冒険者という職業
そうしてジン達が休憩をしていると交代の時間となり、席を立ったダン達と入れ替わりでアルバートとカインが戻ってきた。
「「お疲れ(様)」」
そうジンとシェリーが声をかけると、二人共ちゃんと挨拶を返して来た。
「やっぱり慣れない見張りは緊張しますね」
そうこぼしながらカイン達はジンの向かい側に座る。 そして水筒から直接水を飲むと、一息ついた。
「ふん、カインは軟弱だな。 俺は何ともないぞ」
そう鼻を鳴らし自慢げに言うのは、問題児と噂のアルバートだ。 なるほど自然体で偉そうだ。 だが口ではそう言いつつ自分もいそいそと水筒を出して水を飲むあたりが、何ともチグハグな印象でジンには微笑ましい。
「ぷっ、くっくく」
ジンと同じ事を考えたのか、それともジンの可愛い発言を思い出してか、思わずといった感じでシェリーが噴き出す。
「なんだ? どうかしたのか?」
微笑むジンと小さく身をかがめて笑うシェリーを見て、アルバートがそう訝しげに問いかけてくる。
「いえいえ、何でもないですよ」
まだ笑っているシェリーの代わりに、ジンがそう答える。
「そうか? うん、まあいい。 それより直接話すのは初めてだな。 アルバートだ、宜しくしてやってもいいぞ」
どこまでも上からの物言いだが、先程からの話もあってかどこか可愛げのある少年だとジンは思った。 ジンが此方も名乗ろうとしていると、その前にカインが口を挟む。
「こら、アル! ジンさんの方が年上なんだから、ちゃんと敬語を使え」
「別に良いだろう? 立場は同じ新人なのだから、お互い敬語を話す必要もあるまい。 どうだ?」
カインの忠告もアルバートには何処吹く風だ。 そしてそうジンに問いかけてくる。
「ふふふっ、そうだね。 じゃあこれからはお互い敬語なしにしようか。 カインにシェリーもそれで良いかな?」
「賛成。 アルバートも珍しく良いことを言うんだね」
ようやく笑いをおさめたシェリーが賛同する。 そして珍しいとはどういう意味だとつぶやくアルバートを尻目に、やれやれといった感じでカインも承諾した。
「ったくアルはもう。 敬語を「使わない」と「使えない」は違うんだぞ。 ジンさ…、ジンも受け入れてくれてありがとう」
「いや、お疲れ様。 カインも改めてよろしくね」
恐らくこれまでにも色々と苦労したであろうカインを労い、そう言ってジンはカインににっこりと笑いかける。
「っとアルバート待たせてごめん。 それじゃあ、改めて自己紹介するね。 俺はジン。 18歳で君達より少し年上かもしれないけどよろしく頼むね」
「ふん。 まあ宜しくしてやろう。 ちなみに私とカインは17歳だ。 魔獣との戦いは任せておけ」
「僕はカイン。 アルバートとは同門で子供からの腐れ縁だよ」
やれやれといった感じでカインが続く。
「ぷくくっ。 私はシェリーだよ。 ダンやメグと同じ村の出身で幼馴染だよ。 全員16歳だね。 後、レイチェルも18になったばかりだって言ってたよ」
まだ若干尾を引いているようだが、さりげなくシェリーがここに居ないメンバーの情報も追加する。
「にしてもジンって18歳なんだね。 長老みたいな事を言うから、若作りなだけで結構年いってるのかと思ってたよ」
そう悪気無く、ニコニコしながらシェリーが言う。
「あははは」
多分その長老と実際の年齢はそう変わらないか、もしかすると上だと思いますとは言えない。 笑って誤魔化すジン。
「ほう。 伊達に年は食っていないと言うことか。 何を言ったんだ?」
そう聞くアルバートに対し、今度はジンとシェリーが顔を見合わせた。
「「あはははは」」
そして本人に言うわけにもいかず、今度は二人で笑って誤魔化す番だ。
「まあ、機会があればそのうちに。 それより…」
そうジンは話題を変えて皆で和やかに世間話を楽しみ、あっという間に休憩時間は終了した。
「よし、出発するぞ」
グレッグ教官の号令のもと、再び二つのパーティに分かれたジン達は周囲を警戒しつつ移動を開始した。 その後も変わらずジンの〔気配察知〕に反応はない。 少し心配になったジンは〔MAP〕で確認したが此方に近づく魔獣はおらず、逆に遠くで此方を警戒するように逃げていく幾つかの反応を確認する事が出来た。 魔獣も馬鹿では無いのか、ある程度以上の集団には近づかないものなのだろう。
