッグが言う。


「でしょう? これって広めたほうが良いと思わない?」


 メリンダはよっぽど気に入ったのか、グレッグに強く勧めてくる。 そして二人の視線がジンの方を向く。


「あ~、私としては広める事に異議はありません。 これで皆の怪我が減れば嬉しいですし」


 他のメンバーからも準備運動は好評だ。 やはり普段から体を使っているからこそ実感できるものがあるのだろう。 結局ギルドで推進する事になり、ジンは戻ったら立ち上げを手伝うように依頼された。

 そして野営地の整理をして出発の準備を整えると、グレッグが全員に号令をかけた。


「ではこれから街へと戻るが、帰りは新人達だけでパーティを組んでもらう。 俺達は少し後ろからついていって危ないときは助けてやるが、基本的に自分達で全て対処しろ。 各々が果たすべき役割は理解しているな?」


「「はい」」


「よし、では10分以内で新人達だけでミーティングしろ。 準備が出来たら出発だ。 よしでは初め!」


 グレッグの号令の元、新人が集まって話し合いを始める。


「それではリーダーだが、このお「ジンで良いんじゃない?」れ…」


 そうアルバートが口火を切ったが、途中で遮る様に挟み込まれたシェリーの一言で立ち消えた。

 

「「賛成」」


 アルバート以外は全員賛成である。 さすがにアルバートも認めざるをえないのか、特に異論は出さない。


「う~ん、分かった。 頑張るよ。 じゃあ早速隊列を決めようか。 意見はある?」


「普通に前衛と後衛に分かれたら良いんじゃない?」


「そうだな。 それで問題あるまい」


 ジンの問いかけにシェリーが発言し、アルバートも同意する。 そして他に意見も無い様なので、ジンが提案する。


「それじゃあアルバートとカイン、シェリーの3人で大きな三角形を描くように位置取りするのはどうかな? 例えば頂点のアルバートは特に前方に注意を払い、右側のカインは右側を、左側のシェリーは左側を特に意識して警戒するんだ。 そしてパーティの中心、つまり前衛と後衛との間に俺がいるようにする。 武器も槍でリーチが長いし、どの方向から敵が来てもフォローは可能だと思う。 後衛は真ん中にダン、そして挟むようにメグとレイチェルでどうだろう。 後衛の皆も当然警戒はしてもらうが、敵に遭遇した場合はダンは魔法で遠距離攻撃を、メグは回復を第一に考えて行動する。 そして接近戦の腕も立つレイチェルは、後衛の二人を守る事を第一に考えてもらえると良いと思うんだ。 皆どうかな? 他に意見はない?」


 ジンは地面に木剣で印を書いて説明する。 各方向から敵が来た場合の各自の動きも一緒に説明し、特に問題なく皆は同意した。


「よし、それじゃあ私語は問題ないけど、各自警戒だけは忘れないように。 どんなに小さな事でも、何か気付いた事があったらすぐに言ってね。 以上、他に何かある?」


「ないよ~」


 代表してシェリーが言った。


「よし、じゃあ皆で怪我が無いように頑張ろう」


「おう」 「「うん」」 「「はい」」


 ジンの掛け声に皆が答え、準備は万端だ。


「よし、準備は出来たようだな。 それでは出発だ!」


「「はい!」」


 グレッグの号令に勢い良く返事をし、ジン達新人だけの急造パーティは街に向けて出発した。

次回は明日6日のこの時間前後だと思います。


今回のサイトの変更で気付いたのですが、お気に入り登録をして下さった1万人の方のうち、評価をしてくれたのが1500人と約1/6しかいない事がわかりました。 どこもそうなんですかね? まあ確かに評価の仕方は人それぞれですが、正直えらく少ないように感じてしまいました。

ただ、評価してくださる皆様にはもっと面白かったと評価を付けて頂ける様に、評価はしないけど読んでくださる皆様には評価を付けて頂ける様に、これからも頑張ります。

だって正直評価されると嬉しいんですもの^^


よろしければ今後ともお付き合いを宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物語である以上、ある程度読み進めないと面白いかなんて分かりませんので、登録=評価とは中々いきません。 まぁ 評価なんてあまり気にせず、まずは書き上げることを考えるのが吉となると思いますよ
[一言] 動物人間魔物と本気の殺し合いにビビってんならお家で生産職でもしてりゃいいんだ。悪人に対しては殺られる前に殺る。自分が死ぬだけならいいが守りながらならそいつの命も握ってる事を自覚するのが当たり…
2019/11/24 01:21 退会済み
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