そうジンが楽観的な考えに陥ろうとした時、〔MAP〕に此方へと向かう複数の反応を捉えた。 思わず背後のメリンダ教官へと振り向くと、ジンと目が合った彼女はニッコリと笑って見返してくる。
「気をつけろ! 何か来るぞ」
ジンが〔気配察知〕にも反応を感じた時、ゲインから皆への呼びかけがあった。 それはジンが思わず皆に注意を呼びかけようとした直前だった。
「マッドウルフだ。 ジンとカインは後衛を守れ! メリンダ教官にエイブはフォローを」
ジンが感じた気配は6つ。 最初に2匹が、そして少し遅れて4匹が迫る。 ゲインとカインが剣装備なので、構成を考えてジンは木剣ではなく槍を装備している。 もちろん槍は最初から組み立て済みの状態だ。
「ふん!」 「ギャイン!」
まず1匹をゲインが大剣の一撃で瞬殺する。
素早い動きで接近するマッドウルフを迎え撃つジンとカイン。 先鋒の残り1匹はカインに狙いを定めて襲い掛かるが、カインもその攻撃を剣で払って防ぐ。 カインの反撃はかわされてしまうが、その隙を狙ってジンが槍を突き出して仕留める。
「ありがとう!」
「ああ、あと4匹いるぞ!」
カインの声にジンは短く警戒を促す。 そしてゲインの横を通り抜けた3匹が此方へと向かってくる。
「ファイアアロー!」
ダンの詠唱と共に炎の矢がマッドウルフの1体に命中し、その攻撃でその1体は崩れ落ちる。 そしてカインとジンがそれぞれマッドウルフと1対1の状態で対峙する。
「ふっ!」
仲間が魔法でやられた事を警戒してか、マッドウルフは勢いのまま飛び掛ろうとせずに一旦止まる。 しかしその停止した隙を見逃さずにジンは槍を突き入れ、その槍はジンの手に肉を抉る感触を残しつつマッドウルフを仕留めた。 そしてジンがカインへと視線を移すと、そこには最後の1匹を倒したカインの姿があった。
「よし、お疲れ。 早速剥ぎ取るぞ。 見本を見せるから皆こっちへ来い」
周囲に他の敵の気配が無い事を確認し、すぐさまゲインが新人を呼び寄せる。
「魔石は心臓あたりにあることが多いが、剥ぎ取れる素材は魔獣によりまちまちだ。 何度か戦った事がある魔獣ならともかく、初めて倒した場合は分からないからまず最初に魔石を取り出すんだ」
そう言ってゲインはナイフでマッドウルフの腹を掻っ捌き、手際よく魔石を取り出した。
「こうして魔石がなくなると、死体はどんどん溶けていってしまう。 そうして完全に溶けてしまった後にはその魔獣から取れる素材が残るが、実はその大きさは普通に剥ぎ取る場合と比べて小さくなってしまうし、品質も劣ると言われている。 だから魔石を取ったら少しずつ始まる融解の状態を見て、まったく溶けない箇所を素早く探して素材を見つけるんだ。 マッドウルフの場合はこれ、牙だ。 わかるか?」
ジン達は牙とそれ以外を見比べて、確かな違いを確認する。
「後は見つけた素材を他の部分と切り離すだけだ。 先に魔石を取れば素材と切り離しやすくなるから、先に魔石を取るのがセオリーだ」
そうしてゲインは綺麗に牙を取り外した。
「よし、では一人一匹ずつ剥ぎ取りをしろ。 出来ないは認めない。 俺達はこうして金を稼ぐのだからな」
ゲインは少し顔を青ざめさせたメグとダンの方を向いて言った。 そして二人もしっかりと頷くと、それぞれマッドウルフの死体の方へと向かった。
ジンもばれない様に〔ドロップアイテム設定〕を一応最低に設定した上で、手早く済ませている風を装いながら剥ぎ取る。 そして全員が剥ぎ取りを終えるのを確認すると再出発した。 残りの1体も当然エイブが剥ぎ取り済みだ。
ジン達が戦闘中の間は、歩みを合わせるために一班は此方を観戦していたようだ。 しかししばらくすると今度は一班が魔獣と接触し、逆に今度はジン達第二班が観戦する事になった。
「いいか、フォーメーションや敵の動き、そして各々の対応を見るんだぞ」
そこには同じくマッドウルフの集団を相手に、一人が複数を相手にしないで済むように動くベテラン勢の姿がはっきりと見て取れた。 それを食い入るように見つめるジン達新人。 程なくして向こうの新人3人もそれぞれ一頭ずつ倒し、相手集団を全滅させていた。
「見ていて分かったと思うが、出来るだけ1:1か此方が複数の戦いに持ち込む事が基本だ。 前衛は敵を引き付け後衛に通さない、そしてまずは敵の数を減らす。 後衛は前衛が複数を相手にしないで済むように牽制したり、前衛に気をとられている隙を狙って倒すんだ。 さっきはたまたまメグの出番は無かったが、誰かが傷ついたり前衛の網を抜けてきた奴がいたら出番だ。 向こうのレイチェルみたいに倒すだけの実力を持つ事が理想だが、少なくとも魔法使いの詠唱の時間を稼げるくらいの近接戦闘能力はあった方がいいぞ」
そうして観戦しながらさっきの戦闘を振り返ってゲインがアドバイスする。
「ダンもそうだ。 魔法だけしか使えない魔法使いは長生きできない。 敵の数が増えれば前衛が全部はカバーできなくなり、必然的に直接敵と対峙する事も多くなるからな。 前衛ほど使えるようになる必要はないが、護身の技術は必須となる。 俺の知っている人は金属製の長い棒で魔法を唱えると共に、接近戦ではそれを使って敵をなぎ倒していたぞ。 お前もそうなれとは言わないがな」
まだゲインのアドバイスは続く。
「ジンとカインのさっきの動きは悪くなかった。 カインが作った隙にジンが攻撃してたが、そうした連携は強敵と戦う時には必須だ。 もちろんその連携にはダンやメグのような後衛も参加する事になるだろう。 単純な一人一人の力の足し算では勝てない敵に、お互いが動きを把握して連携する掛け算で勝利するのがパーティの力だ。 この事を忘れずに頑張れよ」
「「はい」」
そして第一班の再出発に合わせて話を終えると、ジン達第二班も再度出発した。 そしてその後は襲撃も無く目的地の森に到着し、合流するとさらに奥へと進んだ。 その道中では途中に生えている薬草や花の採取の仕方等、冒険で役立つ細々とした技術や知識を実地で学んだ。 そして今夜の宿泊地となる、周囲に木の無い空白地に到着した。
「よし、ではこれからここで泊まる為の準備をするぞ。 メリンダ、エルザ、ジン、シェリーの4人は今夜食う獲物を狩って来い。 残りは結界の設置や薪拾いに水汲みだ」
そう言うグレッグの指示に従い、ジン達はいくつかの集団に分かれて散らばった。 ジン達4人は一団となって森の奥へと移動する。 その際に気配に敏感な動物に覚られないよう、これからは基本的に身振り手振りで行動する事となった。
この4人のメンバーになったのは、恐らく武器の種類と身軽さだろう。 メリンダの指示でジンは先頭になり、気配を殺して出来るだけ静かに移動した。 そしてしばらく移動したところでジンの〔気配察知〕に反応があった。 ジンはなんとなく動物のような気がしたので後ろを振り向くと、目が合ったメリンダがまたも笑顔で頷いた。 そしてジンが感じていた方向を指差して、移動するように促してきた。
より慎重に移動したジン達は、視界に地面に穴を掘っている猪を捉えた。 実際は猪とは微妙に違うのだろうが、ジンには細かい違いは分からない。 ただ指示を仰ぐ為メリンダの方を再度振り向くと、メリンダはジンに回り込んで追い立てるようにジェスチャーで伝えてきた。
ジンは指示に従い、風下から回り込むように大きく迂回して移動する。 やはり〔武の才能〕で身体能力が高いおかげか、それなりのスピードで音をあまり立てずに移動する事が出来た。 そしてメリンダ達がいる方向に追い立てる為、ゆっくりと猪へと近づいた。 出来るだけ近づいた方が誘導しやすかろうと思ったジンは静かに猪に近づくが、猪は土を掘って見つけた何かを食べるのに忙しいのか、まったくジンに気がつかない。 あと数メートルでジンの攻撃範囲に入ろうとするところで、ようやく猪が顔を上げた。
「かあっつ!」
ジンは声をあげながら猪に向かって距離を詰める。 〔急加速〕のスキルもあってか、そのスピードは速い。 そして何故か一瞬硬直していた猪目掛けて繰り出した槍は、見事に猪の心臓を貫いていた。
そしてその時ジンはようやく自分が〔威圧〕のスキルも使ってしまっていた事に気付く。 猪の一瞬の硬直はそのせいだ。
「やるじゃないか。 まさか仕留めるとは思ってもいなかったぞ」
ジンが仕留めると言う想定外の事態に、メリンダ達も矢を納めて駆け寄ってくる。
「運が良かったみたいだ」
エルザの言葉に頭をかきながらジンは答える。 思わぬスキルの発動と効果は、ジンにとっても想定外であった。 思わず現在の立場も忘れ、エルザに普段のため口で話してしまう。
「うふふ。 ともあれお手柄よ、ジン君。 それじゃあ早速解体するわよ」
そう言って猪の血抜きを始めるメリンダを手伝うジン達。 これも勉強だからと本格的な解体は他の新人もいる前でやるそうだ。
ジンはエルザと共に猪を持ち上げると、シェリーとメリンダが周囲を警戒しながら野営地へと戻った。
その途中おもむろにメリンダが矢をつがえたかと思うと、次の瞬間放たれた矢は2匹の鳥を射落としていた。 その速さと正確さにエルザ共々舌を巻く。 特にエルザはここしばらく練習していたという弓だけあって、その眼差しには尊敬の念が濃い。 ジンもグレッグに昨日弓を習ったばかりだったので、目指すべき姿として脳裏に焼き付けた。 そして何だかんだで全員分の食料として充分な量を確保して、野営地に凱旋した。
野営地では仕留めた獲物を前に新人全員で解体作業を見学し、そして実際に全員ナイフを入れて解体した。
前の世界でスーパーでパックに売られていた肉類も、元はこうして牛や豚等を殺して解体したものだ。 ジンは自らが殺し、そして食べる為の肉として解体している事実をきちんと受け止めた。
魔獣とはやはり少し違うのか、他の新人も全員あのアルバートでさえ厳粛な面持ちだ。 ジンはこれからもこうして生きる為に魔獣や動物を殺す事を覚悟しているが、例え慣れてしまっても今感じているこの気持ちを忘れないようにしようと決めた。 そして解体が終わり、ジンは不要な内臓を少し離れた所に埋めに行くのに同行し、穴を掘って埋めた後は自然と手を合わせていた。
野営地に戻ると、食事の準備だ。 もちろん食事の用意も研修のうちである。 ただ幸い料理を日常的にやっていたジンにとっては、さほど苦労する事はなかった。 ただ意外な事にジンの他に料理が出来たのはダンだけで、アルバート達剣術コンビはもちろん女性陣も皆慣れない手つきで四苦八苦していた。
「味噌や醤油があったらな」
思わずこぼしてしまうジン。 香辛料や塩の味付けももちろん美味いが、日本人としては昔ながらの味噌や醤油も捨てがたいのだ。 猪の肉を味噌で煮込んだり、醤油で作った甘辛いたれを塗って鳥を焼きたかったのだ。
「珍しい調味料を知っているのね」
そう声をかけるのはメリンダだ。
「ご存知なんですか?!」
きちんと翻訳されているという事は、実際にこの世界でも似たようなものが存在しているという事だろう。 ジンは勢い込んでメリンダに尋ねる。
「ええ、昔王都の専門店で見たと思うわ。 あまりこっちでは一般的な調味料ではないわね」
「おおお! 王都にあると分かっただけでも嬉しいです! ありがとうございます、メリンダさん」
この世界に来て1週間、少しだけ故郷の味が恋しくなっていたジンにとっては朗報だった。 笑顔全開である。
「ふふふ。 お役に立ててうれしいわ」
答えるメリンダに再度お礼を言うと、ジンは今ある料理を美味しく仕上げようと食材に向き直った。 そしてこちらの味付けのアドバイスをもらいつつ、野外で比較的簡単にできる焼肉と汁物を作った。 密かに買いためて〔道具袋〕に放り込んでいた各種スパイスが大活躍だ。 そして出来上がった料理を皆で囲むと、魔獣を寄せ付けない結界装置を作動させた上で食事を始めた。
「いただきます」
「お、美味いな、これ」
「暖かい汁物が染みるね~」
野外料理で、しかも新人がメインで作った料理にしては評価が高い。 ジンは食材に感謝しつつ美味しく食べた。 皆腹が減っていたのだろう、ジンの食事前の挨拶も気にされてないようだ。
「よくまあこんだけの種類のスパイスを持ってきてたな」
数種類の香辛料をつけて焼いた骨付き肉にかぶりつきながらグレッグが言う。
「それはジン君が持っていたのよ」
「スパイスは軽いし別に場所はとりませんしね」
メリンダに話を振られたジンが答える。 〔道具袋〕は内緒だが、ジンが言っている事は確かに間違いではない。 ただそれでも普通は持って来ないものだろうが。
「まあいいじゃないですかグレッグ教官。 おかげで普段より美味い気がしますよ」
「まあそうだな。 確かに美味いに越した事はないな」
ゲインのフォローにグレッグも頷く。 そうして皆で会話しながら、美味しい食事を堪能した。 そして食事も終わる頃になると、話は先輩方の体験談や失敗談に移った。 ただ講義として聞くのではなく、こうして短いながらも一緒に旅をして飯を食ったからこその説得力なのだろう。 実際に体験したそれらの話は、ジン達新人にとっても凄く興味深いものだった。 そしてそうした体験談という名の講習が終わると、最後にグレッグが話し出した。
「いいか、俺達の仕事は基本的に依頼を受けてから始まる。 それは魔獣退治であったり、薬草採取であったりと様々だ。 だがちゃんと報酬を貰うとは言え、根本にあるのは困っている人達を助けるという人助けだ。 それに俺達が狩る魔獣の素材や魔石が、一般社会にどれだけ貢献しているかわかるな? 街道や街の結界装置はもちろん、日常使う様々な魔道具にも欠かせないものだ。 もしそれら魔石が供給されなくなったらどうなる? 俺達の住む世界は大きく変わってしまうだろう。 もちろん悪い方に」
そこでグレッグは一旦言葉をきり、新人達全員の顔を見渡す。
「俺達は今日魔獣を殺して魔石と素材を得た。 そしてこの夕食でも獣を殺して肉を食った。 俺達の仕事というのは、こうして多かれ少なかれ命を奪う仕事だ。 お前達も感じただろう、命を奪うという事は奇麗事じゃすまない部分があるという事を」
新人全員が各々頷いて同意する。
「それに俺達冒険者は魔獣を倒す事でどんどんレベルを上げていく。 そうなる事で一般人とはどんどん差が開いていく。 それはステータスだけの話ではない。 レベルが上がれば寿命も延びるし、病気にだってかかりにくくなる。 冒険者で有り続けるという事は、ある意味人間という枠から外れるという事だ」
ジンにとって初耳の話もあったが、グレッグの言う事は確かにそうだろうと納得できた。 そしてグレッグは静かに言葉を続ける。
「だから俺達は恐れてはいけない。 力を持つ存在になる事を」
「俺達は忘れてはいけない。 奪った命に対する敬意を」
「俺達は誇って良い。 命を懸けて魔石や素材を得る事を」
「俺達は自信を持って良い。 社会に貢献する冒険者という仕事を」
「…そして俺達は謙虚にならなければならない。 力を持つ存在としての自覚ゆえに」
グレッグはそうしみじみと、ジン達新人に伝えた。
「お前達には未来がある。 その未来はお前たちのものだ。 だが今日こうして話した事は、出来れば忘れないで欲しい。 そしてもし悩む事があれば相談して欲しい。 俺達は仲間なのだからな」
「「はい!」」
誰に促されたという事も無く、ジン達は自然と返事をしていた。
ジン達の返事を聞き、グレッグはそうかとニッコリ笑った。
「怖っ」
ボソッと言うメリンダの一言。 確かに厳ついグレッグの笑顔だが怖くは無い。 これも雰囲気を和らげる為のメリンダの気遣いであろう。
「おまっ!」
せっかく決めてたのに何してくれやがんだと言わんばかりに、大口開けて固まるグレッグ。
「だって、ねえ?」
とジン達を見てくるメリンダ。 本当に気遣いかどうかは分からないが、そのやり取りはまるで漫才だ。 さっきまでのシリアスの反動で、ジンはたまらなくなって思わず笑い声をこぼす。
そしてその笑い声はあちこちから聞こえてどんどん増え、最後にはグレッグも含めた全員で大笑いした。
明るい未来を信じるその笑い声は、この静かな森に優しく響き渡った。
遅い時間になってしまいました。
次は5日か6日に投稿できたらと思っています。
しかし色々変わって慣れませんね。 お気に入り登録は公開していないのですが、自分がつけた評価は丸見えというのが何か恥ずかしい気も^^;
書いてある日付も微妙に古いし、まだ仕様がよくわかっていません。
もしよろしければご感想や評価をお願いします。
はっきり言ってやる気が上がります^^